(経営情報学会誌, Vol.9, No.2, September 2000)

 

文献解題:eコマースと経営情報システム

 

木村誠(東京大学博士課程)

 

1. はじめに

 

 ドットコム企業の活躍と共に語られる、いわゆるIT革命の奔流はあらゆる産業、老若男女を巻き込み、進行しているように見える。そこには無限のビジネスチャンスがあるといわれている。今やPCだけではなく、携帯電話、PDA、家庭用ゲーム端末、ウェブ対応テレビ、ネット家電といったネットワーク機能を持つあらゆるデジタル機器からのインターネットへのアクセスが可能となった。バブル経済華やかなりし80年代後半にはパーティビジネスで一世風靡した若い世代があったが、今はネットビジネスの若き起業者が同じような脚光を浴びるようになった。

 覇気のある若い人たちが起業し、投資家が積極的に援助を行い、次々とIPO(初期株式公開)を行う。さまざまなゴシップが毎週のようにネットビジネス業界を駆けめぐる。まるで日米の時差なく、IT事業の格差もまるでなくなるかのごとき活気に包まれている。また、21世紀はストリ−ミングメディアやブロードバンドの時代ともいわれ、高速ネット接続事業やデジタルテレビに一層の関心が持たれている。

 本稿では、それらのネットフィーバーやIT革命楽観論から少し距離を置き、経営情報学という極めて学際的な学問の探求の視点から、eコマースとそれを実現するプラットフォームとしての経営情報システムについて論じるための幾つかのアプローチに役立つ資料をあげてみたい。本稿でのeコマースとは、「潜在的あるいは実際の売手と買手間におけるコミュニケーションの一部あるいは全てがインターネットで行われる商取引」のことを意味する。

 最初にお断りしておくが、文献(書籍、論文等)で印刷された媒体は最先端の情報とはいい難い。最先端の事象進行については、様々なニュースサイト、プレスリリース、ウェブサイト毎に用意されたオンライン文書から得ることが最も確実だろう(そのための登録無償のメールマガジンが多数用意されている)。

 本稿における文献は21世紀における「eコマースと経営情報システム」の理論構築のためのフレームワークを考える際に役立つと思われるものを筆者の独断と偏見によって選択させていただいた。キーワードは「情報の本質とは何か」という命題である。本稿ではeコマースに関する10のトピックごとに章を用意し、解説と基礎的、歴史的、前衛的、先端的文献を混在させてご紹介させていただくことにする。この文献解題が、この分野の研究について見取り図を得るために何らかの参考となれば幸いである。

 

2. 情報財と情報経済

 

 情報化産業という言葉は古い言葉であるが、その響きは未だに不思議な魅力を持っている。これは、情報の多義性と同じ語感をもつためと思われる。だが今はドットコム、ネットという言葉と同義になった。

 企業のドットコム化、産業のネット化と共に「規模の経済性」から「範囲の経済性」、そして「連結の経済性」への移行がeコマース時代の経済の根底にあるものとして改めて語られている。

 いわゆる「情報の経済理論」は、特に電子計算機の出現から共に発展を続けている。情報の共有と占有の形態によって、公共財、クラブ財、私的財として議論されたり、あるいはその複製容易性から物的財と大きく異なる特性をもつ情報財についての研究著作は数多い。また、Black-Sholes方程式に代表されるような市場における株価の情報処理の効率性(効率的市場仮説)に対する基本的命題についてもコンピュータシミュレーションを通じて議論されている。これは経営的視点からいえば「悪事(多分良い事も)千里を走り、企業が顧客に瞬時に再評価される」ということにつながる訳であり、経営情報の扱いに対して多くの示唆を与えるものである。

 また、情報の双方向通信が極めて安価かつ容易なインターネットの普及によって、情報経済理論で語られてきたことが次々と現実のものとなってきている。だが、マクロ経済におけるITの寄与度についてはまだ意見が別れている。インターネットの普及の中で顕著に見えてきたのが、消費者間の無償を前提とした情報交換の量と質の問題である。情報経済論では、顧客間情報交換に伴う期待の効用と期待外れによる逆効果の機構に関する研究はこれからであり、現象を後追いする形での理論発展が今後も続くだろう。

