放射線の部屋

たまきち's HomePage
1996/01/27改


 数年前の資料になりますが、放射線計測を簡単に行う方法を紹介します。高校の物理実験で使うGM管式検知器(主にβ線)はある程度感度がよいのですが十万以上するので生徒実験に難があります。科学技術庁の「はかるくん」はγ線のみの計測でβ線を測ることができません。生徒実験レベルで計数をともなった実験を行うためには、検知器が安価であることが必要です。このため、秋月電子のキットに注目し簡単に測る測定法や装置を開発しました。また、検知器に使うGM管は大きいと高くなるため、生徒実験ではコストの面から安価な小型GM管を使わざるを得ません。小型GM管は感度が悪いため強い線源でないと反応しないのですが、生徒には危険です。これを、線源として身近にあり微弱なK(米糠、KCl、コーヒーなど)や夜光塗料、空気中のほこりなどを使って行う実験法を開発しました。これらの方法を紹介します。
(なお、放射線検知器製作のもっと簡単な方法としては、米村傳二郎さんが開発された身近な材料で作ることができる米村−矢野式GM管があります。)




1.「写るんですフラッシュ」を使って放射線検知器を作ろう

1993.8.25  物理教育研究会夏の大会用
都立上野高校  北 村 俊 樹


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 使い捨てカメラと小型GM管を使って放射線検知器を作りましょう。
使い捨てカメラの中にはフラッシュ用の高電圧回路があり、これをGM管用の電源として利用して放射線検知器を作ります。
 図1は富士フィルムの使い捨てカメラ「写るんですフラッシュ」の回路図です。この回路は元都立西高校の中込八郎先生によるものです。その後回路にいくつかの型がありこれはそのうちの一つだと考えて下さい。この回路ではトランジスタによる発振を変圧器で数百Vに昇圧し、それをダイオードを通して直流になおして*2のコンデンサー(150μF)に充電しています。*2のコンデンサーにかかる電圧は 300V程度です。市販のGM管の駆動用電圧は500〜600V程度であるので、このままでは使えません。これを600Vにするには、単純に電源電圧を2倍にすればよいのです。昇圧したら、GM管と圧電スピーカ等をつないで放射線検知器にします。
 具体的には次のように改造します。

(1)写るんですのコンデンサーの放電と分解
 まず印刷された包装紙を取り除きます。カメラの左下に感電注意と書かれた赤いシールがあります。シールを取り除き下の部分をドライバーでこじ開けると150μFの大型コンデンサーがでてきます。このさい感電防止のために軍手をつけて作業した方が良いでしょう。コンデンサーがでてきたら2本の電極をドライバーの先でショートさせます。充電されている場合はかなり大きな音と火花が飛びます。(このプリントは高校物理教師向けに書いています。それ以外の方は物理の先生を捕まえてから分解して下さい。)ショート後に中のプリントパターンを取り出します。カメラはプラスチックをツメで組み合わせているだけなので、うまくやればパターンを傷つけずに取り出せます。再利用を考えない場合はプラスチックや邪魔な銅板の電極は切断してもかまいません。

(2)電池の交換
 単3電池1本の代わりに単三電池2本を電池ソケットに入れ取り付けます。(*1) こうすれば2次側に600Vが出力されるようになります。ソケットの端子はリード線を使って基板に半田付けします。ここで+と−を間違えないで下さい。電源のオン、オフは電池を入れるかどうかで行います。このかわりに、途中に電源スイッチを直列に接続しても良いでしょう。

(3)コンデンサーの交換
 充電用のコンデンサーを0.01μF 耐圧600V程度のものに換えます。(*2) このコンデンサーはGM管駆動用としては供給電圧の平滑用になります。充電用ではないので容量は大きい必要はありません。

(4)部品の除去
 電圧2倍化にともない、耐圧が改造に耐えられない部品を取り除きます。これが*3の点線内カットです。取り除く部品は小型コンデンサ0.022μF、5ミリ角ぐらいのトリガーコイル、キセノン管です。

(5)GM管の取り付け
 *2のコンデンサーの+と−の極間に5MΩ、GM管、1MΩの順で直列に部品を取り付けます。GM管は中心電極が+側、外側ステンレス円筒が−極です。−極側に抵抗をつなぐには、円筒に錫メッキ線を半田付けせず巻きつけた後、メッキ線の端に抵抗を半田付けします。くれぐれもGM管の−極には直接半田を付けないように。またこのGM管は外側の円筒全体がβ、γ線の通り道となります。

