当研究室がスターリングエンジンの研究を始めるにあたり、スターリングエンジンの本質的な特性を明らかにするために、このエンジンの設計、試作が行われました。「水平対向形」は製作、各種実験や解析などの面で実験機として好都合なため選ばれたのです。
その歴史
このエンジンは初期には唯一の実験機として様々な実験に使用され、数々の成果を残してきました。当初は電熱線を巻き付けて加熱を行いましたが、後には汎用小型ガソリンエンジンと組み合わせて、その排気ガスを熱源とした運転も行われました。さらにピストンリングやリンク機構、熱交換器など、エンジン構成要素の新しい技術的な試みも取り入れられました。また、このエンジンから得られた様々な実験データより、動特性を支配する諸因子についての検討が行われ、新しい性能解析法が生まれ、最適設計手法の確立がなされました。その成果は以降のエンジンに広く取り入れられ、現在のように多様な実験機の設計、試作の礎となったのです。
このエンジンはα形スターリングエンジンで、膨張空間、熱交換器、圧縮空間を一直線上に配置した水平対向ピストン形です。膨張側及び圧縮側両クランク軸にはクロスヘッド型クランク機構を使用しており、タイミングベルトを用いて両クランクを連動させています。加熱にはシース電熱線などを、冷却には水道水による強制水冷を採用しています。
主な仕様 | ||
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行程容積 | 膨張空間 | 157cm3 ボア×ストローク:50×80mm | 圧縮空間 | 157cm3 ボア×ストローク:50×80mm |
熱交換器 | 加熱器 | 多孔、シェルアンドチューブ、内部加熱 | 再生器 | 金網積層式 黄銅 メッシュ数:50 | 冷却器 | シェルアンドチューブ チューブ数:103 |
このエンジンは膨張側シリンダライナ内に加熱器及び再生器を、圧縮側ライナ内に冷却器を、それぞれカートリッジ式に挿入できる構造となっています。そのため熱交換器、測定装置類は容易に交換が行えます。
このエンジンは様々な実験に使用されてきたため、特に加熱器が大幅な変更を受けてきました。シース電熱線をコイル状にして加熱器内に配置した「内部加熱式」、黄銅製の円柱に多数の穴を開けた「多孔式」、排気ガスを熱源とした場合に用いる「シェルアンドチューブ式」などです。「内部加熱式」のときにはエンジンからの放熱量を測定するために熱流速計を取り付けて実験が行われました。
シェルアンドチューブ式
内部加熱式
このエンジンは最も古く、様々な実験に使用されてきたため残っている実験データもかなりの数に登ります。それらを分析してみると、作動ガスの行う仕事の割に軸出力が低いことがわかります。その原因の第一に挙げられるのが、2つのクランクを連動させているタイミングベルトです。意外にもこのベルトがかなりの損失となっていることが明らかになりました。
位相差 | 90° |
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圧縮比 | 2.49 |
冷却方式 | 水道水による強制水冷 |
供給熱量 | 1kW 一定 |
加熱方式 | シース電熱線巻き付け |
バッファ圧力 | 大気圧 (101.3kPa) |
熱交換器の違いによる出力の比較
熱交換器の違いによる、熱交換器入口/出口温度の比較