(1999年11月27,28日:日本オフィスオートメーション学会第40回全国大会)

ビジネスモデルとしてのオープンソーシングの可能性

The Possibilitly of Open-Sourcing as a Business Model

日本科学技術研修所 木村誠(Makoto Kimura)

文教大学 根来龍之(Tatsuyuki Negoro)

 

1 はじめに

 オープンソースという言葉がソフトウェア業界のみならず、ビジネスの場でよく聞かれるようになった。本稿では、オープンソースの発展のメカニズムそのものについて論じるものではない。本稿は、オープンソースソフトウェアに関連したビジネスモデルについて論じるものである。

Raymond(1999)は、論文「魔法のおなべ(The Magic Cauldron)」の中でオープンソースに関連したビジネスモデルとして9種類をあげている。その中では、非営利モデルとしての利用価値創出モデル、営利モデルとしての間接的販売価値モデルを提起しているが、モデル間の重複が多く整合性のある分類とはいえない。本稿では、オープンソース・ソフトウェア(Open Source Software: OSS)の共同開発コミュニティにはどのような形態がありうるのか、その分類を検討する。そして、その分類をふまえて、OSSを核としたビジネスモデルがどのようなものとなるかについて議論する。

 

図1 「魔法のお鍋モデル」(Raymond(1999))

 

2 オープンソースソフトウェア(OSS)とは何か

 OSSとは、プログラムの中身(ソースコード)が公開されているソフトウェアである。さらに、そのソースを第三者が自由に参照し、変更し、さらに配布することができる。通常のソフトウェアは、ソースコードの公開は行わずに、機械語に翻訳された(コンパイル)された実行可能なバイナリーコードだけが配布される。ソースコードの公開をすることで、さまざまな人たちがソースコードを共有し、改訂作業に協力しあうことができるようになる。通常は開発元だけが保持する秘密をなくすことで、問題点の所在やその解決策を探りやすくすることができるという考え方が根底にある。オープンソースソフトウェアの配布方法として、今日ではインターネットによるコンピュータ間通信が採用されることがほとんどである。

 

3 OSSコミュニティ特性とOSSの形態

 本稿では、OSSをとりまくコミュニティの形態を二つの軸から論じる。一つの軸はコミュニティがクローズかオープンかを示すメンバーシップ特性軸である。もう一つの軸は、OSSによる利益が誰かに集中するか分散するかを示す利益享受軸である。

 「クローズドコミュニティ」とは、参加資格条件を規定し、コミュニティへの参加者を常に登録を行い、囲い込みを行う共同体である。そのためにクローズドコミュニティでは、限定されたメンバー間のみでのインタラクションと知識共有がなされる。これに対して、「オープンコミュニティ」とは参加資格が穏やかであり、匿名による参加でもかまわない。参加と離脱がいつでもできる(しかしながら、コミュニティへの貢献が明示的または暗示的に要求される)。参加は基本的に無償である。オープンコミュニティでは、限定されないメンバー間でのインタラクションと知識共有がなされる。もちろん、何の貢献もせずにその果実(この場合はOSS)だけを得ようとするただ乗りの参加者も多い。いずれにせよ、参加者の数が多ければ、そのコミュニティは数の力で影響力(パワー)を持つことになる。

 図2 コミュニティの二分類

 「利益分散」とは、オリジナル・ソースの提供者だけでなく、その他のオープンソース提供者も金銭的利益を得ることを意味している。また、「利益集中」とは、オリジナルソース提供者が金銭的利益をほぼ独占することを意味している。

 この二軸を組み合わせることで、以下のようなOSSコミュニティの四分類ができる。

利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型

利益分散・クローズドコミュニティ(PD-CC)型

利益集中・クローズドコミュニティ(PC-CC)型

利益集中・オープンコミュニティ(PC-OC)型

 これらの四分類されたOSSコミュニティによく一致するオープンソース事例を図3中に示す。

 

図3 OSSコミュニティの四分類(想定)

 

4 OSSを核としたビジネスモデル

 ある事業について事前検討を行ったり、事後評価を行う際に、「その事業のビジネスモデルの構造は何か」という視点で分析を行うことが有効である。本稿で示すビジネスモデルは、「どの様な事業活動をしているか、あるいは事業構想」を示すモデルであり、以下の3つのモデルが中心になる。

・戦略モデル:顧客に対して、自社が提供するものは何かを表現するモデル。具体的には、その事業における、顧客、機能、対象製品、魅力、資源、前提が何かを表現する。

・オペレーションモデル:戦略を支えるためのオペレーションの基本構造とその前提を表現するモデル。

・収益モデル:事業活動の対価を誰からどうやって得るかとその前提を表現するモデル。

 戦略モデルは、オペレーションモデルに支えられて始めて実現可能となる。戦略モデルとオペレーションモデルは、収益モデルに裏づけられなけば「ビジネス」にはなりえない。

 ビジネスモデルは、成立のための前提(コテキスト)を持つ。このコンテキストの確からしさが、該当する事業(ビジネス)の安定性・将来性を決定する。場合によっては、現在の前提(コンテキスト)が将来は成立しない可能性がある。この場合はビジネスモデルの再構築が必要である。一方、新しい事業構想を作成することは、将来に向けて、仮説的前提に基づくビジネスモデルを考案することである。

