インターネット上の仲介ビジネスにおける知識リレーションシップの構造

根来龍之(文教大学)、木村誠(日本科学技術研修所)

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    <要旨>

     本稿はインターネットを通じた知識のフローとストックの視点から、インターネット上のプラットフォーム・ビジネス(IC-PFB)の果たすべき役割を論じるものである。ここで、プラットフォーム・ビジネス(IC-PFB)とは、「複数のバリューチェーンに介在し、インターネットを利用した商取引を活性化させる私的ビジネス」であり、仲介ビジネスを意味する。インターネットを通じた知識フロー・モデルとして知識トランザクション・モデルと知識インタラクション・モデルを提案する。次に知識フローと知識ストックの関係を提示する。そして、ICを通じた知識フローを活性化し、インターネット上のある場(サプライチェーンまたはコミュニティ)で知識ストックの成立に貢献するIC-PFBが持つべき二つの指向性に着目してIC-PFBの分類と発展すべき方向の提案を試みる。

    1 はじめに

     本稿では、デジタル市場でのバリューチェーンを実現するものとして期待されているインターネットコマース(以下ICと略記)を「コミュニケーションの一部または全部をインターネットを利用して行う商取引」と定義する。そしてインターネットを通じた知識のフローとストックの視点から、ICを通じて発展するバリューチェーンに貢献するプラットフォーム・ビジネス(以下PFBと略記)について論じる。

    2 ICを通じたバリューチェーン発展

     バリューチェーンの概念はPorter(1985)が提唱したものであるが、サプライチェーンと対比すると理解しやすい。両者の関係は次のように表現できる。

     「バリューチェーンはサプライチェーンの本質である。サプライチェーンはバリューチェーンの実現形である。」

     バリューチェーンは価値付加活動の本質的つらなりに着目した表現であり、設計の対象にはなりえるが目に見えない価値を積上げていくためのプロセス連鎖である。一方、サプライチェーンは価値付加活動を通じて作られる実際の製品/サービスに着目している。そのため、仕掛品や最終製品がいつどの場所を経由して目的地に届けられるかといた物流的視点が入ってくる。企業間取引が成立する根拠はバリューチェーンの存在であり、一方バリューチェーンのオペレーションであるサプライチェーンは実際の企業間取引そのものだと言える。このときのバリューとは、利用者から見た素材、部品、製品の価値(素材、部品、製品の利用目的)を意味する。

    3 IC-PFBの定義

     本稿では、インターネットコマースにおけるプラットフォーム・ビジネス(IC-PFB:Internet Commerce PlatForm Business)を以下の様に定義する。

     IC-PFBの定義

    「複数のバリューチェーンに介在し、インターネットを利用した商取引を活性化させる私的ビジネス」

     筆者が考えるIC-PFBの6つの基本機能を以下に示す。

    1)オンラインカタログ編集:アクセス者の照会に応じて、一元管理されたデータベースから必要なデータを引き出し、リアルタイムに作成されるカタログ編集。

    2)ウェブリンク:他ウェブサイトが持つ内容を結びつけて表示を行う。

    3)知識リンク:ウェブリンク、電子メール、電子掲示板、他メディアを利用したコミュニケーションによって実現されるIC-PFBと各アクセス者間の結びつき(リンク)。この知識リンクによってアクセス者間の知識交換を実現する。

    4)相手と製品の検索:アクセス者の照会に応じて、相手と製品について必要な情報をインターネット上で検索し、相手と製品について情報一覧を提供する。この機能のために、ソフトウェア・エージェント(ボッツ)が利用されるこもある。

    5)信用供与:顔が見えない売手と買手の与信査定。

    6)評価:製品またはサービスの批評情報、お薦め情報の提供、消費者からの評判の通知。

     そしてIC-PFBに必要な機能ではないが副次機能として次の2つの機能がある。

    7)電子決済:機密保護された電子決済手段の提供。

    8)代行:評価、交渉、購入、配送についてアクセス者から依頼を受けて代行する。

     ちなみに、筆者はIC-PFBにとって最も重要な機能は知識リンク機能であると理解しており、国領(1995)の提唱した取引仲介型PFBとの大きな違いであると考える。

    4 ICの主体間コミュニケーション

     インターネットコマースにおいては、取引主体間や顧客との間、さらには顧客同士の間でさまざまなコミュニケーションが行われている。このコミュニケーションがバリューチェーンを発展させるというのが本稿の基本的着想である。ここで、バリューチェーンの発展とは以下のようなことを指す。1)バリューチェーンの創発(新しく生まれる)、2)バリューチェーンの分流と合流、3)バリューチェーンの改善と安定化。

