「〔レアカーを引きナイフをもって〕」の創作 1927(昭和2)年4月26日
   

「〔レアカーを引きナイフをもって〕」の創作
1927(昭和2)年4月26日




『春と修羅』第三集の中に「〔レアカーを引きナイフをもって〕」と題された詩があります。

『春と修羅』第三集 一〇四八 『〔レアカーを引きナイフをもって〕』
レアカーを引きナイフをもって    
この砂畑に来て見れば        
うら青い雪菜の列に         
微かな春の霜も下り         
西の残りの月しろの         
やさしく刷いたかをりも這う     
しからばぼくは今日慣例の購買者に  
これを配分し届けるにあたって    
これらの清麗な景品をば       
いかにいっしょに添へたらいゝか   
しばし腕組み眺める次第       
すでにひがしは黄ばらのわらひをけぶし
針を泛べる川からは         
温い梵の呼吸が襲ふ         
よちよちあるく鳥を追ふ       
   紺紙の雲には日が熱し     
   川は鉛と銀とをながす     
秘事念仏の大元締は         
むすこがぼんやり楊をながめ     
口をあくのを情けながって      
どなって石をなげつける       
   楊の花は黄いろに崩れ     
   川ははげしい針になる     
下流のやぶからぼろっと出る     
紅毛まがひの郵便屋         

この詩の詠まれた時間帯を推測すると「うら青い雪菜の列に/微かな春の霜も下り」 とありますから、まだ朝方の情景でしょうか、朝4時34分(日の出10分前)の空をシミュレートしてみました。
この朝の天文暦を調べると、

薄明開始  3時06分     
日の出   4時44分     
月南中   6時47分     
月の入  11時54分     

となります。「すでにひがしは黄ばらのわらひをけぶし」が東空の空の色の比喩であるならば、もう間もなく 日の出の頃でしょう。
「西の残りの月しろの」という表現があるように月齢23.8の月が出ています。 「月しろ(月白・月代)」とは、

(1)「月」                                
(2)「月が昇ろうとしている時に、月の出前の空がそのあかりで明るくなる様子」

をさす言葉です。早朝の月はもう高い空にかかっていますから、この場合(1)の月をただ単に指すものでしょう。 しかし、その方角はまだ南東からやや南に寄った程度で、「西の」という方角とは違いが生じてしまいます。 時間の考え方に問題がなければ、方角については誤った観察をしていたことになります。また、 月の位置を優先させると月が西(南西)に傾くのは10時頃ですから、もう太陽もかなり高くなった時間です。
余談ですが、この日、1927年の4月26日には茨城県稲敷郡阿波(あば)村須賀津 に隕石が落下し、当時5歳の子供の後頭部にあたり負傷するという事件がありました。この事件は新聞でも報道され、 評判になったといいます。賢治は知っていたのでしょうか?


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