(6)圧電スピーカorクリスタルイアフォンの取り付け
 GM管に放射線が入射すると、微弱なパルス電流が流れます。この微弱電流で直接圧電スピーカまたはクリスタルイアフォンを鳴らせてしまいます。圧電スピーカ(セラミックス)やクリスタルイアフォン(ロッシェル塩)はインピーダンスが高く、高電圧を掛けてもかなりもちます。これらを先の1MΩの抵抗に並列につなぎます。

(7)部品の取り付け
 比較的高電圧を扱っているので、全ての部品は透明プラスチックケースなどに入れて絶縁しましょう。部品の固定はセロテープや両面テープを使うと簡単です。(ただしGM管は絶縁が悪くなるのでセロテープ等は使わないで下さい。)特に圧電スピーカは電荷を保持していますのでケースにセロテープで固定します。こうするとケースが共鳴板にもなります。ちなみにスピーカをショートさせると火花が飛びます。
 GM管の取り付け位置にも注意して下さい。外側の金属円筒全体が検出部なので、あまり厚いケースに入れるとβ線が検出できなくなってしまいます。ケースの一部に穴を開け、セロテープを張っておくと良いでしょう。
 電池を挿入し、ネオンランプが赤く光ったら、放射線を入射させてください。スピーカやイアフォンからブツッ、ブツッというかすかな音が聞こえてきます。B.G.は毎分1〜数回程度です。

使用部品:
 写るんですフラッシュ(2000円)、単三電池2本、電池用ソケット、リード線、0.01μF 600V(無極性で可、耐圧が低い場合は2つを直列接続)、小型GM管浜松ホトニクスD3372(3500円)、1MΩ、5MΩ各1/4W型抵抗、圧電スピーカまたはクリスタルイアフォン、プラスチックケース、スズメッキ線少々、半田、電源用スイッチ(なくてもよい)
製作費計:
    約6千円
工具など:
  −ドライバー、半田ごて、セロファンテープ、両面テープ
部品入手先:
 浜松ホトニクス:TEL0539-62-5245
 秋月電子通商 FAX03-3251-1779:でもD3372を3000円で売っています。
なお、写るんですフラッシュの改造にあたっては、羽田工業高校の瀧上哲氏に協力していただきました。







2.秋月のポケットガイガーカウンタキットを使ってみよう

1993.8.25  物理教育研究会夏の大会用
都立上野高校  北 村 俊 樹


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 トランジスタ技術という雑誌に、秋月電子通商 FAX03-3251-1779のポケットガイガーカウンタキット4700円というものが載っています。ポケットガイガーカウンタキットという商品名ですが、検出部のみでカウンタ部分は別売になっています。小型GM管を使っていて、B.G.は数カウント/min以下です。相当数が出荷されていると聞いていますが、物理教員の隠れたベストセラー商品ではないかと思います。
 さて、このキットでは、006P電池とトランジスタの発振をトランスで昇圧して500V程度の高電圧を作り、GM管 D3372を駆動し、放射線の検出を音で知らせるようにできています。これを改造して授業に使えるようにしましょう。
 なお、線源については、別紙「生徒実験に使える微弱線源」を参照して下さい。

(1)無改造で使う
 カウンタのかわりを耳で行います。時間の計測はストップウォッチで、数の読み取りは数取り器でします。

(2)計数率を上げる
 B.G.の毎分当りの計数が2カウント程度では少ないのでこれを多くしましょう。
(その1)GM管を2個並列にする。
 別売のD3372:3000円をもとのD3372と並列にします。計数率が約2倍になります。
(その2)GM管を換える
 GM管を体積の大きいものに換えます。浜松ホトニクス(TEL 0539-62-5245)のカタログから比較的安価なものを選ぶと表のものがあります。これらは、ともに鋼製の側窓型GM管(βγ線用)でプラトー電圧500〜650Vです。

 表 GM管の規格
型番 価格 直径×長さ 窓材密度 B.G.
D3372 0.35万 5×24mm 100mg/cm2 2cpm
D43441.00万 15×100mm 150mg/cm2 30cpm
D43451.37万25×200mm 200mg/cm2 80cpm

