97年度後期戦略診断課題レポート ケースメソッド


 注)このケースは、産能大学大学院(MBA)経営情報学科起業・戦略サブコース1年生
木村誠(No.8975011 )が公開資料と取材によってまとめたものである。
ケースの時点は、1994年12月である。


米国ウォルマート社 −最高の最終顧客満足度−

  ローコスト経営の特徴

設問:意味参照・対話編


米国ウォルマート社創立者サム・ウォルトン

ウォルマート社会長サム・ウォルトンは癌のため、1992年4月に亡くなった。
74歳であった。前年、アメリカの小売業ナンバー1、シアーズを追い抜き、良き競争相手であったKマートも追い抜いて、株式上場22年にして、手に入れたアメリカ小売業、世界小売業第1位の座を手みやげにあの世に旅だった。
 彼は過去を振り返って「「企業家精神、リスク、ハードワーク」こそが、この企業を支えてきた。これはアメリカの伝統だ。それを「夢」に結びつけて、実現したのがウォルマートだ。」という。
 ウォルマートの過去5年間の平均成長率は、26.6%という驚異的な数字を残している。しかも、成長の勢いは依然止まらない。付属資料1では、ウォルマートの過去11年間の業績一覧を示している。
1994年現在、1950店のDS(ディスカウントストア)を出店している(付属資料2を参照のこと)。ウォルマートは1995年度には、売上規模9兆円に達するといわれる世界最大の小売業チェーンである。
 ウォールマート社は、文字通りの高成長高利益企業であるが、それを維持し続ける ために常に、新たな試みに挑戦し続け、勝利を得なければならなかった。

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ウォルマートの企業理念

ディスカウントストアのディスカウントとは、「値上げ幅を抑えれば、販売量増加により収益増加が望める」という極めて単純な仕組を指している。サム・ウオルトンが、ディスカウントストアのビジネスを一言で表現するとこうだ。
「安く仕入れる、たくさん売る、それを毎日続ける、そして、お客様に笑顔を絶やさない」
 1962年7月2日、アメリカ中南西部アーカンソー州ベントンビルにウオルマート第1号のロジャース店が開店した。当時44歳のサム・ウオルトンは、このディスカウントストアに掲げた2つの標語である、
 「我々はより安く売る(We Sell For Less)」
 「満足保証(Satisfaction Guaranteed)」
を実現すべく、顧客第一に店舗数を拡大させていった。

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人口1万人以下の町への出店

 ウォルマートの低コスト経営を実現する上で重要なポイントとなっているのが地方への出店である。つまり田舎の方が土地も安いし、人件費も安くて都合が良い。このウオルマート社の立地戦略は「ドミナント戦略」、または、ウォルマート流に「サーチュレーションストラテジー(浸透戦略)」と呼ばれる。配送センターを中心として350マイル(560KM)以内に集中立地し、飛び地ができればまたそこを中心として集中出店していく。
 ウォルマートは、1994年現在、1950店のDS(ディスカウントストア)を出店している。売場面積が10万平方フィート(約9千平方メートル)の大型店舗が中心である。いずれも500〜1000台規模の駐車場を隣接させ、人口5000人から数万人の町や都市の郊外に立地している。付属資料2に米国州別ウォルマート店舗数を示す。

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ローコスト経営と価格戦略エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)