・廣松穀/大平号声、『情報経済のマクロ分析』、東洋経済新報社、1990年。

・進化経済学会編、『進化経済学とは何か』、有斐閣、1998年。

・竹内啓、『情報革命時代の経済学 希望と憂鬱』、岩波書店、1997年。

・長岡貞男、平尾由紀子著、『産業組織の経済学』、日本評論社、1998年。

・野口悠紀雄、『情報の経済理論』、東洋経済新報社、1974年。

・野口悠紀雄、藤井眞理子、『経済工学』、ダイヤモンド社、2000年。

・林紘一郎、『ネットワーキング情報社会の経済学』、NTT出版、1998年。

・福田豊、須藤修、早見均、『情報経済論』、有斐閣、1997年。

・宮澤健一、『制度と情報の経済学』、有斐閣、1998年。

 

3. インターネット感覚

 

 高度情報社会が到来することを予測した書籍として、未来学者アルビン・トフラーの「第3の波」が有名である。人間中心に考えるなら、個体としての人に入ってくる色々な感覚のインプットが情報であるということができる。高度成長の最中はモノから心の時代といわれ、ニューメディア待望論についての文献は1980年代に数多く出版されている。いわゆるVAN、キャプテンシステム、ケーブルテレビ、HDTV、ビデオオンデマンド(VOD)などその時代に一時の注目を浴びた。これらは技術的可能性があったが、社会的受容性(需要性というべきか)に何らかの問題点があり、一般には受け入れられなかった。

 社会的受容性が成りたったといえるインターネットもメディアとして考えることができる。そして、インターネットは人と人との情報交換と情報の蓄積を可能とし、それが豊穣な新市場となるだろうということが数多くの識者によって語られてきた。しかし、人が五感で感じるインターネット感覚とでも呼ぶべきモノは、もっと別の何かを感じているのかも知れない。

 (湯川) 「昔から「もの」と「こころ」というふうに対立するものとして分けていたけれども、しかし、そうすると、「もの」と「こころ」はどこで結びついているか、物心二元論ではややこしいこととなる。しかしそうではなしに、「もの」と「こころ」との中間に情報というものを置いてみる。それで見通した方がわかりやすくなりそうだ。」(湯川秀樹、『人間にとって科学とはなにか』、中公新書、1967年)

 「もの」と「こころ」の中間にある情報がネットワークとして世界中に瞬時に伝わることにより、個人の意識はそれ以前とは変わるのではないかと見なす人たちは多い。意識の進化と見なす人もいれば、それにはコンピュータの存在は不可欠であり、物理的にも何らかの変化が見られるはずだと予想する人もいる。ネティズン派とサイボーグ派といえるのかも知れない。インターネットとその通信機器(ネットワークアプライアンス)による新しい価値観の台頭と新しい事業の成長は表裏一体であり、これも経営情報学のテーマとして様々な可能性を持つといえる。

 世界未来学会ホームページに興味深いテーマや書籍の紹介が多い。

 http://www.wfs.org/

・アルビン・トフラー、『第三の波』、中央公論社 、1982年。

Allucquere Rosanne Stone, "The War of Desire and Technology at the Close of the Mechanical Age", MIT Press, 1995.(アルケール・ロザンヌ・ストーン、半田智久・加藤久枝訳、『電子メディア時代の多重人格 欲望とテクノロジーの戦い』、新曜社、1999年。)

・公文俊平編著、『ネティズンの時代』、NTT出版、1996年。

・シェリ−・タークル、『接続された心』、早川書房、1998年。

・ジェローム・C.グレン、『フューチャー・マインド 意識とテクノロジーの融合 』 、TBSブリタニカ 、1994年。

・須之部叔男・後藤和彦・増川増彦監修、『心情報論 ニューメディア人のために』、電通、1986年。

・出口弘、『ネットワーク』、「シリーズ・経営情報システム第9巻」,日科技連、994年。

・西垣通、『ペシミスティック・サイボーグ 普遍言語機械への欲望 』、青土社、1994年。

・半田智久、『知能のスーパーストリーム』、新曜社、1989年。

・松本正剛、金子郁容、吉村伸、『インターネットストラテジー』、プレジデント社、1996年。

 

4. ネットビジネスの経営戦略

 

