祭囃子に使う楽器について


楽器を道具と言います。
道具には、締太鼓、大太鼓、摺鉦、篠笛など使用します。ほかに、神楽囃子には、 大拍子(だいびょうし)、大太鼓、篠笛を使い、獅子舞には、締太鼓、桶胴(おけどう)、 摺鉦、篠笛を使います。
これらの道具には、別名を持っています。

太鼓を鳴らすのには、撥が必要です。締太鼓、大太鼓おのおの太さ・重さの違う撥を 使用します。また、摺鉦には、撞木(しゅもく)言われる竹製で先端に鹿の角を付けた 撥を使用します。

各道具のならべ方

各道具の製造方法について(各製作者に取材)

  1. 太鼓
    1. .皮
      ・種類
      大太鼓、締太鼓、桶胴は、牛の皮、それも雌牛のものを使用します。雌牛でも国内産 の子を産んだ7〜8才位のものがよいそうです。この皮で作った太鼓は冴えた良い音 が出、耐久性も優れています。一方雄牛の皮は音が硬く、若い牛の皮は柔らかすぎる ので良くありません。外国産の場合、肉牛用に若いうちに殺すため、皮下脂肪が多く 良くないとのことです。牛の種類としては、かつて役牛として使役され良いものがと れたアカ牛は、最近は肉本位に育てられるため不適で、結果的に乳牛が使われること が多いようです。
      太鼓の皮となるものには牛のほかに馬が有ります。この場合音が甲高くなるので大拍 子、大鼓(おおかわ)、小鼓(こつづみ)用として用い大太鼓、締太鼓には使わない。 又、大太鼓には馬が良いともいわれていますが、近年良い馬の皮が手に入らないので 牛を使うようになったと言う説も有ります。
      ・使用部位
      図は牛の皮を広げた形です。図の上方が頭で下が尾、また腹部で開いているので中央 が背中になります。一頭の牛でも皮の厚みは一定でなく、お尻が最も厚く、頭にかけ て段々と薄くなりまするまた背中側は腹側より厚みが有ります。背中を中心に左右対 称に材料を切り取って行きますが、皮の厚さに合わせて用途が分かれます。
      皮を裁つ際には傷の無い部分で取ることが大切です。けれども傷のために、本来背中 を中心として左右対称に裁つはづのものをずらすと、左右即ち一対の太鼓の音質に差 が生じてしまいます。従って皮選びの段階で太鼓となる部分を想定し、傷が無いかど うか慎重に選定しなければ、支障をきたしてしまうのです。
      (1)締太鼓
      一対の締太鼓の場合、まずお尻に近い位置で「うけ」(裏側)を取り、その次を「鳴り かわ」(表側)とします。後足の付け根は、足自体の曲げ伸ばしにより、皮が最初から 伸びていて引張ってもムラができ、音が悪くなります。されでこの位置は「うけ」用 となるのです。それに対し二番皮は均一な厚さになり、最も良く鳴るので「鳴りかわ」 として使います。
      締太鼓の規格表わすのに三丁掛などと呼びますが、これは皮の厚みを表わし、五丁掛 が最も厚く、以下四丁掛、三丁掛、二丁掛、並掛と徐々に薄くなります。皮の厚さに より、太鼓の音の高さや音質が変化します。皮の厚みは四丁掛で一分(約3mm)くらい です。
      (2)大太鼓
      大太鼓の皮も締太鼓とほぼ同じ位置の皮の厚い所でとりますが、締太鼓と異なり後足 が入らないように裁断します。
      (3)桶胴
      桶胴は必ず首の辺りでとくます。この位置の皮は厚みが一定しているという理由から です。厚み自体は締太鼓より薄い。
      ・製造工程
      (1)締太鼓
      なめし→裁断→縫製→乾燥
      なめし
      皮を柔らかくする工程。水で晒し、塩抜きをし、糖し塩を調整した中に漬け込む。そ の後、皮から毛を削ぎ落とす工程。
      裁断
