在宅医療、二年半をすごして
2年半が経ちました。開業してから18年間、いろいろなことがありましたが、今ほど充実していたことはないような気がします。

緩和ケアを通じて、たくさんの先輩に恵まれ、技術的にも精神的にも、ご指導をいただき、たくさんの患者さんに、さまざまな人間の生き方を教わりました。
これからも、たくさんの出会いがあるでしょう。
それを大事にしながら、自分自身を磨いていくことができれば、幸いです。

100名以上の患者さんをいただき、現在41名の在宅での訪問診療をいたしております。有料老人ホームでの看取りも、経験してきました。
癌末期の患者さんも、月に数人づつ看取りをしてきました。
緩和ケアについては、麻薬での疼痛緩和なども、多くの経験を積んできました。

いくつかの事柄を述べたいと思います。

1、死に向かう人のこころの闇

 癌末期の患者さんにも、さまざまな方がいます。まったく肩をはらずに、淡々と最後の時間をすごす人もいれば、やることがたくさんありすぎて、忙しそうに、急いで死んでいく人。自分の仕事や生活に未練があり、うつむきながら死の床につく人。
 どんな方でも、身体の状況はそれほど変わりがありませんが、そのこころの持ちようは千差万別で、驚くほどさまざまであるとしかいえません。
 どんな死に方がいいとは、誰にもいえませんが、死に行く人と、残される人の別れのつらさだけは、なんとかしてあげたいと思います。



2、生きる喜び

 医師は、別れのマイナス側の部分にしかかかわりませんが、うれしそうに、孫の書いた絵を見せてくれる人や、子供さんの結婚式の写真や、お孫さんの写真を説明してくれる人たちを前にすると、診察室ではわからなかった生きる喜びのようなものが、見えてきます。
医療はどうしても暗くて悲しい部分だけに興味を集中させますが、私たちの世界は、もっと楽しくうれしい要素でできているはずです。
そして、その楽しくうれしい部分こそが、人間を元気付けたり、喜ばせたりする大事な要素であると思います。

3、感謝

 たくさんの物語の前で、感動しながら生きていく喜び、それが在宅医療ではないかと思います。生きていくことは、死んでいくことを見つめるときに、よく理解できるのではないでしょうか?人を癒す仕事につける喜びは私の身体を元気づける大きな力になっています。

在宅医療は、まだ、その始まりの夜明けの中で、形のない模索を続けています。私たちがj時代を作っています。時代に流されず、恐れずに胸をはり、どうどうと生きていけばいいのだと思っています。不安なこの時代は、大きな変化の始まりを迎えています。医療も生活も、すこしだけ明るい光を感じながら、在宅医療は私に毎日をすごさせてくれています。

ひとりでも多くの方に出会えることを、願っています。