正倉院展

1995年第47回正倉院展 (Kirium 第09号 Oct.22.'96 pp.36)

 これからの残りの人生で、毎年一日だけ、この日は、このために過ごすと決めているものがある。それが「正倉院展」。正倉院展とも二十年以上のつきあいで、十月下旬から十一月上旬の一日、毎年かかさず通い続けてきた。
 奈良公園を歩きながら、ああ、この一年を生きることが出来たなあと、しみじみと鹿の声を聞くのだ。
 何度か展示されたものも多いけれど、まだ、一度も見たことがない収蔵品も多い。あと四十年生きることができても、毎年通い続けても、見ることができないまま死んでいく収蔵品もあるだろう。そう考えると、人生を今生きていることの奇跡が身に染みる。

 正倉院は知ってるね。大仏殿の裏側にある東大寺の正倉のことを言う。校倉造りが有名で、あの雄大な姿を見たことがある人もいるだろう。僕も、奈良公園で時間があるときは、外観だけ無料で見ることが出来るので、見に行くことにしている。あの倉で、千二百年の間伝えられてきたと思うと、やはり感動する。
 大仏開眼から四年後、天平勝宝八(756)年に、聖武天皇遺愛の品を献じ、その後の皇室の献納品や東大寺関係の仏具、古文書等も加わって、正倉院に伝わっている。
 正倉院は、実は世界でも稀な博物館なのだ。世界中にすばらしい博物館がたくさんあって、数千年昔のものが発掘されて展示してあるし、人類の素晴らしい歴史が概観できる。でも、正倉院は、持ち主によって保存され続けてきた点に特色がある。略奪品や発掘品ではないのだね。
 所蔵品の中には、世界で正倉院にしか残っていないものもある。本国の中近東では、もはや形さえわからなかったりするものが、正倉院に残っているのは不思議だね。シルクロードの終着駅と呼ばれる所以だ。
 近い将来、日本では暮らさないつもりだけれど、この時期だけは必ず帰国しようと思う。紅葉狩りをしながら、おいしい新そばや、日本料理も、堪能するつもりだ。

 正倉院展では、本物と並べて復元模造品が展示されることも多い。傷む前の本来の状態が想像出来るだけではなく、人間国宝や戦前の技芸員の見事な芸術は人々の感動をよんでいる。
 原形をとどめないものの中には大胆な想像で復元したものもある。琵琶の袋など、同じ布を反物の状態で作ってから、切って作った。陶器の模造も、焼くと大きさも変わるし、色を出すこともとても難しいのだ。
 今年は、夏の終わりに、「甦る正倉院宝物――復元模造にみる伝統美――」という特別展があった。あれだけの復元模造を見たのは、壮観だった。楽器、袋、箱……、復元模造品でさえ、芸術的な価値があるのだ。「模造」と言うと偽物のイメージがつきまとうけれど、正倉院の模造は、芸術であり、復元の創造なのだ。
 布、組紐、なども当時の色を再現する中で、現代工芸に絶大な影響を与え続けている。

 いつか、詳しく話すつもりだけれど、日本文化の保存の意味は、海外と大きく違う。法隆寺の西院伽藍など、昔のままで残っているわけではなく、何度も修理を重ねて、現代まで残ってきたわけだ。差し替えられた木材も多い。それでも、僕たちはオリジナルと意識するのだ。
 会期中、日本中はもちろん、世界中から、奈良国立博物館に人々が集まる。今年は、十一月九日まで開かれている。
 "Kirium"は、見に行くことを強く提案する。特に、歴史や美術に興味がある人や、人生を創造的に生きる人は、毎年訪れなくちゃ!
 一度でも、あれを見た人で、毎年通い続けない人がいようか!

 学割も使える近鉄急行を使うのが、三時間以上かかるけれど、一番安い。名古屋から伊勢・鳥羽方面行きに乗って、伊勢中川で、大阪方面行きに乗り換える。今度は、大和八木で、京都方面行きに乗り、大和西大寺で、奈良行きに乗り換える。もちろん日帰り可能。奈良には八時間滞在出来る。よく金券ショップでは、千五百円で近鉄にどこまででも一回乗れる乗車券を売っているから、それを使えば、往復三千円!
 時間がない人は、新幹線で京都まで行き、近鉄奈良行き特急に乗り換えればよい。一時間半で着くけれど、往復一万円を越えてしまう。
 秋の行楽を兼ねて、家族で日帰りで出かけるのはどうかな?十一月三日や五日は学校もお休みだ。

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