 ウォルマートの強さとは何といっても、常に低価格の商品を提供するためのローコスト経営を徹底していることにある。その価格戦略は、一言でエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)と呼ばれている。これは、通常のバーゲンセールとは対極の考え方にある。
 つまり、季節と生活に密着した製品に絞り、常時特売価格の安値を守って定価販売を続けていくことを目指す販売方式であり、「消費者に喜んでもらうためには、常に価格を安くし、安心感を与えて販売をしなければならない」という方針をあくまで貫くものだ。
 さらに、他の競合店よりも常に安く売るという方針を貫くために、ウォルマート店舗の店長には、価格変更の権限が与えられている。
 ウォルマートではEDLPを推進し、そのために圧倒的な間接経費のローコスト化を達成し、その節約分の一部で売場の人件費を増やしている。これにより、接客応対を良くして、心の満足を高めることができる。間接経費と直接経費を足せば、それでも大幅なローコスト化を達成できており、良品廉価度は維持できる。ウォルマートが大幅にローコスト化している3つの間接費とは、本部経費、広告宣伝費、物流費であり、同業他社と圧倒的な差がある。(付属資料3を参照)。
 EDLPは、定番商品販売であり、特売商品を知らしめるための広告コストは発生しにくい。ウォルマートの広告宣伝は、主にテレビとチラシ広告である。テレビの場合では、ウォルマートの経営理念を告知するだけであり、商品の告知は行わない。チラシ広告は月一回の頻度で作成をする。新聞の折り込み広告も行うが、多くは店頭で手配りを行う。
 ウォルマートは新店舗を展開する一方、年々経費率を下げており、ウォルマートのエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)にかける意気込みは並大抵のものではない。
 ウォルマートはローコスト経営を行うために必要な投資は、積極的に行っている。田舎にある店舗と店舗、店舗と本社の連絡を密にして、商品供給をと絶えないようにするための流通と通信分野では、時代の最先端を走っている。特に、自前の物流センター、衛星通信システム、コンピューターセンターが有名である。

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ペンタゴン(米国国防省)のシステムに次ぐ規模のコンピュータ情報システム

 最大の投資は、田舎のアーカンソー州ベントンビルにあるウォルマート本社に、米国国防総省なみの価値のあるコンピュータ通信複合体を導入した、6チャンネルの衛星通信(サテライト)システムの構築である。
 1985年に漸次スタートしたこのシステムは、ウォルマート・チェーン全店を声と映像で結び、店鋪と店鋪、店鋪と本社の通信を可能とするまでに広がっていった。これにより、社内電話は衛星回線を利用するため、破格のローコスト化が実現できた。
 1987年末より全店で採用された全スキャナーPOS(販売時点情報管理)端末から、超目玉売れ筋商品の販売数を全店から一時間おきにウォルマート本社マスターコンピュータに収集できるデータ収集網も合わせて実現された。
 このサテライト・システムはマスターコンピュータに支店のデータも集め、出費を抑えながらクレジットカードの応答速度を4、5秒にまでスピードアップした。この応答の速さは、ウォルマートが絶えず推進している買物客にできる限りの速さでレジを通り抜けさせるという姿勢にも一致している。
 さらに、ウォルマート本社より、ほとんど全ての店舗の暖房、冷房、照明をコントロールできる高度なファシリティ制御システムも開発した。これにより、各店舗の従業員が常に店を見廻らなくても最良の環境を実現できるために、彼等をより重要で生産的な業務に専念することが可能となる。また、店長は店舗運営につきものの「温度管理」業務から解放され、より前向きで積極的な職務へ専念することができる。

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ローコスト・オペレーション戦略による低い本部経費

 創立者サム・ウオルトン氏により、ウォルマートの本部経費率は売上に対して2%未満であると決められている。これは創業以来、かたくなに守られてきた数値である。この数字は、一般のチェーンストアの標準とされる5%と比べて非常に低い数値である。また、本部の人員数も約3000人であり、総社員数約60万人と比べると非常に少ない数である。この中には、世界最大規模のコンピューターおよび衛星通信システムの維持管理人員も含まれている。

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ウォルマート店鋪のレイアウト

 ディスカウントストアであるウォルマート店鋪は、マスターカード、ビサカードの利用ができ、カードの信用照会は通信衛星を通じて7秒以内で終了することがウォルマート店の売り物である。営業時間は、月曜日〜土曜日は9時から21時までであり、日曜日は10時から18時までの週80時間制を取っている。
 付属資料4のウォルマート店舗の標準レイアウトで示されているように、ウォルマートの取り扱い商品としては、衣服の他に文房具、家事用品等の文化品・日用雑貨、さらにカー用品、園芸用品がある。田舎の日常生活に貢献するような手芸服地、釣り具、アウトドア用品、園芸、ペット用品の分野は非常に力を入れている。生鮮三品、食料品は基本的に扱っていない。(付属資料5を参照のこと)
 通常、ウォルマートでは市価の3〜5割安く商品が販売されている。

