信濃ビールツアーレポート

レポート ○

PJT(POPEYE JI-Beer Tasting Club)から,信濃ビールツアーに同乗した一人としてレポートをさせていただきます.

 1998年10月17日・土曜日の深夜,両国ポパイに集合.閉店後,2時出発.9人乗りのワゴンには,生ビールがいつでも飲めるように,ケグが搭載され,出発と同時に宴会が始まった.みんな現地まで寝るものだとばかり思っていた私はびっくり.個人的には途中でダウンしてしまったが(みなさまご迷惑かけました),台風10号の横風にも負けず,数時間後には夜明けの千曲川に到着.増水した川辺で鉄板焼き+ビールを賞味.朝の7時過ぎだというのに,皆の食欲はすごい.食事が一段落して,一路,信濃ビールへ.


 台風一過の抜けるような青空の下,10時頃に信濃ビールに到着.まだ関口社長はいらしていなかったので,ビールプラントの見学をさせてもらう.プラントには,マッシュ用のものから遠心分離機にいたるまで,10個程度のタンクが並ぶ.醗酵タンクにはスピーカーが取り付けられ,優雅なストリングス系のクラシック音楽が流れている.音楽を聞かせるとビールは美味しくなるらしい(ほんとか?(^^;.清潔感のあるプラントだった.

 
 外に出るといい天気なので,前の林の中で森林浴をしながら社長の到着を待つことになった.電線を巻きつけてあった木製の「エ」の形の台に座り,木漏れ陽を楽しむ.地面には栗のイガがたくさん落ちていて,風情がある.長旅の疲れも手伝って,中には寝てしまう人もいた.

 プラントとレストランとは屋根続きになっているが,その横には井戸から汲み上げた清水が,魚のいる小さな池へと注いでいる.信濃ビールはこの清水によって作られているそうだ.直接カップで飲むとしみじみと旨い.ここのビールは,ろ過などを一切しないでそのまま醸造に使用しているという.信濃ビールは,まず,水探しにこだわったそうだが,旨いはずだよ,これは.池のほとりには,クレソンも生えていて,味見させてもらったが,非常にいい香りで旨い.これは,レストランの方で実際に出しているものだということだ.

 さて,実際のビールの話.信濃には次の4種類のビールがある.
 

●信濃エール(ペール・エール)

●マウンテンエール(アンバー・エール)

●ドラゴンエール(ダーク・エール)

●黒姫スタウト(スタウト)


 

 この中でポパイには「ドラゴンエール」しかないが,ポパイで飲むよりずっと美味しかった.まず,香りの立ち方が全然違う.モルティさとフルーティさが立体的で,味そのものも深く,切れがよく,苦味もすっきりしている.お店でこの味が出せれば……と,ポパイの店長,青木さんも残念そうだった.


 他のビールも,すごく美味しかった.個人的に気に入ったのが「信濃エール」.いわゆるエールっぽさよりも,モルトの香りが勝ち,泡がとても細かく,外見は小麦系のビールに見える.ペールエールは泡っぽさ(シャボンのような香り)があんまり好きではないのだが,信濃エールは,風味が良い.苦味はそれほどなく,単体で完成された味わいがある.


 マウンテンエールは,やや甘味があり,洗練された感じの味わい.女性に一番人気があるらしく,関口社長曰く,もう少し甘味を抑えようとしたが,あまりの人気に味を変えられないでいるということだった.

 黒姫スタウトは,バランスのすごく良いスタウト.泡も細かく,焙煎されたモルトの苦味や,ホップの苦味がモルトの深みに調和している.しかも,飲んでしばらく置いておいて,再度,飲んでみたが,味も香りもほとんど変わらず,グラスの淵から上がるやけた香りがまったくない.単に旨いビールではなく,完成された味わいになっている.

 信濃ビールの全体を通した感じは,モルトの香りがすごく穏やかで,ホップの香りがでしゃばることなく調和していて,バランスのとれた感じ.それと,何よりも水の良さが際立っている.個人的にはザーツホップの香りがあまり好きではなく,カスケードホップの香りの方が好きだが,信濃ビールのホップのブレンドは抜群だと思う.

 信濃ビールは,水・ホップ・麦芽とも,自然のものをそのまま使っているということだ.ここで注目すべきなのは,清水をそのまま使っている点だ.ほどんどのところでは,水のペーハー調整や浄化などを行っているそうだ.ドイツのビール純粋令では,水も天然のものを使用しなければならない.信濃ビールは全ての条件を満たしているという.しかし,現地を訪れて感じたことは,単に原料や行程の良さだけではなく,醸造者の人がらや,職人の腕が生きている,嬉しさである.ビールの旨さだけでなく,ブルワリーの持つ全体の雰囲気に惹かれる,そんな探訪であった.