 早期に構築された一連のインターネットモールの失敗から、ネットビジネスと呼ばれる、ウェブサイトからの商品とサービスの提供が事業として成立するために、一にも二にも顧客とのネットワークコミュニケーションを長期に渡って密接に円滑に行うことが必要であるということがわかってきた。商取引を行うためのウェブサイトのインタラクティブデザインとそのインプリメンテーションの前に、誰を顧客とするか、商品とサービスは何を提供するか、どんな魅力をつけるか、誰からどのようにして収入を得るかという経営戦略を明確にして差別化を図るということが重要とされてきている。インターネットを通じた情報交換と情報共有のニーズに応えることのできるビジネスモデル設計のための方法論である。今や数年前のERPブームのように各コンサルティングファームは各自のeコマース方法論を基に競っている。また、情報技術コンサルタント、ネットビジネス経営者、ルポライターの著作によるネットビジネスの経営戦略に関する書籍が毎月のように出版されている。本稿では、経営情報学的な視点から構成されている書籍や論文を紹介するに留める。

 以下のホームページからネットビジネス事例について情報が得られる。

http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/fri/cyber/

http://bizit.nikkeibp.co.jp/it/ec/

http://nis.nikkeibp.co.jp/nis/ex/

・國領二郎、『オープン・アーキテクチャ戦略 ネットワーク時代の協働モデル 』 、ダイヤモンド社、1999年。

・根来龍之・木村誠、 『ネットビジネスの経営戦略:知識交換とバリューチェーン 』 、日科技連、1999年。

・フィリップ・エバンス、トーマス・S・ウォースター、『ネット資本主義の企業戦略』、 ダイヤモンド社、1999年。

・パトリシア・シーボルト,ローニ・マルシャック、『ネットビジネス戦略入門 』1999年、翔泳社。

Amir Harman、John Sifonis、Jphn Kador、中野広道訳、シスコシステムズ監修、『ネットレディ インターネット経済における成功戦略』、ソフトバンクパブリッシング、2000年。

Michael E.Porter and Victor E.Millar, “How information gives you competitive advantage”, Harvard Business Review, pp.149-160, July-August, 1985.マイケル・E・ポーター、ビクター・E・ミラー、「情報技術を競争優位にどう取り込むか」、『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー』、pp.4-16、10-11月号、ダイヤモンド社、1985年。

 

5. SCMとERP、CRM、CPC

 

 ドットコム企業が従来の物理的業務を行う企業とどのようなデジタル連携をはかるべきかということもネットビジネスの経営戦略として議論されるようになってきた。これまで、固定した売手と買手間で専用通信回線を利用したEDIは製販連携のためのITツールとして利用されてきた。インターネットを利用することにより、売手と買手が必ずしも固定しないオープンな商取引が低費用で運用できるようになった。極論するならば、インターネットに接続してウェブブラウザを利用できる人ならば誰でもeコマースに参加できるようになったのである。取引仲介の中抜き現象に遭遇してきた日本商社が米国ネットビジネスベンチャーとの合資によって、オープンな商取引と共同配送サービスを提供するプラットフォーム産業として復活を試みている(metalsite.net、e-steel.comの日本版など)。

 一社における統合基幹業務パッケージであるERPパッケージベンダーは、eコマース対応と並んで軒並みに調達ロジスティックスと販売ロジスティックスの最適化を行うためのサプライチェーンプランニング(SCP)機能を取り込み、サプライチェーンマネジメント(SCM)パッケージへの発展を試みている。経営情報システムとしてのSCMはビジネスプロセスの効率化、そしてドットコム企業間デジタル連携のためのITツールといえるだろう。

 また、最終顧客満足をはかるための顧客リレーションシップマネジメント(CRM)は顧客との継続的学習関係であるOne to Oneマーケティングの拡張形として、コールセンターのコンピュータ統合化(CTI)と共に発展している。さらにインターネットを利用したオープンな取引先対応、そして顧客対応によって得られた膨大なデータは一次データとしてデータウェアハウスに格納し、マーケティング分析に利用することが可能となった。特にCRMについては近年、多くのソフトウェアベンダーがパッケージとして対応製品を提供するようになった。さらに、電話とコンピュータの統合化ということで、通信事業者のサービス部門がコールセンターシステムの構築やアウトソーシングまで取り扱おうとしている。