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アソシエートとのパートナーシップ

 ウォルマート店鋪の店員の態度は、他の店と比べて親切で表情が生き生きしていることで有名である。ウォルマートでは、従業員をエンプロイーではなく、アソシエーツ(仲間)と呼び、連帯感を強めている。ウォルマートでは、人事部をエンプロイ・デパートメントではなく、ピープルズ・デパートメントと呼んでいる。
 故サム・ウォルトン氏は、経営者側のアソシエーツ側達への接し方が、そのまま、アソシエーツ達の顧客への接し方になり、アソシエーツ達がお客に期持ち良く応対すれば、お客は繰り返し店に来てくれるものと考えていた。また、アソシエーツにあらゆる情報を渡して責任を持たせることが、パートナーシップをつくる上で重要であると考えていた。
 ウォルマートでは店長や店舗の部門長をはじめ、時間給のアソシエーツに至るまで、全てのアソシエーツに対して、所属する部門の全ての情報が公開される。さらに自分の所属する売り場の情報だけではなく、他の部門のどの情報についても同様であり、ウォルマートの利益額からコストにいたる全ての数字を知ることができる。
 アソシエーツの基本給は競合社であるシアーズやKマートより高くはない。しかし、その分をボーナスで補っている。店鋪ごとに利益の4%をアソシエーツで分け合うのである。また、従業員満足を高めるために社員持ち株制度を導入している。

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QR(クイック・レスポンス)による流通システム革新

 1987年のウォルマートとプロクター&ギャンブル( P&G)社との戦略的同盟は、QR(クイック・レスポンス)の先駆例として有名になった。今まで、仕入れ側とし販売側として、激しく対立してきた両社が、「消費者のために」提携して、相互に無駄を省き、トータルコストを下げ、小売値に反映させ、また品切れがないようにした。
 クイック・レスポンスとは、店舗別POSデータをメーカーに開示して、商品の売れ行きを監視させ、自動補充するシステムである。これにより、店舗での欠品での欠品率を大幅に下げる一方、メーカー側でも在庫の削減につながり、卸値を下げることができる。

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メーカーと小売業間のパワーシフト(力関係逆転)

 ウォルマートは P&G社の製品が必要であった。 P&G社の供給商品の中には、次のような全米占拠率首位のトップブランド商品が幾つかあった。
洗剤「タイド」、洗濯柔軟剤「ダウニー」、皿洗い用石鹸「カスケード」、クレンザー「コメット」、紙おむつ「ウルトラパンパース」、トイレットペーパー「チャーミン」、胃薬品「ペッド・ビスモル」、風邪薬シロップ「ニキル」
などである。これに対して、 P&G社側はウォルマートなしでも十分やっていけた。
 従来、メーカーと小売業との取引関係では、圧倒的にメーカー側がリーダーシップを握っていた。例えば、P&G社はナショナルブランドメーカーのエゴを徹底してつらぬくために、価格形成も、売り場管理も、取引条件はP&G社側で決めようとする。さらに、営業担当体制も製品別であるので、ウォルマート側は数多くの営業マンに会わなければならない。
 ウォルマートではバイヤー(買い付け人)に、 P&Gの営業マンを徹底的に叩くように命じていた。また、ウォルマートは大手取引先になっていたにもかかわらず、 P&G社経営幹部の来訪さえ受けたことがなかった。つまり、敵対関係にあったといってよい。

 しかしながら、従来のメーカーと小売業間でパワーシフト(力関係の逆転)が起きつつあった。つまり、今や、ウォルマートは P&G社の最大の顧客となったのである。さらに、ウォルマートの売上高がP&G社の総売上高を超えてしまっていた。
 商品の価格を下げるには小売業側だけでは限界があると感じていた、サム・ウォルトンは新たなコスト削減方法についてアイデアをメーカーに求めた所、その P&G社が手を上げた。
 両者の戦略的同盟には、P&G社側の根本的な要因が働いたといわれている。 P&G社側としては、ウォルマートの店舗でどんな商品がいつ、どの位で売れるのかというデータが欲しかった。生産計画や商品計画に反映して無駄をなくすためである。