      コンパスの要領で墨で円を描き革用の包丁で裁断する。寸法は、締太鼓で直径一尺六 寸、大太鼓は一尺四寸、出来上がり八寸の桶胴で一尺二寸です。裁断後、皮に残った 脂、肉を削ぎ落とす。
      縫製
      縫い糸は、以前、麻でしたが、現在使われているのは靴を縫いあわせるのに使う特殊 な糸です。 針は先に刃が付けてあり、皮を切りながら縫うようになっている。
      締太鼓の外周部には、金属製の輪が芯としてはっています。五分の太さの鉄棒を溶接 し、外径一尺二寸の輪にしたものです。金輪には錆止めと調べ紐の滑りを良くするた めに、梱包用の白い紐を巻きます。昔は、竹の皮を巻いたそうです。
      この金輪に裁断した皮をかぶせて均一に延ばし、裏側で仮にかがっておきます。この 時に調べ紐を通す穴を開けます。
      縫い目は二列に縫います。内側は直径九寸です。これは、胴の直径が八寸五分と決ま っているからです。外側は金輪に沿って縫うのですが、穴の部分では内側に来ます。 縫い目の数は太鼓の大きさによって一定で、見た目の美しさからきめられているそう です。
      乾燥
      縫製が完了すると穴の形を保つため竹の棒を差し、乾燥に入ります。乾燥に入る前も のは、白っぽく不透明で、表面はやや弾力が有りしっとりしている。天日で乾かすと 透き通ったあめ色となり、硬さも指で弾くと音がするようになります。ここで皮の裏 側もやすりで擦り落とし、きれいにする。
      (2)大胴
      なめし、裁断は締太鼓と同じであるが、縫製はなく、乾燥後皮張りをします。
      乾燥(皮の型作り)
      皮の周囲に切り込みを入れ、15cm位の竹の棒を通し、古い大胴の胴に仮にかぶせ、 縄を張り皮をピンとさせた状態で乾燥させ、大体の形を作ります。
      皮張り
      古い胴からはづした皮をこれから張る大胴の胴に被せ、台に縛り付ける。縄の間だ に差し込んだ竹の棒をねじることにより、皮の張りを加減します。充分調子を調整し てから胴に鋲を打ち、皮を止めます。
      (3)桶胴
      締太鼓と同様になめし、裁断を行い、皮が生のうちに桶に付け、乾燥してから締めます。
    2. .胴
      ・種類
      胴に使う材料は、締太鼓、大胴ともに、ケヤキを三年以上枯らしたものを使う。桶胴 は桶を使う関係から杉の赤身が使われます。
      ・製造
      締太鼓・大胴
      胴は一本の木を切りぬいて使うので、特に大胴にはかなりの太さがなければならない。 胴は木を太鼓の長さに合わせて切る事からはじまります。この長さは、締太鼓の場合 、調べ紐で締めるタイプのものは、五〜六寸で五寸五分が普通です。ボルトを使うも のは八寸です。
      まず、角を切り落としてから丸い形にします。これで外側は出来上がりです。次にド リルで穴を開け電気鋸の刃を通し、内側をくり貫きます。締太鼓の胴の外径はどれで も八寸五分ですが、肉の厚さは薄いほうが良く響きます。
      桶胴
      桶胴の胴は桶屋で作ります。形は、側面から見た時に真っ直ぐな筒状ではなく、樽の ように真ん中を膨らませた形にします。そうする事によりタガが緩んだ時に締め戻す ことができます。胴の長さは、一般に一尺四寸ですが多少のバラツキがあります。直 径は六寸から一尺までいろいろ有る。
    3. .調べ(紐)
      「調べ」と言うのは、元来締太鼓を締めるための紐のことで、そこから締太鼓を調べ とも呼ぶようになったようです。素材は綿、麻などを使います。使っていると伸びる のであらかじめ伸ばしておきます。長さは、八尋(1尋は両手を左右に伸ばした長さ) で、太さは四分(約1.2cm)です。締太鼓の調べの長さは「たつ」(縦調べ)を締めた 状態で、太鼓の周りに四周する位が良いとの事。
      協力:東太鼓店 千葉県佐原市

