1999年10月30日更新

(文教大学情報学部紀要「情報研究第22号」投稿論文)

 
オープンソースソフトウェアを核とするビジネスの可能性
 
木村誠・根来龍之
 
The Possibility of Business Model around the Open Source Software
Makoto KimuraTatsuyuki Negoro
 
1 はじめに
2 オープンソースソフトウェア(OSS)とは何か
3 OSSコミュニティ特性とOSSの形態
3.1 Evangelist発議型OSS事例Linux
3.2 Platform従属型OSS事例Java, Jini
3.3 Vendor従属型OSS事例Apple OS X Server
4 OSSを核としたビジネスモデル
4.1 利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型ビジネスモデル
4.2 利益分散・クローズドコミュニティ(PD-CC)型ビジネスモデル
4.3 利益集中・クローズドコミュニティ(PC-CC)型ビジネスモデル
4.4 利益集中・オープンコミュニティ(PC-OC)型ビジネスモデル
4.5 オ−プンソ−スはうまく働くか:mozilla.orgからの辞職と追悍
5 OSSを支える機関と理念
5.1 Open Source Initiative(OSI)
5.2 オープンソースを支える理念とそのパワー
5.3 OSSの発展サイクル
6 OSSに関連した「営利事業」のビジネスモデル(魔法のおなべモデル)
7 Linuxをめぐる派生ビジネス
8 おわりに
参考文献
参考にしたURL一覧
 
abstract
 
This paper argues the possibility of Business Model concerning Open Source Software(OSS). To reach this purpose, the authors investigates the history of OSS and present situation featuring OSI(Open Source Initiative) and OSD(Open Source Definition). By focusing on OSS community, the authors propose the two dimensional axis such as Member Properties-Axis and Profitable Actor-Axis. Adopting and crossing this two dimensional axis, OSS community is categorized to 4(four) types of OSS communities such as Profit Centered-Open Community(PC-OC) type, Profit Diverged-Open Community(PD-OC) type, Profit Centered- Closed Community(PC-CC) type and Profit Diverged-Closed Community(PD-CC) type.
The authors point out Business Models related with OSS by Raymond express just only Profit Models in his paper, "Magic Cauldron"(1999). Furthermore, the authors insist on Business Model be structured by three tiers layers such as Strategic Model, Operation Model and Profit Model. In addition, Strategic Model, Operation Model and Profit Model should have each contexts as pre-condition to Business Administration.
As Case Studies, the authors perform the Business Model Analysis based on this 4(four) types of OSS Communities as follows.
PC-OC type: Netscape Communications' mozilla(MPL: Mozilla Public License)
PD-OC type: RedHat Linux(GPL: General Public License)
PC-CC type: Apple OS X Server(APSL: Apple Source Public License)
PD-CC type: Sun Microsystems' Java and Jini(SCSL: Sun Community Source License)
Finally, the authors describes the possibility of "Profit Diverged-Open Community(PD-OC) type" Business through Linux-related -Business Cases. Currently, "Open Community-Profit Diverged type" OSS Community seems to make success of Business Administration. However, the other OSS communities seem to the menace of failure.
 
Keyword
Open Source Software, Business Model, Community, Supply Chain, Linux
 
 
1 はじめに
 
 1998年より、オープンソースという言葉がソフトウェア業界のみならず、ビジネスの場でよく聞かれるようになった。オープンソースはソフトウェア工学の常識をくつがえす革命であるという人も出てきた。しかしながら今の所、その機構はよくわかっていないというのが正直な所であろう。本稿は、オープンソースの発展のメカニズムそのものについてを論じるものではない。本稿は、ビジネスの場にオープンソースがどのような影響をおよぼしているのか、オープンソースソフトウェアを核とした新しい事業としてどのようなものを考えられるのかを論じる枠組みを提示する。そのために、本稿ではまず、インターネットを活用したソフトウェアの共同開発のコミュニティの形態について検討する。そして、その検討をふまえてOSSを核としたビジネスモデルはどのようなものとなるかを議論する。
 本稿は、以下のような論点で構成される。
・オープンソース・ソフトウェア(OSS)の経緯と現状を整理する。
OSSコミュニティをメンバーの特性と利益享受をする主体との二つの軸で分類を行う。
・各分類に関連したOSS事例のビジネスモデル分析を行う。
・「オープンソースコミュニティ・利益分散」型のOSSを核としたビジネスの可能性をLinuxの事例を通じて検討する。
 
 
2 オープンソースソフトウェア(OSS)とは何か
 
 OSSとは、プログラムの中身(ソースコード)を公開するソフトウェアである。さらに、そのソースを第三者が自由に参照し、変更し、さらに配布することができる。通常のソフトウェアは、ソースコードの公開は行わずに、機械語に翻訳された(コンパイル)された実行可能なバイナリーコードだけが配布される。ソースコードの公開をすることで、さまざまな人たちがソースコードを共有し、その改訂に協力しあうことができるようになる。通常は開発元だけが保持する秘密をなくすことが問題点の所在やその解決策を探りやすくすることができるし、それが結果としてすべての人のためになるという考え方が根底にある。
 ウェブサーバOSSとして有名なApacheを最初に開発したBrian Behlendorf(1999)は、OSSの特性を以下のように述べている。
・オープンソースによる共同分散開発は、昔からネットワーク分野やオペレーションシステムの分野でより多く行われてきた。
・歴史的に見て、オープンソースは段階的に実装可能な分野で成功することが多かった。そのような分野は、フロントエンド(クライアントPC)よりもバックエンドシステム(サーバ)関連の分野であることが多い。
OSSには、プログラマが商用ソフトウェアやサービスの開発中に直面した問題の解決手段として自ら作成したものが多い。したがって、他プログラマたちが主な利用者であることが多い。
・オープンソースとしてのエンドユーザ・アプリケーションはうまくいっていない。
 オープンソースという言葉は、90年代に生まれた新しいものであるが、ソースコードを
公開して、誰でも参照、変更可能な様に配布することはその言葉の誕生以前から存在する。古くは1960年代に、パブリックドメイン・ソフトウェアと呼ばれたメインフレーム上で稼動するソフトウェアが多数存在した。これは、実行可能なバイナリーコード、さらにソースコードを磁気テープなどで、主に大学等の研究機関が配布するものである。現在、オープンソースと呼ばれるときに、その配布方法はインターネットによるコンピュータ間通信で行われる場合がほとんどであり、この差異は非常に大きいものと考えられる。なぜなら、インターネットによる配布は、開発への参加者の範囲を飛躍的に広げたからである。
 