     バリューチェーンの発展のために果たす役割に着目するとインターネットコマースにおける主体間コミュニケーションは、まず知識フローと知識ストックに分けうる。前者はメッセージの交換や相手の意図の解釈などの行為そのものであり、後者はその交換や解釈が蓄積されたものである。蓄積は参照を容易にする。インターネットコマースにおいては、知識はサプライ主体あるいはコミュニティ(同好者がアクセスする場)に蓄積される。

     フローとストックの対比とともに、コミュニケーションを交換する主体間の関係に着目した分類も行いうる。一つのバリューチェーン中の上流・下流における主体同士のコミュニケーションと、複数のバリューチェーンにまたがって、あるバリューチェーンを要求または解釈する主体同士のコミュニケーションという分類である。前者は実際に商取引を行う主体間の知識交換であり、後者は商取引から独立性がある知識交換である。後者には、中立性と公開性が成立しやすいという特性がある。

     上記の分類をクロスさせて、表1を作成できる。表1の4つの概念について以下に詳述する。

    表1 知識フロー/知識ストック・マトリクス

     

    主体の関係

     

    知識のフロー

     

    知識のストック

     

    一つのバリューチェーン中の上流下流における主体同士

     

    知識トランザクション

     

    知識チェーン

     

    複数のバリューチェーンにまたがって、あるバリューチェーンを要求または解釈する主体同士

     

     

    知識インタラクション

     

     

    知識コミュニティ

    5 ICを通じた知識フローのニ分類

     ICを通じた知識フローについて論じるための二つの基本モデルを提示する。

    5.1 インターネットを通じた知識

     ICにおいて成り立つコミュニケーション活動とは知識を中心に行われる活動であるというのが、筆者の考え方である。筆者が意味する知識とは、組織の境界からも時に離れて、必ずしも顔を見知らぬ主体間で交換され、共有されるものである。筆者の「知識」概念は、次の様に定義できる。

     知識の定義

    「発信者の名前(仮名も可能)付きの発信者の個性が反映した情報。知識は、「参照(または解釈)」の対象であると同時に、「要求」として発信されることがある。ネットワーク上の「場」に蓄積することが可能である」

    5.2 知識フローの二つの表現

     筆者は、知識のフローとして「知識トランザクション」と「知識インタラクション」という二つの概念を提案する。

     知識トランザクションとは、「サプライチェーン上の主体間のコミュニケーション活動」である。これは、サプライチェーン上の他主体の「目的(構想)」の解釈と他主体への「要求」から成り立つ。

     知識インタラクションとは、「主体同士がある場(コミュニティ)において、知識交換と知識共有を行い、場に知識を蓄積していく活動」である。

     次に二つの知識フロー・モデルについてさらに説明する。

    5.2.1 知識トランザクションモデル

     バリューチェーンにおける直接的そして間接的コミュニケーションを視覚的に表現したモデルを知識トランザクション・モデルと呼ぶ。図1にこれを示す。

     このモデルは、根来(1997)の二者間取引モデルを用いて、サプライチェーン上のコミュニケーションを視覚化する試みを発展させたものである。図1の大きな矢印は供給者の価値付加活動を意味する。価値付加活動の中にある交差する矢印は、供給業者のサプライ活動の前提になる知識内容である「主体満足目的(事業構想)」と「顧客貢献目的(製品構想)」を表現している。主体者(顧客)と直接供給者間の直接的コミュニケーションは、下図において供給者と主体者を結ぶ実線の矢印で表現されている。主体者の直接供給者との間には製品を通じた間接的コミュニケーションも存在する。すなわち、顧客(主体者)の製品評価を「売上動向」を通じて間接的に推定するコミュニケーションである。

    図1 知識トランザクション・モデル(1)

    この間接的コミュニケーションは、図1で点線矢印によって表現されている。

     オープン・ネットワークとしてのインターネットが持つ広範囲のアクセス可能性により、企業間の継続的取引がインターネットを通じて行われる場合においては、他業者との代替可能性は通常取引よりも活発になりうる。また、インターネットでは、誰でも情報発信の送り手となりうるので、主体者の「主体満足要求」と「顧客貢献要求」の伝達能力が非常に強化され、結果的に知識トランザクションの形成・再形成が容易にもなる。

