新しい要素技術〜一方向性ピストンリング〜


English

 スターリングエンジンはガソリンエンジン等とは異なり密閉サイクルである為、エンジン内と外部とのガスの交換をする必要がなく、その構造を非常に簡単にすることが出来ます。ただし密閉サイクルを実現するためには、ピストン、シリンダ間の漏れを減らすことが非常に重要となります。
 スターリングエンジンは理論的にはカルノー効率と等しい熱効率を持ちますが、この高熱効率を実現するために再生器が組み込まれます。再生器は一般にステンレス製の金網等で作られ、ガスが高温側と低温側を往復する際に熱の受け渡しを行います。この再生器がオイル等で汚れると圧力損失の増加や熱伝達性能の低下等の悪影響を生じるため、一般にスターリングエンジンではピストンリングの潤滑にオイルを用いることができないとされています。オイルによる潤滑は摩擦低減という役割の他にガスの漏れを防ぐという側面 を持ち、それ故スターリングエンジンにおけるピストンのシールに関しては多くの問題が生じることになります。
 当研究室で開発された一方向性ピストンリングは積極的に圧力の働きを利用することにより、この問題に関する解決策をもたらしています。つまり、エンジン内の圧力と外部の圧力(バッファ圧と呼ばれる)との差によって、内圧の高いときには漏れを減少させ、内圧がバッファ圧より低いときにはエンジン外からのガスの吸入を行うことを可能としています。その結果、エンジン内圧力は上昇し、エンジン出力は向上します。


一方向性ピストンリングの構造

 一方向性ピストンリングは図のように4つの構成要素より成り立っています。これらはそれぞれ一番外側より実際にシリンダとピストンの間をシールするテフロン製の2本のピストンリング、シリコンゴム製リング、金属製のテンショナリングです。このうちシリコンゴムリングが一方向性を持たせる重要な働きをしています。このシリコンゴムリングはその独特な形状より、エンジン内と外部との圧力差の大きさによってピストンリングのシリンダに対する押しつけ力が変化します、つまり内圧が高いときにはテンションを増しガスの漏れを押さえ、外圧が高いときにはテンションをゆるめガスの吸入を促し結果としてエンジン内の作動ガスの平均圧力は外部より高くなります。これによりエンジンの出力の向上が図られます。



一方向性ピストンリングの動作原理

 一方向性ピストンリングの動作原理を説明するとおおよそ以下のようになります。まず右の図の左側のように圧力P1がP2より高いとき、シールリングはP1に押されてP2側にずれます。この時ゴムリングの切りかきから、P1側のガスがリングの背面へと流入し、シールリングを外側に押し、これにより漏れが減少されます。逆にP2がP1より高いときには、シールリングはP1側に押されますが、この時はP2側にはゴムリングの切りかきが無いため、リングの背面へはガスが流れません。このためシールリングのシリンダ壁へのテンションは、テンションリングのテンションのみとなり、ガスのP1側への流入がしやすくなります。



テクニカルデータ

 一方向性ピストンリングは、当研究室の多くのエンジンに使用されており、これらのエンジンは、大きな出力の向上が得られています。以下に示す実験データは水平対抗スターリングエンジンによって得られたデータです。

 この図は、クランク角とエンジン内ガス圧力との関係を示したものです。一般の3ピース型のピストンリングに比べ、一方向性ピストンリングを用いると最低圧力がバッファ圧力付近に上昇し、圧力振幅が大きくなっていることがわかります。


 この図はピストンの動きに対しての作動ガス圧力の変化を示したものです。この曲線に囲まれた面積がエンジンの行った仕事となります。赤いラインと青いラインはそれぞれ膨張側仕事、圧縮側仕事を示しています。一方向性ピストンリングを用いるとP-V線図は膨らみ、仕事が増大していることがわかります。



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