 
3 OSSコミュニティ特性とOSSの形態
 
 本稿では、まず最初にOSSをとりまくコミュニティの形態を二つの軸から論じる。一つの軸はコミュニティがクローズかオープンかを示すメンバーシップ特性軸である。もう一つの軸は、OSSによる利益が集中するか分散するかを示す利益享受軸である。この二つの軸を交差させることにより、以下のような四種類のOSSコミュニティの形態を考えることができる。
 
利益分散・オープンコミュニティ(Profit Diverged-Open Community: PD-OC)型、  
利益分散・クローズドコミュニティ(Profit Diverged-Closed Community: PD-CC)
利益集中・クローズドコミュニティ(Profit Centered-Closed Community: PD-CC)型、 
利益集中・オープンコミュニティ(Profit Centered-Open Community: PD-OC)
 
 メンバーシップ特性軸は、コミュニティのメンバーがクローズドコミュニティ、あるいはオープンコミュニティにどちらに属しているか分類する。「クローズドコミュニティ」とは、参加資格条件を規定し、コミュニティへの参加者を常に登録を行い、囲い込みを行う共同体である。そのためにクローズドコミュニティでは、限定されたメンバー間のみでのインタラクションと知識共有がなされる。また、「オープンコミュニティ」とは参加資格が穏やかであり、匿名による参加でもかまわない。しかしながら、コミュニティへの貢献を明示的または暗示的に要求される。参加と離脱はいつでもできる。参加は基本的に無償である。オープンコミュニティでは、まさにオープンなメンバー間でのインタラクションと知識共有がなされる。もちろん、何の貢献もせずにその果実(この場合はOSS)だけを得ようとするただ乗りの参加者も多い。いずれにせよ、参加者の数が多ければ、そのコミュニティは数の力で影響力(パワー)を持つことになる。
 
3-1 クローズド・コミュニティとオープン・コミュニティ
 
 利益享受軸は、OSSによる利益が集中するか分散するかを分類する。「利益分散」とは、オリジナル・ソースの提供者だけでなく、その他のオープンソース提供者も金銭的利益を得ることを意味している。また、「利益集中」とは、オリジナルソース提供者が金銭的利益をほぼ独占することを意味している。
 これらの四分類されたOSSコミュニティによく一致するオープンソース事例を、以下のようにあげうる。
 利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型事例:Linux
 利益分散・クローズドコミュニティ(PD-CC)型事例:Sun Microsystems Java, Jini
 利益集中・クローズドコミュニティ(PC-CC)型事例:Apple OS X Server
 利益集中・オープンコミュニティ(PC-OC)型事例:mozilla
 
以上の4つのOSS事例について、次節で簡単に紹介する。
 
3-2 OSSコミュニティの四分類(想定)
 
 
3.1 Evangelist発議型OSS事例Linux
 
 Linuxは、1991年当時ヘルシンキ大学学生であったLinus Torvalds個人により、PC上で稼動可能なUnixライクなオペレーティングシステム(OS)のためのカーネルとして最初に開発された。彼はこのOSの存在をインターネット・ニュースグループに投稿した。ニュースグループの会員が、彼にLinuxをダウンロード可能にするためにヘルシンキ大学内サーバの空き空間を提供したことからインターネットを利用した共同開発が始まった。以降、1万人以上の世界中のプログラマとヘビーユーザが参加するニュースグループを通じた共同開発に至った。これには、Microsoftに対するプログラマの反発心も加担しているといわれている。1998年以降、PC、そしてソフトウェアベンダーが相次いでプラットフォーム(OS)としてのLinuxの採用を表明している。さらに、ベンダー数社がモジュール構成設定済みの商用Linuxの販売を行っている。Red Hat社は1994年より、Red Hat Linuxを販売し、出荷台数は100万本を超えている。もちろん、無償でインターネットでダウンロードすることもできる。Red Hat Linux(価格はサポート付きで79.95ドル、サポートなしで39.95ドル)は、北米で`商用Linuxシェアの50%以上を占めている。
 この事例は、利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型であり、常に個人としての真のプログラマ(Hacker)の発議によって、その発展の方向付けがなされて実現されていることから、Evangelist発議型とも呼びうる。
 
 図3.1 Linus TorvaldsとLinuxマスコットのペンギン
 
 
3.2 Platform従属型OSS事例Java, Jini
 
 1999年2月から、Sun Microsystemsのウェブサイト上でランセンシー登録を行い、Javaソースコードをダウンロードできるようになった。これはオープンソースであり、Javaを利用したプログラムの開発が可能である。Java、Jiniを利用することにより。ウェブブラウザ利用、ネットワーク家電などによる分散オブジェクト環境を稼動マシンの機種を意識せずに開発し、実現することができる。しかしながら、バイナリーコード製品の有償提供、または無償配布するときにSun Microsystems社に製品価格の10%または年間25万ドルのロゴライセンスのロイヤリティを支払う義務が生じる。また、製品として出荷するときには、Sunとライセンシーとの間でサポート契約を結び、JCK(Java Compatibility Kit)を入手し、Java Platformとの互換性を証明する必要がある。このライセンスは、SCSL(Sun Community Source License)と呼ばれている。この契約によって、Javaコーヒーカップロゴや、Jiniランプロゴを取得し、出荷製品のパッケージに記載することができる。
 この事例は、利益分散・クローズドコミュニティ(PD-CC)型であり、利用者はJava, Jiniを用いた製品を販売することができるが、常にSunが定義する仕様に基づくJava VMの存在によって稼働することから、Platform従属型とも呼びうる。
 
