FastParts,IncのNASDAQ取引型
ビジネスモデル

UPDATED:May 17, 1998 by Makoto


FastParts,Inc設立の動機

 1994年カリフォルニア州シリコンバレーのあるバーで、二人の電子部品メーカー のマネージャがお互いの不平を話していた。 「ジャスト・イン・タイム配送に忙殺されそうだ」と一人が言う。「在庫部品を全く 持てないんだ」。「それは、こっちも同じだ」ともう一方が応じる。 「最も困ったことは、顧客から注文を破棄された時に余剰部品が山積みになってしま  うことなんだ。まさに自分の居場所まで取られてしまうんだ!」 IBM社を1963年に離れ、システムとソフトウェアのセールス・マンとして35年以上の キャリアを持つ当時59歳のGerry Hallerは彼らの話を聞いていて、思わず尋ねた。 「何で君たちはお互いの資材を交換しないんだい?」  それから20分以上の会話のやり取りの末、彼は、その理由はこの二人がお互いを 信用していないからだと結論づけた。見込み買手は粗悪品を掴まされるのを恐れ、 売手は買手が決して言い値で買わずに、とことん買い叩くものだと考えている。  「もし、私が品質と支払いを保証する方法を実現したら、君たちはお互いに余剰部品 を交換するようになるかい?」Hallerは尋ねた。「もし君ができたら、そうするよ」 と二人は答えた。 「君は、これまで誰も考えついていないビジネスを行うことになるね!」 ■市場規模概算とビジネス・モデル  Hallerは自宅に戻り、アイデアを練り始めた。彼は、プリント配線基板の組立て 業者に製造業者から提供される統合化配線、メモリ、パッシブ部品などが、一般的 に一度売られた後に引き取り戻されることはないことを発見した。通常、電子部品 業界では顧客満足達成のために特急受注処理が行われていた。 (※特急受注の場合には、受注と同時に出荷伝票が作成される。また、利用可能在庫 確認や出荷スケジューリングなどの販売と出荷に関する機能も同時に行われる。)  余剰部品を持ってしまった配線基板組立て業者は、ある期間まで余剰部品を保有 した後に大幅なディスカウントを部品仲介業者に行う。部品仲介業者は大幅値引購入 した余剰部品を、公示価格で再販売する。Hallerの結論は次のようになった。 「もし、売手が余剰部品により高い値づけを行えて買手がより廉価で購入すること  を支援できる方法が見つかれば、お金儲けができるようになるだろう」。  Hallerの試算は以下のようなものであった。 「共用部品の世界市場規模は、大体1,400億ドルである。この中で700〜800億  ドルがプリント配線基板に利用される共用電子部品に相当している。さらに、  この部分の約10%が最終的に余剰部品になるだろう。潜在的な交換取引市場は  70〜80億ドル規模になるだろう。」   Hallerは、彼の新しい企業を強化できる二人のパートナーを見つけた。 Bob Wilmouth、彼はシカゴ取引所の前所長で、取引システムの専門家である。 そしてWarren Prince、彼は、データ通信を行う最初の私的パケット交換ネット ワークであるTYMNETの設立者であった。1993年にHallerは貯金を使い、仕事を 辞め、FastParts Trading Exchangeプロジェクトを発動させた。  パートナーたちはNASDAQ(National Association of Securities Dealers Automated Quotation System :店頭銘柄気配自動通報システム)とニューヨーク 証券取引所をモデルに取引管理用ソフトウェアを開発した。 「我々は、商品取引(Mercantile Exchange)からもたくさんのアイデアを得た。  特にオープン・アウトクライ法では、あらゆる参加者が同時に必要な情報を得る  ことができる」とHallerは言う。 ■ベンチャー・キャピタルからの投資  私的通信ネットワークを利用し、パートナーはFastparts Trading Exchange のプロトタイプを30の参加企業と共に試験した。デバッグ作業を行う内に資金は 無くなり、ベンチャー・キャピタルに接触を開始した。    「あなた方のシステムをインターネットで利用できるようにしたら、百万ドルを  投資しよう」とレッドウッド・シティのベンチャー・キャピタル・ファーム、 Draper Fisher Jurveston VenturesのプリンシパルであるTim Draperは進言 した。パートナーらは、ソフトウェアを書き直し、ついに1996年2月12日に大金 を入手することができた。  そのときにHallerはFastPartsの雇用主になっていた。14人がエンジニアリング、 マーケティング、運営、販売活動を行っている。1998年5月現在、従業員は15人 である。