 *なお、αβγ用のGM管、米Nucleus社EG−1端窓型(窓厚マイカ3mg/cm21.2万円)は 仁木工芸株式会社(3456-4700)を通して入手できます。

 このうち、DD4345はものによっては発振し始めるので、回路の改造が必要かも知れません。

(3)万歩計をカウンタに
 別売のカウンタ部は4000円近くします。これを安価に上げるには、万歩計を使うと良いでしょう。ガイガーカウンタキットには、外部出力用としてEX出力があります。安い万歩計では中に振動接点がありこのオン・オフにより数を数えています。この接点にEX出力をつなげば、万歩計をカウンタとして利用できます。ただし計数率の最高はせいぜい毎分数百カウント程度です。安売り店で売っている1000円前後の万歩計がこの用途に使えます。

(4)コンピュータをカウンタに
 線源が強く毎分あたり100カウントにもなると、耳では数え落しがでてきます。ここにコンピュータを使ってみましょう。コンピュータを使う場合は、内蔵時計による計数値の変化を計測できるので、長時間の計数も簡単にできます。
 キットのEX出力に図の回路をつなぎ出力をマウス端子の6番、アースを9番につなぎます。これにより、パソコンはタイマー付きカウンタにかわります。PC9801のマウス端子使用の場合のBASICプログラムをのせておきます。なお、このあとのデータ処理、表示をコンピュータで行うか否かは各人の判断におまかせします。



100 '  MS-DOS版N88 BASIC
110 '  save "GM_DTCT.BAS",a
120 ' 製作:元工学院高校 内田雅也 
130 '初期設定
140 :CLS 3:CONSOLE ,,,1:SCREEN 3:FLG=0:WIDTH 40,20
150 :MOUSE 0 : N = 0 :Y=0
160 :KARI=MOUSE(3,1)
210 '初期画面およびシステム設定入力
220 :PRINT "GM計数装置用カウント記録プログラム"
230 :LOCATE 0, 2:INPUT "単位時間は (HH:MM:SS) ";SET.TIME$
240 :CLS 3:TIME$="00:00:00"
400 'GM管の信号をカウント
410 *SEKISANN
430  DT.TOTAL=DT.TOTAL+MOUSE(3,1)
450  TIME$="00:00:00"
470 WHILE  SET.TIME$ >< TIME$
490 : LOCATE 30, 1:PRINT TIME$
500 : locate 8,0:print "区間:カウント数   区間時間"
510 WEND
520 GOTO *DT.HYOUJI  '<------セット時刻到来時の分岐先を定義
540 'デ−タ表示
550 *DT.HYOUJI
560 :Y=Y+1
570 LOCATE 10,Y:PRINT SPC(30)
580 LOCATE 10,Y:PRINT Y;"  ";MOUSE(3,1)
610 GOTO *SEKISANN
630 'システム終了
640 *OSIMAI
670 END
690 '    マウス文・マウス関数
710 'mouse 0 'マウス環境を初期化する
720 'mouse 1 'マウスカーソルの位置と表示の指定 mouse 1[,X][,Y][,1or0]
730 'mouse 2 'マウスカーソルの形と指示点を指定 mouse 2[,X][,Y].[カ-ソル形状]
740 'mouse 6 'マウス処理を終了





3.単純なGM管駆動検知回路


1993.8.25 物理教育研究会夏の大会用
都立上野高校  北 村 俊 樹


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 物理の教科書には、GM管の構造や検出原理が載っています。実際に授業に使う際にはなるべく単純な方が、生徒に説明してわかりやすいと思います。そこで、単純な形で検出を行う回路を考えました。
 市販のGM管検知装置は、GM管、高圧電源、検知表示部からできています。本回路ではGM管に市販品を使い、高圧電源と表示部を単純化しました。(図1)

(1)GM管(浜松ホトニクス製)
 鋼製の側窓型GM管(βγ線用)GM管のD4344を使います。価格1万円、直径 15×長さ100mm、窓材密度150mg/cm2、B.G.約30cpm、プラトー電圧500〜650Vです。

(2)ストロボ用積層電池
 富士電気化学の510Vの写真用電池0340を使います。新品で買えば約5千円ですが、写真屋で使い古しの積層電池(他の型番でも可)がもらえればそれで十分です。電流はほとんど必要としないので古くて構いません。ただし250Vの場合は2個手にいれて下さい。電池が手に入らないときは、真空管用のB電源などでも可能です。