  2. 篠笛
    囃子の道具の中で唯一の旋律楽器である篠笛。篠竹という日本独自の材質で作られ、 日本独特の音色を生み出しています。もとの笛の形は鎌倉時代以前に大陸から渡って きたものですが、日本の風土から生まれた材質に結びつくことにより、日本人の好み に合った音色に変化してきたのです。
    ここで朗童管の後継者・久保井 力氏に取材しました。

    1. 篠笛の製作

      材料
      @千葉・房総方面の節の長い女竹が適しています。他に、九州・伊豆地方の竹もあると 言う事ですが、暖かい地方に育った竹は、楽器としては柔らかすぎるとのことです。
      A太陽を良く浴び、斜面の密生地に生育した竹が良く、密生地の竹は、生存競争が激し く丈夫な竹が取れるとのことです。

      製作工程
      @冬の間一ヶ月寝かせる。
      竹は甘くて蜂などが集まるため、虫がつく前の十一月ごろ切り、寝かせます。
      A乾燥
      二ヶ月寝かせて、正月過ぎに節ごとに切り、乾燥させます。乾燥期間は、早くて二年、 三年は乾燥させないと音色が出ません。この段階で割れるものが多い。
      B矯め(ため)
      竹材を火で焙り、柔らかくして曲がりを矯正します。
      C木取り
      太さ、長さより適当な笨(ほん)数(調子)を決めます。同じ笨数のものを揃え、切り落とします。
      朗童管では頭に節がくるように竹を切って、節と節との間を十分にとり、材質をたっぷりと 生かす形になっています。これを節止めといい、朗童管が同じ笨数でも全体の長さがまちまち なっているのはこのためです。
      (注)篠笛は十二律に合わせ基音の高さより一笨調子、二笨調子・・と呼びます。竹の 太さ、長さや肉の厚さ等によって、笨数がさだめられます。
      D穴の位置決め
      竹材に物差しを当てて、穴の位置をキリで印をつけます。竹のどの方向の面を開けるかも この時決めるのですが、竹には顔というものがあり、できるだけ竹の顔に開けるのがよい ということです。竹は真円ではないため表裏があり、どこを顔と定めて穴を開けていくか によって、同じ材料を使っても出来上がりがわかれてしまう。太陽があたっていた方向 に楕円になっており、そこがよいといわれています(図1)。長年のカンに頼って顔、すなわち 穴を開ける面を決め、寸法を測ってキリで印をつけます。現在は、前代の物差しを使用して 位置決めをしていますが、肉の厚さや質によって同じ調子でも音色が違ってしまい、結局 カンに頼って調整を行う作業が必要となります。
      E唄口、指穴を開ける
      三つ目錐のついたろくろを使って、全て手作業で行います。


      ろくろは、先代がビリヤードのキューを心棒に使い鉛の重りを重力として工夫した物で、 先端には七ミリぐらいの三つの金属が、刃のようにでています。又、キリの刃が交換出来る ように工夫されています。手板を上下に動かすと、錘の惰性でキリが左右に回転します。 この道具を使うと、竹材の硬さや厚さにあわせて加減知ながら穴を開ける事ができます。 ドリルなどを使うと、柔らかい竹が割れてしまうということからの工夫です。今、考えら れる唯一で最良の穴開け道具ということです。
      先端のキリの刃は、唄口用、指穴用など三種類の大きさが付け替えられる様になっています。 竹は一定の方向の回転ではうまく穴があかない為、重さを利用してこの刃を左右に回転させ ています。
      まず、唄口を開けます。指穴は一番下の第七孔からだいたい三段階に分けて、とりあえず 小さ目にあけておきます。この後、火箸で焼いておくと繊維が締まって彫りやすいとの事 です。(図4)

      F唄口を作る。
      唄口を小刀で削って所定の形を造ります。次に竹の中のゴミをガラガラで取り除きます。 ガラガラとは、丸いやすりの棒のことだそうです。次に唄口の頭部に、柔らかくて質の 悪い紙を乾いたまま詰めます。この紙の深さによって音の高低もかわってしまいます。 詰めた紙の上にコンパウンド(樹脂系)を更に詰め、笛ののどもいえる部分が出来あが ります。このコンパウンドの他にも一般的で簡単な方法に封蝋といって蝋を溶かして 使う方法もあるそうですが、暑くなるとベタつくという欠点があるということです。
      G調律
      唄口が出来上がり、音が出るようになった竹を調律しながら指穴を削ります。 篠笛の場合の調律は、音の高さをあわせるだけでなく、三つの基本の音のバランス、 音色のバランスを調整する。すなわち笛の楽器としての特性を決める最も重要な作業 で
      (イ)道具
      (a).現在はチューニングメーターを使用し、442Hzを標準として調律しています。
      (b).数本の小刀を使って指穴を削ります。微妙な作業の為、たえず切れを保つ様、 こまめに砥ぎながら、調律します。

