2000年5月10日(水)

寂光院のかなしみ


寂光院の思い出

 一夜明けて、少しは落ち着いたので、昨日のショックと悲しさについて、書こうと思います。心の底から本当にかなしい出来事でした。自転車にのって逃亡したという放火犯人が考えていたことを想像しようとすると、絶望的な気持になります。僕が大切にしている何百もの文化財を燃やしてしまうことなど、簡単に出来てしまうからです。

 今日は『平家物語』の大原御幸の話を書こうと思っていましたが、ほとんど同じ内容が、今朝の天声人語に含まれていたので、要点だけを書こうと思います。

 京都に通い続けていることは、いまさら書く必要はないと思いますが、大原は特に好きな所です。もうすぐ紫陽花の時期が近いから、三千院に行こうかなあと思っていた所でした。もちろん一日がかりで、勝林院、実光院、宝泉院をのんびりとまわって、東海自然歩道を歩いて、草木染めの工房や楽焼きや茶屋の前を通って、最後に寂光院への石段を登る夕方は、とてもしみじみとしたひとときです。

 京都は、ずっと、僕のデートコースで、嵯峨野、高尾、鞍馬、哲学の道とならぶ、五大地区でした。最近でも毎年一回は出かけていた大原には、様々な時期に様々な思い出がありますが、紅葉の美しさも捨てがたいし、桜の時期も初夏の新緑も素晴らしいのですが、最近は紫陽花の三千院がいいなあと思うようになりました。この前、このサイトに書いた京都の次に京都に行った時に、郊外に行きたくなって、大原に行こうと思ったのですが、少し雪が深くて、やっぱり桜の時にしようかなと思ったのが、今にして思えば最後のチャンスでした。その次に桜を楽しんだ時は、一澤帆布に開店と同時に行って、そのまま東山を歩いてしまったので、またチャンスを逃してしまいました。あの時、最後にもう一度だけ目にしておくのだったと悔やまれますが、もしも寂光院が燃えなくても、僕自身が死んでしまったら、いつでも、最後の寂光院になったわけで、最後に行った秋の寂光院の時も、これが最後になるかなあと考えながら石段を降りたことを思い出します。

 せめて、犯人がつかまって、同じ事を考える人が、必ずつかまってしまうからやめようと判断するようになってほしいものです。



壬辰倭乱

 思い出したのは、秀吉の軍が、新羅文化の素晴らしい寺院を焼き払ってしまったことです。慶州は、京都が好きなように大好きな所ですが、焼かれた寺の跡をまわる時に、もしも、秀吉軍が侵略した時に焼き払っていなかったら、今頃、法隆寺をしのぐ、すごいお寺がいくつもあったと思うと、本当に悲しくなります。その時は、膨大な人々が殺されたわけで、日本による侵略は、今回のかなしみとも比べものにならないほどの、悲劇を生み出しました。

 高校の頃は、季節に一回は訪れた寂光院ですが、まだ『平家物語』の作品世界を愛していたからではなく、知識の上での理解しかありませんでした。この話を深く愛するようになったのは、大学院の研究室旅行の時がきっかけでした。

 たしかその時は、三千院の参道にある最大規模の民宿である三千院道に宿泊して、大原をまわりました。研究室の先輩かつ恩師の奥様の名前が、建礼門院と同じ名前で、確かその時は同行して下さったような記憶もあるのですが、中世がご専門で、僕たちが勉強して読んでいる読みよりもはるかに深い鑑賞をされているのを間近に見て、『平家物語』を通して寂光院を深く愛するようになりました。

 その研究室旅行は、葵祭の時でした。ちょうど、後白河院が建礼門院を寂光院に訪ねた時期と同じでしたが、その旅では、自分らしさについて、深くいろいろなことを考えるきっかけとなりました。いつか、そのことは、まとめてみたいと考えています。

 もともとあの本堂も再建だけど、内陣は当時の風情を残していたわけで、本当に大切なものを失いました。法隆寺の金堂の壁画部分が、あの焼け落ちたままの姿で保存されていた保存館の匂いが思い出されますが、今でも目を閉じると、あの本堂の屋根のカーブや、内陣の像が、鮮やかに目に浮かびます。

 つらいことですが、せめて誰も命を落とされなかったことを、喜ぶことにしましょう。

 そうそう、今日の画像は、昨日のかきつばたのまわりに咲いている薔薇です。今、春の見頃を迎えています。


前回5/9「かきつばた発見」の内容を読む
5/8「久しぶりの学校」の内容を読む
(5/6と5/7は更新もGW休暇)
5/5「鯉のぼりの思い出」の内容を読む
(4/29から5/4は更新もGW休暇)
4/28「明日からゴールデンウィーク!」の内容を読む
4/27「健脚会と歓送迎会」の内容を読む
4/26「明日は健脚会」の内容を読む
4/25「またX線撮影……。」の内容を読む
4/24「咳が止まらなくて……。」の内容を読む
4/23「青空書斎復活」の内容を読む
4/22「愛知万博反対!」の内容を読む
4/21「水抜き開始」の内容を読む
次回5/11「『昭和の日』に反対!」へ進む
これまでの日記一覧を見る
今日のWhat's Newへ戻る