同軸バランに関する一考察

                    プロジェクト・コーディネーター   JA1BRK 米村 太刀夫
                    
協   力              JA1UQP 山田 正美
                       
〃               JF2XGF 大橋 淳一
                       
〃               JH6VLF 松山 雅典

 

はじめに

電気部品の集積化が驚異的に進み、ハムが気軽に工作を楽しめる分野はアンテナの製作くらいしか残されていないのではないでしょうか?例えば、ホームセンターに行ってアルミ製の角パイプやステンレスワイヤーを揃えてヘンテナを製作してみたり、移動運用の為に1/2λダイポールを製作してみたりです。これらは市販のものに比べて見栄えは落ちますが、性能的には遜色無いものです。

ところで、アンテナにはいわゆるバーチカルアンテナやグランドプレーンなどの不平衡型と、大地に対して水平に架設されたダイポールや八木アンテナなどの平衡型の2種類のアンテナが有るのに対して、これらに繋ぐ給電線として現在簡単に手に入るのは、5D2Vなどの不平衡な同軸ケーブル1種類だけです。不平衡な同軸ケーブルで給電する場合、アンテナが同じく不平衡型の場合は問題無いのですが、アンテナが大地に水平に架設されたダイポールなど平衡型の場合には、漏洩高周波電流が同軸ケーブルの外導体表面に流れアンテナ上の電流の分布がアンバランスとなり、ビームバターンの乱れ、TVI、BCIの発生の原因となることがあります。この平衡、不平衡の問題を解決する為に用いられるのがバランであり、市販品にはトライダルコアを用いたものが多いようです。

我々がバランを自作する場合、材料の入手しやすさや耐電力を考慮すると、同軸バランが有力候補の一つとなります。(CQ誌1982年2月号、同軸ケーブルを使った広帯域バランの実験、田母上栄著 参照)

今回のアンテナにバランを取り付けるに際し、この同軸バランを製作し性能試験を実施しましたので、その結果を以下に記述します。

バランの製作

製作したバランは図―1に示すようなW6TCの開発した同軸バランであり、図―2に示すように加工したA、B2種類の同軸ケーブルを接続したものです。図―2中のAケーブルのD点とE点、BケーブルのF点とG点の外皮はハンダメッキを施しておきます。

.図―1、C点の接続

AケーブルのD点とBケーブルのF点を径2mmくらいの銅線で数回巻きつけてハンダ付けし接続します。この際、Bケーブルの芯線が直流的に絶縁状態となるように気をつけます。

2.ケーブルをコイル状に巻く

接続したAケーブル、Bケーブルを図―1のように巻きます。巻き数は、図−1のC点で3.5回です。

3.図―1、Q点、P点の製作

図―1のように、Aケーブルの芯線(E点)とBケーブルの外皮(G点)をハンダ付けし、更に接続Aケーブル、Bケーブルの外皮から1.2mmほどの銅線でひげを出し、アンテナへの接続端子とします。

なお、作成した同軸バランを写真―1に示します。

 

図−1 同軸バラン

 

図―2 同軸ケーブルの加工方法

 

写真―1 同軸バラン

 

性能の検証

製作したバランに図―3に示すように25Ωの無誘導抵抗とネットワークアナライザを接続し、同軸バランの特性の測定を実施した。測定結果をスミスチャートにプロットしたものが図―4であり、横軸を周波数、縦軸をSWRとしてプロットしたものが図―5です。図―4、図―5とも1.5MHz〜30MHzまで周波数を連続可変したものです。また、図中における1〜4の数字で示されるポイントの周波数は、1:3.5MHz、2:7MHz、3:14MHz、4:21MHzです。

図―4のスミスチャートから、同軸バランはアマチュア無線の周波数帯に於いてはリアクタンス分が有ることが分かります。リアクタンス分が有っては、効率的に高周波電力が放射されない為に、リアクタンス分を消去する必要がありますが、これはアンテナのエレメント長を調整することで可能です。

 

 

図―3 同軸バランの特性測定(サーキットアナライザ)

 

図―4 同軸バランの特性(スミスチャート)

 

図―5 同軸バランの周波数―SWR特性

 

 次に、図−6に示すように、同軸バランに信号発生装置を接続しと2チャンネル入力のオシロスコープを接続して、左右の電圧バランスを測定した。オシロスコープに現れた結果を写真―2〜6に示す。それぞれの周波数は、

写真―2: 1.923MHz

写真―3: 3.497MHz

写真―4: 6.993MHz

写真―5: 14.08MHz

写真―6: 19.92MHz

です。

これらの写真から判明するとおり、どの周波数においても、左右の電圧バランスは崩れています。その比率は1.923MHzで約6%ですが、19.92MHzでは15%にも達しています。これでは、不平衡―平衡変換が上手く行われていないと言わざるを得ない結果です。

 

 

 

図―6 同軸バランの特性測定(2チャンネルオシロ)

 

写真―2 電圧バランス測定結果(周波数=1.923MHz)

 

写真―3 電圧バランス測定結果(周波数=3.497MHz)

 

写真―4 電圧バランス測定結果(周波数=6.993MHz)

 

写真―5 電圧バランス測定結果(周波数=14.08MHz)

 

写真―6 電圧バランス測定結果(周波数=19.92MHz)

 

 

まとめ

 今回の結果を得て、この同軸バランをアンテナに取付けることを思いとどまり、メーカー製のフェライトバランを取付けました。同軸バランは簡単に製作できて、SWRも比較的良く下がるとのことでありました。しかし、その特性を詳しく検証してみると、設置の際にはアンテナ系全体を考えた調整が不可欠であり、また不平衡―平衡変換特性もそれほど良くないことが判明しました。同軸バランを使用されていて、アンテナの指向性やTVIに不満がある方は、バランをチェックしてみては如何でしょうか。