 さらに製造業における製品に関するあらゆる情報をインターネットを通じて部門間と取引先で共有するためのコラボレーティブプロダクトコマース(CPC)が提唱されてきた。概念としてのCPCには、ERP、SCM、CRMがCPCに融合されることになる。今の所はまだPDMの延長上であり、部品の3次元CADデータをウェブ上で共有できる経営情報システムを提供するに留まっている。

 以下のホームページからSCM、CRMについて情報が得られる。

http://www.supply-chain.org/

http://www.ibm.co.jp/erp/scm/

http://www.cio-cyber.com/pj/index.html

 以下のホームページからCPCについて情報が得られる。

http://www.ptc.com/cpc/

http://www.ptc.com/inpart/

・國領二郎、『オープン・ネットワーク経営』、日本経済新聞社、1995年。

・竹田陽子、『プロダクト・リアライゼーション戦略』、白桃書房、2000年。

 ・ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部編 、『サプライチェーン理論と戦略 部分最適から「全体最適」の追求へ 』、ダイヤモンド社 、1998年。

・ドン・ペパース,マーサ・ロジャース、井関利明監訳、『ONE to ONEマーケティング』、ダイヤモンド社、1995年。

・ドン・ペパース,マーサ・ロジャース,井関利明監訳、『ONE to ONE企業戦略』、ダイヤモンド社、1995年。

Thomas A. Curran and Andrew Ladd, ”SAP R/3 Business Blueprint: Understanding Enterprise Supply Chain Management”, 2/e, Prentice Hall,1999.

・根来龍之、「サプライチェーン・マネジメントのエージェント・モデル」、『経営情報学会誌』 , Vol.7, No.3, pp.180-185 ,1998年。

・福島美明、『ネット・ビジネスモデルの経営 進化するサプライチェーン革命』、日本経済新聞社、2000年。

・マイケル・デル,キャサリン・フレッドマン、 國領二郎監訳、『デルの革命 ダイレクト戦略で産業を変える』、 日本経済新聞社、1999年。

 

6. ネットワークコミュニティ

 

 市場における自由競争だけではなく、共同体(コミュニティ)の相互扶助も社会的な発展に結びつくはずであるという考え方は古くからあった。Hagel and Armstrong(1997)は、オンラインネットワーク上の活動として盛んになっていた電子掲示板や電子メール、そしてオンライン・チャットをコミュニティ活動そのものであるととらえて、ネットワーク上で集うバーチャルコミュニティと定義し、さらにはインターネットをバーチャル・コミュニティのネットワークの代名詞であると見なした。

 彼らは、「企業はバーチャル・コミュニティを構築できる。顧客同士、そして顧客と企業を相互に結びつけて、さまざまな社会的ニーズと商業ニーズを満たすことができるバーチャル・コミュニティを組織することにより、オンライン分野でのビジネスの成功を収められる」と説いた。現在、彼らの予想したほどの収益をコミュニティ自体からあげることはかなり困難であると理解されている。しかしながら、ネットビジネスを行うウェブサイトでアクセス数を増やすためのコミュニティの組織づくりを試みることは常套手段となった。米国最大のオンラインオークションサイトであるebay(www.ebay.com)は「ワールドパーソナルトレーディングコミュニティ」と自称している。

 金子(1999)は、インターネット社会の重要な課題である信用の提供についてもコミュニティによる「権力とヒエラルキーのない統制メカニズム」のソリューションが相互的信頼提供の有力なアプローチとなると主張している。

 eコマースにおいて派生するネットワークコミュニティの形態は様々であり、その具体的特性やコミュニティ存続の成功要因と失敗要因に対する経営情報学からの理論的研究と実証的研究は始まったばかりである。

・金子郁容、『ネットワーキングへの招待』、中公新書811、中央公論社、1985年。

・金子郁容、『ボランティア もうひとつの情報社会』、岩波新書235、中央公論社1992年。

・金子郁容・松岡正剛・下河辺淳、『ボランティア経済の誕生』、実業の日本社、1998年。

・金子郁容、『コミュニティ・ソリューション ボランタリーな問題解決にむけて』、岩波書店、1999年。

・國領二郎、「ネットワーク上の顧客間インタラクション」、『マルチメディア社会システムの諸相』, 高木晴夫・木嶋恭一編、 pp.51-72、日科技連、1997年。

Jonh Hagel and Arthur G. Armstrong, ”Net gain”,Harvard Business School Press,1997.(ジョン・へーゲル三世、アーサー・G・アームストロング、マッキンゼ−・ジャパン・バーチャル・コミュニティー・チーム訳、『ネットで儲けろ net gain』、日経BP社、1997年。