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最終顧客の満足が企業目標

 製版同盟におけるパートナーシップとは、取引関係にある両社が共通の目標を持ち、相互の信頼を確立してリエンジニアリングを共同で行い、その成果やリスクを公平に分配することを指す。パートナーシップを構築する場合には、まず第一に共通目標の設定が必要である。

 1986年のある日、ウォルマート創始者である故サム・ウォルトン氏と P&G社の営業担当副社長であったルー・プリチェット氏は、お互いの友人であるジョージ・ビリングスレー(元アーカンソー州ベントンビル在住)を通じて、二日間のスプリング・リバーのカヌー下りに参加することになった。楽しいカヌー・ツアーの最中、二人はじっくりとお互いの趣味や人生の目標、会社の将来、その他のもろもろのことをじっくりと話し合った。
 あるとき、プリチェット氏が、「 P&G社の企業としての真の目標は、最終顧客の満足度を最も高めることである」と説明し始めた。すると、その話が終わるか終わらないうちにその言葉をさえぎるようにウォルトン氏が声を張り上げた。「何だ。それじゃ、我がウォルマートと同じ企業目標じゃないか!」
 それをきっかけとして、二人は最終顧客の満足度を最高にするには、どうしたら良いかを話しあった。そのためには、同じ理念を持つ企業どうしの関係を再構築すべきであるとして二人でバタフライとダイヤモンドの形をなぞらえてパートナーシップのモデル図を描いてみた。(付属資料6図を参照のこと)
 その後、二人が率いるウォルマートと P&G社というアメリカのニ大企業は従来のバタフライ型の取引関係とは一線を引き、正にダイヤモンドの図の通りの新しい、パートナーシップと呼ばれる関係を構築することになった。

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バタフライ型の従来型取引関係

 従来のメーカーと小売業の日常の取引関係は、正しくバタフライ(蝶)のようだといえる。メーカー側は営業マンを、小売業側はバイヤーをそれぞれ会社を代表する者に仕立てて、取引をしているのである。営業マンの背後には、商品の開発・設計部門、製造・検査部門、管理部門、配送部門、さらには経理部門がいて商品の開発、製造、出荷、代金決済の役割をになっている。
 これに対し、バイヤーの背後にも商品企画部門、店鋪部門、管理部門、物流部門、経理部門があり、市場調査やPOS(販売時点情報管理)分析、商品の受け入れと発送、店鋪における商品販売、そして決済などを担当している。
 各社の中では商品の流れに従い、垂直連携はしているものの、相手の企業の各セクション同士とは関係を持たないのが普通の姿である。経営者同士も具体的な仕事について議論し合う仲というよりも儀礼的な関係であることが多い。一方、両社の情報システムどうしも、それぞれ独自のものであって、資本系列のある会社でない限り、情報やデータの共有などは決して行われることがない。
 このような体制において、小売業にとっては、メーカー側の情報は営業マンを通してのみ得られ、反対にメーカーも小売業の事情はバイヤーを通して知るだけである。つまり、双方の情報のやりとりは、ただ一つの「点」のチャネルを通してしか行われない。これを図示すると、付属資料6図の上図のようにバタフライ(蝶)が羽を広げている姿にたとえられる。
 従来の取引では、このバタフライの関係がごく一般的である。そこでは、営業マンとバイヤーをそれぞれの頂点としてメーカーと小売業の二つの三角形が互いに角を突き合わせて対立している。
 つまり、営業マンとバイヤーとの両者の本来の使命そのものが全く相対している。営業マンの使命は、いかに大量の商品を高く売りつけるかということである。これに対して、バイヤーの使命は、いかに適正な量の商品を安く買うかである。

