***************************************************** 神戸歩いてみました。          平成7年3月12日 (2/3) *****************************************************  新長田駅周辺は震災の直後に大規模な火災がおこり、このあたり一帯が合成ゴ ムの靴を作る小さな町工場がたくさんあったために、一面の焼け野原になってい ます。ここでは723人が亡くなりました。駅そのものは以前あった場所より3 00mほど手前に仮設のホームが作られています。駅をおりると長田ボランテイ アセンターの若い人達がマスクを配っていました。日曜日で取壊しは行なわれて いませんでしたが、町全体がなんとなくほこりっぽいように感じられました。気 管支炎や喘息が悪化する例が多いとも聞いています。靴の安売りをしていました。 すこしすすがついているような運動靴を500円で売っていました。  道の真ん中で若い男女が話合っていました。そのうち、女の子が泣きだしてし まいました。普通の町ならば恋のトラブルだと思うでしょうが、ここではどうし ても地震と関係しているようではないかと勘繰ってしまいます。そう思っている 自分も今までは、なにか正義感にゆりうごかされているのだと思っていましたが、 それもただの興味本位の野次馬だったんではないかと、妙に恥かしい思いがしま した。  ここでは自分と同じ軽い服装で首からカメラを下げた若い人達にもたくさん会 います。自分は彼等と違うんだという意識は、まったく意味の無いものだと気が つきました。ただ自分は写真にはとらない、頭の中に焼き付けて、きっと一生忘 れない自分だけの宝にするために足を棒にしてあるいているんだと、もう一度自 分で確認しなおして歩きだしました。  スクーターにのり、カメラをもち、一生懸命に電柱の写真をとり、なにか書き 付けては次の場所まで移動している若者がいました。電気会社かなにかのボラン テイアかアルバイトかわかりませんが、同じカメラでも違う意味がありそうでし た。実にたくさんの大学生ぐらいの若者が自転車やバイクで移動しながら、携帯 電話や無線を持ちながら情報を交換し合い、調査や連絡をしています。  学校がありました。やはり避難所になっています。人数は一時期の半分にへっ たと言われていますが、やはり教室のまどには洗濯物がたくさんならんで、入口 にはたくさんの靴がならび、1ヵ月前と同じ避難所生活は変っていないようでし た。校庭にはブルーのテントがならび、炊きだしや配給物資に人が群がっていま した。懐かしくて黙って見ていましたが不審におもわれるといけないので、早々 に立ち去りました。  公園では神戸YMCAのボランテイアの人達が番号の入ったゼッケンをして、 カラオケ大会と焚きだしに一生懸命でした。カラオケの会社が後援しているらし く機械の名前が入っているのぼりがたっていました。おりからの良い天気のせい で50人くらいの人が集ってカラオケを聞いている。(自分で歌おうとする人は ほとんどいないようでした。)YMCAの人達がタンバリンなどで盛り上げてい ました。炊きだしはうどんかそばのようなもので、つんである支援物資の山に被 災者がむらがって、洗剤やたわしや家庭用品のようなものを手に手に持ち帰って いました。  これだけみれば本当に平和な光景で、よく駅などでやってるイベントのような ものでした。道を歩いているおばさんが、おじさんに”あそこで炊きだしやっと る、わりかたうどんうまかったで、あんたもいったら!”もちろん神戸の言葉を 完全に理解しているわけではないので、たぶんこういったんだろうと思いますが、 たくましい被災者の知恵をかいま見た様な気がしました。 ここでJRに乗り、姫路へと向い、新幹線で九州へ帰りました。加古川の駅周辺 では大規模な仮設住宅が建設中でした。1000戸はありそうでした。でもここ も仮設ですから、いつかは出て行かなければいけないのでしょう。不思議な気持 がしました。次には仮設でなく、本当の住宅を用意してくれるのでしょうか?  汽車を待つ間も、寝袋とリュックを抱えた若者にたくさん会いました。なごり おしそうに車窓から神戸の方向を見ながら、話をしています。  となりにいた若者が前の人に”5万やるからといわれても、2度といきたくな いな!きっと!”というと”10万なら?”と前の若者が混ぜ返していましたが、 ひとしきりボランテイア本部の話や神戸の将来について話していました。後髪ひ かれる思いがするのでしょう。そんな気持が彼等の話を聞いていて、よくわかり ました。ボランテイアを一度でもしたものが感じる感動の喜びにひたっているよ うでした。私も話の中に入りたかったのですが、生来の恥かしがりやと、今は黙 っているのがいいような気がしてだまって眠りにつきました。