・竹村真一、「感性のジグソーパズル インターネットの社会学」、松本正剛監修、『情報文化の学校 ネットワーク社会のルール・ロール・ツール』、pp.164-181、NTT出版、1998年。

・松尾秀雄、『市場と共同体』、ナカニシヤ出版、1999年。

・松岡正剛、『知の編集工学』、朝日新聞社、1996年。

・森田正隆、「オンラインネットワーク上のユーザーコミュニティの役割」、第5回社会情報システム学シンポジウム、1998年。

・メグ・ウィットマン(米イーベイ社長兼CEO)インタビュー、「世界最大のオンラインコミュニティ 人気の秘けつは徹底したオープン指向」、日経コンピュータ、pp.164-166、2000.4.24。

 

7. オープンソースソフトウェア

 

 オープンソースソフトウェア(OSS)という言葉がソフトウェア業界のみならず、ビジネスの場でよく聞かれるようになった。OSSとは、プログラムの中身(ソースコード)を公開するソフトウェアである。さらに、そのソースを第三者が自由に参照し、変更し、さらに配布することができる。通常のソフトウェアはソースコードの公開は行わずに、機械語に翻訳(コンパイル)された実行可能なバイナリーコードだけが配布される。Apache(全世界ウェブサーバ稼動シェア6割)、Perl(ウェブ用スクリプト言語)、BIND(ドメインネーム管理サーバ)、SendMail(メール管理サーバ)そしてLinux(オペレーティングシステム)が有名なOSSである。

 OSSはインターネットを通じて開発・試験されて無償配布されるというのが通常である。インターネット構成のためのドメインネームサーバ、Mailサーバ、ウェブサーバの多くはOSSを使用して運営され、さらに多くのソフトウェアがOSSとして開発されてきている。eコマースにおける経営情報システムにもMicrosoft Windows NTといった商用ソフトウェアではなく、OSSが選択される機会は増加する一方である。また、IBMをはじめとするハードウェアベンダーもOSSを積極的に自社製品に搭載しはじめた。これは今までのハイテク企業における技術戦略と大きな隔たりがある。

 オープンソース(ソフトウェア)による協働の理念を以下のようにあげることができる。

1)ソースコードの公開と共有にもとづいたネットワークコミュニティが形成され、コミュニティ全体の創造性に貢献できる。

2)ソースコードの共有を通じて、お互いの成果を活用することができる。

3)お互いのソースコードを結集させて、さらに大きなプロジェクトを発足させることができる。

4)ソースコードの公開と共有から主要な開発者がいなくなっても、他のプログラマが作業を引き継ぐことができる。

 しかし、経営側として本当にこの協働活動を継続していけるのだろうか。コミュニティが開発費用をボランタリーに負担することはネットワークだから可能なのか。また、成功するOSS開発の協働形態とは何なのか。OSSとしての使用許諾ライセンス規定を遵守すればあらゆる種類のソフトウェア開発が成功するのか。今の所は現象が先行しており、その変化は急激である。OSSはeコマースのインフラストラクチャあるいはコンテンツ(情報財)としても論じることも可能であろう。経営情報学からの研究もこれからである。

 OSS(特にLinux)について以下のホームページから情報を得られる。

http://www.linux24.com/linux/

http://www.linux.com

http://linuxtoday.com/index.html

http://www.lwn.net/

http://www.opensource.org/

http://www.gnu.org

Eric S. Raymond、山形浩生訳、『伽藍とバザール』、光芒社、1999年。

・川崎和哉編、『オープンソースワールド』、翔泳社、1999年。

・木村誠・根来龍之、「オープンソフトウェアを核とするビジネスの可能性」、文教大学情報学部紀要、『情報研究第22号』、1999年。

・クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン編、倉骨彰訳、『オープンソースソフトウェア』、オライリー・ジャパン、1999年。

・クリフ・ミラー、『LINUX革命 オープンソース時代のビジネスモデル』、ソフトバンクパブリッシング、1999年。

Josh McHugh,“For the love of hacking”,Forbs,August 10,pp.94-100,1998.

