2000年5月23(火)

Aくんへの手紙:「昭和の日」の問題点


 「昭和の日」に賛成するE-Mailが届きました。サイトで返答する約束をしたので、今回の"What's New"は、その返事にしようと思います。みなさんも、何か、御意見があれば、いつでも、E-Mailをお寄せ下さい。このサイトで紹介して返答します。(5/11「『昭和の日』に反対!」

 今日の画像は、昨日の聖パウロ教会を正面から撮影した画像です。これで、どこだか、すぐにわかりますね? 緑のシャツの司祭と話す二人は、結婚式の打ち合わせです。おめでとう!

 (2007年4月12日に一部修正しました。E-MailをくれたAくん本人から七年ぶりにメールが届き、本名の部分をAに変更しました。)

Aくんへの返事

 Aくん、全く面識のない桐谷をE-Mailを送る相手に選んでくれてありがとう。じっくりと何度も読んでみたけれど、実は、君と同じことを考えている点もないわけではない。例えば、昭和の時代を反面教師にしようとする点は、まさに、僕の歴史に対する根本方針そのものだ。ただし、昭和という時代を南京大虐殺、従軍慰安婦、トンキン米略奪による餓死などに象徴される、日本が侵略した時代ととらえるかどうかは大きな違いになのかもしれないね。

 さらに、昭和のキーワードの捉え方が大きく違うし、明治時代を昭和からどうとらえるかという点も違う。たぶん昭和史が専門ではないだろうし、年も若いAくんに、昭和をたっぷりと生きた桐谷がこれまで研究してきた知識を求めるのには、無理があるかもしれないけれど、君と僕の間には、決定的な違いがある。その違いとは、歴史に関する深い知識の有無ではなく、考えることそのものなんだ。君は、自分がどう思うかという点で意見を組み立てているし、僕は、民主主義という観点から、十分な議論抜きで「昭和の日」に改名しようとしている、今の政権政党の姿勢に対して批判している点だ。



君の意図は、本当に実現するだろうか?

 「国旗・国歌法案」は、覚えているだろうか? 桐谷が反対した理由の一つは、そのような法律を作れば、政府の答弁とは異なった方向に進んでしまうのが明らかだったからだ。実際には、国民の間に様々な考えがあったのに、議論抜きの多数決という非民主的な方法で強行採決されてしまった……。実際には、あの短い条文が拡大解釈されて、教育の場で、君が代・日の丸に対する強制の根拠になってしまった……。

 今回の「昭和の日」の歴史的な意味は、大きい。戦前に「明治節」があったのは知っているね? まさに明治天皇の偉大さを深く敬愛して、明治の治世をしのぶための日だった。ところが、第二次大戦が終わって、このようなことは間違っているということで、名前を変えた。その考えは続いていて、昭和時代が終わった時に、昭和の天皇誕生日をどうしようということになって、政府は「昭和節」にしたかったのだけど、それでは国民の賛成が得られないと考えて、「昭和天皇は植物を愛された」ということで、「みどりの日」に制定した。

 それを、今「昭和の日」に変えようという発想の根本は、まだ制定されていないものを「『昭和の日』を制定した」と宣言した森発言が示すように、「日本の国、まさに天皇を中心とする神の国であるぞということを、国民の皆さんにしっかりと承知していただくというその思いで我々が活動をして三十年になる。」という発想なんだ。

 Aくんの発想は、昭和の「普遍的な教訓」を改めて認識して、後世に伝えるという発想だけど、君がそのような気持で賛成しても、現実には、そのような形で展開されずに、むしろ、昭和の「悲惨な戦禍」というのを、被害としてだけしかとらえない今の間違った動きを、さらに助長し、昭和天皇を中心とした歴史観を大切にするための日になってなってしまうことが明らかではないだろうか?



反面教師が教師の時代

 Aくん、君が昭和を「反面教師」ととらえてくれて、とても頼もしく感じた。政府の認識は、昭和を素晴らしい時代、お手本の時代ととらえようとしているからだ。侵略戦争の間違い、日本が日の丸君が代のもとに、世界中の数え切れない人々の命を奪ってしまった間違い、天皇のため御国のために死ねと教えた間違い、様々な間違いは、昭和の時代を通じて、間違いではなかったと教育の場で扱われるようになってきた。

 「ゴーマニズム宣言」や「新自由主義史観」を知っているね? 端的に言うと、南京大虐殺はなかった、従軍慰安婦は存在しなかった、という立場だ。政権政党のほとんどの人々は、その考えを持っているようだ。このような考えのために昭和の日を制定しようとするなら、「戦争・天皇・愛国」について、深い議論を続けなくてはならないはずなのに、その議論をさせないようにしてしまう政府の姿勢に賛成することになってしまわないだろうか? まさに、君も僕も、昭和の時代の出来事を、議論しようとしているのに、議論そのものを否定して、反対意見を封じ込めて、逆に「戦争・天皇・愛国」に対する議論をタブーにして、昭和を神聖化しようとしている政府の動きは、君の考えとも、相反するものではないだろうか?



