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気候安全保障が動きだした


2007,5,7



今回は気候変動という言葉遣いが誤っているのではないかということと、それに続く気候安全保障という言葉の定義があいまいであり、この言葉自体が日本人にはなじまないのではないかということを述べる。


気候変動という言葉
地球温暖化という言葉があるが、よく物を知っている人はこの言葉ではなく、「気候変動」という言葉を使う。化石燃料の多量の使用による影響について、かつては地球が寒冷化するといわれた時期もあるため、今後万一、気候変動により地球が寒冷化した場合にも使える便利な言葉である。
しかし、この気候変動という言葉も奇妙なものである。気候は刻一刻と変動しているものであるからだ。原語は"Climate Change"であり、気候の変化、つまり、気候がそれまでと違う状態に変わることを意味している。これをどういうわけか気候変動と訳してしまった。

気候安全保障
そこにきて「気候安全保障」という言葉が出てきた。

この原語は"Climate Security"である。難解な言葉であり、安全保障(security)という言葉自体も議論の余地のあるものである。

気候安全保障という言葉が使われ始めたのは、2005年のG8イギリスグレーンイーグルサミットからで、イギリスが国際社会において気候変動問題を「気候安全保障」として取り上げる姿勢を示したことに端を発する。(以後「気候変動」という言葉を使っているが、この訳が的確であることを前提に述べる)
その根拠となっているものがスターンレビュー(原文は、"STERN REVIEW: The Economics of Climate Change" (2006,10))といわれるもので、適切な気候変動対策を取らない場合、世界経済に及ぼす深刻な影響があるというものである。さらに、アメリカでもバイデン・ルーガー決議案(" The Lugar-Biden Climate Change Resolution"2005,11)や国防総省の答申(Pentagon: "global warming requires immediate action"(2004,2))等により、気候変動が国家安全保障に影響を与えるとしている。IPCCでも第4次評価報告書("the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change"2007,2)を提出し、温暖化の原因はほぼ間違いなく人為的なものであるとしている。

我が国での気候安全保障の必要性
そこで、我が国でもこの気候安全保障というものを議論する必要が出てきた。環境省の中央環境審議会地球環境部会の気候変動に関する国際戦略専門委員会では、気候安全保障に関する専門委員会報告(案)を作成し国の気候安全保障に関する考え方を議論している。将来的には、この報告書を専門機関への開示し、広く国民に知らしめ、英訳も策定し国際社会も発信しようとするものである。

今のところは案であるが、内容は次のとおりである。
「1.検討の背景」として
・京都議定書の達成の必要性
・G8サミットでの気候変動への取組内容
・スターレビューやバイデン・ルーガー決議案が発端であること
などが述べられている。
「2.気候変動の影響」として
・現在現れている影響
・世界や日本への影響
・スターンレビューで記述されていること
などが述べられている。
「3.気候安全保障の考え方」として
・安全保障の定義
・脅威とは何か
・何を誰がどのようにしてまもるのか
・気候安全保障の考え方
などが述べられている。
結びとして「4.おわりに」と続く。

この委員会で指摘された事項として、「安全保障」そのものの定義がよくわからないということがある。
報告書(案)では、軍事的手段を含むあらゆる手段により守ることとか、先制攻撃も含むなど物騒な言葉も述べられている。
一方で安全保障の我が国の考え方として、非軍事的措置を含む総合安全保障という概念も述べられている。しかし、具体的な記述はない。
また、我が国がこの気候安全保障について何をすべきなのか、国際社会でどのような役割を果たすかが書いていないことも指摘された。
途上国への影響や低炭素社会への移行、非軍事的な解決の必要性など網羅的に美辞麗句が述べられているが、具体的にどのような対策でいくかは述べられていない。優等生の作った報告書という感じで、海外に対し、相変わらず顔が見えない日本という印象である。
京都議定書の目標を達成できない日本が、報告書にはよい行いをいろいろと記述してあるが、実際に達成できるのかという意見もあった。


気候安全保障に必要な事項
以下は、これらの意見等を踏まえた私の考えである。

委員会の委員たちも指摘しているとおり、安全保障の定義を明確にすることに尽きる。
一般的に、安全保障とは外部からの侵略に対して何らかの手段で安全を守ること、とされており、安全を守る対象は国家といわれている。つまり国家安全保障の意味である。さらに、安全保障は一国だけでは成り立たないため、国際社会との関連性が必要になる。その背景には軍事同盟という言葉も見え隠れする。我が国にとって、一番不得意な分野ではないかと思われる。だから、我が国では総合安全保障という、軍事的及び非軍事的手段という両方の手段を使うことを考えているのである。
安全保障という言葉は比較的新しく、19世紀に入って国際紛争が絶え間なく起こるようになり、それを解決するために国際社会という考え方の上に出来た概念である。極めて西洋的な考え方といえると思う。島国であり、農耕民族である我が国にとっては、国際社会といっても、安全保障といってもピンとこないのではないだろうか。日本人とは、海外から入ってくるものを疑うことなく受け入れる民族である。

ところで、気候安全保障を以下の例で考察してみる。
例えば、ある国が二酸化炭素を無尽蔵に排出していたとする。これは、我が国の気候安全保障に対し脅威であると考えられる。地球温暖化の影響で海面が上がり、沖ノ鳥島が水没し領土が狭くなることが考えられるわけである。その場合、ある国に対し、注意を促すことをしなければならないが、安全保障というからには、単なる注意では収まらないはずだ、。例えば、京都議定書を批准してくれとか、国連決議に任せようなどの他人任せではだめである。国家の安全保障上問題があるため、もっと、強硬な態度を取る必要がある。経済制裁もその対応のひとつであるが、経済制裁は一国で出来るものではなく、国際社会の中で連携して行う必要がある。さらに経済制裁だけではだめで、最終的な後ろ盾として軍事力が必要であり、その行使のための軍事同盟が必要になってくるだろう。
今の日本が、気候変動について何らかの注意を促したとしても、相手は本気に思わない。日本には武器はあるが使用できないと思われているからである。日米安保条約があるが、これは軍事同盟といえるものではなく、アメリカの軍事力に一方的に頼る内容の条約である。気候安全保障上は全く役に立たないと思われる。気候安全保障を確保するためには、独自の軍事力を確保し、新たな軍事同盟を結ぶ必要があるかどうかも言及する必要がある。

最後に言いたいこと
我国にとって、今の段階でこの気候安全保障の定義づけをすることは、極めて難しいことだと思う。まず、安全保障の定義をはっきりさせることが大事であるが、それは日本人には不得意であるということは先に述べた。安全保障基本法というものが考えられているが、この法律が成立すれば、安全保障の明確な定義づけができる。気候と結びつけるのはその後のことになる。その基礎的課題を解決してはじめてこの安全保障を気候変動に結びつけることが出来る。

ところで、次の審議会では、この安全保障の定義が確定するというのだから、それは非常に興味がある。わずか一月足らずで環境省の一担当者がどのように安全保障を定義するのであろう。

気候安全保障という外来語を訳した言葉に踊らされずに、地道に地球環境保全に貢献することが需要だと思うのだが。



   
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