      (ロ)三つの基本の音
      ・筒音(つつね)−全部押さえた音
      ・鴫音(しぎね)−抜けるような音 ピー
      ・空音(そらね)
      この三つの音が、平均した音色ででる様にします。特に空音がでないと全体の調子が よくありません。手彫りの特徴として、鴫音を出す為に第七孔が他に比べておおきく なっています。

      小刀をこまめに砥ぎながら、チューニングメータで三つの基本の音と笛の音律をあわせ ながら指穴を削って行きます。ここからが本当の笛師の仕事であると聞きました。
      手彫りの特徴として、朗童管は調律をする際に、小刀を左右に動かしながら削って いく為、穴が楕円になっています。左手に縦に竹を持ち、右手に小刀を握ります。

      H仕上げ
      (イ)内部の塗装
      楽器の保管性と音色をよくする為に、笛の筒の内部を塗装します。先代は漆に上質の 油煙(松脂を燃やした時のすす)を顔料として混ぜた物を塗っていました。漆は陽気 によって息をする為、柔らかくなったり硬くなったりと竹になじんで融通がききます。 しかし、素人には漆が扱えないという事から、力氏は現在、独自に開発した合成塗料 の一種を使っています。これは、漆より固まってしまうと、硬く丈夫になるという事 ですが、漆ほど融通性はありません。カシュー塗料も使用してみましたが、乾燥の 具合によって匂いが残ってしまう為、いろいろ試した結果、現在のものに落ち着いた そうです。
      朗童管の笛の内部の色は黒です。これは先代が、黒は朱より丈夫であるという事から、 その笛が、長い間、何代にもわたって使われる様にと選ばれたそうです。
      塗装は棒の先端に布を巻いたものを使い、下塗り、中塗りと2〜3回塗ります。 この厚さにより、これまでの音色も変わってしまうという事です。

      (ロ)藤(とう)を巻く
      朗童管はどれ見ても藤で巻かれています。巻き方は三種類ほどあり、弓への藤の巻き方 が基本になっています。

      ・半重巻き
      ・本重巻き
      ・天地巻き

      先代がよく好んでいたまは、半重巻きとのことです。良いと思った笛ゃ、竹があまい と思った笛には特によく巻きます。藤は笛にうめこんでまいた物の方がしっかりする 事から、朗童管の高級管は必ずうめこまれています。
      現在、藤は台湾などから輸入されたものが使われています。力氏は藤の他にも釣竿等に 使用されている、樹脂系のものを研究してみましたが、伸縮が竹になじまない為、竹には 藤が一番適しているとの事てす。

      (ハ)ニスを塗る
      外側を磨いて汚れがつかない程度にニスを塗ります。時には笛吹きの依頼により、 塗らずにだす事もあります。

    2. 先代、朗童氏と十二律について
      先代は手慰みの玩具とみられていた篠笛を楽器として、更には芸術品にまで高めようと 努力されました。十二律の研究は最も代表的な物でしょう

      (1)十二律について
      篠笛には、正確な音律というものがありませんでした。先代が尺八を吹いていた戦前、 「笛師は笛吹きになってはいけない。自分の好きな笛をつくるようになってしまう。」 という父親の教えを受け、それからは、笛作りに専念しました。同時に音律のない 篠笛にも、きちんとした音階があるのではないかと考え、十二律の研究に没頭しました。 戦後になり、調子の平均を作り、それが尺八、三味線にもあう事を立証し、大学教授等の 裏付けを受け、「篠笛は玩具ではない。きちんとした十二律がある」という事を証明 しました。これより先代し、昭和56年11月30日、横浜文化賞を受賞しました。
      篠笛の調子は、一笨調子から十二笨調子まであります。自然の女竹の一番節の間の長い もので一笨調子の笛が出来、十二笨調子以上では、指穴がくっつきすぎて、演奏が困難 という事てす。このように自然の摂理と理論的に十二律の考えか一致するところに、 面白さがかんしじられるという事です。
      現在、カルチャーセンターなどの要望により、ドレミ調の改良型が要求されていますが、 穴の大きさがそれぞれ違ってしまい、不格好になってしまいます。笛の見た目の 美しさは、やはり、囃子用の笛の調律のものが一番のようです。