反省こそ大切だ

 Aくん、君のE-Mailの最後の「是非昭和という時代を否定するだけの暗黒時代にするのではなく現在にそして未来へと生かす時代にして欲しい」という部分は、大切なことを言っているね。君の「否定する」を、「歴史的事実を否定する」に置き換えれば、まるで、僕の意見のようになる。

 さて、「現在に生かされていない」ことについては賛成してくれると思う。桐谷が一番強く感じるのは、日本が第二次大戦後も、同じ誤りを繰り返してしまった点に対する反省だ。日本は、自分たちの間違いを、議論して反省することを怠ってしまった。その結果、武力では侵略しなくなったかもしれないけれど、経済侵略をしてしまったんだ。

 具体的に話そう。日本では健康のために使用が禁止されている物質を製造過程で使えば安く製造できるから、海外で現地生産をして、現地労働者の健康をむしばんでしまった。マレーシアの森林資源が、日本資本による伐採のために枯渇してしまったことは知っているね? このような例は、いくつでも挙げることが出来る。日本は、戦後の高度成長のもとで、経済力がついたため、お金の力による侵略を繰り返していて、第二次大戦中に、武力侵略が問題にされなかったように、今、このような経済侵略は、あまり問題にされていないけれど、歴史が示すように、このような在り方は、未来に強い批判をあびることになるだろう。

 その通り。歴史を現在に生かさなくてはならない。そこで、問題は、「昭和の日」を制定することが、君が考えることを推進するかどうかということだ。

 現代では、君が考えて、こうすれば、こうなるだろうと考えて賛成したことでも、それを利用しようとする政府がいれば、君にとっても不本意な方向のことになってしまうことがある、ということが問題になる。君の論点からは、君が「昭和の日」をよいと思う理由は書いてあるけれど、それが実際に運用された時に、どのようになるかの検証が不充分なんだ。是非、その点を考えて、「現在にそして未来へと生かす」ためにやらなくてはならないことは、本当に、「昭和の日」を推進することかどうか、是非、考察してみてほしい。 



Aくんからの手紙

昭和の日についてですが何も右翼的思想のみによって、この名称を用いようとしてい
るのではなくて(百も承知だと思いますが改めて言わせてもらいますと)悲惨な戦禍
を忘れないため、ということも大いにその理由としてあげられるのではないかと思い
ます。昭和という時代は思えば日本史上例をみない激動の時代であり特殊な時代で
あったことは間違いありません。そして日本人だけでなく人類にとって普遍的な教訓
を含む時代であったとも言えると思います。僕は戦争を経験していませんが昭和とい
う時代に生きた事は間違いがなく、冷戦に関しては幼いながらも少し経験していま
す。昭和といえば第二次世界大戦、冷戦、戦後復興・高度成長などが日本のキーワー
ドとなると思いますが、今後の世界情勢・国際秩序が激変する可能性が少ない以上、
日本はやはりこの昭和という時代を基礎にして今後の時代も生きていくことになると
思います。そういった点からもこの昭和という時代を改めて認識し、後世に伝えてい
くためにも僕は昭和の日なるものをつくることに賛成です。次にもう一つの理由をあ
げますが
我々は今、昭和・昭和といいますが昭和の人は同様に明治という時代を強く意識した
と思います。封建的な幕府政権を倒し、日清戦争に勝利し、日露戦争に勝利した明治
日本というのは昭和の人にとって余りにも大きく、しかしこえるべき目標であったと
思います。そして明治をこえるためにやはりアメリカへの挑戦という形になってし
まった、こんなことも意識下にはあったんじゃないかと思います。そして我々は同様
に昭和という時代を今振り返っていますが、昭和という時代を乗り越えようとするわ
けでもなく反面教師にするという事もなくただただ否定しているように思えます。反
面教師にすることがないというのは行き過ぎてしまって戦争・天皇・愛国全てをタ
ブーにしてしまい反面どころかその教師全てを否定しているような気がしてなりませ
ん。戦争を起こした昭和はわるいからこの時代は封じ込めろ、戦争を起こすことに
なった天皇制は廃止せよ、という風で、本当に我々は昭和から学んでいるのか疑問を
抱かざるをえません。この点からも是非昭和という時代を否定するだけの暗黒時代に
するのではなく現在にそして未来へと生かす時代にして欲しいと思います。
A高校卒 A大学文学部2回生 A 20歳
突然のメールで失礼しました。



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