(3)圧電スピーカまたはクリスタルイアフォン
 GM管に放射線が入射すると、微弱なパルス電流が流れます。この微弱電流で直接圧電スピーカまたはクリスタルイアフォンを鳴らせてしまいます。圧電スピーカ(セラミックス)やクリスタルイアフォン(ロッシェル塩)はインピーダンスが高く、高電圧を掛けてもかなりもちます。これらを先の1MΩの抵抗に並列につなぎます。5MΩと1MΩの直列接続で1MΩにつなぎますので、電源510Vが分圧されて圧電スピーカ等には100V以下となります。放射線の入射にともない、これらからブツッ、ブツッというかすかな音が聞こえてきます。 D4344を使った場合B.G.は毎分数十カウント程度です。
 音を大きくするには、分圧しないで抵抗を5MΩだけにして、これに並列にスピーカ等をつなぎます。耐圧や耐久性で問題があるかも知れませんが一応可能です。
圧電スピーカの固定はセロテープや両面テープを使えば簡単です。圧電スピーカは電荷を保持し高電圧になります。ちなみにスピーカをショートさせると火花が飛びます。作動させた後はスピーカに絶対にさわらないで下さい。

◎もう少し複雑な回路
 トランジスタ1石を使えば光やもう少し大きい音で放射線の入射を知ることができます。(図2) 放射線によるガイガー放電パルスをトランジスタで整形し、LED またはブザーを駆動して、光または音で入射を知ります。
 ブザーは電子ブザーで電圧をかけると鳴るタイプです。 LEDは高輝度タイプを使います。また9Vは006Pを用います。

◎さらに複雑な回路
 放射線のカウントを目や耳だけでなく、万歩計やパソコンで自動的に行えば楽です。この場合は図3の回路を使います。

(1)万歩計:
 out に万歩計の振動接点をつなぎカウンタとします。毎分数百カウントが限界です。
(2)コンピュータのマウス端子:
 out とアースをパソコンのマウス端子のEHにつなぎます。パソコンをタイマー付きカウンタにします。
 これらについて、詳しくは別紙「秋月のポケットガイガーカウンタキットを使ってみよう」を参照して下さい。





◎計数例
 D4344とD3372各1本による測定例を以下に示します。紙皿の上に試料を10cm程度の円状に並べ測定しました。数値はカウント/分です。

表 GM管による計数値例
試料名B.G.KClコンブキナ粉米ヌカコーヒー深海玉モナズ石空気中ホコリ
試料g数 10g10g10g10g10g1個3g 
10g中のK(mg) 4570710190180420   
計数(D4344)29.92195140354093452113
計数(D3372)1.86.92.32.11.92.918.069.04.4

 K中には40Kを0.012% 含み、その89%がβ崩壊、11%がγ崩壊をします。このためKを含む食品を使えば、Kによる主としてβ線を測定することができます。ただβ線は自己吸収による減衰がありますので、粉末状に近い方がカウント数は多くなります。この他にKを多く含むものには木灰やカリ肥料、食品ではバナナなどがあります。誰かバナナの粉末でやってみようと思われる方はいませんか?






4.生徒実験に使える微弱線源

1993.8.25 物理教育研究会夏の大会用
都立上野高校  北 村 俊 樹


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 放射線のデモ実験では、鉄製のいかめしいケースから密封線源を取り出して実験を行っていると思います。こういった線源は教師が使うにはよいのですが、線源の強さや1万円程度という価格のため生徒が使うには適しているとは言えません。
 放射線の生徒実験を行うにはどういった線源を使ったら良いでしょうか。多くの生徒は、放射線を出す物質は特殊な元素であり、身近にないがゆえに危険なものというイメージを持っています。ここで、実験に対する不安感を減らすため、線源として身近で手に入りやすい物質から選びたいと考えました。線源の強さは、強いと生徒には危険ですし、逆に弱いと安価で感度の低い検知器(秋月のガイガーキット用のGM管 D3372)では検出できません。1試料あたり5分程度で実験を行いB.G.と有為な差がわかるためには、B.G.の数倍から数十倍程度の計数の得られる物質を選び、その量、検知器との距離などを工夫する必要があります。そこで、次の4つを線源に使うことにします。

(1)KCl(40K:βγ線)
 Kは重量比で0.012%が40Kで、これはβ線γ線を出します。KClの10gをフジのフィルムケースに入れて使います。計数はケースの底を直接GM管に接触させて行います。カリ肥料や昆布などでも可能です。しかし昆布はバックグランドに対し2倍以下の計数率なので、10分以上で数回の計数を行う必要があります。