     最終消費者における知識トランザクション・モデルを図2に示す。最終消費者においては、「顧客貢献目的」が存在せず、「主体満足目的」だけが最終供給者に伝えられる。次の顧客が存在しないので、顧客貢献目的は存在しない。また、最終消費者に関係するモデルはサプライ主体間のモデルと異なり、顧客を複数設定したモデルとなる。最終消費者が一人の製品は希である。

    図2 知識トランザクション・モデル(2)

    5.2.2 知識インタラクションモデル

     筆者は、「知識インタラクション」を以下のように定義する。この概念は、国領(1997)の「顧客間インタラクション」概念を拡張したものである。 

    知識インタラクションの定義

    「アクセス者同士が、インターネット上のある場所においてお互いの知識を交換・共有することによって相互作用を行うこと」

     国領の顧客間インタラクション概念と知識インタラクション概念は以下の点で異なっている。

    1)顧客間インタラクションは、最終消費者間コミュニケーションに着目した概念だが、知識インタラクションは企業間コミュニケーションを含む、アクセス者間のインターネット上のある場における相互作用すべてを対象にしている。

    2)知識インタラクション・モデルでは、アクセス者は主体満足目的や顧客貢献目的を持つ存在である。そのため、図中のアクセス者を矢印で表現する。

     すなわち、知識インタラクションは、図3のように表現できる。

     また、コミュニティの特性を示すための指標として、コミュニティが閉鎖的(参加資格を限定する)か開放的(参加資格を限定しない)であるかに着目して二つに分類する。前者をクローズド・コミュニティ、後者をオープン・コミュニティと呼ぶ。

    図3 知識インタラクション・モデル(1)

     バリューチェーン終端における最終供給者と最終消費者間における知識インタラクション・モデルを図4に示す。図4で示される知識インタラクションは、知識トランザクション・モデルにおける消費者満足目的(生活願望)が交差して知識交換と知識共有を行うものである。知識インタラクションからの「コミュニティ貢献要求」は、知識トランザクション・モデルにおける顧客貢献要求とは同一ではない。顧客同士の相互作用の結果として生まれた要求となっているからである。これを「知識インタラクションによるコミュニティ貢献要求」と呼ぶ。知識トランザクション・モデルにおける「顧客貢献要求」との違いは、発信者が「個」であるか「コミュニティ全体」であるかの違いである。供給者は、個々の顧客と別々にコミュニケーションするのではなく、コミュニティとコミュニケーションを行うのである。ただし、ここでのコミュニケーションには、実際にやり取りをしない「参照」や相手の考えの「解釈」を含んで考える。このコミュニティ指向の活動における知識インタラクション・モデルを考えることにより、個別情報ではない集団知識を得る方策を見つけることができる。知識インタラクションによるコミュニティ貢献要求は、顧客集団としての知識(製品構想)の発信、顧客の知識が具現化したハードウェアあるいはソフトウェアのプロトタイプの顧客側から発信と提供を可能とする。

    図4 知識インタラクションモデル(2)

     「知識インタラクションによるコミュニティ貢献要求」が生じるコミュニティは、サプライチェーンを形成する各段階のサプライ主体(供給業者)においても成立するものとして拡張できる。これを知識インタラクション・モデルの一般形として図5に示す。

    図5 知識インタラクション・モデル(3)

    この知識インタラクション・モデルにおいてアクセス者間に共有されるものは業界特有の商習慣、業務規約、技術ノウハウ、事業構想などである。供給業者同士のコミュニティは前提資格、参加条件が厳格なクローズド・コミュニティとなる傾向がある。

    6 IC-PFBの二つの指向性

     以上の概念設定を前提にするとIC-PFBには二つの指向性があり得る。知識チェーン指向と知識コミュニティ指向である。前者は知識トランザクションを活性化して知識チェーンの形成に貢献するIC-PFB、後者は知識インタラクションを活性化して知識コミュニティ形成に貢献するIC-PFBである。

    6.2 知識チェーン指向PFBモデル

     知識チェーン指向PFBモデルは、一つのバリューチェーン上での上流下流における主体同士のコミュニケーション活動による、知識の交換と共有を促すための「知識リンク」機能を提供するIC-PFBである。あるバリューチェーンにおける知識チェーンとは、IC-PFBが提供する知識リンクの利用によって、サプライ主体間の知識トランザクションが活性化しており、サプライチェーンが成立していることを意味する。

