旅の Tips & Tricks 第71章
Sep. 05. '96   (c)1994-96 桐谷育雄

第71章 常に移ろふFactory Bargains


 人生を生きてきて、しみじみと感じるのは、常なるものなど何もないということです。それなりのスタイルを確立して、このパターンでいけるなと思っていると、何かが変わって、続けることが出来なくなってしまいます。

 かつては、それは、自分の外部の何かが消えていったためでしたが、最近、自分自身も、この世を去って、いつまでも続くつもりだったものが消えることを強く感じています。もしかすると、生きていても、何かが衰えて継続できなくなるのかも知れません。お店の変遷を思い出しながら、様々なことを考える、今日この頃です。


 今回は、韓国の歴史を思い出してみました。僕にとって最も付き合いが長く、今なお年に何度も出かける国ですが、文化での関わり以外に、最近まで工場流出品との関わりもありました。

 十数年前のフィットネス・ブームを覚えていますか? あのルーズな靴下とReebokの靴が、本当にかっこよかった……。毎年何度もアメリカに通っていた姉が、若者は誰もがReebokを履いていると教えてくれたので、僕も買って帰ることにしました。女性物は短くてかわいいのに、男性用は長くてかわいくはなかったけれど、まるでインストラクターになったような気分で、履いて帰ったのですが、試しに履いた幾つかの靴のベロの裏のタグに、Made in Koreaと書いてあったのが気になって、帰りにソウルで調べてみることにしました。当時は大韓航空一筋だったので、途中ソウルで、数時間後の乗り継ぎを待つ間に、いつも街まで行っていました(その頃は、ソウルでストップオーバーしようとすると、料金が急に高くなってしまったものです。)。

 路上で三千円程度で売られていたのは、少しだけ難のあるReebokでした。材料も同じで、どこから見ても本物だけど、ほんの少し縫製がずれていたり、靴の中敷きが違うものでしたが、紛れもない本物でした。もちろん買って帰って、履き比べてみたのですが、全く同じ履き心地でした。

 数カ月後にソウルへ行ったところ、今度は、明らかな偽物も売られていました。一見外観が同じに見えるのですが、素材がビニールだったり、靴底のゴムだけが違ったりしました。よく調べてみた結果、偽物ではあっても、正規の工場で作られたものでした。もちろん履き心地はよくなかったので、買いませんでしたが。

 その次に行った時は、本物のパーツを一部使っていても、正規の工場で作られたものではないようでした。たぶん、部品を正規工場に納品する会社から入手して作ったのでしょう。その頃から、粗悪な偽物が増えてきたように思います。ただ、ごく一部のルートでは、正規工場の二級品と思えるものが入手できましたが、中には、一級品も一部混ざっていました。

 そのうち、韓国リーボックが出来て、正規のお店を梨泰院(Itaewon)に出して、新聞に、偽物を批判する全面広告を出したりしました。正規の品も、日本の半額程度で買えましたし、正規店では、JCBカードで買うと割引になりましたし、大手デパートでも免税手続きをすれば、手数料を差し引いても、十数パーセント引きになりました。

 ところで、ロッテ、東和、新羅等のいわゆる免税店では、空港で出国後に受け取るもの以外は、もちろん免税ではありません。Reebokの靴も、免税店で買うと免税にならず、デパートで買ってTAX REFUNDS(このワザも、いつか扱うつもりです。)の手続きを行えば、付加価値税が割り戻しになるので、免税店の方が高いのです。

 残念なことに、手続きの時間のロスをなくすために、僕も、今では、よほど高額なものをたくさん買ったとき以外は、手続きをしなくなってしまいました。軍備のためにも税金は使われているので、平和のためには、その分の税金を少しでも取り戻して平和の為に使わなくてはならないと思っています。この次の秋夕(旧暦の八月十五日、日本の中秋の名月です。親戚一同が祖先を祭るために集まる民族大移動の日です。)の四連休の最終日に友人の結婚式に出かける時は、しっかり税金を戻してもらわねばと思います(大田(Taejon)万国博に行った時、秋夕と重なってしまって、すごい人でした。おまけに行きのセマウル号は取れましたが、帰りが取れず、バスは、ものすごい交通渋滞でした。日本のGWやお盆のようなものですね。)。

 DKNYは、お気に入りなのですが、80年代後半に、ニューヨークのブティックで昨シーズンのTシャツが$16で売られていて、Made In Koreaと書かれていたので、例によって、早速ソウルで探索を始めました。ざくざく見つかって、いずれも二級品ではなく、トレーナーが一万ウォン(千数百円)、すべてが激安で、何よりシーズン前のものだったので、誰よりも早くGET!と思うと、うれしくてたまりませんでした。もう何年も着続けて、すり切れてしまいましたが、愛着があって、いまだに大切に着ています。

 NAFNAFも一時期韓国で製造していました。その頃は、新作のTシャツやトレーナーを、フランス発売より早く着ることが出来ました。今でも大切にしているのは、スタジアム・ジャンパーです。紺色で、背中の派手な刺繍以外は、地味で目立ちませんが、とても温かくなるので、何年も着ています。

 ソウルで、インパクトがあったのは、アメリカのナショナルリーグものです。バスケットのNBAやアメリカン・フットボールのNFL等、一級品が、ソウルのノーブランド並みの金額でした。日本でもChicago Bullsの人気が出始めた頃で、そのシーズンの優勝記念のウェア等が、普通のウェアの間に無造作につるしてあって、宝の山を発掘する気分でした。値引き交渉も出来て、ほんの一割でも、たくさん買ったおかげで安くしてもらえると、有頂天になったものです。

 ほんの二年前までは、ソウルの蚕室の地下街のお店でも、様々な工場流れのものを扱っていました。お店の人が着ていたものが最後の一着だったりする時、汚れているけど(定価で)売ってあげようかとか言われて悩んだのも、なつかしい思い出です。

 思うのですが、その国で、そのブランドの正規店が出来ると、一級品の工場流れが出回らなくなるようです。その国の多くの人が、そのブランドに値打ちを見出すようになるからでしょうか。逆に、精巧な偽物が出て、この前など、屋台で、NIKEのAir Jourdan Xの偽物が積んでありました。外観はそっくりですが、ビニール製なので、履き心地はあまりよくないでしょう。

 今なお、安く買えるものもありますが、最近の韓国は、激安の買い物ではなく、良いものの少し安い買い物を楽しむ為に出かける国になったのでしょう。今でも、僕が買うものは、まつたけです。


 韓国では、もっと扱いたいことも多かったのですが、あまりに厖大になるので、スポーツ関係にしぼってみました。韓国は、食文化、音楽、舞踊、演劇、歴史、自然、人々の人間性に魅せられて通い続けていますが、その間に、買い物を楽しむ気持ちもありました。

 筆頭は、航空券だったのかもしれません。航空券がドル建てだった頃は、本当に安いキャンペーン運賃が、航空会社のオフィスで発券出来て、本当に買いだめしたいと思ったものです。有効期限が一年という航空券の宿命は、本当に残念です。

 さて次号の予告ですが、昔の安い買い物の話ばかりでは、現在と未来への提言にはならないので(過去の教訓にはなりますが)、次回は、現在の工場流れ品を買うべき地域を紹介しようと思います。世界に経済格差がある限り、必ず世界の工場を引き受ける地域が生まれるのです。

 もちろん、その中で、南北格差を利用するのではなく、現地の(豊かな支配階級ではなく、貧しい側の)人々が潤う、工場流れ品の新しい買い方を提案しようと思います。

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