FastParts Trading Exchangeの仕組み(中立性と匿名性)

 FastParts Trading Exchangeは、電子機器業界の登録会員のみが参加できる。 オンライン上でのインタラクティブなスポット市場にある業界規模に渡る電子部品 が依託品扱いされたプール内で、匿名による売りと買いが行われる。 買手に第一級品質を確保するため、新部品のみが売り買いされる。新部品とは製造 業者元で包装されたままであるか、自動取付備品として用意されたものでなければ ならない。買手は配送後に購入部品の検証期間として5日間が与えられる。 売手は、買手がBank of Americaに開設されたFastParts,Incの特別預託口座 (Depository Holding Account)に代金を電子決済で振込んだ後のみに部品を 出荷できる。 全ての取引交換参加者は、この規則と手順に同意することが必要である。 部品の売手は次の3つの産業関連協会のいずれかに属していなければならない。 すなわち、 ・電子配線相互接続と包装研究会(Institute for interconnecting and Packa  ging Electronic Circuits) ・米国電子流通協会(National Electronic Distributors Association) ・半導体産業協会(Semiconductor Industry Association) その他の海外企業として、日本と韓国の企業参加が認められている。取引全体の 約20%が海外取引である。FastPartsでは英国の売手と香港の買手の取引なども アレンジされている(この場合も72時間内に買手の部品受取完了)。 インターネットを利用し、売手は電子部品購入額の約50%を取り戻すことができる。 一方、買手は仲介業者(Broker)からの価格と比較して30〜50%のディスカウント 率で部品を受け取ることができる。いわゆるWin-Winの関係が実現できる。 ■プラットフォーム・ビジネスとしての中立性と匿名性  Fastpartsは、売り買い取引を円滑に行うためのマッチ・メーカーである。 「我々は決して在庫を持たない。保有しない。ある部品を特に扱うこともしない」 「我々は決して取引交換が行われる際に、売手または買手の立場になることはない。  FastPartsは電子業界における施設の提供者(facilitator)として機能する。  我々は、ちょうど証券取引におけるNASDAQ(全米証券取引協会株式オンライン  取引システム)のような存在である」とHallerは語る。  取引における匿名性は非常に重要である。熾烈な競争相手であっても、  何の企業秘密を漏えいせずに売り買い関係を行うことができる。具体的には  ロット番号が割り当てられる。 「配線基板組立て業とは犬が犬を喰らうような業界である」 「もし、どの会社が余剰部品を持っているかが知ることができたら、それは  産業諜報情報として十分役に立つ活動である」 とHallerは声明している。