      (2)先代、朗童氏について
      先代も一時は先々代と一緒に、露店に笛をならべて売っていた時代もあったとのこと ですが、研究熱心なこと、又、民謡の老成参州、みさと笛の山川直春、音大講師の 鯉沼廣幸等との出会いがあったことによって、演奏家、学者の意見をとりいれる中から、 定評を得ていったのです。その為、同じ六笨調子の笛でも祭囃子用、民謡用、みさと笛、 ドレミ調用と四種類の調律を用意していたとのことです。
      調律だけでなく、作りの面においても、節止めにして頭部を長くしたり、藤を入手した ものを更に割ってほ細くして巻いたり、藤巻きの際、肉薄の竹材に溝を刻んで埋め込ん だりして、非常に手をかけて仕上げたのです。
      尺八も習得しており、朗童という名もその号からきているとおもわれますが、本文中 にもあるように、製作者が演奏家になってしまうと自分の好みのものを作ってしまう、 という事で、演奏をやめてしまったそうです。これは、楽器はあくまでも演奏家が 表現するための道具であり、そのためには、あまり個性のある楽器よりも、演奏家の 様々な要求にでもこたえられるような許容量の大きい、普遍性のある作りのほうが 良いということでしょうか。

      (3)力氏の朗童管伝承について
      力氏は会社勤めで、先代が亡くなった当時、笛作りを継ぐつもりはなかったそうです。 しかし先代がなくなった後、朗童管にプレミアムがつき、偽物が出回るようになった ことを知って、一年以上も迷った末、朗童管伝承という形で製作をはじめたというこ とです。



  3. 祭囃子の中で、笛、締太鼓、大胴の四人を助ける役割を果たす、鉦。目立たないようで ありますが、鉦のとるリズムの良し悪しで囃子の調子は、ガラリと変わると言っても 過言ではありません。囃子を陰で支えている鉦の製作を、鳴物師と呼ばれる作者の仁村 氏に取材しました。

    1. 仁村重治さんについて

      鳴物師とは仏壇で使う「リン」など、その名の通り、音の鳴る物を作る鋳物師のそとです。 仁村さんの家は神田明神下、御台所町(現在外神田−神台町会)で代々鳴物師を営んで いました。江戸時代、寺で使う仏具の鐘を作る鳴物師が神田には何人もいたということです。 町人ながら、西村和泉守、太田駿河守、椎名伊予守などの名をもらっていた大きな 鳴物師たちもおりました。それらの人たちの下で仕事をもらっていた鳴物師たちがたくさん いて、仁村さんの家もそういった鳴物師のひとりでした。
      昭和二、三年頃、台所町から現住所の大森に移り、重治氏の先代、三代目の方までは、 専業として鳴物師を営んでいました。戦時中は、鉦などの需要もすくなかったのでしょう、 軍艦で合図に使う鐘や、機械の鋳物を作っていました。そして、昭和三十八年頃から 再び、鳴物師としての鉦を作る仕事を始め、宮本卯之助商店に卸しました。重治氏は、 「仁村紫雲」という銘を一般につかっていますが、代々受け継がれている、「里ん治」 という銘を宮本卯之助商店に卸すときには、「四代目里ん治」として使っています。 「里ん治」とは、鉦を「リン」と呼ぶことと、代々仁村家では名前に、「治」の字を 使うことからこの名がついたそうです。
      現在は、公害問題など、近隣の住宅のことを考えて製作はしていないそうです。実際、 仁村氏も転業し、今は会社に勤めています。が、仁村氏の手元には、仕上げの前段階 という鉦がまだいくつもあるということでした。
      また、仁村氏と同じ、「鳴物師」と呼ばれた仲間の方々は、やはり、転業を余儀なく され、彫金の仕事などをしているそうです。