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ダイヤモンド型のパートナーシップ関係

 ウォルマートと P&G社が選択したパートナーシップに基づく両社の関係は、このバタフライ型とは全く異なる姿になる。それは、付属資料6図の下図のように、営業マンとバイヤーが一つの点で接していた従来のバタフライの二つの三角形のそれぞれについて、その両方の向きを百八十度づつ回転させて三角形の辺と辺が完全に重なるような形で表現される。
すなわち、このダイヤモンド型の図で示されるように、パートナーシップを組むウォルマートと P&G社どうしは単なる「点」ではなく、トップ同士、マーケティングとマーチャンダイジング相互、情報システム同士、営業マンとバイヤー相互など、会社同士の各々対応するセクションが、あたかも「面」で接触していると評することができるほどに緊密な関係を築き上げることを意味する。
 このダイヤモンド型パートナーシップ関係に基づき、両社でプロジェクトチームを編成し、商品やサービスを消費者が満足できる最高のものとすると共に、消費者にとって全く付加価値のないリベートや販促協賛金、押し込み販売のための在庫コスト、削減可能なリードタイムを見つけだし、削減していくためのソリューションを検討することになった。

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P&G社(ベンダー側)のチーム体制

 まず、小売業のウォルマートに対してメーカーのP&G社は、ウォルマートの本社のあるアーカンソー州の片田舎ベントンビルに集まり、2日間をかけて、この問題を集中討議した。その後、3カ月以内にベンダー(納品業者)/リテーラー(小売業者)の全く新しい関係をつくり出すために、 P&G/ウォルマート・チームと呼ばれる特別なプロジェクトチームを編成した。(付属資料7図を参照のこと)
P&Gは、まず、非常にビジネス指向の強いチームリーダーを置くことからはじめた。このリーダーは、メーカー側の発想でけでなく、小売業の発想も併せ持った人物でなければならなかった。その元に、営業、経理、ロジスティックスそして情報システムの専門家を配置した、特徴的なのは、それらに加えて店鋪オペレーションという、マーケティングの専門家集団を用意し、店鋪での品揃えなどを小売業と共同で検討している点である。
 P&G社の社員は多いときで、82人もウォルマートの本社のあるアーカンソー州の片田舎ベントンビルに移り住み、この共同作業に従事した。

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ロジスティックス戦略による自動補充方式

 製版同盟が成り立つ基盤として、相互信頼に基づく情報の共有化が非常に重要である。具体的には、小売業の財産ともいえる取引先に対するPOS情報の提供である。
 このときの共同作業による重要な結論の一つが、コンピュータによる情報の共有(シェアリング)であった。
 この結論により、ウォルマートは、店舗ごとのPOSデータをEDI(電子データ互換)を通じて、 P&G社に提供し、見せるようになった。
 まず、トップブランド商品である使い捨て紙おむつの「パンパース」が取り上げられた。
使い捨て紙おむつの「パンパース」は、体積が大きく、値段の割に在庫スペースを取る商品である。ウォルマートは、当初、パンパースの在庫を自社の流通センターで管理し、そこから各店鋪に配送していた。流通センターの在庫が少なくなると、ウォルマートは P&G社に「パンパース」を再注文していた。
  P&G/ウォルマート・チーム発足後、P&G社がウォールマート社が持つ1年3ヶ月分の売上・在庫データを検索できるようになり、P&G社はウォールマート社の担当者と陳列条件、棚割り計画を作成する。この棚割りは、3ヶ月ごとに見直しされる。また、その情報を利用して、自社の生産・出荷計画を非常に効率良く作り出すことができる。
 P&G社側で需要予測を行い、発注すべき時期と数量の予測情報をウォルマート側に提供する。ウォルマート側の方では売上予測として、それが適当と判断した時、ウォルマートはその通りに発注し、 P&G社が発送する。情報技術の活用によって、両社の取引管理の新しい基盤を作りだすことが可能となった。
 さらに、ウォルマートから P&G社への製品発注業務をやめられないかということになり、メーカーとしての P&G社の方で在庫管理をすることになった。ウォルマートは在庫をより少なく保つことができ、かつ品切れの状態をさけることができた。結果として、ウォルマートの在庫がゼロになることになる。
 つまり、メーカーである P&G社が、EDIという情報技術を利用し、毎日のウォールマート社の店舗ごとの単品別売上情報と在庫状況を衛生回線で入手し、売上予測を行い、生産計画・配送計画を立て、実行し、ウォルマートの物流センターに商品を配送する。また、在庫が不足していたらウォールマート社の物流センターに商品を発送するように指示する。物流センターでは、配送された商品を24時間以内に指定の店舗に配達する。ウォールマート店鋪では、商品が入荷した時点で、仕入れを起こし、ウォールマート本社で受け取ったP&G社からの事前出荷通知(ASN)と付き合わせて仕入れを確定する。
この一連の作業は「ベンダー主導型店鋪在庫管理(VMI)」による自動補充と呼ばれる。(付属資料第8図を参照のこと)
 このシステムにより、ウォルマートが在庫品のために用意すべき運転資本、在庫費用を低減させることができ、下がった分を売価に反映することができる。この在庫管理は、さらに進歩し、ウォルマートが P&G社に支払いを済ませる前に流通センターから店鋪、そして顧客の手にウォルマートの製品が渡るようになった。したがって、ウォルマートは、支払い時に顧客から受け取った現金を使用することができる。これは、ウォルマートの資本収益率を増加させるのにも役立った。