 以上のような視点からオープンソース・ソフトウェア(OSS)コミュニティの四分類をもとにOSSを核としたビジネスモデルについて以下の事例分析を試みた。その内容の一部を表1に示す。

PD-OCOSS事例:Red Hat Linux

PD-CCOSS事例:Sun Java, Jini

PC-CCOSS事例:Apple OS X Server

PD-OCOSS事例:mozilla

 

表1 利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型ビジネスモデル

(Red Hat Linuxの場合)

 

ビジネスモデルの種類

 

ビジネスモデルの内容

 

 

戦略モデル

顧客:オープンソースソフトウェア(OSS)を利用する一般ユーザおよび企業ユーザ

機能:稼動保証されたLinux OS環境とサポートサービスの提供

対象製品Red Hat LinuxRed Hat Package Manager(RPM)

魅力:さまざまなプラットフォームに、誰でもすぐにインストールして稼動できるLinux OSパッケージを提供する。

資源:ホットラインサポートスタッフ、稼動試験環境、Linuxポータルサイト

前提:一般ユーザまたは企業ユーザがRed Hat Linuxの継続的利用を選択してOSSによるシステムを構築する。

 

オペレーションモデル

Red Hat Linuxのためのインストールウィザードを開発する。Red Hat Linuxのバージョンアップを円滑に行うためのツールRPMを開発し、配布する。ホットラインサービスを行う。Linuxポータルサイトを運営し、稼動可能アプリケーションの一覧、サービスベンダの一覧、ユーザーグループ一覧を掲載、独自サーチエンジンを配置し、さまざまなLinuxユーザコミュニティに有益な情報を提供する。

前提:アプリケーションベンダーと提携し、Red Hat Linux上での商業アプリケーションの稼動を検証して保証する。

 

収益モデル

Red Hat Linuxのライセンス販売。顧客企業向けの継続的サポート契約金。

前提:Linuxを利用したいが稼動までの試行錯誤や学習時間を費やしたくない一般および企業ユーザが多く存在し、運用が楽な商業用Linuxに喜んで対価を払う。

5 Linuxをめぐる派生ビジネス

 オ−プンソースのオペレーティングシステム(OS)Linuxに派生したビジネスが活発であり、サーバ向け商用OSの最大手であるMicrosoft Windows NTに対抗できる存在にまで成長しつつある。Linuxの魅力とは、基本的に無償であること、動作が非常に軽快で旧式PC上でも稼動できること、極めて動作が安定していること、コミュニティにおけるサポートが充実していることがあげられる。Linuxの派生ビジネスとして以下がある。

・Linux稼動保証済みバージョン有料配布

・Linux用商用アプリケーション有料配布

・Linux搭載ハードウェアとシステムの販売

・システム・インテグレーションサービス提供

・継続的保守サポート契約実施

・Linuxの教育や訓練のサービス提供

 すでにRed Hat社は、Red Hat Linuxを百万本以上出荷し、アプリケーション・ベンダーもRed Hat Linuxを代表とする商業的に配布されるLinuxとの互換性を保証している。このとき、今までの商用アプリケーションと異なるのは、その中心に位置するのは、確固たる戦略をもったハイテク企業なのではなく、Linuxのコミュニティであるということである。この状況をい図4に示す。つまり、企業としての戦略的展開が全体としてあるわけではない。また、Microsoft社会長Bill Gatesのような確固たる指導者(または支配者)は存在しない。つまり、Linuxから派生するビジネスを行う主体は収益確保手段を策定する一方で、Linuxコミュニティとどのような関係をもつか、つまりコミュニティに対してどう貢献できるかを、それぞれが考える必要に迫られる。コミュニティとのコミュニケーションをいかに維持しながらオープンソースを核とした価値付加活動としてのビジネスを行っていくのかが問われるである。

図4 コミュニティ中心のサプライチェーン

6 まとめ

 本稿では、オープンソースソフトウェア(OSS)コミュニティをメンバーの特性と利益享受する主体の二つの軸で分類を行い、各分類に関連するビジネスの可能性をビジネスモデルの視点で分析した。「利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型」のOSSを核としたビジネスモデルは実績があり、成功していると見なせるビジネスモデルである。Linux関連ビジネスがその例である。現在の所、他のビジネスモデルは成功または失敗するビジネスモデルと早計に判断はできないが、オープンソースの効果は十分証明されていない。

 

参考文献

[1] Eric S. Raymond, "The Magic Cauldron", 1999

  山形浩生氏による邦訳は"魔法のおなべ"

[2] Jamie Zawinski, "resignation and postmortem", 1999

 木村誠+山形浩生氏による邦訳は"辞職そして追悼"

[3] クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン編、倉骨彰訳:"オープンソースソフトウェア"、オライリー・ジャパン、1999

[4] 根来龍之・木村誠:"(仮題)インターネットコマースの経営戦略"、日科技連出版社、1999(近刊)


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