図3.2 Sun Java、Jiniライセンスロゴ
http://www.sun.com/java/より引用)
 
 
3.3 Vendor従属型OSS事例Apple OS X Server
 
 1999年4月より、Apple社は次期Mac OS X ServerのカーネルであるMachマイクロカーネルとOS機能の一部分(AppleTalkネットワーク・ファイル・システム、HFSファイルシステム、ディレクトリ・サービス・ソフトウェア、BSD UNIXインターフェイス、 Apacheウェブサーバ)のソースコードをAppleのウェブ上で公開し、ダウンロードを可能とした。グラフィカル・ユーザー・インターフェースなどの部分はオープンソースから除外されている。オープンソースの部分については、参照と変更が可能である。しかしながら、その変更部分については、Apple社に通知しなければならない。また、Apple社は知的所有権侵害の申し立てが起きたときに、裁判所または政府によって解決されるまで該当するライセンスを停止させることができる。このライセンスは、APSL(Apple Public Source License)と呼ばれている。また、AppleはOS X Serverの全機能がバイナリーコードで提供される有償販売(ライセンス価格499ドル)も併せて行う。
 この事例は、利益集中・クローズドコミュニティ(PC-CC)型であり、常にAppleがオープンソースの変更分を管理しており、さらに稼働機種としてApple社製品を利用せざるを得ないことから、Vendor従属型とも呼びうる。
 
図3.3  Open Source Project at Apple
(http://www.publicsource.apple.com/より引用)
 
 
3.4 Vendor発議型OSS事例mozilla
 
 1998年1月、Netscape Communications社は、Netscape Communicator 5.0開発のための百万コード以上に及ぶソースコード群の公開に踏み切り、ユーザの自由な複製、配布、変更を許可するに至った。ユーザによって変更、改良されたソフトウェア群を総括してmozillaと愛称をつけて呼び、図3.4のような東映映画怪獣のゴジラに似たキャラクターを用意している。
 mozillaの運営組織はmozilla.orgであり、基本的にNetscape Communications社員が担当をしている。従来のレイアウトエンジン(HTMLコードを解析し、ブラウザに表示させる機構)を葬り去り、新規に一年がかりで小型軽量かつ高速な次世代レイウトエンジンであるGeckoの共同開発を行ったのが最近の成果として有名である。
 Netscape社自体でも継続してCommunicatorの開発を行うが、同時に世界中のボランティアがCommunicatorを改良したソースコード群であるmozillaの中から、良いものであるとNetscapeが評価判断したものも取り入れて、新たにCommunicatorの製品版としてインターネット上で無償配布する。サーバ対応製品は有償版として販売する計画である。
 この場合、Netscape Communications社はソースコードの全てを公開しているわけではなく、独自のNPL(Netscape Public License)を採用している。NPLとは、API(Application Programming Interface)ごとに公開と非公開を規定できるライセンスである。例えば、Netscape CommunicatorではSunが所有権を有するJava APIおよび米国輸出規制法に觝触する暗号技術アルゴリズム部分のソースコードは非公開のままである。その後、このAPIの非公開の規定をなくしたMPL(Mozilla Public License)が、mozillaソースコードに採用されている。
 この事例は、利益集中・オープンコミュニティ(P-OC)型であり、ウェブブラウザの供給元としてのNetscape Communicationsmozilla.orgの運営母体)の発議によって、その発展の方向付けがなされて運営されていることから、Vendor発議型とも呼びうる。
 
図3.4 Mozillaキャラクターロゴ(http://www.mozila.orgより引用)
 
 
4 OSSを核としたビジネスモデル
 
 ある事業について事前検討を行ったり、事後評価を行う際に、「その事業のビジネスモデルの構造とは何か」の分析を行うことが有効である。本稿で示すビジネスモデルは、「どの様な事業活動をしているか、あるいは将来に向けた事業構想」を示すモデルであり、以下の3つのモデルが中心になるものである。
・戦略モデル:顧客に対して、自社が提供するものは何かを表現するモデル。具体的には、その事業における、顧客、機能、対象製品、魅力、資源、前提が何かを表現する。
・オペレーションモデル:戦略を支えるためのオペレーションの基本構造とその前提を表現するモデル。
・収益モデル:事業活動の対価を誰からどうやって得るかとその前提を表現するモデル。
 戦略モデルは、オペレーションモデルに支えられて始めて実現可能となる。戦略モデルとオペレーションモデルは、収益モデルに裏づけられなけば「ビジネス」にはなりえない。
 ビジネスモデルは、成立のための前提(コンテキスト)を持つ。このコンテキストの確からしさが、該当する事業(ビジネス)の安定性・将来性を決定する。場合によっては、現在の前提(コンテキスト)が将来は成立しない可能性がある。この場合はビジネスモデルの再構築が必要である。一方、新しい事業構想を作成することは、将来に向けて、仮説的前提に基づくビジネスモデルを考案することである。
 以上のような視点から、3章で示したオープンソース・ソフトウェア(OSS)コミュニティの四分類をもとに、OSSを核としたビジネスモデルについて事例分析を試みる。
 
4.1 利益分散・オープンコミュニティ(PD-OC)型ビジネスモデル
 
 利益分散・オープンコミュニティを核としたビジネスモデルの事例として、Red Hat社を取りあげる。Red Hat社のビジネスモデルは以下のように示すことができる。
 
4.1 Red Hat社のビジネスモデル
ビジネスモデルの種類
ビジネスモデルの内容

 

 