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リアルタイム・インベントリー(RTI)への長い道のり

 リアルタイム・インベントリー(RTI)とは、商品の発注、受入れ、売上、返品などの小売業における全ての商品の流れを把握した上で、単品別に数量と金額の両面の数字を積み上げて計算した単品別在庫情報を常時保持しておき、関係企業が必要とする情報を、いつでも引き出すことができるシステムのことを意味する。この情報とは、会計管理・財務管理においても利用ができるような精度の高い情報であり、在庫情報常時把握システムであるリアルタイム・インベントリーを支援するコンピュータ情報システムの共用が不可欠である。
 当然ながら、 QR(クイックレスポンス)による自動補充は、小売業が正確な単品別在庫情報を把握することが前提条件であるし、正確な単品別売上情報を合せて小売業から得ることにより、初めてメーカー側も売れ筋商品、死に筋商品を判断することができる。
 単品在庫および金額情報の積み重ねであるリアルタイム・インベントリーを構築するのは決して容易なことではなく、そのシステムが保持する情報の正確性を維持して行くことも容易なことではない。ウォルマートでは、リアルタイム・インベントリー実現のために投資を惜しむことはせず、着実にその情報基盤を整備してきたことが、QR(クイックレスポンス)の大きな成功要因であるといえる。ウォルマートでは、リアルタイム・インベントリーが、ローコスト経営の中核となる  重要な基本ビジネス機能であることを理解していた。

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QR(クイックレスポンス)が米国産業界に与えた影響

  P&G社とウォルマートのパートナーシップにならって、多くの他の会社が供給者を重要なパートナーと考えはじめるようになった。このパートナーシップは、 P&G社とウォルマートそれぞれにとってもメーカーと小売業者との新しい関係のひな型となった。
 ウォールマート社と P&G社ではじめた製販同盟による、小売業からのPOS情報提供・製造業者の責任生産・補充体制は、まず日用雑貨・衣料関係業界でQRと呼ばれ、標準的なシステムとなった。まさしく、顧客のニーズを迅速に売場に反映できるQR(クイックレスポンス)は、米国に急速に広まり、1993 年には、315社の小売業が参加している。
また、加工食品業界では、ECR(エフィシエントカストマーレスポンス)と呼ばれ、1994 年には200 社以上が参加しており、さらに米国の他のあらゆる業界で利用されるものとなった。  QRの成功の後、P&G社は、取引先の大手小売業者に対して、メーカー側からのEDLPに基づいた自社製品の提供を行うようになった。
 ウォルマート社の競争相手であるKマートは、単にウォルマート社の後追いはしなかった。新業態として、生鮮食料品を扱う事を決定し、物流機能自体を外注(アウトソーシング)化する戦略を採用した。アウトソーシング戦略により、Kマートは、一時の業績悪化から短期間で復活することができた。