FastParts Trading ExchangeとSOLD!利用の仕方

 1996年7月8日より、FastParts Trading Exchangeがインターネット・コマ−ス として開始された。 1.取引への参加  売り買い取引を行うために参加企業は、FastPartsのホームページ (http://www.fastparts.com)に進み、パスワードを入力する。  取引参加は、24時間いつでも可能である(参加登録はホームページ、電子メールで  行う)。  その後、提示された売りロット/買いロット情報を見ることができ、売り/買いの  申し出を行う。このとき、売り買い履歴、ニブル警報、ロット情報(proprietary)  サーチエンジンといった追加サービスを利用できる。  サーチエンジンでは、以下の項目から検索できる。  ・部品番号  ・記述またはキーワード  ・製造元  ニブル警報とは、買手ロット情報を複数の売手に通知するサービスである。  参加企業は、その時々の緊急性に応じて、売り/買い価格を決定する。これに  より価格の上下が調節される。  例)「米国半導体会社製部品#NDT014を20,000個、最も安い価格で購入して     48〜96時間以内に入荷したい」 2.契約完了  常に背後では、FastPartsの運営管理者がロットが一致しそうな売手と買手に  常に検索し、時にはロット情報が変更可能かを直接接触し、交渉の円滑化を図  っている。  ロットを提示した参加企業は、そのサイズを決定する。それぞれロット番号が割  り当てられている買いロット情報と売りロット情報(製造元、部品番号、最小限  必要販売/購入量、単位価格)が一致したときに契約が行われる。このときも  FastPartsの運営管理者が仲介を行うこともある。  一日当たりの取引額範囲は、200ドルから300,000ドルである(1998年5月  現在)。 3.出荷と配送  売手は、シカゴのオハ−ル空港の近くであるエルムハ−ストにあるFastParts  本社に出荷を行う。買手がBank of Americaに開設されたFastParts,Incの  特別預託口座(Depository Holding Account)に代金振込を確認した後に  48時間〜96時間内に売手から、PartsFastを経由して買手に空輸配送される。  「電子ビジネスにおいては、電子部品は翌日に空輸される。我々は出荷品を受   取り、新たな行き先のラベルを張り付ける、そして、正しい買手に配送する。   我が社において一晩置かれるモノは何もない。調達充足率(fulfilment)は   60%を現在、超えている。」とHaller。 ■SOLD! 利用の仕方  1997年8月25日9時より、電子部品のリアルタイム・オークションである 「SOLD!」を開始した。SOLD!は、Fast Parts Full Service Asset Recovery Programの部分であり、FastParts Trading Exchange の会員であるOEM業者 や依託組立て業者が余剰部品を高価値で売ることができる。 Fast Parts Full Service Asset Recovery Programは参加企業がFastparts Trading Exchangeで売りロットに提示し、売り機会損失や時期遅れとなる よりもすぐに余剰在庫を宣言できるものである。会計期間を過ぎても Fastparts Trading Exchange内に売れ残った部品は、SOLD!オ−クション・ サイトにおけるオークション売りロットに変換できる。 1.オークションの事前公示  オークション開始の1週間前を事前視察期間として、What's For Sale  ホームページに表示されるオークション・ロット情報(部品公示項目)を  見て、"参加チケット"ボタンを押し、事前参加登録することができる。  登録したオークション・ロットごとにオークション・パドル番号が割り当て  られる。もちろん、登録を行った後に必ずしも競りに参加する必要はない。 2.競り積上げ(Bid)詳細の指定  オークションに参加すると、登録時に得たオークション・パドル番号が自動  表示される。その際、以下の情報が表示される。  ・オークション名(Auction Name)  ・オークション開始時間(Auction Opens)  ・オークション終了時間(Auction Closes at or after)  ・競り開始価格(Opening Bid)  ・最小競り積上げ増分(Bid Increment)  ・競り中途価格(Current Bid)  ・最小積上げ増分(Minimum Lot Increment)  ・内容更新時間(This Page Reloaded At)  ・オークション・パドル番号(Your Puddle Number)  ・ロット詳細情報(Lot Contents)  競り積上げの際には、最小積上げ増分の複数倍を宣言しなければならない。  そうでない場合、積上げ宣言をしてもエラー表示が出力され、再入力要求  メッセージが出力される。 3. オークション希望転売価格(Bidding Threshold)  売手は、オークション希望転売価格(Bidding Threshold)を設定できる。  もし、希望転売価格より競り価格が下回った場合、売手は受け入れるか、  買手を却下するかどうかを決定できる。売手はオークション当日の正午まで  に決定を下さねばならない。もし最低限の希望転売価格に達した場合、  オークションはその時点の最高の競り価格で終了し、同時に転売価格と  買手が決定する。 4.オークション経過と結果通知(Status of Bidding)  最新の競り価格を確認するためには、それぞれのオークション名が示され  たホームページ内容をチェックし、アップデート・ボタンを押せばよい。  最高競り価格を提示したオークション登録者に、FastParts,Incのシステム  管理者から、"競り当選通知"の電子メールが送られる。その日の最後に、  各オークション・ロットの登録者全員に競り最終結果が通知される。 5.オークション終了時間後の続行  オークションは、設定されたオークション終了時間後か、最後の競り積上げ  があった5分後に終了する。すなわち、提示されたオークション終了時間後  も、「行って、行って、さあ、行ったあ!(Going,Going,Gone!)」期間内  にオークションは続行される。もし、その5分間以内に競り積上げがあった  場合、他のオークション登録者には、また積上げを行うための5分間が提供  される。  このプロセスは、5分間以内に、他の競り積上げがなくなるまで続行される。  競り積上げがなくなった時、その時点での最高の競り価格を提示した  競り手が、オークション・ロットを入手することができる。  後の手順は、 Fastparts Trading Exchangeと同様である。