(2)深海玉(147Pm:β線)
 竹中功先生が紹介された釣り用夜光浮き「深海玉5)」(350円、東邦産業 TEL06-956-1317)に金のこで切込みをいれ、アクリルのキャップ部を切り放します。中の夜光塗料Pmの塗布された棒状部を取り出し、サランラップを卷き使います。Pmの半減期は3年弱なので、新品の深海玉は、学校にあるPm使用のβ線源(島津、中村、内田など)より強い場合があります。また線源の強さは個体によってかなりばらつきがあります。Pm(プロメチウム)は松下以外のグローランプにも塗布されています。これを使っても良いでしょう。例えば、1Eでは三菱、日立、7Eでは東芝、日立、4Pでは東芝、三菱、日立などが比較的良くβ線を出します。
 また夜光塗料を使った腕時計が市販されていますが、ほとんどは蓄光タイプでPmは塗られていません。ALBAのいくつかのタイプが1万円以下で買えます。身近な材料と言うことでは利用もできます。

(3)大気中のほこり(ラドン娘核種:αβγ線)
 掃除機のホースにろ紙を輪ゴムで取り付け、実験直前に30分ほど大気を吸引します。大気中に浮遊しているラドンの娘核種が吸着します。

(4)モナズ石(232Th:αβγ線)
 モナズ石3gをフィルムケースに入れます。矢野淳滋先生より分けていただいたものです。
モナズ石はラドン温泉用のラドン発生器に使われています。手に入らない場合は省略して下さい。



◎生徒実験
 GM管式検知キット、線源4種類、遮蔽用ステンレスプリンカップ とストップウォッチを用いて生徒実験を行います。計数は数取り器があると便利です。
 実験のねらいは、β線γ線の性質を通して放射線量、防御の考えへと導くことです。これを、ワークシートに記入しながら、データ処理を通して学習します。特に線源のカウント数ををB.G.に対比させて考えさせます。また測定したKの放射線量から、体内中のKによる自己被爆を算定します。4人一班で1時間の生徒実験です。実験の流れを以下に示します。
(1) B.G.の測定
 5分間計数します。時間が許せば10分以上の方が望ましい。
(2) KCl、夜光塗料、ほこり、モナズ石
 身近な物質も放射線を出します。B.G.の何倍のカウント数となるか。5分間計測し比較します。
(3) プリンカップによる遮蔽
 深海玉、モナズ石を用い、遮蔽後の強度を調べ、放射線を防御を実感させます。
(4) データ処理
 A.β+γ線の計数値はB.G.の何倍か
 B.遮蔽による減衰
 C.β、γ線の計数値の特定(仮定の導入)
 D.体内の40Kによる被曝量の計算
 Dの計算では、東海大の菊池文誠先生の方法を使いました。またA〜Dでは、試料、フィルムケース、 GM管窓等の吸収を無視し、立体角等の過程は極めておおざっぱに計算します。

参考文献:
竹中 功 :物理教育通信 68号 (1992) 29
矢野淳滋 :物理教育, 41-2 (1993) 172
菊池文誠 :物理教育, 33-3 (1985) 224
菊池文誠 :物理教育, 36-2 (1988) 126
荒川、金子、北村、西島:都理化教育研究会研究発表集録 (1992) 67






生徒実験用の簡易型放射線検知器と微弱線源の開発


北 村 俊 樹
東京都理化教育研究会物理専門委員会
東京都立上野高等学校
(1994年度日本理化学協会研究紀要より)

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[あらまし]使い捨てカメラや安価なGM管検知器キット使用の簡易型放射線検知器と、容易に手にはいり微弱で危険性の少ない線源とを組み合わせた、放射線の生徒実験法を開発した。生徒実験の実施前後で放射線に対する意識の変化を調べた所、1)放射線に対するイメージが肯定的になる。2)体験に基づき単純に怖がるべきはないと考える。3)防御について考えられる。等の変化があり、本方法が放射線に対する適切な態度を身につけるのに有効であった。
[キーワード]高校物理実験、生徒実験、放射線測定、微弱線源、GM管、意識調査、β線