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QR普及後の新価値創造の試み

 ウォルマートは、 P&G社以外のメーカー、衣服業界のリーバイス、電機機器業界のGE等とのQRを推進する一方、高成長高利益を維持し、さらなるローコスト経営を実現するための、ポストQRと呼ぶべき、顧客に新たな価値を提供する試みを模索していた。
 さらに、これまでのウォルマートの強みを活かしながらの、約2000億ドル規模のDS (ディスカウント・ストア)市場の2倍と言われるスーパーマーケット市場参入も重要な検討課題であった。これは、ウォルマートが新業態、すなわち、生鮮三品、食料品を扱うことを意味する。
 1993年には、ウォルマート社の情報基盤であるリアルタイム・インベントリー(RTI)の発展形態に、大きな影響力を与えそうな情報技術の革新があった。一つは、インターネットである。特に、Mosaic に代表されるWWWブラウザの爆発的普及により、数多くの個人/企業ホームページが作成された。インターネットを利用したホームページ上で本の在庫検索そして注文ができるインターネット本屋Amazon.co m に代表される、インターネット・ショップが次々とオープンした。
 もう一つが、Prism Solutions 社たちが開発したデータ・ウェアハウスである。毎日、発生するPOSデータを1次データとして、そのまま、データ倉庫(ウェアハウス)に長期間保存し、データに隠れた傾向や法則を導き出し、経営に役立てるものだ。超並列コンピュータの出現により、可能となった、数十テラ(数十兆)バイトに及ぶ大量データ処理を行うものである。
 いずれも、ウォルマート社の最大の投資である情報システムに、さらなる大型投資を必要とする情報技術の発展であるが、ローコスト経営の追求に役立つかどうかは、未知数であった。

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参考文献

・ケネス.E.ストーン、渡辺俊幸訳、「超大型店とどう戦うか」、ビジネス社、(1997)
・高橋輝男編著、「ロジスティックス −理論と実践−」、白桃書房、(1997)
・岩島嗣吉・山本庸幸著、「[実践]コンシュマーレスポンス戦略 先進アメリカ流通企業のベストプラクティスに学ぶ」、ダイヤモンド社、(1997)
・岩島嗣吉・山本庸幸著、「コンシュマーレスポンス革命 情報テクノロジー時代の製販一体化戦略」、ダイヤモンド社、(1996)
・山岡敬治、「ウオルマートが日本に上陸する日」、ぱる出版、(1995)
・三浦康志、「ウォールマートの新人間主義経営」、ビジネス社、(1995)
・日経ビジネス、「ウォールマート 米国価格革命の覇者」、日経BP社、1994年9月5日号
・サム.ウォルトン、ジョ.ヒューイ共著、竹内宏監修、「ロープライス エブリディ」、同文書院インターナショナル、(1992)
・ヴァンス.H.トリンブル、中村秀一郎監訳、「サム・ウォルトン」、NTT出版、(1991)
・マイケル.ハマー、ジェイムズ.チャンピー、野中郁次郎監訳、「リエンジニアリング革命」、日本経済新聞社、(1993)

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付属資料1.ウォルマート社11カ年の業績

 年次

総売上高

(単位千$)

総売上高の

伸び率(%)

既存店の売上

伸び率(%)

税引後純利益

(単位千$)

純利益率

(%)

1983

4,666,909

38

15

196,244

4.2

84

6,400,861

37

15

270,767

4.2

85

8,451,489

32

327,473

3.9

86

11,909,076

41

13

450,086

3.8

87

15,959,255

34

11

627,643

3.9

88

20,649,001

29

12

837,221

4.1

89

25,810,656

25

11

1,075,900

4.2

90

32,601,594

26

10

1,291,024

4.0

91

43,886,902

35

10

1,608,476

3.7

92

55,483,771

26

11

1,994,794

3.6

93

67,985,550

21

2,333,300

3.4

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付属資料2.米国内州別ウォルマート店鋪数



現在、準備中。。

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付属資料3.ウォルマート社と同業他社との間接経費比較

ウォルマート社

同業他社

本部経費

2%

5%

広告宣伝費

0.5%

2.5%

物流費

3%

5%

合計

5.5%

12.5%

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付属資料4.ウォルマート店鋪標準レイアウト



現在、準備中。。

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付属資料5.ウォルマート社の取り扱い商品一覧

商品名

専有率

 ハードグッズ

27%

 ソフトグッズ

27%

 文具品・キャンディ

21%

 スポーツ用品・玩具

10%

 健康・美容エイド

8%

 ギフト・レコード・エレクトロニクス

6%

 調剤薬局

6%

 

3%

 宝石

2%

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UPDATED Feburary 1, 1998