    2. 材料について

      鉦の材料は、昔、軍隊の大砲の薬きょうに使われていた、砲金と呼ばれる合金に成分が 近いということです。砲金は陸軍、海軍など、それぞれの軍によって配合が決まって いました。鉦の場合は、銅が87%、すずが10%、亜鉛が3%を混ぜたものです。 ポイントは、すずの量です。すず自体は柔らかい金属ですが、すずを多く配合すると、 地金自体が硬くなってしまうそうです。硬くなると、ちょうど瀬戸物のようになって、 響きは良くなりますが、落とすと割れやすくなってしまいます。ですから、仏壇で 使う「リン」のように、たたく時に無理をしないものには、すずを多く使えば響きの 良い音になり、囃子のように、激しくたたく場合には、すずを少な目にして、強度を 増すようにするわけです。
      古い鉦は、緑青が出てきたり、色がくすんだりします。新しい鉦は、金色に輝いて います。これは、すずのつやによるものです。出来たてのものより、二年〜三年 経った鉦の方が音が良く、五、六十年も経ってしまった古いものは、音が落ちてしまう ということです。また、製造の工程でも、ちょっとしたことで微妙に音が変わって しまうそうです。

    3. 製造工程

      @母型(おもがた)と中子(なかご)
      鉦の型を木工屋でロクロでひいてもらい原型を作ります。これを元に、鉛で母型を 作ります。母型は、鉦の型に湯口(鋳口とも言い、煮と溶かした材料を型に流し込む 穴)となる部分、とっ手が付いていて、ちょうどフライパンのような形をしています。 その他に、鉦の紐を通す部分を作る為、中子と呼ばれる部分の型を木で作っておきます。

      A砂型
      @の母型と、四角い木の枠、それに中子の木型を組み合わせ、砂を流し込んで、砂型 をとのます。砂は海砂を使い、砂自体に粘りがあるので、「つなぎ」になるものは 他に混ぜたりしないそうです。砂を流し込んで型をとるのは他の鋳物も同じですが、 鉦の場合、「焼き型」と呼ばれる方法で作ります。「焼き型」とは、型に流し込んだ 砂を乾燥させ、その砂型を一度焼いて暖めた型のことです。なぜ、鉦は、「焼き型」 を使うのでしょうか。乾燥しただけの冷たい型を使うと、溶かした合金を流し込んだ ときに、型との温度差が大きくなってしまうので、この温度差により、合金の 熱が急激に冷えてしまい、出来上がった鉦の音に微妙な影響を及ぼすとのこと。

      B湯の鋳込み
      銅、すず、亜鉛の合金をコークスゃ重油で1100〜1200℃まで熱して溶かします。 この時の温度が、低過ぎても高過ぎても、鉦の出来具合に影響します。材料を煮て 溶かしたものを「湯」と呼びます。湯は、一度に鉦30〜40個分を煮るそうです。
      砂型を10個ぐらい温めておき、鋳口から湯を流し込みます。この時に、湯の温度が 低過ぎると、型全体にまんべんなく湯が回りきりません。湯が型にまわることを「 湯が走る」と言います。この「湯走り」を良くする為に、少量の亜鉛が必要です。
      厚さ3、4oの鉦は、型に流し込んで約5分ぐらいで湯の赤みがとれて型から取り 出す事が出来ます。砂型は一つ鉦を作ごとに、壊して、バラバラになった砂はまた 練り直して新しい型を作る事ができます。これと同じように出来た鉦で音の悪い ものは、また、溶かして、鋳直すことができます。

      C研磨
      型から取り出した鉦は、金属の色々な色、緑、茶色などが混ざっている状態です。
      ざらついてる表面を削り、滑らかにする作業は、バフを使って注意深く行います。 この作業で音の質がある程度決まってしまう為、神経を使う作業です。バフを使わず 旋盤を使って削ると、どうしても削りすぎてしまい、鉦の厚みが薄くなって割れた 音に仕上がってしまうそうです。

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