1999年7月20日更新

(研究計画書)

オープン・ソーシングを通じた知識コミュニティ

発展モデルの研究

木村誠(kmakoto@bekkoame.ne.jp

1 研究テーマ

  • インターネットを活用したソフトウェアの共同開発モデルであるオープンソースの概念を企業の知識資源に拡張したオープン・ソーシングを通じて、インターネットを通じた知識を創造し、発展させる場としての知識コミュニティの成立過程と発展モデルの分析、新たなビジネスモデルの提案を行う。

  • 2 研究の目的と意義(価値)

  • 本研究の目的と意義は以下の4点だと考えている。

    2.1 野中型知識(1995)と異なる特性を持つインターネット時間型知識の特性の明確化

    暗黙知と形式知に渡る4つのモードで示される野中型知識は、春夏秋冬に同じ組織内の諸活動を通じて、交換され、共有されてゆっくりと熟成されていく知識である。これに対して、本研究の対象になるインターネット時間型知識とは、一日千ビートと例えて地球規模で、組織の境界から時に離れて、必ずしも顔を見知らぬ主体間で交換され、共有される知識である。

    2.2 知識コミュニティが持つ特性の明確化

    知識コミュニティ(4.2で後述する)をクローズド・コミュニティ(参加者を登録、参加資格条件を規定して囲い込みを行う。大抵は参加有償)と、オープン・コミュニティ(参加資格は緩やかだがボランティア的な貢献を要求される。基本的に参加無償)に二分類し、それぞれの知識コミュニティが持つ特性を、知識フローと知識ストックの視点から明確化する。

    2.3 オープン・ソーシングと知識コミュニティ相互発展モデルの想定と妥当性の検討

    バザール方式とも呼ばれる、ソフトウェアの共同開発モデルであるオープンソースを行うということは、オープン・コミュニティにおける必須機能なのか、その有効性の範囲と限界について分析を行い、オープン・ソーシングと知識コミュニティの相互発展関係モデルを想定し、その妥当性を検討する。

    2.4 Outside-In型知識戦略とInside-Out型知識戦略の提起

    自社に閉じた知識の囲い込みを離れて外部の知識を有効に取り入れた経営資源の効率化と自社資源の集中を図るOutside-In型知識戦略(知識のアウトソーシングを行うオープン・ネットワーク経営)と、自社に閉じた知識を離れて外部の知識との交換と共有を行なえる知識コミュニティへの貢献と経営資源の共同化を図るInside-Out型知識戦略(知識のオープン・ソーシングを行うオープン・コミュニティ経営)の2つの知識戦略のつり合いを図ることの重要性を提起する。

     研究目的の相互関係

    本研究の基本的視点は、「主体間に存在するもの(外在知)としての知識を重視して研究を行う」ものである。

    「自分以外の誰かと知識を交換し、共有できる機会が多ければ多い程、知識の創造と発展はうまく行くはずである。インターネットはそれを加速する優れた媒体となりつつある。そして知識のフローが蓄積される知識コミュニティと呼ばれる場の成功例がみられつつあるが、誰が作ってもうまく行くものではないらしい。」

    という認識の基に、オープン・ソーシングと知識コミュニティの相互発展の可能性に着目し、インターネット時間型知識の特性について研究し、企業の知識戦略に役立てる指針を得ることが研究の成功基準となる。


  • 3 研究の背景

  • 研究の背景となる重要な先行研究は以下の3つである。

    3.1 知識財の特性の研究(寺本(1999))

    寺本は、知識財の特性として、時間的・空間的な多重利用性と移転容易性、さらに非定常的・不安定的な文脈依存性と脆弱性をあげている。このような特性を持つ知識財は、知識ネットワークを通じた価値創造が可能であることを提唱している。

     

    3.2 オープンソース・ソフトウェアに関する研究Raymond1998,http://www.opensource.org

    Raymondは、これまでの商用ソフトウェア開発モデルは大聖堂方式(大司教が大工(エンジニア)を囲い込み、自分たちだけで作成した設計図に基づいて「大聖堂」を作りあげる)であり、この方式は大規模ソフトウェア開発では破綻しつつあることを指摘した。そして、PC用フリーOSであるLinuxに代表されるフリーウェアの多くはオープンソースであり、バザール方式(明確な方針はなく、様々な立場の人たちが訪れてアイデアを持ち帰り、自由な討議の中で設計図を作成する。一度、ひな形となるソフトウェアが与えられれば、ネットワーク上で分散して修正と改良が行われる。参加者の数が多ければ多い程、開発のライフサイクルは多くなる)を採用し、前例のない機能発展と利用者の増大が実現されていることを主張している。

    3.3 オープン・ソーシングに関する研究(出口(1997))

    出口は、オープンソース・ソフトウェアの概念を企業の知識資源に拡張したオープン・ソーシング概念を提唱した。出口の主張するオープン・ソーシングとは、「企業の守るべき資源」と「共有し、進化させる知識資源」を区別し、知識資源の公開と共有、相互参照、相互評価をオープンな情報ネットワーク上の無数のサイトで行うものである。出口は、情報ネットワーク上の対等なアクセス者である「知のコモンズ」の力を積極的に利用、知識を共有し、より良い評価を勝ち取り、彼らと共棲関係を築くことが重要であると主張する。


  • 4 これまでの研究経過

  • これまでの研究経過として、以下の基本概念を述べる。

    4.1 知識フローの基本モデル(根来・木村(1998))

