************************************************************************* 阪神大震災 須磨区大黒小学校24時間救護所での経験  平成7年2月10ー12日 (3/5) *************************************************************************  ひざまづくように倒れこんでいる家や店舗。しっかり建っているようにみえて、 1階部分の亀裂のためにわずかにかしいでいるビル。新築間も無い高層マンショ ンが周囲の家事で外壁が真黒にこげています。激しい火災で鉄骨があめのように 曲った建物。  親子が懸命に何かを掘り起こしている風景。高校生ぐらいの青年が叩き付ける ようにスコップをふるう姿。それを黙って見ている母親。指差している娘さん。  ある焼け跡の前にはベニヤ板にこんな書付がありました。”皆様のお力で救助 していただいた母親○○○○は、残念ながら死去いたしました。救助にお働きい ただいたすべての皆様の御努力に感謝いたします。”1階部分が50pしかない ように潰れた3階立ての建物にもぐりこんでいる男性。もし余震でもおきれば、 確実に下敷になるでしょう。危険を承知で工作機械を1台でも多くとりだそうと、 命がけで作業を続けます。  真新しい洒落た鉄骨造りの門だけが残っている診療所。鉄骨に張紙があり、” 残念ですがとうぶんの間、休診いたします。必ず再開いたします。”  周囲の店も徐々に回復していますが、都市ガスが止っているために、火を使う 料理が難しいようでした。それでもプロパンガスなどをつかって、路上で焼鳥や ホルモン焼を売る店もあり、戦後の闇市を連想させるような光景も有りました。 電車の駅の周辺では、マクドナルドやケーキ屋さん、喫茶店も少しずつではあり ますが、開店していました。マクドナルドではガスを使うメニューはできないそ うで、ソーセージをコッペパンにはさんだようなもの、名前は忘れましたが、と コーヒー、ジュースの類しかありませんでした。喫茶店で昼はカレーを食べまし た。スーパーのような店も開いており、日用品や電化製品もあるようでした。中 にははいりませんでしたが。  避難所の食事は朝はパン、昼と夜は弁当が人数分配られます。その間に外部か らバスでやってきたボランテイアの人達による炊きだしがあり、豚汁ややきそば、 おでんなど温かいものが多いようでした。なかには”たこ焼”もあり、子供たち がうれしそうに集って校庭で立ちながら食べていました。専従でいるようなボラ ンテイアの人達はそんなに多くなかったように記憶しています。主に食事を配っ たり、キャベツを刻んだりしていました。 近くに太田中学校というりっぱな中学校があり、規模的には小学校の2倍くらい でしょうか?やはり2000人ちかい人が避難しているのだそうです。医療チー ムも日本医師会から派遣された栃木県の医師と看護婦さんのチーム10名近くが きびきびと活動されていました。そろいの真新しいオーバーに腕章をしており、 汚い白衣の下にセーターを着こみ、名前を布バンソウコウに書いて胸に貼っただ けの私にくらべて、正直にいって妙にまぶしいような感じがしました。単身の民 間ボランティアはまあこんなところかと、自分をなぐさめたものでした。今度の 震災で1週間自分の診療所を休んでボランティアにいらした先生もいるそうで、 贅沢はいえません。  風呂は自衛隊が小学校の校庭に石油バーナーを持込んで、大きなテントのお風 呂を設営しています。1日おきに男女がきまっているようです。水はでています が、飲まない方がよいという事でした。ガスは全然でていません。私がいった日 に、カセット式のコンロが一部屋に一台ずつ配られたようでした。室内は寒く、 石油などは十分あるのですが、ストーブが無いようでした。  被災者の生活環境にも厳しいものがあります。小さな講堂に100人近い人達 が段ボールで仕切をして住んでいます。この学校全体では1000人近い被災者 が寝泊りしています。自分の空間は布団1枚、枕元にコップや茶碗、歯磨きなど のわずかな生活用品を置いて、新聞を読むもの、小声で話をする人達。寒さの中 で1日中、布団に入って暮している老人。一つの教室には約20ー40人ぐらい の人達が、布団の上で生活しています。布団と布団の間は殆ど隙間無く、多少の 隙間にはだれかがすかさず物を置いて自分の空間を拡大しようとしているようで す。廊下にも荷物や家財道具がびっしりと積まれています。  廊下で寝ている老人がいました。どうして部屋の中に入れないのかとスタッフ に尋ねたところ、外の方が気が楽だからという答えでした。廊下はさすがに寒く、 老人は顔だけ出して布団にくるまって、目だけをぎょろぎょろとさせていました。 -*- Dr.KUMA ~{^_^}~ Medical library -*-