    図6 知識チェーン指向PFBモデル

    6.3知識コミュニティ指向PFBモデル

     知識コミュニティ指向PFBモデルは、複数のバリューチェーンにまたがって、あるバリューチェーンを要求または解釈する主体同士がコミュニティにおいて行う知識交換と共有を促すための「知識リンク」機能を提供するIC-PFBである。知識コミュニティとは、IC-PFBが提供する知識リンクの利用によってコミュニティにおける知識インタラクションが活性化しており、複数のバリューチェーンにまたがるコミュニティとして成立していることを意味する。

    図7 知識コミュニティ指向PFBモデル

    7 IC-PFBの5つの基本類型

     知識チェーン指向PFBモデルと知識コミュニティ指向PFBモデルに基づいたIC-PFBの理論的な5つの基本類型を提示する。

    7.1 無段階型PFB

     無段階型PFBとは純粋に市場機能を提供するPFBであり、ウェブリンクは存在するが知識トランザクションおよび知識インタラクションは存在しない。無段階型PFBでは、経済評価機能として最も単純かつ効率的な競り(オークション)システムを適用し、売手から買手への商品/サービスの商取引成立(状況別役割交換)を促進する。

    7.2 一段階型PFB

     一段階型PFBでは知識チェーン指向PFBモデルが適用され、知識リンクに媒介された知識トランザクションが行われる。一段階型PFBでは介在できる知識トランザクションが、供給者とその直接顧客との間だけであり、直接顧客への知識チェーンのみに介在する。最終供給業者と最終消費者間に介在するB-to-C PFB、供給業者間に介在するB-to-B PFBも一段階型PFBである。

    7.3 多段階型PFB

     多段階型PFBとは、サプライチェーンを構成する各段階での供給者間に介在するPFBであり、一段階型PFBを多段階に拡張したPFBである。多段階型PFBは一段階型PFBが持つ特性以外に、直接顧客より先の相手との知識チェーン形成にも貢献する。

    7.4 クローズド・コミュニティ型PFB

     クローズド・コミュニティ型PFBとは、知識コミュニティ指向PFBモデルにおけるクローズド・コミュニティを運営する私的ビジネスであり、知識リンクに媒介された知識インタラクションが現出しやすくなるように、限定されたコミュニティ参加企業(組織)または個人に介在する。

    7.5 オープン・コミュニティ型PFB

     オープン・コミュニティ型PFBとは、知識コミュニティ指向PFBモデルにおけるオープン・コミュニティを運営する私的ビジネスであり、知識リンクに媒介された知識インタラクションが起こりやすくなるように、コミュニティ参加企業(組織)または個人に介在する。オープン・コミュニティは、参加資格を限定しないコミュニケーションの場であり、無償運営の傾向がある。

    8 結語

     上記した基本類型に対応する事例分析は紙面の都合上、省略するが、仲介する知識の内容について理論的なIC-PFB基本類型の特性に一致している。

     ただし、すでに一段階クローズド・コミュニティ型PFBとでも呼ぶべきIC-PFBが出現しているが、多段階オープン・コミュニティ型PFBは存在しない。しかし、知識の交換と共有を全面的に支援するIC-PFBの形態として、多段階オープンコミュニティ型PFBが考えられる。これは、オープンソース(コア技術の公開と発展へのアクセス者の参加)を推進するPFBであろう。ただし、私的インフラストラクチャとして、このPFBの収益源をどう確保するかについては本稿の議論としては課題として残る。

    <主要参考文献>

    [1]根来龍之:「サプライチェーン・マネジメントのエージェント・モデル」,『経営情報学会誌』,第7巻,第3号,1998年12月号,PP.180-185,(1998)
    [2]国領二郎:『オープン・ネットワーク経営』,日本経済新聞社,(1995)
    [3]国領二郎:「顧客間インタラクションによる価値創造」,『DIAMONDハーバード・ビジネス』,ダイヤモンド社,1998年11月号,pp.102-109,(1998)
    [4]野中郁次郎・竹内弘高:『知識創造企業』,東洋経済新報社,(1996)
    [5]寺本義也:「知識社会の企業経営」,『パワーイノベーション』,新評論,(1999)