    インターネットを通じた知識のフローとして、知識トランザクション(サプライチェーン上の主体間のコミュニケーション活動であり、他主体の「目的(構想)」の解釈と他主体への「要求」からなる)と知識インタラクション(主体同士がある場(コミュニティ)において、知識交換と共有を行い、場に知識を蓄積していく活動)を提起した。

    さらに、知識トランザクションによってバリューチェーンをつくる主体間の結びつきを表現するモデルとして知識トランザクション・モデル、そして、知識インタラクションによってできたコミュニティと主体の結びつきを表現するモデルとして、知識インタラクション・モデルを知識フローの基本モデルとして提起した。

     知識トランザクション・モデル

     

     知識インタラクション・モデル

     

    4.2 知識ストックのモデル(根来・木村(1998))

    インターネットを通じた知識のフローは、インターネット上のある場に蓄積することができることを提起した。このときの知識フローと知識ストックの対応関係は、インターネットにおけるバリューチェーンの視点から見たときの位置付けによって二分類できる。この対応関係は、以下の様な知識フロー/ストック・マトリクスとして表現できる。

    また、このとき、知識のストックが行われる様なインターネット上のある場をプラットフォームとして表現する。以下の2つの図は、知識のフローが活性化される知識チェーン・プラットフォームそして知識コミュニティ・プラットフォームを通じた知識のストックをモデル化したものである。

    知識チェーンプラットフォーム・モデル

     

    知識コミュニティプラットフォーム・モデル

     
  • 知識フロー/知識ストック・マトリクス

     

    主体の関係

     

    知識のフロー

     

    知識のストック

     

    一つのサプライチェーン中の上流下流における主体同士

     

     

    知識トランザクション

     

     

    知識チェーン

    複数のサプライチェーンにまたがって、あるバリューを要求または議論する主体同士

     

     

    知識インタラクション

     

     

    知識コミュニティ


    5 研究の位置付け(立場)

  • 以下のような研究の立場を取り、幾つかの想定に基づき、研究を行う。

    5.1 バリューチェーンとサプライチェーンの視点

    バリューチェーンとは、サプライチェーンの本質であると理解する。バリューチェーンは、価値付加活動のつらなりに着眼したモデルと設計の対象であり、企業間取引の根拠となるものである。また、サプライチェーンとは、バリューチェーンの実現形であると理解する。サプライチェーンは、実際のオペレーション管理(運用)に着眼しており、企業間取引そのものである。

    5.2 オープン・ソーシングとバリューチェーン発展

    オープン・ソーシングの実現によって以下の事項が成立し、バリューチェーンの発展につながると考えられる。

    ・他主体への解釈と要求のための知識資源となる

    ・企業間取引のコミュニケーション障壁が低くなる

    ・サプライ主体間のコミュニケーションを促す

    ・主体間の新しい結びつきを生み出しやすい

    ・主体間の結びつきを強化する

    ・多くの主体の結びつけを促す

    5.3 欠損情報交換による知識共有

    各主体に足りないもの、または各主体が知らないことを欠損情報と呼ぶ。この欠損情報の存在によって、知識コミュニティにおける参加者間の知識フローである知識インタラクションの活性化を促す。つまり、欠損情報の充足のための無償の奉仕が促される。

    知識コミュニティを通じて、他の各主体への協力依頼事項が明確となることもできる。そして、知識コミュニティ上における欠損情報の充足の過程とその結果を第三者も学習することができ、知識のフローを通じて知識共有され、その場に知識としてストックされると考えられる。

    5.4 オープン・コミュニティとバリューチェーン発展

    クローズド・コミュニティからのオープン・コミュニティへの移行によって以下の事項が成立し、バリューチェーンの発展につながると考えられる。

    ・サプライ主体と顧客の欠損情報の交換と充足・知識共有が図りやすい

    ・より多面的なコミュニティ貢献要求(コミュニティからサプライ主体への要求)がうまれる可能性がある

    ・欠損情報の充足のために有効となるバリューチェーンの発見と創発を促しやすい

    ・バリューチェーンの分流または合流、淘汰を促しやすい

     知識コミュニティの発展図(想定)


  • 6 研究の具体的内容

  • 第一段階として、オープンソース・ソフトウェア事例を研究する。第二段階として、メールマガジン発刊やコミュニティ・サイト運営のネット・ビジネス事例を取り上げる。さらに第三段階として、マルチメディア・コンテンツ業を事例として扱う予定である。第一段階としては以下の四分類を想定し、事例分析を進めていく。

    ・オープン・コミュニティEvangelist発議型:LinuxGPL:General Public License

    ・オープン・コミュニティVendor発議型:Mozilla.OrgNPL:Netscape's Public License

    ・クローズド・コミュニティPlatform従属型:JavaSCSL:Sun Community Source License

    ・クローズド・コミュニティVendor従属型:Apple OS XAPSL:Apple Public Source License

    オープンソースの四分類図(想定)

  • 参考文献

    [1]野中郁次郎・竹内弘高:『知識創造企業』,東洋経済新報社,(1996)

    [2]寺本義也:「知識社会の企業経営」,『パワーイノベーション』,新評論,(1999)

    [3]根来龍之・木村誠:『インターネット上の仲介ビジネスにおける知識リレーションシップの構造』,組織学会1999年度研究発表大会報告要旨集,2D2,pp.159-162(1999)

    [4]半田智久:『知能環境論 頭脳を超えて知の泉へ』,NTT出版,(1996)


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