1.はじめに
 生徒実験で、原子核、放射線分野は、霧箱をのぞき行われていない。この理由として、放射線検知器が高価であること、生徒実験に使える微弱で取り扱いに危険性の少ない放射線源が無いことがあげられる。
 生徒実験用の放射線検知器を安価に製作できないだろうか。こう考えて、安価な小型GM管を使った3タイプの簡易型検知器を開発した。また、この検知器と組み合わせる、微弱で取り扱いに危険性の少ない放射線源を選び、測定法を工夫した。更に授業を行い、実験前後での放射線への意識を比較・検討した。

2.簡易型放射線検知器の開発
 生徒実験用の安価で簡単に製作できる3タイプの簡易型GM管検知器を開発した。どのタイプもGM管に浜松ホトニクス社の小型側窓型GM管D3372(βγ線用:3500円)を用いる。これは、直径 5mm×長さ24mmでプラトー電圧 500〜600V、窓材はステンレスで100mg/cm2、B.G.は約2cpmである。
(1)写真用電池と抵抗、イアフォン、GM管からなる単純なGM管検知回路
 教科書には、GM管の構造や検出原理が載っている。なるべく単純な方が生徒に説明してわかりやすいので、単純な形で検出できる回路を製作した。
 富士電気化学の510Vの写真用電池0340を使う。電流はほとんどいらないので、写真屋で使い古しの高圧積層電池が手にはいればよい。
 GM管に放射線が入射すると、微弱なパルス電流が流れる。この微弱電流で、圧電スピーカまたはクリスタルイアフォンを直接鳴らす。これらの素子を1MΩの抵抗に並列につなぐ。放射線の入射にともない、これらからブツッ、ブツッというかすかな音が聞こえる。(図1)



  図1 単純なGM管検知器回路

 更に、図2のようにトランジスタ 1石を使えば入射を光やもう少し大きい音で示したり、万歩計をカウンタとして利用できる。放射線によるガイガー放電パルスをトランジスタで整形する。この出力を高輝度LED または電子ブザーにつないで、光または音で入射を示す。
出力を万歩計の振動接点につなぐとカウンタとなる。この場合、毎分数百カウントが限界である。



  図2 1石の単純なGM管検知器回路

(2)使い捨てカメラ使った放射線検知器
 フラッシュ付き使い捨てカメラのストロボ用高圧部と小型GM管を使って放射線検知器を作る。
 図3のフジの「写るんですフラッシュ」の回路1)から点線内の部品を取り除き、電源のアルカリリ単三電池を2本に増やし、平滑用コンデンサーを高耐圧のものに替え、600V程度の高電圧を得る。この電圧部にGM管と抵抗2本、圧電スピーカまたはクリスタルイアフォンをつないで放射線検知器にする。GM管やカメラ、部品代を合わせて約7000円である。
 なお本装置は、都立深川高校の瀧上哲氏と協力して製作した。



  図3「写るんですフラッシュ」の改造 

(3)市販のガイガーカウンタキットの改造とパソコンを利用したカウンタ
 ポケットガイガーカウンタキット(秋月電子通商 FAX03-3251-1779:4700円)では、006P電池とトランジスタの発振をトランスで昇圧してGM管D3372を駆動し検出を音で知らせる。キットにはカウンタ部は含まれない。
 計数が毎分数十カウント程度では数取り器とストップウォッチ を用いて数えられるが、多くなると数え落しがでる。そこで、このキットを改造しパソコンにつなぎ、パソコンをカウンタとして使う。パソコンでは内蔵時計で時間内の計数値を計測でき、長時間測定も簡単である。
 キットの出力に図4の回路(マウスインターフェース) を付加して、レベル合わせをしたあと、パソコンのマウス端子につなぐ。カウンタ機能はソフトウェアで実現する2)。



