経営情報科学修士論文研究テーマ1997年12月当時


■テーマ名  顧客駆動式デマンド・ネットワーク・インテグレーションの視点から見た  サプライチェイン・マネジメントの研究     −エージェント分析と設計のための拡張Dooley Graphの応用−

■研究の目的  本研究の目的は以下の4点である。  1.組織エージェントが相互作用する企業間ネットワークにおける情報システム論   メーカーから消費者までの流通過程を完全に含んだ企業間ネットワークとしての   サプライチェーン・マネジメントを支援する情報システム論の構築。このとき、   サプライチェーン・マネジメントを組織エージェントが相互作用する顧客駆動式   デマンド・ネットワーク・インテグレーションの視点から、研究を行うものとする。  2.エージェント分析と設計のための方法論の提案   エージェント同士の内部モデルの交互参照とシンボル交換によるエージェント   の学習、修正、自己組織化および創発性の理解手段として拡張Dooley Graphを   応用し、エージェント間コミニュケーションの視覚化を行い、エージェントが   持つ予測機能、制御機能の内部モデル作成を行う。  3. サプライチェイン・マネジメントのためのソフトウェア・エージェントの適用   リアルタイム・オンライン情報と(組織内部および組織外部間での)ネットワーク   結合性が成り立つ環境において、ソフトウェア・エージェント(または知的エー   ジェント)適用の有効性評価、適用範囲および問題点の検討。  4.リアルタイム情報処理と企業間ネットに適応できる業務支援処理システム   市場からのリアルタイム・オンライン情報を直接、ソフトウェアプログラムに取込み   企業の意志決定に利用、また、あらかじめプログラム化された、最も適切と判断   される行動を迅速に取ることができる業務自動化処理のための情報システム・   アーキテクチュアの検討。 ■研究の背景  1.コア・アプリケーション(基幹業務パッケージ)による業務の標準化と導入   オープン型経営と呼ばれる「標準インターフェースを活用することによって外部   資源を有効利用する経営」が世の中に広まり、他関係企業との共同の利益に向け   たビジネスの仕組みを機動的に構築することによって、競争力の根源とする企業   が増加している。    このために、標準インタフェースを組み込んだ標準システムとしてのコア・ア   プリケーション(基幹業務パッケージ)の導入を前提とし、コア・アプリケーショ   ンが標準装備しているビジネス・プロセスを基本として、自社のビジネス・プロ   セスについて綿密に分析し体系的に把握をすることが行われている。つまり、外部   との仕事のやり取りの方式(インターフェース)は世の中の標準に準拠したものを   極力採用していく方向である。ちょうど、表計算ソフトウェアやRDBMS自体の   設計・開発をユーザー企業が止めてしまったように、このコア・アプリケーション   は、正しく企業間の業務情報伝達のためのプラットフォーム化され、標準的に利用   されることが予想される。    現在では、企業資源プランニング(ERP:Enterprise Resource Planning)   パッケージと呼ばれる統合業務アプリケーションが実現する業務処理の一連の流れ   をフローモデルとして表現されたエンタープライズモデルを動作が保証された部品   の総体として利用するのが一般的であり、各ERPパッケージ固有の記法で表現され   ている。   理屈からいえば、そのようなエンタープライズモデルを編集作業を通じて、実際に   コンピュータプログラムとして実行するERPパーケージのコンフィグレーション   (内部の部品化されたプログラムの実行順序の指定)と導入ができることになる。 エンタープライズモデル  2.インターネット/イントラネットと情報技術   今日、企業のシステムはインターネットおよびWWWを通じて世界規模で接続され   ている。また、企業のオペレーションに必要な情報は、リアルタイムでアクセスが   できるようになった。一方、電子間商取引(EC)により、人力による事務作業を   より削減し、自動化作業をより増やすことができつつある。   受注処理は、EDI(電子データ互換)メッセージ電文を通じて自動処理され、出荷   通知の全手順、請求処理、支払処理も、もし望むのならば(EFT(電子資金決済)   やWWWでの支払いを通じて)自動化することができる。   さらに、通常のバッチ形式EDIから、インタラクティブEDI、さらにオープンediの   国際標準化作業が進んでいる。  3.顧客駆動式デマンド・ネットワーク・インテグレーションの視点から見た  サプライチェイン・マネジメント(顧客駆動式デマンド・ネットワーク・インテグ  レーションのフレームワーク)

サプライチェインマネジメントのフレームワーク