 戦略モデル

顧客:オープンソースソフトウェア(OSS)を利用する一般ユーザおよび企業ユーザ
機能:稼動保証されたLinux OS環境とサポートサービスの提供
対象製品:Red Hat LinuxRed Hat Package Manager(RPM)
魅力:さまざまなプラットフォームに、誰でもすぐにインストールして稼動できるLinux OSパッケージを提供する。
資源:ホットラインサポートスタッフ、稼動試験環境、Linuxポータルサイト
前提:一般ユーザまたは企業ユーザがRed Hat Linuxの継続的利用を選択してOSSによるシステムを構築する。

 

 

オペレーションモデル

Red Hat Linuxのためのインストールウィザードを開発する。Red Hat Linuxのバージョンアップを円滑に行うためのツールRPMを開発し、配布する。ホットラインサービスを行う。Linuxポータルを運営し、稼動可能アプリケーションの一覧、サービスベンダの一覧、ユーザーグループ一覧を掲載、独自サーチエンジンを配置し、さまざまなLinuxユーザコミュニティに有益な情報を提供する。
前提:アプリケーションベンダーと提携し、Red Hat Linux上での商業アプリケーションの稼動を検証して保証する。

 

 収益モデル

Red Hat Linuxのライセンス販売。顧客企業向けの継続的サポート契約金。
前提:Linuxを利用したいが稼動までの試行錯誤や学習時間を費やしたくない一般および企業ユーザが多く存在し、運用が楽な商業用Linuxに喜んで対価を払う。
 
4.2 利益分散・クローズドコミュニティ(PD-CC)型ビジネスモデル
 
 利益分散・クローズドコミュニティを核としたビジネスモデルの事例として、Sun Microsystems社のJava, Jiniを取りあげる。このビジネスモデルは以下のように示すことができる。
 
4.2 Sun MicrosystemsJava, Jiniのビジネスモデル
ビジネスモデルの種類
ビジネスモデルの内容

 

 

戦略モデル

顧客:分散オブジェクト・システムを実現するためにJava, Jiniを利用する企業ユーザーまたは研究機関ユーザ。
機能:Java, Jiniのバージョンアップ、開発環境と互換性試験環境の整備、教育サービス、ソリューションサービス
対象製品:Java仮想マシン(VM)、ソフトウェア開発キット(SDK)、互換性試験キット(Java Compatibility Kit:JCK
魅力:ウェブブラウザ利用、ネットワーク家電などによる分散オブジェクト環境を稼動マシン機種を意識せずに開発することができる。
資源:オープンソース、クラスライブラリ、Java仮想マシン(VM)、ウェブサイト
前提:Java, Jiniを利用した新市場の育成を加速化するためにオープンソースを採用する。オープンソースコミュニティの評価を得て、より多くのプログラマの参加を募るために積極的な貢献活動を行う。

 

 

オペレーションモデル

ウェブサイト上でライセンシー登録をするだけで、ソースコードを入手し、自由にソースレベルでの開発ができる。派生して開発されたバイナリーコードのフリーウェア、または製品を配布するときには、ロイヤリティ支払義務が生じる。製品として実装を行うときには、Sunとの間でサポート契約を結び、JCKを入手し、Javaの互換性を保証する必要がある。
前提:自社の技術的優位性と市場リーダーシップを維持するためにライセンシー契約をオープンソースを利用して事業を行う企業ユーザと行い、さらに企業ユーザには、稼動の互換性を保証させる。

 

収益モデル

Java, Jiniをバイナリーコードとして展開するときのロゴライセンス料(製品価格の10%または年間25万ドル)によって対価を得る。
前提:ウェブブラウザ利用、ネットワーク家電などによる分散オブジェクト環境を実現するために他の選択肢よりも、JavaJiniを利用することに魅力を感じる一般ユーザ、企業が多く存在する。
 
4.3 利益集中・クローズドコミュニティ(PC-CC)型ビジネスモデル
 
 利益集中・クローズドコミュニティを核としたビジネスモデルの事例として、Apple 社のApple OS X Serverを取りあげる。このビジネスモデルは以下のように示すことができる。
 
4.3 Apple OS X Serverのビジネスモデル 
ビジネスモデルの種類
 ビジネスモデルの内容

 

 

 

戦略モデル

顧客:Apple社製PCサーバ対応ソフトウェアまたはハードウェアを開発するベンダー。Apple社製PCサーバを利用する企業ユーザまたは研究機関ユーザ。
機能:Apple OS X ServerのMachマイクロカーネルと一部分(AppleTalkネットワーク・ファイル・システム、HFSファイルシステム、ディレクトリ・サービス・ソフトウェア、BSD UNIXインターフェイス、Apacheウェブサーバ)をオープンソースで提供する。
対象製品:Apple OS X Serverの全バイナリーコード(製品版)
魅力:ソースコードを参照することにより、Apple社製PCサーバに対応するソフトウェアまたはハードウェアを開発しやすくなる。
資源:オープンソース、Apple社製PCサ−バ、ウェブサイト
前提:Apple OS X Serverのカーネルと他の一部分をオープンソースとして提供することにより、Apple OS X Serverの市場認知度を高める。また、オープンソースとすることによってApple OS X Serverに対応したアプリケーション開発を支援することができる。

 

オペレーションモデル

Apple OS X Serverのカーネルと一部分をオープンソースとしてウェブサイトから配布することにより、Apple社以外の多数のプログラマによるピアレビュー、バグ発見、機能追加などのフィードバックを得る。しかしながら、自社の差別化につながるような部分(ユーザインタフェース(UI))に関しては、オープンソースにしない。
前提:ソフトウェアであるApple OS X Serverの品質向上、機能向上のためにApple社以外のプログラマの技術力を活用する。

 

収益モデル

Apple OS X Server上で稼動するアプリケーションが数多く開発され、Apple社製PCが市場でより良く売れることによって対価を得る。
前提:ソフトウェア・ベンダーまたは一般ユーザが積極的にソースコードを入手して、Apple OS X Serverの機能向上、またはアプリケーションを自発的に開発し、提供するようになる。顧客は他OSよりもApple OS X Serverを利用するためにApple社製PCサーバを購入する。
 