・ニール・ランダール、村井純監訳、『インターネットヒストリー』、オライリー・ジャパン、1999年。

 

8. ビジネスモデル特許

 

 オープンソースの対極にある考え方が特許権制度であろう。特許権制度においては装置特許の他に方式特許として、さまざまな機能なアルゴリズムを20年間に渡り、制限つき公開にすることによって利益を独占することもできる。使用許諾ライセンスを与えて他者に使用させて、対価を得ることもできる。

 「新規情報技術の複製は容易である一方、新規情報技術の開発費は増大の一途をたどっている。新技術の開発を促進するためには、発明者に対して少なくともその成果を得るのに要した費用の最低限の回収措置を社会的に講じる必要がある。特許制度は発明者に対して、その手にある新技術を、ある一定期間、独占的に使用する権利を与える。これが特許権である」といわれている。

 インターネットの爆発的発展にはこのような特許権が存在しなかったのは過去の話であり、eコマースを成立させるための経営情報システムのアルゴリズム、あるいはホームページのインタラクションデザインが、ビジネスモデル特許(BMP)として成立してきた。ただし、ビジネスモデル特許という言い方が正確であるかどうかは分からない。実際、米ではBusiness Method Patent(ビジネス方法特許)と呼ばれている。有名なBMPとしてAmazon.comにおける1-Click、Priceline.comの逆オークションなどがある。意図的な誤訳ともいえるビジネスモデル特許であるが、モデルとメソッド(方法)の響きの違いは大きい。経営情報学の研究者はビジネス方法特許またはビジネスメソッドパテント(BMP)と呼ぶほうがよいかもしれない。

 米国において、インターネットコミュニティからAmazon.comはかなりの攻撃を受けている。Amazon.comのCEOであるJeff Bezos(2000)は、eコマースに関するBMPには、別途の採択制度を採用すべきとの提案をしているがまだ目立った実際の制度変化はない。

 Amazon.comボイコットについて以下のホームページから情報が得られる。

http://www.amazon.com/exec/obidos/subst/misc/patents.html

http://www.oreilly.com/ask_tim/bezos_0300.html

http://www.gnu.org/philosophy/amazon.html

 国内において特許庁は「ビジネス方法の特許について(2000年5月)」という声明を掲載した。http://www.jpo-miti.go.jp/indexj.htm

 以下のホームページからBMPについて情報が得られる。

http://www.ecrp.org/topic-s/bmp/index.htm

http://www.bunkyo.ac.jp/~tnegoro/paper/00-07-10BMP/index.htm

http://findx.nikkeibp.co.jp/sp00bm_0.html

http://www.ondapatent.com/Japanese/index.html

 BMPについては特に米国ビジネスの最新情報を以下のホームページで常時取得しておくことを奨めたい。各サイトで無償メール配信サービスに登録すれば、定期的にニュース記事要約をメールで送ってくれる。

http://www.zdnet.co.jp

http://japan.cnet.com/News/

http://www.hotwired.co.jp/news/

 2000年になり、ビジネスモデル特許というタイトルでジャーナリスティックに論じた書籍が数多く出版されている。

・情報通信総合研究所ビジネスモデル特許研究会編、日経コンピュータ監修、『ビジネスモデル特許 基礎と実践』、日経コンピュータ別冊、2000年。

 特許に関して学問的に論じた書籍も合わせて改訂され、出版されている。

・竹田和彦、『特許の知識 理論と実際 第6版』、ダイヤモンド社、1999年。

・仙元隆一郎、『特許法講義 第三版』、悠々社、2000年。

 

 

. ソフトウェアエージェントの応用

 

 ソフトウェア・エージェントはeコマースにおける消費者購買行為の代行機能の実装として、その発展が期待されている。買物を支援するショッピングエージェントは通称ボッツ(Bots)と呼ばれ、消費者の品定め、製品決定後の店定め、価格決定などの交渉支援が行える。現在はeコマースにおける交渉の自動化が試みられている。このようなソフトウェアエージェントとしてMITのKasbah、Tete-a-Teteが有名である。さらには、eコマースにおけるソフトウェア・インフラストラクチャにまで拡大して利用することが可能となるかも知れない。しかし、ソフトウェア・エージェントが個人嗜好や生活習慣を学習していくことから、プライバシーに関わる情報が漏洩するのではないかという危惧も起きてきた。

