経営情報科学修士論文研究テーマ 97年7月当時

■題名 「ERP導入のためのエンタープライズモデルを通じた コミニュケーションのオートノミー(自律形成)  −認知、説得、対話の意味空間序説」

■研究の目的  本研究の目的は以下の3点である。 1.ERP導入に付随するエンタープライズモデルの意味性  企業の基幹業務遂行のための統合型業務アプリケーションであるERP (Enterprtize Resource Plainig)パッケージの導入を検討の際に一番 不安なのが、「ERPパッケージで何ができるかわからない」ことだといわ れている。そのため、ERPパッケージには、その全体像を理解・把握する ためのエンタープライズモデルおよびエンタープライズモデリング・ツー ルが付随されている。ところが、ユーザーが欲しいのは企業モデルではな く、実際に稼働するパラメータ設定されたシステムそのものであり、先に アプリケーション開発の手法として一般的になったRAD(ラピッド・アプ リケーション開発)手法によるプロトタイピングがERPに対しても利用さ れ、その全機能を使いこなせない、いつまでたっても全体像が見えてこな いというのが現状である。 ERP導入の際に、企業が必然的に導入することになるエンタープライズモ デルの持つ意味と必須条件、実際の業務活動にもたらす影響および意味導 入のプロセスの考察。 2.ERP導入における知的環境  半田智久氏の知能環境論における4つの知能構造論に基づき、「外在知」 としてのエンタープライズモデル、「内在知」としての業務アクティビティ メンタルモデル、「知のアフォーダンス」としてのエンタープライズモデリ ングツール、「(熱い知)ホット・インテリジェンス」としてのコミニュケ ーションを通じたモデル間の差異の認知・説得・対話の視点から、ERP導入 のための企業内集団活動を成り立せる自律形成(Autonomy)としてのシス テム自体のメタモデル化。 3.エンタープライズモデル編集の背後にある自己言及的ビジネスルールの   もたらす影響  人間社会である経営では、自然現象の複雑系では一意である(ビジネス) ルールが、おのずと変化したり適宜発見されたり、設計される。このビジネ スルール自体の進化性、ビジネスルール自体のゆらぎの内生性がもたらす エンタープライズモデルのエディットへの影響の考察。 4.ERP導入のためのエンタープライズモデル構築  すでに第3者によって外在化されたエンタープライズモデルのコピーと エディットという脱構築作業を中核とした1.2.3.に基づくエンタープ ライズモデル導入の問題点、ERP自体の導入手法、手順の提案および評価。 ■研究の背景 1.ERP(Enterprise Resource Planning)とERPパッケージ  企業資源計画(ERP)とは、生産管理におけるMRP(資材所要量計画)や CRP(行程能力所要量計画)の考え方を拡張・集大成し、企業全体の資源管 理に適用したものである。つまり、MRPやCRPといった概念を工場や物流ネ ットワークなど個別に適用するのではなく、ERPは企業全体の資源管理と供 給計画に包括的に適用するものである。すなわち、人/物/資金/時間とい った経営資源の配分に関する意思決定を、最新の情報資源を駆使して包括的 にかつタイムリーに支援する仕組みを構築するものである。従って、グロー バルに展開された営業拠点/物流拠点/生産拠点および生産設備における販 売見込み/在庫状況/能力に基づき、いつ/何を/何処で生産し、何処に運 ぶのが最適なのかを「情報の共有化と意思決定スピードの迅速化」に焦点を 当てて計画するものがERPの特徴である。 また、グローバルに展開された企業全体の資源の受給調整を最適に行うため のモデルであり、最終的には企業経営のためのリアルタイムマネジメントを 実現するものである。企業がERPを導入する目的としては、  ・顧客満足のための業務プロセスの標準化、・グローバル化対応、  ・リアルタイム処理、          ・統合データベース管理、  ・オープンシステム(オープンプラットフォーム)、  ・基幹業務アプリケーション開発費用の削減 などがあげられる。ERPシステムの自社内開発は、技術的にも経済的にも かなり困難であるため、ERPシステムというとERPパッケージ・アプリケー ションそのものを指す場合がほとんどである。 基幹業務アプリケーションであるERPパッケージは通常、高価であり、その 導入には企業トップが決断を下す場合がほとんどである。また、顧客満足優先 、リアルタイム処理のために前提として、業務プロセスの標準化に伴う組織変 更等が行われる。これらは、業務改革ことビジネス・プロセス・エンジニアリ ング(BPR)と共通の特徴を持つ。 2.業務アプリケーション開発支援ソフトウェア製品の現状  業務アプリケーション開発支援のためのモデリングツールは、以下のよう に分類できる。 □各ERPの内蔵ツール(ERP購入が前提)  Business Engineer(SAP社)、Orgware(Baan社)、  Developer 2000(Oracle社)等  長所:ERPに特化し、その全機能利用を前提  短所:他ERPとの連携が考慮されていない □CASEツール(価格50万以上)  ER-win(Logic Works社)、Composer(Stering社)、  Obsidian(Synon社)等  長所:データモデリングからDBテーブル、実行ファイル作成  短所:モデル化手法、実行ファイル作成の困難 □Workflowツール(価格100万以上)  Groupmax(日立製作所)、Workflow Analyzer(Meta Software社)、  Action Workflow(Action Technology社)等  長所:プロセスモデリングからシミュレーションおよびグループウェア     として実行  短所:企業規模のモデル作成の困難 3.ERP導入に対するユーザーの不満  基幹業務ソフトウェアのパッケージであるERPは現在の主要製品として、海外6社、 国内4社がERP製品を開発しており、日本国内大手400社弱が導入済である。ERP導入 を検討中の企業は、2,000社以上といわれている。 しかしながら、各社ERPはパッケージ製品であり、それぞれ一長一短の特徴を持つ。 1種類(または1社)のERPパッケージに全業務を委任させるリスクもユーザーにあり 複数のERPを工場別に使い分けたり、業務分野別に導入を要望する企業も出てきた。 4.ソフトウェア・メーカー競合から共存へ  Windowsアプリケーションでは異なるアプリケーション用データの互換性を保証 する、マイクロソフト社OLE2標準というのが常識である。ワークフロー・アプリケー ションにおいても、ワークフロー管理連合(WMC)APIに準拠するというのが、必須 条件になりつつある。また、一時期20以上もあったオブジェクト指向分析・設計手法 も、UML(Unified ModelingLanguage)に統一されつつあり、全てのオブジェクト 指向CASEツールが、UML記法に準拠するのも時間の問題となった。ERPパッケージも 例にもれず、ERPパッケージのAPIインターフェースを共通化し、各ERPが長所を伸ば し、棲み分けようとする気運が出てきた。これは、システム・インテグレーター(SI) にとっても、採用するERPの種類を特化せずにすむし、複数のERPを使い分けたい 顧客企業の要望に応じられるようになる。 ■研究の分析手法(研究の出発点)  本研究では、以下の研究を出発点とする。 1.自己言及するオートポイエティック・システム一般理論の応用  ニコラス・ルーマン(Niklas Luhmann)は情報を、「外部に差異を見い出す(内部 で創出された)差異である」、あるいは、「外部から差異を選びだし、固有値関数を用 いてこの差異と適合を確立する差異である」と定義し、情報の知覚や生成を、コミニュ ケーションに関する一般化された自己言及的な閉鎖を持つシステムとして、マトウラー ナとヴァレラが定義したオートポイエーシスを、生命という現象から離れたシステムづ くりの一般形式として定義した。つまり、生物ではないオートポイエーティックなシス テムが存在すること、オートポイエーシス複製には色々なやり方があること、そして 循環性や自己複製については別のやり方をもった、生命として実体化するオートポイエ ーエティックな体制の一般原理が存在することである。ルーマンは、以下の様に述べて いる。 「社会的システムは、個々固有なオートポイエーティックな複製のモードとしてコミニ ュケーションを用いる。その要素は、コミニュケーションのネットワークにより再帰的 に生産され、再生産されるコミニュケーションであり、このようなネットワークの外部 には存在しえない。コミニュケーションは、生命を持つ構成単位ではないし、意識を持 つ構成単位でもなく、行動でもない。  自己言及的なオートポイエーティック・システム     ↓      ↓         ↓  生命システム   心理システム   社会システム     ↓                ↓  細胞、脳体制など          社会、組織相互作用 ルーマンが説くコミニュケーションがコミニュケーションを産出する自己言及的なシス テムが、ERP導入において企業内に複数発生発生するものとし、この自己言及的なオー トポイエーティック・システムおよび、互いに周囲の一部となる相互的な構造カップリ ングによる「言語化(Languaging)」の概念を、ERPパッケージ導入における企業の コミニュケーションモデルに応用する。 2.根来龍之の「コンテキストマネジメント」における4つのモード  根来氏の「コンテキストマネジメントにおける4つのモード」の概念は、コミニュケ ーションを通じてエンタープライズモデルで表現される業務アクティビティを現実の 業務アクティビティ(メンタルモデル)と適合させるとき、コミニュケーションを通 じてコンテキストの吟味が行われ、そのまま利用できる。 すなわち、関係強化における説得モードと対話モード、関係離脱における撤回モード、 拒絶モードである。 根来氏の手法では、さらに具体的にコミニュケーションを進め、関係強化を推進させる ためのアクションとして  ・計画型アクション(説得型コンテキストマネジメント)  ・創発型アクション(調整型コンテキストマネジメント)  ・機会型アクション(対話型コンテキストマネジメント) の3つのアクションの継起を提唱している。 この具体的なアクションを、コミニュケーションによるオートポイエーティックな システムが、コミニュケーションを自己産出する際の構成要素として応用する。 エンタープライズモデル認知の自律形成モデル ■研究の方法 1.