意味、構造、機能の自己言及と自己組織化

経営情報科学修士論文研究テーマ 97年4月当時

■題名 「複雑適応系モデルによるソフトウェア製品マーケティング  −ハイパーサイクル作動とATフィールド産出」 ■研究の目的 本研究の目的は以下の3点である。 1.複雑適応系としての市場モデル  生物の進化のように、完成品が存在せず、その場に生存するために 常に走り続けている(赤の女王仮説)ような複雑適応系の性質を持つ ソフトウェア製品市場ヘ浸透を計るための「見えない市場の流れを把握 し、働きかけができるような」市場モデル化の考察 2.消費者マインドの場(位相空間)を変容させるコンテキスト  消費者が自ら作った心的システム(ATフィールド)に相互浸透し、ソフトウェア 開発方法論の変換(パラダイムシフト)を前提としたソフトウェアツール 商品に価値を見い出す意味づけ過程のモデル化。 3.コミニュケーション・ツールとしてのマーケティング・アプローチ  1.2.のモデルの理解に基づく、双方向マーケティングの提案と実践 および評価 複雑適応系メタモデルにおける予測不可能な創発(現出) ■研究の背景 1.ソフトウェア製品の特徴  情報加工製品そのものであるソフトウェア製品は一度、デジタル情報 として作られてしまえば、瞬間的にコピー(複製)ができる。摩耗、疲労 はなく、利用者が多ければ多いほど、不良/冗長部分が削除され、質が 向上する。そのため、製品サイクルおよび市場変化は早く、ソフトウェア 会社は、現製品の仕様の宣伝よりも、その会社が持つビジョン、1〜2年先 の技術的なコンセプトの方向性/先進性を正大にアピールし、試供版と称 して、品質が決して良いとはいえないソフトウェアを、CDーROMあるい はインターネットを通じて無償でばらまき、常に何かしらの新たな話題を 提供する傾向が強い。具体的には、以下のような特徴がある。  1.製品の仕様が顧客にとって、魅力的であるかどうかで決まる。  2.製品のバージョンアップ、機能拡張が驚く程、早い。  3.製品のパッケージ、陳列方法などは、製品の売り上げにあまり影響    しない。  4.ソフトウェア製品自体の仕様が、すぐに市場の流れに合わなくなり    古くなる。  5.使用者が少ない場合のソフトウェア製品価格は高価であり、品質も    あまり高くない傾向がある。  6.ユーザー・サポート/トレーニングの大きな需要がある。 2.ソフトウェアを支援するためのツールとしてのソフトウェア製品  ソフトウェア製品といった場合、通常はパッケージ化されており、それ 自体で完結したゲーム類のアミューズメント・アプリケーション、業務を 支援する業務用アプリケーション、または、ソフトウェア製品を稼働させ るためのシステム・ソフトウェアがある。特に業務アプリケーションにお いて、ある製品が全ての機能をカバーするというのは困難であり、他のソ フトウェア製品の機能を拡張するためのソフトウェア、EUC(エンドユ ーザーコンピューティング)と呼ばれる、様々なソフトウェア製品のカス トマイズ化を容易に行うためのツールとしてのソフトウェアが多数、販売 されている。このとき、企業間での情報公開、技術提携/販売提携が行わ れる場合が多い。 3.ソフトウェア製品のデファクト・スタンダート化  ソフトウェア製品は、正しくデジタルな情報のみが加工された商品であり Java、ネットスケープ、オフィス97といった話題のソフトウェアは、 市場に浸透し、ある程度のシェアを獲得するとデファクト・スタンダート 化されてしまう。これは、特に機能が優れているという技術的な理由では なく、ある期間が過ぎると市場の揺らぎが極端に少なくなり(市場の固定 ロックイン)、消費者の選択の余地がなくなることを意味する。 4.ITに即したプロダクト・マーケティングの重要性  IT(情報技術)の急速な発展により、ソフトウェア製品のバージョン アップのごとに、ユーザーの価値観のパラダイム・シフトさえも要求する ようなものも少なくない。受け入れてもらえなければ存続はできないし、 他と同じでは、差別化はできない。これまで以上に消費者の価値観を短期間 に変容させるマーケティングがソフトウェア業界で重要になってきている。 ■研究の分析手法(研究の出発点) 本研究では、以下の研究を出発点とする。 1.複雑系自然科学からのアナロジー  複雑力学系研究の一派である人工生命の研究が話題となって数年たった。 彼等は、セルオートマトン、遺伝アルゴリズム等の様々なコンピュータモデル を用いて、コンピュータ内で複製および変異ができる人工生命なるプログラム を開発し、最も複雑な力学系といえる生命そのもののモデル化による理解を行 い、自己組織化と自然選択の統合化を計ろうとしている。本研究では、この 人工生命モデルを原理として、生命を持つ人間の表現型である複雑適応系と しての市場での振る舞いを扱う経営科学への適用を計る。これは、「生物が 取る様々な複雑な行動は、その選択プロセス自体は非常に単純であり、生物 を取り巻く環境の複雑さを反映したものである」という基本姿勢に同調する ものである。複雑力学系は、以下のような4つのクラスに分類できる。  