1 | 雨続く蟻は倦まずに働ける | 30 | 藤房や今日も願ひの届かざる | |
2 | 靴に触れ銀盃草の揺れ始む | 31 | 一匹の蟻止まりまた歩きだす | |
3 | 歳時記の頁のしなり走り梅雨 | 32 | 新樹忌も遠くなりたり藍浴衣 | |
4 | 隣家より鼻歌聞こゆ更衣 | 33 | 亡骸を巣に引き蟻の葬始まる | |
5 | 味うすく煮上げし豌豆盃かさね | 34 | 新しき靴で歩めば風薫る | |
6 | 黙々と蟻の咥へて蛇の皮 | 35 | たどりつくといふ字を書きて聖五月 | |
7 | 足音の聴こえぬけれど蟻の列 | 36 | 蟻を見る我の背中を見下ろす目 | |
8 | かく小さき蟻に手足のうごめける | 37 | 朝風に命もらひぬ鯉のぼり | |
9 | 菓子ひきて月の畳を蟻迷ふ | 38 | 衣更えて海に行きたくなりしかな | |
10 | ひと吹きで蟻卓上を飛行せり | 39 | その答えは風に吹かれて羽蟻飛ぶ | |
11 | なまけものがきつとゐるはず蟻の国 | 40 | 一山をひとかたまりに若葉風 | |
12 | 蟻の列猫が跨いで去りにけり | 41 | 卯の花のあはき匂に誘はるる | |
13 | 蟻の道きつとどこかにたどりつく | 42 | その理由わかつているのに聖五月 | |
14 | 羽蟻の夜便箋に置く「不一」かな | 43 | 沖光る新しき夏まつすぐに | |
15 | 蟻踏めり鳴き声もなくつぶれけり | 44 | 通り過ぐ吟行の人蟻の列 | |
16 | 蟻の列いくさは遠きことならず | 45 | 薔薇さかり校庭午後の声あふれ | |
17 | 走り梅雨ステルス艦が接岸す | 46 | 阿夫利嶺へ梨花満開のうねりかな | |
18 | 青東風や黄なる光の願かけて | 47 | 馬の背に蟻つかまりて茶馬古道 | |
19 | 山蟻にみち譲るかに町の蟻 | 48 | 行く春の満艦飾は沖を向き | |
20 | 先頭は誰が決めるか蟻の列 | 49 | 蟻の巣や迷路のやうな古き家 | |
21 | 蟻の列乱すは小児の好奇心 | 50 | 雨あがり蟻穴覗く子の静か | |
22 | 黒き夜のしたたりのごと羽蟻かな | 51 | 夏鶯庭の小鳥と鳴きまじる | |
23 | 葉桜や教会の屋根黒瓦 | 52 | 蟻と蟻口づけかわし別れけり | |
24 | はたらきあり足跡なんぞ残さざる | 53 | 蟻塚を蹴つて女王脅かす | |
25 | 蟻よぎる駅へと急ぐ足元を | 54 | 菖蒲湯に顎まで古稀を沈めても | |
26 | トンネルの遠き出口や新樹光 | 55 | さわさわと葉音を立てて夏の雨 | |
27 | 厚底の錫のぐい飲み傘雨の忌 | 56 | 枇杷やさし赤子眠れる昼の家 | |
28 | 働きあり歌舞音曲とは無縁 | 57 | 十薬もいとはず咲かせ一人住む | |
29 | 真直ぐに伸びる木道夏来る |
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