月の入り

時差ボケ

 山では、朝二時半には起きて、四時には出発します。毎朝五時には起きている僕にとっても、この暮らしは、きついのですが、ちょうど、日付変更線のあたりに旅をするような時差ボケに苦しみます。太陽の位置が変わらないので、体内時計の調節もなかなか大変ですが、特効薬のメラトニンがあります(メラトニンについては、『旅のTips & Tricks』の第69章「時差ボケ対策番外編:MELATONIN」を参照して下さい。)。
 もちろん入山する一ヶ月前から、自分の生活を早寝早起きにだんだんシフトして、食事の時間も変えて、下界での暮らしを続けながら、山の時間のイメージトレーニングをしています。そのためか、いつも夕方六時には安眠して、二時半には、ぱちりと目が覚めます(このイメージトレーニングについては、第59章「時差ボケ:対策:出国の前に」をお読み下さい。)。
 いつもなら満天の星空に感激するのですが、今年は、ちょうど月明かりが邪魔をするので、日没後暗くなった直後くらいが、一番星が見えたのは、皮肉なことです。下界では有明の月の風情は嫌いではないのですが、今年は悲しくて……。


月の入り

 僕は、日の出よりは、月の出(Moon Dawn)の方が好きですが、月の入りは、色の鮮やかさの点で、日没の夕焼けや夕映えにはかなわないかもしれません。でも、空の色の移り変わりの、繊細さとダイナミックさは、なかなかのものがあると思います。
 この二枚は、白馬大池から、小蓮華山に向かって、雷鳥坂を登る途中に、船越ノ頭の手前で、西側に見える雪倉岳に沈もうとする月を写したものです。時間差は五分くらいでしょうか。ぐんぐん明るくなっていくのは、うれしい気分です。

船越ノ頭手前で白馬大池を振り返る

 高校の頃、オルフェウスの神話に惹かれて、振り返ることに特別の意味を見出していました。人間には、全き信頼は、とても難しいのですが、オルフェウスが、アンデルセンの『とうさんのすることに間違いはない』のかあさんのように、自分が信頼している意識もないくらいに信頼していたら、振り返ることはなかったのでしょう。
 山では、僕は、いつも振り返ってばかりです。これだけ山に登っていても、いつもこのルートは登るばかりというルートがあるので、少しでも降りる気分を味わいたくて、見逃せない光景が後ろに拡がっている気がして、いつも振り返ります。
 よく考えてみると、二十歳前後の頃の大切な趣味だった「国鉄全線完乗」の時も、自分のルールとして、夜も含めてとにかく乗る、明るい時間帯に乗る、明るい時間帯に上り下りの両方に乗る、明るい時間帯に上り下りの両方の両側の窓を見る、春夏秋冬に明るい時間帯に上り下りの両方の両側の窓を見る……、のように段階を設けていて、上り下りの双方向にこだわっていました。
 振り返った白馬大池は、ガスの変化もあって、刻一刻と姿を変えていきます。

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