3……住吉神社の入船稲荷社(2003年1月21日)

所在 東京都中央区佃1−1−14

 この日は下谷神社に引き続いて、お稲荷さんを2軒はしごしました。佃煮を買いに行ったついでに、有名な佃島の住吉神社を探訪したのです。お稲荷さんがあるかどうかは知らなかったけれど、「佃の住吉神社の夏祭り」といえばちょっとしたもので、そういう神社にはたいていお稲荷さんがあったりする。というわけでてくてくと探訪。

 佃島は隅田川と水路に囲まれた一帯で、ところどころに昔ながらの商店が残っています。私が佃煮を買うのは天保8年創業の「天安」。初代のご主人が安吉という名前だったので、天保の安吉さんで「天安」なんだそうです。昭和初期から使っているような陳列棚にテンコ盛りの佃煮が並べられていて、「甘口昆布を100グラムに、葉唐辛子も100グラムね」なんていうと、向こうに控えているおばちゃんが素晴らしい手際のよさで小さなビニール袋に詰めてくれる。そのまた向こうにはもう一人のおばちゃんがいて、それらをたったか包んでくれる。平日の昼下がりにふらりと訪ねるとお客も少なくて、詰めてもらったり包んでもらったりする間にちょっと世間話をしたりするのも一興。週末、それもお歳暮の時期に出かけると、もうびっくりするほどの繁盛ぶりで、普通に買物なんてできない。店内のメモ用紙に「昆布100グラム×2、イナゴ100グラム×1、3000円の詰め合わせ×1」と書いて手渡してしばし待つのみ。こういうときは自宅でメモを作成していくとなおよろしくて、店に入るなり「こんにちは、お願いしまーす」とメモを渡すとちょっと楽しそうに詰めてくれる。この時期のおばちゃんたちはちょっと殺気立っていて「どれがおいしいのかしら。おしえてくださる?」なんて訪ねている奥様は「みんな美味しいんですよっ」とか「どれがって言ったってね、好き好きですからねっ」みたいにあしらわれてしまうこともある。

 それで、佃煮ではなくてお稲荷さんの活動報告をしなくては。佃島のメインストリートの北側に住吉神社があります。正面から歩いていくとこんな感じで鳥居があります。ここで注目なのは扁額。鳥居上部の中央にある「住吉神社」と書かれているあれです。ここのはなんとなく青いですよね。実は「陶製扁額」という瀬戸物で、中央区の文化財としての指定も受けています。私が訪れたときは金網で囲われていて、ちょっと見た目がよろしくなかったのですが、かなり珍しいものです。さらにこの文字は皇族の方〔幟仁親王(1812〜1886)という方で、有栖川宮の八世、中務卿、新道教導職総裁などを歴任した書道の達人〕が書かれたそうです。
 こちらの御祭神は、
底筒之男命(そこづつのおのみこと)、中筒之男命(なかづつのおのみこと)、表筒之男命(うわづつのおのみこと)、息長足姫命(おきながたらしひめのみこと)、徳川家康で、このうち底筒男命、中筒男命、表筒男命の三神は、大阪住吉神社の住吉大神で、伊弉諾尊(いざなきのみこと)が檍原原(あはきはら)で禊ぎをしたときに、海の中より生まれた航海の神、また和歌の神とされ、伊勢神宮の天照皇大神の御兄弟神に当たるのだそうです。もともと佃の住吉神社は、天正十八年に徳川家康の命により大阪佃の人々が江戸へ下る際、田蓑神社の分神霊を奉載し、正保三年現在の地に遷座したというものです。
 陶製扁額のかかる鳥居のほか、手水舎も彫刻が施されており見ごたえがあります。



 拝殿の右横に小さく稲荷神社が設けられています。シンプルな神明鳥居です。



 近づくとこんな感じです。小さいながらもしっかりしたつくりの御社で、特に柱上部の彫り物なんかきちんとした仕事ぶりがうかがえます。眷属のきつねの耳が赤いのもここの特徴です。



 左のきつねはしっかりと巻物を咥えています。鋭い目線とたくましい胸板が特徴的です。



 こちらは玉を咥えております。目線と胸板は同様ですが、足の爪に注目していただきたい。かなり伸びてます。世話好きな人ならば切ってあげたくなるくらい伸びてます。



 彫り物がすごいです。



 真ん中に龍。すごく彫りが深いです。



 左側は阿吽の吽の方のお獅子です。


 右は阿の形の口をしたお獅子。2頭のお獅子は、どちらも巻き毛がくるくるしててかわいいの。
 ここのお稲荷さんは住吉神社の中にあるせいか、とても静かです。しかも見どころが多い。晴れた日の昼下がりにこんなところでゆっくりできたらどれほど幸せでしょう。帰るのがいやになるような静寂なのでした。