 以下のホームページから情報が得られる。

http://ecommerce.media.mit.edu/

http://agents.www.media.mit.edu/groups/agents/

http://siesta.cs.wustl.edu/~mas/

http://www.research.ibm.com/iagents/

http://www.bekkoame.ne.jp/~kmakoto/btob/calsec98.html

 また、ソフトウェア・エージェントは、eコマースによるデジタル市場発展のシミュレーションにも利用できる。人工市場または人工社会をコンピュータ内でモデル化する試みである。これは、実際の社会においては調節が難しい様々な市場形成要因のパラメータを操作できる。うまくエージェントに知能を持たせるようなモデル化を行い、少数のルールからボトムアップ的に市場形成が成されていくのを計算機上で実験することができる。エージェントベースのシミュレーションは、特に多変量解析の結果の質的評価において問題となる、一次データの不備や個人の思い入れから起きる過剰な解釈を回避する優れた方法としても期待できる。Holland(1992)による複雑適応系システムパラダイムの経済学への応用ともいわれているAgent-based Computational Economics(ACE)に関する研究論文が近年に多数発表されている。

 以下のホームページからエージェントベースのシミュレーションについて情報が得られる。

http://www.econ.iastate.edu/faculty/tesfatsion/ace.htm

http://www.econ.ucsb.edu/~cath/complab/

http://www.etl.go.jp/~kiyoshi/index-j.html

http://kids.glocom.ac.jp/eduwoods/abs/

http://www2.kke.co.jp/abs/

http://www.swarm.org/

Blake LeBaron, "Agent Based Computational Finance: Suggested Readings and Early Research", Working Paper, Brandeis University, 1999, URL:<http://stanley.feldberg.brandeis.edu/~blebaron/wps/cmsix.pdf>.

John H. Holland, "Adaptation in Natural and Artificial Systems : An Introductory Analysis With Applications to Biology, Control, and Artificial Intelligence (Complex A)", Bradford Books, 1992

Robert H.Guttman, Alexandros G.Moukas, Pattie Maes, Agent-mediated Electronic

Commerce:A Survey, Software Agent Group, MIT Media Laboratoy, 1998, URL:<http://ecommerce.media.mit.edu>

Robert Axtell, Joshua M.Epstein, "Growing Artificial Societies Social: Science from the Bottom Up", Brookings Institute, 1996.服部正太、木村香世子訳、『人工社会 複雑系とエージェントシミュレーション』、共立出版、1999年。)

Stuart J. Russell, Peter Norvig, "Artificial Intelligence: A Modern Approach", Prentice Hall, 1994.(古川康一監訳、『エージェントアプローチ 人工知能』、共立出版、1997年。)

 

10. 技術軌道と社会的制度の共進化

 

 Piore(1989)は、技術発展がいかなる経路をとるかを決定する短い瞬間を、産業デバイド(industrial divide)と呼んだ。この産業デバイドにおいては、一見まったく関係ないように見える社会的コンフリクトこそが、その後の技術的発展の方向を決定することになるという。Dosi(1989)は、「技術軌道とは、ある技術パラダイム内における「通常」の問題解決活動(すなわち進歩)パターン」と定義した。Kauffman(1995)は技術進化の性質とカンブリア紀の爆発的進化の様子との類似を指摘し、技術の進化をでこぼこの適応地形上の適応過程(分岐しながら適応度の高い地点を探していく)としてモデル化する試みを行っている。

 Kodama(1995)は、技術進化による新規事業の社会拡散(浸透と受容)のパターンが変わり、制度との共進化によって新規事業が世の中に受け入れられるようになることを主張している。

 情報財の特性を活かしたeコマースと経営情報システムによって実現されるビジネスモデルのデザインには、要素技術の新奇性だけでなく、社会制度との擦り合わせの作業、つまり合法的な収益手段を紡ぎ出すことがより重要となる。