4.4 利益集中・オープンコミュニティ(PC-OC)型ビジネスモデル

 利益集中・クローズドコミュニティを核としてビジネスモデルの事例として、Netscape Communications社のmozillaを取りあげる。このビジネスモデルは以下のように示すことができる。

4.4 mozillaのビジネスモデル
ビジネスモデルの種類
ビジネスモデルの内容

 

 

 

戦略モデル

顧客:ウェブアプリケーションの開発を行う個人ユーザまたは企業ユーザ。
機能:Netscape Communicatorの次期バージョンのもとになるソースコード集合体(mozilla)をオープンソースとして提供し、モジュール別に開発管理を行う。
対象製品:Netscape Communicatorのもとになるmozillaのソースコード、分散開発支援ツールのソースコード
魅力:mozillaのオープンソース・コミュニティの一員として、ウェブブラウザ開発に参加できる。
資源:オープンソースバージョン管理ツールバグ管理ツール
ウェブサイト(mozilla.orgコミュニティマガジン(mozillaZine
前提:オープンソース運動を通じて市場認知度を高め、外部の開発参加者を募ることによって、ウェブブラウザ市場におけるNetscape Navigatorのシェア下降を食い止める。

 

 

オペレーションモデル

mozillaを分散して共同開発を行うための組織であるmozilla.orgを運営し、モジュールマネージャを任命してモジュールごとの管理を行う。分散共同開発のためのツール(Bugzilla, Bonsai, Tinderbox)を開発して、オープンソースとして提供する。
コミュニティマガジンとしてmozillaZineを運営し、ニュースの通知、ボランティア募集などを行う。最終製品として、mozillaの中から完成度の高い優れたモジュールを次期Netscape Navigatorに組み込む。
前提:ウェブブラウザの機能向上と品質向上のために、Netscape Communications社以外のプログラマの技術力を結集させる組織体制をインターネットを通じて構築する。

 

収益モデル

mozillaの機能向上、品質向上にかかる開発費用は、Netscape Communications社以外からの参加者に対しては無償である。
前提:ボランティアとして各OSに精通した開発者がmozilla.orgに自主的に参加する。mozillaを利用した派生ソフトウェアが数多く開発される。定期的にNetscape Communicatormozillaの成果が組み込まれる。
 
4.5 オ−プンソ−スはうまく働くか:mozilla.orgからの辞職と追悍
 
 4章では、オープンソース・ソフトウェア(OSS)を核としたビジネスモデルの四分類を示した。しかし、ここで疑問が生じる、そもそもオープンソースは、必ずうまく行くものなのだろうか。これは今の所はよくわからないというのが、正直な所であろう。Linuxのコミュニティーを核とするビジネスは現在の所うまくいっている。IDC調査によれば、1998年に世界中で販売されたサーバの17%LinuxOSとして採用している。2003年までには、17%から24%にシェアが拡大するとDataquest19997月に予測を発表している。すなわち、利益分散・オープンコミュニティを核としたビジネスモデルはうまくいっているようである。
 前章のオープンソースのビジネスモデルで取り上げたSunJava, JiniそしてApple OS X Serverにしても今年1999年から開始されたものである。まだ良否の結論を出すのは早計であろう。すでに開始から1年が経ったmozillaでもオープンソース運動は継続している。しかしながら、mozilla.orgの中心人物であったJamie Zawinskiは、1999331日にNetscape Communications社を離れ、その日に彼のホームページにmozillaの内部告発ともいえるような手記を発表した。
 Zawinski氏の「辞職と追悍」(1999)の要約を以下に示す(全訳は参考文献[7]URLを参照)。
 
mozillaは、最初から百万コード以上の大規模プログラムだった。いきなり、最初から何をすべきかを理解するのは至難な技だった。
・最初に開放したソースコードは、稼動するプログラムとはほど遠い出来の代物だった。はっきりいえばクズだった。
・レイアウトエンジンの書き替えをしなくてはならなかった。
mozilla.orgnetscape.comではないということを納得してもらうために多大な時間を費やして格闘する羽目となった。
・外部からのソースコード開発のための協力を得ることは結局はうまくいかなかった。開発者のほとんどはNetscape社員だった。
mozilla開始から1年経過してもベータ版さえ出荷できていない。
・エンドユーザ向けソフトウェア(mozillaを組み込んだNetscape Communicator)の出荷までまだまだいたっていない。
・「オープンソースという魔法の妖精の粉をふりかけて、すべてが魔法のようにうまく行くなどということはない、ということだ。ソフトウェアは難しいのだ。問題はそんなに簡単なものじゃない」
 
 第1章で記載したように、これまでは「オープンソースとしてのエンドユーザアプリケーションはうまくいっていない(Behlendorf, 1999)」という経験則がある。エンドユーザのニーズとプログラマのニーズは異なるということが原因でうまくいかないと推測することはできるが、これもまだよくわからないといわざるを得ない。
 
 
5 OSSを支える機関と理念
 
 オープンソースは、インターネットを通じて配布されるというのが通常である。インターネットの存在があってはじめて、オープンソースとして世界中にほとんど無償で短時間に配布することができる。Internet Society理事であるScot Bradnerは、"Open Source Software"(1999)の中で、「オープンスタンダード、オープンドキュメント、オープンソースはパートナー関係にある」と喝破している。彼はインターネットを以下のように特徴づけている。
 
・インターネットは一企業を儲けさせるために存在していない。
・インターネットは個人の参加を可能とするためのオープンスタンダードの集積である。
・インターネットは、オープンソースベンチャーの草分け的存在と見なすことができる。
・インターネットはオープンスタンダードを遵守することで、大勢のプログラマがインターネット用アプリケーションを開発する土壌となっている。
・インターネットの爆発的成長は、オープンスタンダードの可能性と魅力を示している。
 
