正倉院展

1996年第48回正倉院展 (Kirium 第18号 Oct.31.'96 pp.71-72)

 今年も、秋が深まり、正倉院展を紹介する時になった。ああ、この一年を生き通すことが出来たと、紅葉踏み分け鳴く鹿の声を聞きながら奈良国立博物館新館の行列にならんで、感慨に耽る時だ。
 今年で、48回め。東大寺裏の正倉院の虫干しを兼ねて封印が解かれるこの時期に、毎年違う収蔵品を展示する。前回"Kirium"9号の36ページに書いたように二十数年も、毎年通い続けている。
 この一年で、自分に大きな変化が生まれたことに気がついた。今年は、いくつかの展示品を見ながら、これを見るのは、人生でこれが最後かな、と思うようになったのだ。人生の折り返し地点を過ぎて、死ぬときが、より身近に実感されるからだろうか。
 もちろん、君たちが死ぬまで毎年通い続けても、すべての収蔵品を見ることは出来ないだろう。それほど正倉院はすごい。

 桐谷は小学校の時、先生に、校倉造りが伸縮する構造だから、千二百年前の物も保存されてきたと教わったけれど、それは、間違いだった。一つ一つの収蔵品が保管されている木の箱が、日本の湿気から守り続けたのだ。
 世界には、数千年前の発掘品を展示する博物館もあるけれど、正倉院がすごいのは、持ち主によって保存・復元され続けてきた点だ。こんなのは、世界に例を見ない!
 傷んだ物も、専門家によって修復され続けてきた。オリジナルを修復・保存するのは、日本文化の大きな特徴だけど、これは、またの機会に、詳しく論じよう。

 正倉院展は、創造的な人生を生きようとする人にとって、インスピレーションの宝庫だ。
 デザイン、配色の妙、テクニック……。全て、現代人には驚異と言う他はない。十代の頃、毎年目に焼き付け続ければ、あの素晴らしい色彩感覚が身に付くかなと思って、早二十数年。もちろん当時の色彩のままではないけれど、非常に保存がよいので、本来の姿が想像出来るだろう。

 "Kirium"は、見に行くことを、毎年強く提案している。歴史や美術を専門にしたい人ばかりではなく、人生を生きる感動を求める人なら、是非行ってみよう。
 近鉄急行で、名古屋から鳥羽方面行きに乗って、伊勢中川乗り換え。大阪上本町方面行きで、大和八木で乗り換え。京都方面行きにのって、大和西大寺で乗り換え。奈良行きに乗る。
 もちろん日帰りも出来て、金券ショップで千五百円前後で売られている、片道乗り放題乗車証を使えば、往復が三千円。
 親を誘ってみたらどうだろう? きっと、ものすごく喜ぶよ。

 さて、今年は、正倉院展のついでに訪れるべきものをいくつか紹介してみよう。
 まず、"Kirium"推薦のガイドブックは、山と渓谷社発行『奈良・大和路 歩く地図』。お寺の境内図まで入った地図とモデルルートの本で、いつもは、京都と一緒に一冊になっていたのが、久しぶりに奈良の単独編が出た。今なら、どこの書店でも780円で買える。雑誌のサイズで、平積みになっているよ。

 この本でも、写真入りで、奈良のランチを特集している。よく奈良の人は、ご馳走は京都に食べに行くというけれど、決してそんなことはない。リーズナブルでおいしいお店がたくさんある。詳しくは、「古都」の連載で扱うけれど、天気が良ければ、「塔の茶屋」の茶がゆ弁当3000円、雨なら「柳茶屋」の松花堂弁当3200円か、奈良町の「はり新」のかみつみち弁当2500円がリーズナブル。親と一緒なら、感動の味の「菊水楼」で食べてみたら? おまかせなら味の真髄を見ることだろう。一万円の三笠もすごいよ。
 でも、高校生なら、安さと量の「びっくりうどん」や、たぶん、日本一おいしい釜飯の「志津香」は、どうだろう? 若い頃、昔の小さなお店で、自分のお釜が炊けるのを待ったものだ。

 今年だけ見ることが出来るのが、県立美術館の『志賀直哉の空想美術館 ―文豪と美の交遊―』。彼が奈良に住んだ大正末から第二次世界大戦直前までは、『暗夜行路』を完成させた時期。武者小路実篤の『柿図』や、ブリヂストン美術館蔵のルオーの『郊外のキリスト』(ルオーの中でも大好きな作品だ)等、美術作品から志賀直哉が見えてくる。ちなみに、高畑の志賀直哉旧居は、家族への愛を実感できるね(いつか古都で扱う)。
 ちょうど、「あなたとなら大和路」観光キャンペーンの最中だから、盛りだくさんのプレゼントや、お寺の特別公開もたくさん。時間とお金がある人は、行ってみよう。

 さて正倉院展もインターネット体験できる。今年の展示品は、「奈良国立博物館」 http://www.narahaku.go.jp/ のホームページが詳しい。全ての展示品のリストなど見ることが出来るし、主な出展品は、詳しい解説を読むことも出来る。

 個人の非公式ページだけど、正倉院を扱うお薦めは意欲的な「世界の宝庫正倉院」http://www.mahoroba.or.jp/~joykun/。まだ工事中だけど、「正倉院へ行くには」、「正倉院展」「正倉院あれこれ」等、わかりやすく正倉院を紹介しているし、ファンには『正倉院年報』の索引がうれしい。

 僕も、正倉院が初めてという高校生のためのホームページを"Kirium"の中に開設しようと思うようになった。著作権の関係で画像は使えないけれど、高校生に知って欲しいことはたくさんあるんだ。

 最後に、忙しくて見に行けない人のために、正倉院展紹介のTV番組を紹介しよう。
 毎日放送系の『真珠の小箱』が3日(日)が特集する。名古屋では、CBCTVで、2日(土)朝6:45から。
 もう一つ"Kirium"9号紹介の『日曜美術館』。たっぷり40分、ハイビジョン収録の映像が楽しめる。NHK教育で、3日(日)朝9時から一時間。再放送は夜8時から。
 さあ、君は、見てから奈良へ行くか、奈良から帰って見るか? 僕は、奈良に近い名古屋に住んでいるので、行ってから番組を見て、何か発見があったら、もう一度見に行くことにしている。
 情報を一つ。番組のある日曜日の朝は、少しだけ、行列が少ないような気がするよ。

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