  図4 マウスインターフェース回路



  図5深海玉


(4)微弱放射線源  実験に対する不安感を減らすため、線源として身近で手に入りやすい物質から選びたいと考えた。線源の強さは、強いと生徒には危険であるし、逆に弱いと安価で感度の低い検知器では検出できない。1試料あたり5分程度で実験を行いB.G.と有為な差がわかるためには、B.G.の数倍から数十倍程度の計数の得られる物質を選び、その量、検知器との距離などを工夫する必要がある。次の4つを線源に使う。
 1) KCl(40K:βγ線)
 Kは重量比で0.012%が40Kであり、これはβγ線を出す。KCl
の10gをフジのフィルムケースに入れ、ケースの底を直接GM管に接触させ計る。
 2) 深海玉(147Pm:β線)
 釣り用の夜光浮き「深海玉」3)(350円,東邦産業 TEL06-956-1317) に金のこで切込みをいれ、キャップ部を切り放す。中の夜光塗料Pmの塗布された棒状部を取り出してサランラップを卷き使う。(図5)
 3) 大気中のほこり(ラドン娘核種:αβγ線)
 掃除機のホースにろ紙で実験直前に30分ほど大気を吸引する。ろ紙のホース側をGM管に接触させて計る。
 4) モナズ石(232Th:αβγ線)
 モナズ石3gをフィルムケースに入れる。矢野淳滋先生より分けていただいたものを使った4)。モナズ石はラドン温泉に使われており、放射線計測協会を通じて借用することができる。

3.生徒実験
 タイプ(3)の検知キット、線源、遮蔽用ステンレスプリンカップ とパソコン、マウスインターフェースを用い生徒実験を行った。(図6)



  図6 生徒実験用の検知器と線源


3-1 生徒実験での事前指導
 放射線が危険という意識を生徒が強く持つ場合、実験が困難になる。次のような事前指導を行い危険感や被曝量の低減をはかった。
 ・X線の距離依存性の演示
 ・α,β,γ線の透過能(減衰能)の演示
 ・身近な素材を線源として使う
 ・B.G.の数倍程度の微弱線源であること
 ・遮蔽にプリンカップ使用
 ・何をしたら危険か、その理由はの説明
 ・身の回りの線源と被曝量のプリント配布
 ・線源の隔離:線源を教室の隅に置き、実
  験毎に取りに来させ、回収する。被爆時
  間をなるべく短縮する。

3-2 生徒実験の流れ
 実験のねらいは、β線γ線の性質を通して放射線量、防御の考えへと導くことにある。これを、ワークシートに記入しながら、データ処理を通して学習させる。特に、線源のカウント数ををB.G.に対比させて考え、また測定値より体内のKの被曝量を推定させた。4人一班で1時間で実験した。実験の流れを以下に示す。




  図7 測定例:線源をGM管に直接のせ計る


 (1) B.G.の測定:計数は5分間分をパソコンで計数し画面に時間と計数値を表示した。
 (2) KCl、夜光塗料、ほこり、モナズ石
  身近な物質も放射線を出す。これらはB.G.の何倍のカウント数か。
 (3) プリンカップによる遮蔽
  夜光塗料、モナズ石を用い遮蔽後の強度を調べる。放射線を防御を実感させる。
 (4) データ処理
  A.β+γ線の計数値はB.G.の何倍か
  B.遮蔽による減衰
  C.β、γ線の計数値の特定(仮定導入)
  D.KCl測定値から体内の40Kによる被曝量の推定計算

3-3 実験データおよびデータ処理
 ワークシートによる生徒のデータ処理の部分の流れを以下に要約して示す。
 まず、実験により表1の結果が得られたとする。これに対して計算を行っていく。

 表1 各試料の計数値例(単位cpm)
試料名 B.G. KCl 深海玉 ホコリモナズ石
遮蔽無し 1.43.4 29.8 5.467.4
遮蔽有り    4.4  5.6
B.G.の何倍か 11.4 20.3 2.947.1


A.B.G.に対するカウント数の比を求めよう。
 β線、γ線、B.G.の計数値をそれぞれβ,γ,B.G.とする。各カウントはβ+γ+B.G.と考えられるので、
  (β+γ)=各カウント数−B.G.
となる。β+γはB.G.の何倍かを求めよう。

B.遮蔽無しと遮蔽有りでの(β+γ)を比較して遮蔽後の計数比を求めよう。

C.モナズ石のβγ線の計数値を特定しよう。
 遮蔽無しのカウント数はβ,γ,B.G.を含むので
 遮蔽無しカウント数=β+γ+B.G.=67.4cpm
 ここで、「β線はすべてプリンカップで吸収され、γ線はまったく吸収されない」と仮定する。遮蔽有りのカウント数は、β線を含まないので、γ線とB.G.を計数したことになる。
  遮蔽有のカウント数=γ+B.G.=5.6cpm
よってβ線、γ線のみの計数は
  β=(β+γ+B.G.)−(γ+B.G.)=61.8cpm
  γ=(γ+B.G.)−B.G.    = 4.2cpm