FastPartsの課金方法

 現在、FastParts Trading Exchange FastPartsへの参加料は無料である。 FastPartsでは、取引成立の際に売手と買手からそれぞれ取引仲介料を課金する。 取引仲介料は、取引高によって変化する。  ・売手から取引高の3%〜8%  ・買手から取引高の1%〜6% 平均取引高である12,000ドルの取引が成立した場合に取引仲介料として、  ・売手から取引高の7%(840ドル)  ・買手から取引高の5%(600ドル) を徴集する。 FastPartsにおける経費は「極めて固定している」とHallerは明言する。 つまり、取引規模が大きくなればなるほど、FastPartsの利益幅も大きくなる。 1998年5月現在、一日平均2件の取引が成立しているが、一日に少なくとも 10件の取引が成立することを見込んでいる。


日本ソフトバンクからの投資

 1997年12月に日本ソフトバンクより、百万ドルの投資がFastPartsにあった。 孫正義自らがFastPartsに出向き、Gerry Hallerに投資を申し出た。正確には、 サン・ホゼにあるSoftBank Technology Venturesのマネージング・ディレクター、 Scott Rusellによって投資された。 Scott Rusellは、FastParts,Incを次のように評価している。  「電子部品市場はこれまで灰色市場であった。一時的な目分量のロットが電話で   取引されていた。非常に閉鎖的で秘密主義的な取引だった。MotorolaやIntel   のようなブルーチップ企業にとって灰色市場で取引されることは不幸なことだ。   FastParts,Incは、組織化されたオープン市場を創造した。」


FastParts,Incの特長と実績

 FastParts,Incが現れるまで、1,700億ドル規模(1998年5月現在)である 電子部品市場の取引システムをこれほどにオープン化し、明確化した業者は いなかった。  「我々は仲介業者(Broker)を無くす。」  「我々への参加企業は売る時により多くを得ることができる。そして買う時は、   より少なく払える。我々は、魅力的な代替的市場である。」  「我々は、チップと電子部品のためのNASDAQ株式会社を目指している。」 とHallerは声明している。  FastParts,Incは商品宣伝といったマーチャンダイジングは全く行わない。 現在の参加企業へのアピール点は、以下の3つである。  ・全世界規模  ・完全な匿名性  ・5日間の返却可能機関 1996年11月の参加企業数は50であった。 FastParts,Incは1998年3月末に800社の参加企業を集めており、1998年 5月には900を越えた。毎日、1〜2づつ参加企業が増えている。 常に平均3,500万ドルから4,000万ドル相当の電子部品が提示されている。 一日平均の取引高は、12,000ドルである。FastParts Trade Exchange 開設以来の総取引額は、250万ドルを越えた。  FastPartsのビジネス・モデルは他の製品にも適用が可能であり、航空機 部品、海鮮食品、チーズそして切花のビジネスといった新規事業への展開も 可能だろうとHallerは示唆している。


インターネット・ビジネス成功の秘訣

 Hallerはインターネット・ビジネスの秘訣を次のように述べている。  「もし、インターネット・ビジネス成功のための真の秘訣があるとすれば、   できるかぎり絞り込んだコミュニティを定義することだ。コミュニティ   を形成するには大変な時間がかかる。しかし我々は通常お互い話をせず、   敵対感情を持つ競合相手同士に、必要な時に然るべきニーズを満たす   コミュニティを形成することができた。」  「難しいのは、コミュニティを発見することと明確化することだ。」


参考文献

[1] FastParts,Inc [2] Victor M.Cassidy、"FastParts Makes Money When the Chips are Down"、 Chicago software newspaper、March 1997 [3] Howard Wolingsky、"PARTS TRADEWR GETS ON FAST TRACK"、Chicago Sun Times、November 3,1997 [4] Richard Martin、"FastParts: The Online Trading Exchange"、Microsoft Internet Magazine、March 1998 [5] "寄稿・米国事例 躍進するファストパーツ"、P60-61、日経情報ストラテジー、 日経BP社、1998年6月


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