 インターネットの標準化を行う団体は、19861月に設立されたIETFInternet Engineering Task Force)である。国際的非営利組織であるInternet Society(IS)IETFにおける標準化活動に法的保護を与え、関連活動に資金を提供している(ISはそのために19921月に設立された)。IETFは法人ではなく、ボランティア活動を展開している団体である。しかしながらインターネット基本技術の標準化活動を行っており、ルーティング、アドレス管理、トランスポート、セキュリティなど110を超えるWorking Groupがある。IETFは完全なオープンコミュニティであり、誰でも参加が可能である。また、IETFが作成した文書は誰でもインターネットから入手ができ、複製や再配布もできる。まさにオープンドキュメントを実現している。
 IETFはオープンソースを根幹で支える団体であるということができるだろう。
 
5.1 Open Source Initiative(OSI)
 
 Open Source Initiative(OSI)は、オープンソース宣言ともいえる論文「伽藍とバザール(Cathedral and Bazaar)」(1998)の作者であるEric S.Raymondを中心にオープンソース運動の推進組織として199812月に設立された。OSIではOSSの定義(Open Source Definition: OSD)、OSSの認定を行い、オープンソースという商標を管理する非営利法人である(現会長はEric S.Raymond)。また、OSS認定ソフトウェアの一覧、関連文書の掲載を見れるウェブサイトの運営も行っている。OSDとは次の10項目から成る。
 
■オープンソースの定義(OSD
 
1.再配布の自由:無償でユーザはソフトウェアを複製し、自由に販売したり、譲渡できる。
2.ソースコード:ソフトウェアを配布するときにソースコードも一緒に配布する。
3.派生ソフトウェア:原ソフトウェアから(その部分を取り込んだ)派生ソフトウェアを作成することができる。ただし、原ソフトウェアと派生ソフトウェアのライセンス条件は、同じである必要はない。
4.原作者のソースコードとの統合性:原ソフトウェアと、コンパイル時にソースコードを変更するパッチファイルを分けて配布する。原ソフトウェアのライセンスは派生ソフトウェアに、原ソフトウェアと異なる名称またはバージョン番号の付与を義務づけることができる。
5.個人もしくは団体に対する差別の禁止:ライセンスではいかなる個人もしくは団体を差別してはならない。
6.使用分野に対する差別の禁止:ライセンスは、特定分野でのプログラムの利用を制限してはならない。
7.ライセンスの継承:原ソフトウェアのライセンスは、再配布された者にも適用されなければならない。再配布する者がライセンス条項を追加することはできない。
8.特定の製品に固有なライセンスの禁止:オープンソースソフトウェアは、特定のソフトウェアパッケージに含まれることを(制約)条件としてはならない。
9.他ソフトウェアに対する干渉の禁止:オープンソースプログラム(ソフトウェア)が含まれる媒体(CD-ROMなど)に一緒に含まれる別プログラムにオープンソースでなければならないと主張してはならない。
10.オープンソースの定義に合致しているライセンス例:GNU GPL, MPLなどが合致している。(注※:Raymondは、APSLもオープンソースの定義に合致しているとコメントしている)
 
 このOSDは、Richard M.Stallman1983年に開始したGNUプロジェクト、そして1984年に設立したFree Software Foundation(FSF)を通じて作成したGNU GPL(General Public License)の発想を大きく取り入れているが、Stallmanが常に主張する「自由、コミュニティ、協働からなる理想社会の実現のために、ソフトウェアそのものが自由であるべき」という宗教心に近い信条はほとんどうかがうことはできない条項になっている。Raymondたちは、FSF10年たっても完成できなかったフリーなOSの開発に成功したLinuxをソフトウェアビジネスの世界に受けれられるために、あえてフリーソフトウェアという言葉を避け、オープンソースという言葉を造語して、オープンソースという言葉のマーケティング活動、その啓蒙と普及に務めている。mozilla誕生のきっかけは、Raymondの「伽藍とバザール」であったとNetscape CommunicatorCEOであったJim Barksdaleが当時の声明で述べている。また、Sun JavaApple OS X Serverのオープンソースに関してもRaymondが大きな役割を陰で果たしている。現在、有名なOSSであるApache(全世界ウェブサーバ稼動シェア54.89%)、Perl(ウェブ用スクリプト言語)、BIND(ドメインネーム管理サーバ)、SendMail(メール管理サーバ)そしてLinux(オペレーティングシステム)がOSIによるOpen Source Definition(OSD)に賛同している。
 
5.2 オープンソースを支える理念とそのパワー
 
 オープンソースの対極にあるのが特許権であろう。米国における特許権においては、装置特許の他に方式特許として、さまざまな機能なアルゴリズムを20年間に渡り、非公開にすることによって利益を独占することができる。しかしながら、インターネットの爆発的発展には、このような特許権が存在せず、オープンスタンダード、オープンドキュメント、そしてオープンソースが重要な役割を果たしてきた。では、オープンソースはなぜ重要なのだろうか。4章で示したオープンソース事例のビジネスモデル分析から、オープンソースによる協働の理念を以下のようにあげることができる。
 
・ソースコードの公開と共有にもとづいたコミュニティが形成され、コミュニティ全体の創造性に貢献できる。
・ソースコードの共有を通じて、お互いの成果を活用することができる。
・お互いのソースコードを結集させて、さらに大きなプロジェクトを発足させることができる。
・ソースコードの公開と共有から主要な開発者がいなくなっても、他のプログラマが作業を引き継ぐことができる。
 そして、オープンソースがビジネスにもたらすパワーとして以下をあげることができる。
・オープンソースは、何かを統一する圧力を生み出す元となる。
・共通の価値基準であるオープンスタンダードを満たすことができる。
・オープンスタンダードを阻害し、独占的寡占を目論むような知的所有権の障壁を排除することができる。
・通信用プロトコルやAPI(Application Programmer Interface)のためのプラットフォームとして、業界全体としての技術標準、評価基準の意味付けを持つことができる。
・オープンソースはより多くの多様性を生み出す。
 
