スターリングエンジンの解析


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解析の必要性と目的

 熱源の多様性や低公害性などの優れた面を持つスターリングエンジンですが、現在までほとんど実用化に至っていません。その大きな理由として、他のエンジンに比べ比出力が小さいことが挙げられます。特に私どもの研究しているような低温度差スターリングエンジンの場合、低温度の熱源を用いているためにエンジンの大きさによって取り込むことのできる熱量がある程度制限されてしまいます。低温度の熱源を効率よく仕事に変換するためには各部の損失を減らし、熱を有効に利用することが必要となります。そこでエンジンの解析が重要となります。スターリングエンジンは密閉した作動ガスを用いているために比較的正確な性能解析が可能となっています。スターリングエンジンの解析はそれを行うことによって熱交換器の性能や圧縮比などのパラメータ、各種の損失などの相互間系を把握し、エンジンの最適設計、最適運転をすることによって低温度差スターリングエンジンの出力及び効率の向上を図ることを目的としています。


解析方法の概略

 スターリングエンジンの解析方法は、以下のように3種に大別されます。

1. 1st-order法 出力に影響を及ぼすいくつかの要素に対して経験的な係数をかけることによって出力の予測を行う方法です。例としてビール数などがあげられます。また、損失を考慮していない理想解析モデルです。例としてシュミット解析法、理想断熱モデルが挙げられます。

2. 2nd-order法 1st-order法の理想解析法によって解析を行った後にその結果を用いて各種の損失を計算し、結果を差し引くことによって解析を行います。例として等温モデル、断熱モデルが挙げられます。

3. 3rd-order法 流体の基礎式と各種の損失の評価式を連立して数値解析を行うことにより解析を行う方法です。この解析法では各効率と各損失の相互関係も考慮されます。例として準定常モデルが挙げられます。


解析モデルの種類

 スターリングエンジンの解析モデルとして現在までに多くのモデルが提示されてきましたが、当研究室で主に使用されている解析モデルについて以下に紹介します。

1. ビ−ル数
 ビール数BNはエンジンの軸出力を予測する簡易予測法で、スターリングエンジンの軸出力が平均圧力(bar)、パワーピストンの容積(cc)、エンジン回転数(HZ)の3つの要素の影響を強く受けることから、エンジンの軸出力LS(W)をこの3つの要素で除した無次元数の形で定義されます。現在までに高温度差のエンジンについてはその温度比ごとにビール数が示されてきました。しかし、低温度差のスターリングエンジンへの適用の例は報告されていません。当研究室ではMKS単位系を用いてこのビール数についてより広い温度範囲についての検証を行っております。

2. 理想等温モデル
 等温モデルはエンジンを各要素空間(高温空間、低温空間、加熱器、冷却器、再生器)に分割し、その空間内においてガス温度がサイクル中一様であると仮定した解析法です。このモデルはシュミットサイクルとも呼ばれ、スターリングエンジンにおいて最も代表的な解析モデルであり、解析解が存在しています。解析には平均圧力と高温空間、低温空間のガス温度が必要になります。

3. 理想断熱モデル
 断熱モデルは、熱交換器内のガスは等温モデルと同様にサイクル中一様に保たれますが、高温空間と低温空間の両空間においてはガスが断熱変化をするという過程のもとに解析を行う解析モデルです。熱の交換は熱交換器でのみ行われるという過程となり、等温モデルよりも実際のエンジンに近い解析法であるといえます。解析には平均圧力と加熱器、冷却器のガス温度が必要になります。

4. 準定常モデル
 準定常モデルは流体の基礎方程式と各種の損失の評価式を連立させて数値解析を行うことにより、解析を行う手法です。エンジン要素空間は上記の5つの空間を必要に応じてさらに再分割して解析を行われることもあります。特に当研究室の準定常モデルにおいては従来の準定常モデルが解析に熱交換器の壁の温度を使用していたのに対し、熱通過率を用いることによって熱源から直接解析を行います。さらに熱源自体の温度降下も考慮した解析モデルを使用しています。


スターリングエンジンの諸損失

 スターリングエンジンには多くの損失がありますが、ここで出力に大きな影響を及ぼす数種の損失について解説します。

1. 流動損失
 スターリングエンジンは熱交換器において作動ガスが熱交換を行うためにガスの流路が狭められます。特に再生器では非常に大きな熱の交換が行われるために大きな流動抵抗が発生します。スターリングエンジンの流動抵抗は出力に影響を与える最も大きな損失の一つです。特に再生器部分における流動損失がその90%近くを占めています。

2. 作動ガスの漏れ
 スターリングエンジンは密閉したガスを作動ガスとして用いているために内部のガスの漏れが出力に大きな影響を与えます。

3. 伝熱損失、熱伝達損失
 熱交換器からガスに熱を伝えることなく、エンジンの壁面を伝達して熱が伝わっていってしまう場合、エンジン壁から外部空間に熱が放出してしまう場合といった熱的な損失があげられます。エンジン形状が大きな場合や熱源の温度が比較的高い場合などに大きな影響があります。

4. 再熱損失
 スターリングエンジンの再生器は加熱器から冷却器へ、または冷却器から加熱器へガスが流れるときに無駄な熱交換を行わないように熱を貯えておく蓄熱式の熱交換器でスターリングエンジンの一つの特徴となっています。この再生器の効率が1であるとすると理論上は無駄な熱交換が行われることはなく、加熱器の交換熱量と膨張仕事、冷却器の交換熱量と圧縮仕事が一致することになります。再生器では非常に大きな熱交換が行われるために再生器の損失は出力に大きな影響を及ぼします。しかし、再生器の容量を増やすと流動抵抗が増大するので最適な設計ができるように注意が必要となります。


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