ケーススタディ分析  業務上、見る知る所の多いERP導入の過程を、オートポイエティック・システム 一般理論の応用事例としてコミニュケーションのモデル作成のための分類分けを行 う。このとき、特に撤回、拒絶モードにおいても事例として分類分けすることにな る。このとき、ERP導入における組織構造にも焦点を当てる。 2.コミニュケーションモデルとしての知的環境分析  半田智久氏の知能環境論における4つの知能構造論に基づき、「外在知」として のエンタープライズモデル、「内在知」としての業務アクティビティメンタルモデ ル、「知のアフォーダンス」としてのエンタープライズモデリングツール、「(熱 い知)ホット・インテリジェンス」としてのコミニュケーションの視点から、ERP 導入のためのコミニュケーションによるオートポイエティックなシステムとしての モデル化を行う。 3.「知のアフォーダンス」としてのエンタープライズモデリングツール分析  エンタープライズモデルが持つ情報を道具として加工することができるエンター  プライズモデリングツールに要求される機能および利用方法について調査する。 ■研究計画案  本研究は、以下のように進めることを計画している。 1.システム思考によるモデル  提供されるエンタープライズモデルと日常の業務アクティビティのメンタルモデ ルの差異を考える差異おいて必要となるシステム思考による各種モデリングについ て考察する。  ・ドローイングモデルと実行可能モデルの差異、  ・内部モデルと外部モデルの差異、        ・AS-ISモデルとTO-BEモデルの差異 2.自己言及的ビジネスルールのもたらす影響分析  エンタープライズモデルのエディットの際の背後には、ビジネスルールとその変化 が存在するとされている。 ビジネスルール自体の進化性、ビジネスルール自体のゆらぎの内生性がもたらすエン タープライズモデルのエディットへの影響の考察を行うためのビジネスルールの事例 分析と分類分けを行う。 3.各社ERPの調査  各社パンフレット、各社ホームページを基に、各ERPの特徴および差異を理解する。 特にエンタープライズモデルおよびエンタープライズモデリング・ツールの点から 特徴を抽出する。 4.関連論文の調査  組織学習モデル、オートポイエーシス的視点からのBPR、情報システム構築における 組織コミニュケーション、ERP導入における組織影響についての文献を調査する。 ■研究の達成基準  研究の達成基準として以下を考える。 1.ERPという名のエンタープライズモデルが企業経営にもたらす意味と位置付け  ERPパッケージの導入が意味する、エンタープライズモデルの導入とは、標準化され た業務手順を導入することになる。スタンダート化された業務処理手順のテンプレート をコピーし、実施することが意味することは、コンピュータ操作の安易さ以上に情報技 術が企業経営にとって重大な意味を持つことを示している。コピーとエディットがもた らす企業の独自性(オリジナリティ)の意味の変容を述べることにより、ERP導入に対 する新たな経営観が得られることになる。 2.ERP導入におけるコミニュケーションモデルの構築  半田智久氏の知能環境論における4つの知能構造論に基づき、「外在知」としてのエ ンタープライズモデル、「内在知」としての業務アクティビティメンタルモデル、「知 のアフォーダンス」としてのエンタープライズモデリングツール、「(熱い知)ホット ・インテリジェンス」としてのコミニュケーションを通じたモデル間の差異の認知・説 得・対話の視点から、ERP導入のためのオートポイエティック・システムのモデル化と エンタープライズモデルのコピーとエディットという作業を中核としたERPの導入手法 の限界および問題点の抽出、またコミニュケーションという視点でのERP導入手順を 構築する。 ■参考文献 河本英夫:「哲学の冒険 第6巻 コピー」、岩波書店、(1991) 佐藤俊樹:「近代、組織、資本主義」、ミネルバ書房、(1993) 吉田民人、鈴木盛正仁:「自己組織性とは何か」、ミネルヴァ書房、(1997) 村中知子:「ルーマン理論の可能性」、恒星社厚生閣、(1996) 橋爪大三郎:「言語ゲームと社会理論 ヴィトゲンシュタイン・ハート・ルーマン」、 勁草書房、(1985) マイケル.E.ブラットマン、門脇俊介、高橋久一郎訳:「意図と行為ー合理性、計画、 実践的推論ー」、産業図書、(1994) S.I.ハヤカワ、大久保忠利訳:「思考と行動における言語原書第三版」、岩波書店、 (1975) 大坊郁夫、安藤清志、池田謙一編:「社会心理学パースペクティブ2」、誠信書房、(1990) 大坊郁夫、安藤清志、池田謙一編:「社会心理学パースペクティブ3」、誠信書房、(1990) ニコラス・ルーマン、佐藤勉監訳:「社会システム理論 上」、恒星社厚生閣、(1993) ニコラス・ルーマン、佐藤勉監訳:「社会システム理論 下」、恒星社厚生閣、(1995) J.マーチン、J.オデール、三菱C&C研究会訳:「オブジェクト指向方法論序説ー基盤編」、 トッパン、(1995) J.マーチン、J.オデール、三菱C&C研究会訳:「オブジェクト指向方法論序説ー実践編」、 トッパン、(1997) H.R.マトウラーナ、F・J.ヴァレラ、河本英夫訳:「オートポイエーシス」、国文社、 (1994) 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UPDATED July 29, 1997