クラス1:不動点、クラス2:周期系、クラス3:カオス系、  クラス4:“カオスの縁”(情報を操る極大部分) 適応的な複雑系がクラス4に属するというのが、複雑力学系における最近の 大発見であり、“カオスの縁”と呼ばれる秩序と無秩序(カオス)のはざま で揺れているのが生命であるというのが、人工生命派の主張である。 人工生命(AL)モデルとは複雑系がいかに自己組織化、適応、進化、共進化 新陳代謝などの様々な機能を示すかを探る方法であリ、通常はコンピュータ上 のシミュレーション(ドライな仮想世界)で検証が行われる。 このモデルを逆に現実世界である市場そのもの、市場から派生する様々なもの に当てはめることにより、ウェットな現実世界での検証を行う。 カオスの淵に立つ生命(クラス4) 2.根来龍之の「コンテキスト」概念を用いた研究  根来氏の「コンテキスト−認知−決定・行動」モデルは、下記の複雑適応系 における創発(現出)モデルを天地上下反対にしたものと捕えることができる。 つまり、認知および決定・行動という局所的作用が、コンテキストという創発 (現出)される全体的構造と見なすこともできる。消費者の価値観の変容、 および消費者が市場を作り、市場が消費者を作る過程を理解するために、言葉 としての「コンテキスト」概念モデルを利用し、本研究のメタモデルとしても CL(コンテキスト・ラーニング)法を応用する。 3.消費者マインドの場(位相空間)としてのATフィールド  消費者の価値観の変化の過程をモデル化できるように、消費者が自ら作った 心的システムとしてのAT(Autopoietic Terrestrial)フィールド概念を利用、 マーケティングアプローチがもたらす消費者との交叉と相互浸透の 展開過程をモデル化し、明確化する。 ■研究の方法 1.事例研究を通じた分析 日本総販売代理店として、毎日の業務で扱う海外ソフトウェア製品のための マーケティングミックスのビューを利用した顧客とのコミニュケーションに おける行動の記録を行う。その背景にあるモデルおよびパターンおよびルール を見い出すために、モデル化および手法の回転すなわち、意味−解釈−了解、 観察ー帰納ー検証、仮説ー演繹ー反証を行う。このときのマーケティングミッ クスとは以下の5つを指す。 (1.価格、2.広告/プロモーション、3.販売(努力)、4.(第三者)  販売チャネル、5.サービス) また、取り扱うソフトウェア製品のインフラストラクチュアとして欠かせない 独国SAP社の動向も合わせて事例研究に含めるものとする。本研究はアクシ ョンリサーチとしてのフィードバックを常に行い、日々の業務の改善のために モデルを適用させ、進化させる。 □米国インテリコープ社開発LiveModel for R/3 ・販売開始時期:1996年7月(世界同時発売) ・対象顧客:基幹業務パッケージSAP社R/3システムのコンサルタント/エンジニア/エンドユーザー ・キャッチフレーズ:リファレンスモデルのアニメーション&シミュレーション ・競合製品:Aris ToolSetは日本語化未定、Visioは日本語化発売5月末予定 ・広告方法:コーラボレーションによる展示会出展/セミナー開催/雑誌広告/DM ・価格:165万円/年4〜6回のバージョンアップ ・稼働環境:Windows 95/NT ・販売チャネル:インプリメンテーション/コンサルティングパートナー、弊社代理店 ・顧客サービス:ユーザートレーニング、ユーザーサポート、業務分析コンサルティング ■研究計画案 本研究は、以下のように進めることを計画している。 1.価値位相区間のモデル化  既に日常業務において入手している膨大な非言語情報(暗黙知)の明確化した リッチピクチャーを作成。 顧客がソフトウェア製品を認知し、結果として購入する/購入に至らないまでの 心理プロセスとしてのコンテキスト変化(期待、理解、失望、恐怖、要望、満足) を表現する価値位相空間の提案とパターン分類化を行う。特に、消費者が自ら作った 心的システム(ATフィールド)の概念を用いて、方法論の変換(パラダイムシフト) を前提としたソフトウェアツール商品に価値を見い出す/見い出さない過程を表現 できる、コンテキストを中核としたメンタルモデルの考察を行い、日常業務を通じ たフィードバックを通じて業務改善に役立てる。 2.複雑適応系市場モデルの文献調査  複雑系自然科学のアナロジーを社会科学で適用している先例を調査する。このとき 特に、経営学用語と自然科学用語とのマッピングの限界を把握するためにマッピング 対照表を試験的に作成する。さらに、先に造ったコンテキスト中心のメンタルモデル を逆に大局としての市場モデルに当てはめてみて、その有効性/差異を診断する。 市場モデルの日常業務を通じたフィードバックを行い、マーケティング戦略/戦術の 改善に役立てる。 3.双方向マーケティングと心理学的コミニュケーション  コミニュケーション・ツールとしての効果的な双方向マーケティングを考察する。 心理学的な見地から見た場合のソフトウェア製品の価値観を共創していくプロセスの モデル化も、コンテキストおよびATフィールドを有効なツールとして利用し、日常 業務を通じたフィードバックを行い、マーケティング・ツールの改善を行う。 ■研究の達成基準  研究の達成基準として以下を考える。 1.ソフトウェア製品市場の自己組織化の新たなモデルの構築。  顧客および代理店との価値観の共有により、創発(現出)される市場の流れをモデル として理解することができる。このモデルを通じてソフトウェア新製品が市場に根づく までの過程の理解および市場開拓に役立つ新たな市場観および経営観が得られることに なる。 2.ソフトウェアツール製品マーケティングに役立つ消費者メンタルモデルの構築。  商品価値位相空間と他者との接触を拒否する心理的障壁であるATフィールドを考え ることにより、ソフトウェア開発方法論の変換(パラダイムシフト)を前提としたソフ トウェアツール商品に価値を見い出す意識づけ過程のモデル化およびパターン分類を行 い、消費者傾向を把握することができる。 3.双方向マーケティングのための戦略およびマーケティング・ツールの実践  顧客とのコミニュケーションを前提としたマーケティング・アプローチの知見 (ノウハウ)を得ることができる。 ■参考文献 ・マトウラーナ/ヴァレラ、河本英夫訳:「オートポイエーシス」、国文社、(1991) ・河本英夫:「オートポイエーシス」、青本社、(1995) ・Granovetter Mark:「The Strength of Weak Ties」,American Journal of Sociology, 81:1287-1303, (1973) ・マイケル.ロスチャイルド:「バイオノミックス」、TBSブリタニカ、(1995) ・今田高俊[編]:「ハイパー・リアリティの世界」、有斐閣、(1994) ・今田高俊:「自己組織性ー社会理論の復活」、創文社、(1986) ・今田高俊:「モダンの脱構築ー産業社会のゆくえー」、中公新書、中央公論社、(1987) ・小坂武:「エクゼクティブ情報管理システム」、シーエムシー、(1995) ・佐藤俊樹:「近代、組織、資本主義」、ミネルバ書房、(1993) ・フィリップ・コトラー:「マーケティング原理」、ダイヤモンド社、(1995) ・藤原武弘・高橋超編:「チャートで知る社会心理学」、福村出版、(1994) ・飽戸弘編:「消費行動の社会心理学」、福村出版、(1994) ・大坊郁夫、安藤清志、池田謙一編:「社会心理学パースペクティブ2」、誠信書房、(1990) ・大坊郁夫、安藤清志、池田謙一編:「社会心理学パースペクティブ3」、誠信書房、(1990) ・斎藤勇編:「人間関係の心理学」、誠信書房、(1983) ・斎藤勇編:「経営産業心理学パースペクティブ」、誠信書房、(1992) ・カール.E.ワイク、遠田雄志訳:「組織化の社会心理学」、文眞堂、(1997) ・嶋口充輝:「柔らかいマーケティングの原理」、ダイヤモンド社、(1997) ・ジェームズ・マーチン、前田俊一訳:「経営の未来 Cybercorp」、TBSブリタニカ、(1997) ・リックテレコム:「SAP R/3で挑む経営システム革新」、(1997) ・I.ヤコブソン他、本位田真一監訳:「ビジネスオブジェクト ユースケースによる企業変革」、株式会社トッパン、(1996) ・株式会社グロービス編:「MBAマネジメント・ブック」、ダイヤモンド社、(1995) ・数江良一監修:「MBAマーケティング」、ダイヤモンド社、(1997) ・安田 雪:「ネットワーク分析」、新曜社、(1997) ・ブライアン・ウィルソン:「システム仕様の分析学」、根来龍之ら訳、共立出版、(1995) ・G.ニコルス/I.プリジゴン:「複雑性の探究」、みすず書房、(1993) ・ジョン.メイナード.スミス:「進化遺伝子」、産業図書、(1995) ・須之部淑男ら監修:「心情報論」株式会社電通、(1986) ・ロジャー・リューイン、糸川英夫監訳「コンプレクイシティへの招待」、徳間書店、(1993) ・佐倉統:「動きはじめた人工生命」同文書院、(1993) ・M.ミッチェル.ワールドロップ、「複雑系」、田中三彦ら訳、新潮社、(1996年) ・リチャード・ドーキンス、「利己的な遺伝子」、日高敏隆ら訳、紀伊国屋書店、(1991) ・半田智久、「知能のスーパーストリーム」、新曜社、(1989) ・マイケル・ポラニー、「暗黙知の次元」、佐藤敬三訳、紀伊国屋書店、(1980) ・海老澤栄一:「組織進化論−行動・過程・創造」、白桃書房、(1992) ・野中郁次郎+竹中弘高:「知識創造企業」、東洋経済新報社、(1996) ・根来龍之:「常識を打破するコンテクストラーニング」、  ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス、1996年1月号(1995) ・ブライアン・アーサー:「複雑系の経済学を解明する“収穫逓増”の法則」、  ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス、1997年1月号(1996) ・「エヴァンゲリオン用語辞典第1版」、八幡書店、(1997)


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UPDATED April 29, 1997