 1999年以降に相次いで出現したNapster、Gnutella、Freenetで実現されるインターネットディレクトリを通じた情報交換と情報共有がeコマースにおける技術軌道に大きな影響を与える可能性がある。Napster、Gnutella、Freenetはピアツーピア通信と情報共有のためのメソッドを提供するだけであり、固定されたURL(ドメイン取得)の前提が成立しなくても良く、これまでの技術軌道の経路を大きく変えて情報技術の新たな適応過程に至るのかもしれない。

 この技術軌道が既存のビジネスに与える影響は大きい。相互に複製して再配布されるデジタルコンテンツの著作権侵害についての問題が新たに浮上してきた。このような技術軌道に影響を受けて、共に著作権制度も変化していくことが予想される。

 21世紀のeコマースと経営情報システムの実装には、情報技術の新奇性が社会的商習慣に受け入れられるようにするためのビジネスモデルのデザインが最も重要となりそうである。また、社会的商習慣に受け入れられないようなeコマースの新しいビジネスモデルが世の中に登場したとき、むしろ社会的制度自体を変革すべきなのだと提言ができるだけの理論的フレームワークを経営情報学者は提示することができるだろうか。21世紀の経営情報学を志す我々は自問し、探求していくことが大切だろう。

 Napsterについて以下のホームページから情報が得られる。

http://www.napster.com

http://www.riaa.org

http://www.metallica.com/napsterforum/index.html

http://www.zdnet.co.jp/news/0006/19/bois.html

http://www.wired.com/news/print/0,1294,36990,00.html

http://hotwired.co.jp/news/news/20000616102.html

http://www.pewinternet.org/reports/

 Gnutellaについて以下のホームページから情報が得られる。

http://software.cybertropix.com/gnutella.phtml

http://www.zeropaid.com/

 Freenetについて以下のホームページから情報が得られる。

http://freenet.sourceforge.net

http://www.sanity.uklinux.net/freenet.html

・児玉文雄、「ディジタル連携型の産業社会」、『技術と経済』、科学技術と経済の会、pp.4-14、394号、1999年12月(http://www.jates.or.jp/maga.html)。

Fumio Kodama, "Emerging Patterns of Innovation: Sources of Japan's Technological Edge", Harvard Business School Press, 1995.

Giovanni Dosi, "Chapter 3: Technological paradigms and technological trajectories"(ジョバンニ・ドーツ、「第3章 技術パラダイムと技術軌道」)、『プロセスとネットワーク 知識・技術・経済制度』、今井賢一編、NTT出版、1989年。

・マイケル・J・ピオリ、チャールズ・F・セーブル、山ノ内靖・永易浩一・石田あつみ訳、『第二の産業分水嶺』、筑摩書房、1993年。

・増田祐司、『情報の社会経済システム』、新経済学ライブラリ22、サイエンス社、1995年。

Stuart Kauffman, "At Home in the Universe : The Search for Laws of Self-Organization and Complexity ",  Oxford Univ Press, 1995.(米沢富美子監訳、『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』、 日本経済新聞社、1999年。)

 

 最後に、本稿では章としてとりあげなかったが、特にウェブ通貨、地域通貨、コミュニティマネーとしての電子マネーについての研究も興味深いテーマと思われる。

・西部忠、「<地域>通貨LETS 貨幣・信用を超えるメディア」、柄谷行人編、『可能なるコミュニズム』、第三章、pp.90-162、1999年。

 ウェブ通貨について以下のホームページから情報が得られる。

http://www.beenz.com/jp_ja/home.ihtml

地域通貨・コミュニティマネーについて、以下のホームページから情報が得られる。

http://www.hotwired.co.jp/matrix/0005/

http://sun.econ.hokudai.ac.jp/~nishibe/

http://www.gmlets.u-net.com/

http://www.letslinkuk.demon.co.uk/

http://www.letsf.co.uk/

http://www.kendal-lets.freeserve.co.uk/

 

 

木村 誠(きむら まこと)

所属:東京大学大学院工学系研究科博士課程先端学際工学専攻

連絡先:〒153-8904 東京都目黒区駒場4丁目6番1号 東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門玉井研究室

 

E-Mail kmakoto@ip.rcast.u-tokyo.ac.jp

電話 03-5452-5260

FAX 03-5452-5280

URL http://www.bekkoame.ne.jp/~kmakoto/