  サプライチェーンという言葉は供給側の指向に立っており、供給管理やサプライヤ   の管理を強調する傾向がある。これは、顧客または需要に焦点を当てるべきである。   次にチェーン(連鎖)という言葉は、材料や情報の線形の流れという意味を含んでいる。   しかしながら、実際の企業と企業の関係は非常に複雑であり、複数のサプライヤー   と複数の顧客が存在する。また、フローとは、ループ状にもなり、双方向にもなる   流れも含む。そのため、ネットワークという言葉を使用した方が良い。   そして、マネジメントという言葉であるが、サプライチェーンといったときは、   マーケティング・マネジメント、財務管理、資産管理等が含まれる。ゆえに、イン   テグレーション(統合化)といった言葉が適切である。これらのことより、用語と   して定着したサプライチェーン・マネジメントを顧客駆動式デマンド・ネットワー   ク・インテグレーションの視点から、本研究を行うものとする。  4・エージェント指向とサプライチェイン・マネジメント支援システム   エージェントとは自律的な活動主体を意味する。エージェント指向とは、システム   を自律したエージェント同士の相互関係と捕らえることにある。   エージェント間がアーティファクト、およびビジネス・ルールの交換を必要とし、   またシステム全体としてある目的を持つようなマルチ・エージェント・システムを   組織エージェントと呼ぶ。組織エージェントは、EDI、スキャナー情報、内部エー   ジェント・コミニュケーションに関する情報を収集、サプライチェインにおける   活動をモニターし、制御を行う。   1995年、特にネットワーク上のアプリケーションを開発するのに適したプログラ   ミング言語が現れた。それがJava言語である。Java言語は、同様にエージェント・   プログラミングにも利用することができ、 WWW上で動作して、他のプログラミン   グ言語と比べて非常に容易にエンドユーザーにマルチメディア・インタフェース   を提供し、ピアツーピア・プロセス通信をWWW上で実現することができる。   このとき、物流システムと情報システムが間で完全な対称性(Symmetry)を   持っていることが重要である。物流システムにおける型変換、組立て、入力および   出力が行われる箇所において、ソフトウェア・エージェントは、これらの物流オペ   レーションをモニター、制御し、さらに再度の最適化のための情報処理を行う。 ■研究の分析手法(研究の出発点)  本研究では、以下の研究を出発点とする。  1.ロジスティックス・インフォメーション・システム(LIS)の先行研究   すでに、先進的な製造業者および小売業者は独自仕様のロジスティックス・   インフォメーション・システム(LIS)を開発し、POS等の情報共有を前提とした   QR/ECRといった経営コンセプトを基に他企業との戦略的提携を行い、LIS同士の   コミニュケーションを行いつつある。LISを企業間戦略提携および共同物流の中核   と位置づけた数多くの先行研究がある。  2.流通EDIにおける統合業務フローの標準化およびオープンediの標準化動向   最もEDIが導入されている流通業では、「商談(商品カタログ、見積依頼、見積   提出)」、「商品情報メンテナンス(メンテナンス情報)」、「受発注(発注)」、   「物流(出荷・納品・検品)」、「決済(請求・支払)」まで統合業務フローと   して標準化されている。    ISO JTC1/WG3では、オープンediでは、全業界における統合業務フローの   標準化を行っている。オープンediを構成する技術要素は、以下の3つである。      2.1.ビジネス情報モデリング(BIM)    企業間のビジネス全体の業務をモデル化し、標準化する。具体的には、シナリオ    と呼ばれる様々な業界の見積、発注、納品、精算まで商談から始まる一連の取引    業務をモデル化し、標準化を行う。   2.2.データモデリング    シナリオに必要な全標準メッセージ間で整合性を取るためのデータ構造を規定する。   2.3.メッセージ設計の新しい方法    データモデリングを前提としたメッセージの設計方法  3.Java言語およびソフトウェア・エージェント開発動向   Javaは、インターネットのWWW上の動的で実行可能なコンテンツ転送のための   世界標準になってしまったといって良い。VRML2.0以降の遠隔操作エンジンでも   Javaが標準になる。さらにJava言語を利用して、インターネット上で移動可能な   知的なソフトウェア・エージェントを開発することができる。   ソフトウェア・エージェントは、以下の特徴を持つ。   自律性:    エージェントは、自らプランを生成し、そのプランに従って行動する    (プランニング機能とプラン実行機能)   移動性:    エージェントはネットワークを移動しながら処理を行うことができる。    