D.体内の40Kによる被曝量の計算
 実験データより、体内に含まれるKからの自分自身の被曝量(β線)を計算しよう。
 GM管にβ線が1本入ると1回計数するが、γ線では数%以下しか計数しない。Kの場合はβ線とγ線の発生比がおよそ9対1程度である。よってγ線を無視できるので、β線のみについて計数値を考えてみる。
 フィルムケースからは球状にどの方向にも一様にβ線がでており、自分自身で減衰しないと仮定する。フィルムケースにGM管を接触させた計数値は、その付近の空間の体積の一部すなわちGM管の体積を貫く放射線の本数を測定していることになる。よって、

   KClの総β線数= (KCl付近の体積/GM管の体積)×カウント数

となる。ケース中のKClの体積は直径26mm、高さ15mmの円柱状なので7960mm3 である。GM管の体積は471mm3。これらを代入して
  KClの総β線数=16.9×GM管のカウント数
となる。実験値より総β線数は33.8本/分。 ここで、試料のKClは10gであるので、1gのKからはβ線が6.44本/分放出される。
(KClの分子量=74.55、そのうちK=39.10)
 人の体には体重比で0.25%のKを含む。体重60Kgの人は 150g のKを体内に持つ。よってこの人が体内に持つ自身のKによる被曝は
  6.44×150=9.66×102本/分  となる。
Dの計算では菊池の論文5)6)の方法を使った。
 なおA〜Dにおいては、試料、フィルムケース、GM管自身等の吸収を無視したり、データ処理中の立体角等の過程は極めておおざっぱに計算し、高校生に現象がわかりやすいようにした。

4.生徒の反応
 生徒実験の実施前後で放射線に対する意識の変化を5段階評価およびいくつかの設問の答、感想文から調べた。

表2 放射線に対するイメージ(35名)
段階  5  4  3  2 1 平均値
実験前(%)  3  14  27  22 35 2.27
実験後(%)  9  51  26  11 3 3.51


 放射線に対するイメージは、実験前では怖い、きたない、危険という単純な態度であった。実験後では、体験に基づいた知識を得ており、放射線に対して単純に怖がるべきではないという態度が多い。5段階評価をを見ると、実験前でのやや否定的から、実験後では多くのものが肯定的な態度になっている。
 また、減衰などの放射線の性質を知ることで、放射線の防御についても科学的に答えられるようになっていることがわかった。
 しかし、実験での被曝への不安感を持つ者も、若干名残っており、次回の実験ではもっと工夫が必要だと感じた。

 以下にいくつかの生徒の感想を示す。
・「こわい」「危険」「あやしい」というイメージがほとんどだったが、α線、β線、γ線などの強さや構成しているものを知り、遮蔽の仕方を教わったことで、「こわい」・・・・の域を脱して、素人ではなくなったように思える。でも取り扱いに気を付けないと危険なので、やっぱり近寄りがたいのが本音。
・少量なら全然怖くないけど、多量だと怖いものというのは世の中にたくさんある。放射線もその中の一つだなという感じ。
・多少は変わったが、やっぱり放射線を受けるより受けない方がいいと思う。
・身の回りにあるもの(夜光浮き)や食べ物に入っているのは驚いた。1分間に80本ぐらいの放射線をうけてもなんともならないし、それ以上でも平気だ。
・生徒一人一人が実験するのは実際にβ線γ線の存在を実感できる点で良いことではないか。たったプリンカップ数枚でβ線を吸収してしまうのには少しおどろいた。
・特定のもの(ウランなど)にだけ放射性はあると思っていたのが、大きな勘違いであった。実験によって身近なものにも放射性があることを知り、ためになったと同時に大きなショックを与えられてしまった。

5.おわりに
 本方法により、生徒が放射線の実験を手軽に安全に行うことが可能となる。また生徒自らが実験することで、放射線に対する知識、防御法や安全性について科学的で論理的な態度を身につけることができる。
 なお、本研究は平成5年度科学研究費補助金(奨励研究(B),課題番号05914004)による研究の一部である。

6.参考文献
1)北村俊樹 :物理教育, 41-1 (1993)p.34
2)北村,橋詰:物理教育, 40-3 (1992)p.180
3)竹中 功 :物理教育通信68号(1992)p.29
4)矢野淳滋 :物理教育, 41-2 (1993)p.172
5)菊池文誠 :物理教育, 33-3 (1985)p.224
6)菊池文誠 :物理教育, 36-2 (1988)p.126






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