 OSSを核としたビジネスモデルとは、これらのオープンソースによる協働の理念、そしてオープンソースがもたらすパワーをどのように、戦略モデル、オペレーションモデル、収益モデルに組み込んで活用していくかを構想することになる。
 
5.3 OSSの発展サイクル
 
 OSSはどのように発展していくのだろうか。例えば、mozillaで開発された次世代レイアウトエンジンを採用した新しいウェブブラウザは、すでにNeoplanet社で開発されている。少なくとも、mozillaのソースコードは、Netscape Communications社が消滅しても、別のプログラマの手によって開発維持されていくことができるようになった。別の製品ライフサイクルに至るようになったともいえる。
 オープンソースであるGNU開発ツールを各マシンで稼動可能なように移植してGNU Toolkit Proとして販売しているCygnos Solutions社のMichael Tiemannは、"Open Source Software"(1999)の中でOSSの発展のライフサイクルは、図5.3のようになるだろうと述べている。OSSの発展サイクルが成り立つ「営利事業」のビジネスモデルについて次章で述べたい。
 
 5.3 オープンソースソフトウェアの発展サイクル
 
 
6 OSSに関連した「営利事業」のビジネスモデル(魔法のおなべモデル)
 
 Raymond1999)は、論文魔法のおなべ(The Magic Cauldron)」の中でオープンソースに関連したビジネスモデルとして9種類をあげている。その中で、非営利モデルとしての利用価値創出モデル、営利モデルとしての間接的販売価値モデルを提起している。そのモデルは、以下のようなものである。
 
利用価値創出モデル(非営利モデル)
・コスト分散型:例)ウェブサーバOSSであるApache19996月のウェブサーバ市場シェアは61%)を採用し、Apacheグループに参加してお互いに助け合う。
・リスク分散型:例)Cisco Systems社で内部開発したプリンタスプーラプログラムをオープンソースにすることによって販売価値は失ったが、複数社に渡る開発者を育成でき、自社の開発者消失という多大なリスク回避ができた。
 
■間接的販売価値モデル(営利モデル)
・リーダー消失/市場確保型:例)Netscape Communications社は、19983月にmozillaをオープンソースにすることによって、Microsoft Internet Explorer(IE)の寡占化を食い止めた。199811月にはIEからウェブブラウザ市場シェアを奪回した。
・ハードウェアに上乗せ型:例)Apple社はApple OS X Serverをオープンソースし、自社製品に対して劇的に大規模な開発者プールを得られる。顧客である技術者が多大な時間をオープンソースに費やすために、他環境以上の顧客ロイヤリティを獲得できる。
・献立表献上して食堂を開設型:例)
CygnosRed Hatのように、OSSを組み立て、試験してOSSを提供するが、さらに付加価値としてインストレーション、継続的サポート、ソリューションのサービス市場を展開する。
・アクセサリー販売型:例)O'Reilley社は著名なプログラマ(Hacker(真のプログラマ))を雇い入れまたは支援しながら、多数のオープンソース関連書籍やグッズを販売している。
・現在販売に未来無償型:例)Sendmail社は開発したsendmail Proを販売するが、一年前のバージョンのsendmail Proは、OSSとして無償で提供する。
・ソフトをフリーにブランド販売型:思索的なモデルであり、現実には存在しない。例)ソフトウェア技術をオープンソースとして試験手順と互換性基準を明示する。実装後の製品が他の認証ブランド製品と互換性をもつことを保証する認証ブランドを、ユーザに販売する。
Sun Microsystems社のJava, Jiniに適用可能である。
・ソフトをフリーにコンテンツ販売型:思索的なモデルであり、現実には存在しない。例)あらゆるソフトウェアをオープンソースにしてコンテンツ利用のための登録申込み料金を得る。
Hackerがプラットフォーム移植、さまざまなツールを開発する。America Online(AOL)に適用可能である。
 
 本稿で提唱したOSSコミュニティの4分類を核としたビジネスモデルとRaymondの提唱した9種類のビジネスモデルとは、以下のような対応付けをすることができるが、厳密に一対一対応という訳ではない。
 
・利益分散・オープンコミュニティ型  <ー> 献立表献上して食堂を開設型
・利益分散・クローズドコミュニティ型 <ー> ソフトをフリーにブランド販売型
・利益集中・クローズドコミュニティ型 <ー> ハードウェアに上乗せ型
・利益集中・オープンコミュニティ型  <ー> リーダー消失/市場確保型
 
 Raymondの提唱した9種類のビジネスモデルは、本稿で示したビジネスモデルの中の収益モデルに重点を置いているように見える。しかし、収益モデルとして、Raymondの提唱した9種類のビジネスモデルは重複する分野があり、整合性が高い分類とはいえない。
 Raymondは冒頭で述べているだけでその後の論理的展開は行っていないが、この論文の魅力は、オープンソースを「オープンコミュニティ」という火にかけて煮詰めればそこから、さまざまなビジネスモデルが派生してくるとした比喩にあるのではないかと思われる。この「魔法のお鍋モデル」は、図6のように図示することができる。しかしながら、「美味しい」オープンソースの煮込み方という調理法(具の分量、やっていいこと、やるべき手順)が記載されている訳ではない。気がついていたら、グツグツと煮立って、泡が吹きこぼれているという結果について述べているに過ぎない。
 