移動により、通信量の削減や負荷の分散が容易にできる(移動機能)   適応性:    エージェントの実行が失敗したときに、失敗の根拠となった情報の更新を    行い、プランニングを再び行う。(再プランニング機能)   局所性:    エージェントは、移動先の情報に基づき、プランニングおよび処理を行う。   協調性:    他のエージェントの助けを借り、互いに協調して仕事を行う(協調機能)  4.オブジェクト指向分析・設計技法とエージェント分析・設計技法   1998年初頭には、業界標準化団体OMGにおいて、オブジェクト指向分析・   設計技法の業界標準としてUML(統一モデル言語)が採用される。しかしながら   自律的な特徴を持つエージェント指向分析技法は確立していない。   H.Van Dyke Parunakは個々のエージェント同士の会話を視覚化する試みとして   拡張Dooley Graphの利用を提唱している。 ■研究の方法  1.ロジスティック・インフォメーション・システム(LIS)の現状調査   サプライチェイン・マネジメントにおけるインフォメーション・フローの現状   調査のためにロジスティック・インフォメーション・システム(LIS)の現在の   到達点および課題を調査する。  2.オープンediの標準化の現状および動向調査   ISO JTC1/WG3で標準化が行われているオープンediの基本要素であるビジネス   情報モデリング(BIM)、データモデリング、メッセージ設計の現在の到達点   および課題を調査する。  3.Java言語によるソフトウェア・エージェント開発動向の研究   コア・アプリケーションをプラットフォームとして渡り歩くような、Java言語   による知的なソフトウェア・エージェントが実現する、「自律性、移動性、適応性、   局所性、協調性」における経営情報管理システムにおける意味性、価値性、危険性   について研究を行う。  4.エージェント指向分析と設計   現実の企業間パートナーシップ実例を元に拡張Dooley Graphを利用したエージ   ェント指向分析を行い、現状(As-Is)モデルを作成する。   その後、現状(As-Is)モデルとオープンediにおけるビジネス情報モデルを基に   拡張Dooley Graphを利用した理想(To-Be)モデルを作成する。  例)垂直的統合: ウォルマートとP&GによるQR(1991年度)    水平的統合: プラネットによる流通VAN(1997年度)    業界別:オープンediで標準化検討中のビジネス情報モデリング・シナリオ ■研究計画案  本研究は、以下のように進めることを計画している。  1.最終顧客満足を充足させるポリエージェント・システムのモデル化  拡張Dooley Graphを利用し、エージェント分析を行い、最終顧客満足を充足  できるような(後退差分要求、前進平均受容)、(中央差分要求、中央平均受容)、  (前進差分要求、後退平均受容)を選択可能なトータルサプライチェイン・マネ  ジメントを考慮したポリエージェント・モデルを作成する。スーパーエージェント  の妥当性・正当性も検討する。 2.ポリエージェント・モデルに基づくソフトウェア・エージェント・システムへの変換  ポリエージェント・モデルをコンピュータ利用による全自動化が有効な範囲を明確化する。 ■研究の達成基準  研究の達成基準として以下を考える。  1.ポリエージェント・システムのモデル化   サプライチェイン・マネジメントにデマンドチェイン・マネジメントを統合させた   業務活動を実現可能なポリエージェント・モデルを作成する。  2.自律分散型協調(ポリエージェント)システム構築技法の提案   顧客駆動式デマンド・ネットワーク・インテグレーションを実現するための   拡張Dooley Graphを基にした、エージェント分析と設計技法の提案を行う。  3.ソフトウェア・エージェントシステムのアーキテクチュア・モデル化   ポリエージェント・モデルのコンピュータ利用による全自動化が有効な範囲   およびその基本的アーキテクチュアを明確化する。 エージェントコミニュケーションモデル ■参考文献 高木晴夫、木嶋恭一、出口弘他、「マルチメディア時代の人間と社会 ポリエージェン トソサエティ」、日科技連出版、(1995) ティム・ラッチー著、久野禎子・久野靖・武舎広幸訳、「Java環境入門」、トッパン、 (1997) ピーター・コード、マーク・メイフィールド著、今野睦・依田智夫・依田光江訳、 「Peter CoadによるJavaオブジェクト設計」、トッパン、(1997) Donald J. 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UPDATED December 25, 1997