6 「魔法のお鍋モデル」
 
 
7 Linuxをめぐる派生ビジネス
 
 オ−プンソースのオペレーティングシステム(OS)Linuxに派生したビジネスが活発である。またたく間に、Microsoft Windows NTに対抗できる存在にまで成長しつつある。Linuxの魅力とは、基本的に無償であること、動作が非常に軽快で旧式PC上でも稼動できること、極めて安定していること、コミュニティにおけるサポートが充実していることがあげられる。これに反して、Microsoft Windows NTはことごとく相反する特性をもっている。それにも関わらず、なぜ今までWindowsまたはMicrosoftの天下といわれてきたのか。これは単に、FSFのGPLから脈々と受け継がれていくフリーウェアという主題が邪魔をして、ビジネスとして責任の所在を技術的にも商業的にも明確化する主体が存在しえなかったからだと思われる。Eric Raymondたちのとったオープンソース運動は、これまでのビジネスとして受入れが難しいかった、FSFによるGNU GPLの悪しき宗教的呪縛を断ち切ったものとして評価されよう。
 Linuxの派生ビジネスとしては以下のものがあげられる。
・Linuxの稼動保証済みバージョンを有料で配布する。
・Linux上で稼動可能な商用アプリケーションを有料で配布する。
・Linuxを搭載したハードウェアを含むシステムを販売する。
・システム・インテグレーションのサービスを提供する。
・継続的保守サポート契約を行う。
・Linuxの教育、トレーニングサービスを提供する。
 
 具体的には、商用アプリケーションが対象とする範囲の全てが、Linuxの派生ビジネスの範囲と見なすことができるだろう。すでにRed Hat社は、Red Hat Linuxを百万本以上出荷している。ほとんどのアプリケーション・ベンダーもRed Hat Linuxを代表とする商業的に配布されるLinuxとの互換性を保証している。
 Linuxの派生ビジネスが、今までの商用アプリケーション(Microsoft Windowsなど)と異なるのは、その中心に位置するのは、確固たる戦略をもったハイテク企業なのではなく、Linuxのコミュニティであるということである。つまり、企業としての戦略的展開を全体として設計する主体は存在しない。Microsoft社会長Bill Gatesのような確固たる指導者(または支配者)は存在しないのである。つまり、Linuxから派生するビジネスを行う主体は収益確保手段を策定する一方で、Linuxコミュニティとどのような関係をもつか、つまりLinuxコミュニティに対してどう貢献活動を行うのかを考えることを強いられる。また、一企業、あるいは企業人としてだけではなく、コミュニティへの参加者として常に雄弁とならざるを得ない。コミュニティとのコミュニケーションをいかに維持しながらオープンソースを核とした価値付加活動としてのビジネスを行っていくのかが問われることになるのである。
 
7 オープンコミュニティを中心としたサプライチェーン
 
 
8 おわりに
 
 本稿では、オープンソースソフトウェア(OSS)コミュニティをメンバーの特性と利益享受する主体の二つの軸で分類を行い、各分類のコミュニティを核としたビジネスの可能性をビジネスモデルの視点で分析した。「オープンコミュニティ・利益分散型」のOSSを核としたビジネスモデルはLinuxの事例で示したように実績があり、成功しつつある。現在の所、他のビジネスモデルは成功または失敗するビジネスモデルと早計に判断はできないが、オープンソースによる効果を十分発揮できるのかどうか疑問視する見方もある。
 本研究の今後の課題として以下の検討を行っていきたい。
・「利益分散オープンコミュニティ(PD-OC)型ビジネスモデル」以外のオープンソースコミュニティの可能性
・産業の発展(多様化)の視点から見たオープンソースの可能性
・成功するオープンコミュニティの発展メカニズム
・ソストウェア以外の技術と産業発展にオープンソースの手法が果たし得る可能性
 
 
参考文献
 
[1] Alex Lash"Source Code for the Masses"CNET News Enterprise Computing2 Feburary 1998
[2] Alex Lash"Making money with free software"CNET News The Net2 Feburary 1998
[3] Alex Lash"Evolution of Net Community"CNET News The Net2 Feburary 1998
[4] Bloomberg News"Study: Linux will account for a quarter of server sales"CNET News Enterprise Computing19 July 1999
[5] Eric S. Raymond, "The Catehdral and Bazzar", 1998
  山形浩生氏による邦訳は、"伽藍とバザール"
[6] Eric S. Raymond, "The Magic Cauldron", 1999
  山形浩生氏による邦訳は、"魔法のおなべ"
[7] Jamie Zawinski, "resignation and postmortem", 1999
  木村誠+山形浩生氏による邦訳は、"辞職そして追悼"
[8] Josh McHugh:“For the love of hacking”,ForbsAugust 10pp.94-1001998
[9] クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン編、倉骨彰訳:"オープンソースソフトウェア"、オライリー・ジャパン、1999
[10] ニール・ランダール、村井純監訳:"インターネットヒストリー"、オライリー・ジャパン、1999
[12] Paul Festa"Mozilla comes of age"CNET News The Net4 Feburary 1999
[13] Stephen Shankland、秋田克彦訳:"Mac OS XLinuxを視野に"CNET JAPAN Tech News15 March 1999
[14] Stephen Shankland、秋田克彦訳:"アップルのオープンソース戦略で巻き起こる論争"CNET JAPAN Tech News23 March 1999
[15] Stephen Shankland、三橋直樹訳:"アップルがオープンソース・ライセンスを手直し"CNET JAPAN Tech News20 April 1999
[16] Stephen Shankland、秋田克彦訳:"サンがJiniをリリース、提携企業37社を発表"CNET JAPAN Tech News25 January 1999
[17] "特集Jini:"、月刊SunWorldIDGコミュニケーションズ、3月号、Vol.9No.3pp.46-701999
[18] 脇英世:"LINUXWindowsを超える日"、日経BP社、1999
[17] 金子郁容:”コミュニティ・ソリューション ボランタリーな問題解決にむけて”,岩波書店,(1999
[18]根来龍之・木村誠:”ネットビジネスの経営戦略:知識交換とバリューチェーン”,日科技連,(1999
 
参考にしたURL一覧
 
[1] Sun Microsystems, "Java Technology"
[2] Sun Microsystems, "Jini Connection Technology"
[3] VA Linux Systems, "Linux.com"
[4] Linux Today
[5] Linux Weekly News
[6] mozilla.org
[7] mozillaZine
[8] NEOPLANET - "Your Instant Desktop"
[9] Open Resources
[10] Open Source.org
[11] Open Source Project at Apple
[12] REDHAT.COM


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