「孤独と風童」の創作 1924(大正13)年11月23日
   

「孤独と風童」の創作
1924(大正13)年11月23日




『春と修羅』第二集の中に「孤独と風童」と題された詩があります。 宵の情景をうまく取り入れた描写が、まるで「銀河鉄道の夜」に登場する列車に乗って行く者への呼びかけのようです。
作品の書かれた日付は1924(大正13)年11月23日となっています。宵の情景を詠んでいますから、 その夜にでも賢治がまとめたものでしょうか?

『春と修羅』第二集 三三一 『孤独と風童』
シグナルの           
赤いあかりもともったし     
そこらの雲もけちらしてしまふ  
Yの字をした柱だの       
犬の毛皮を着た農夫だの     
けふもすっかり酸えてしまった  

東へ行くの?          
白いみかげの胃の方へかい    
さう              
では おいで          
行きがけにねえ         
向ふの             
あの              
ぼんやりとした葡萄色の空を通って
大荒沢やあっちはひどい雪ですと 
ぼくが云ったと云っとくれ    
では              
さようなら           

この中に、「東へ行くの?白いみかげの胃の方へかい」という語りがあります。 ここは、花巻北東部にある花崗岩地帯が地質図上で胃袋の形によく似ているから「白いみかげの胃(い)の方へかい」とする説が一般的 です。
ところが、童話「なめとこ山の熊」にも「胃」が登場します。しかしこちらは、「胃(こきえ)」と ルビが付られています。「胃(こきえ)」とは中国の星座「星宿」の一つを指しています。中でも「胃(こきえ)」は、二十八宿 と呼ばれ、中国ではたいへん重要なものとされていました。「胃(こきえ)」はもともと天の五穀をつかさどる星宿(星座)とされ、 「穀家(こくいえ)」が転じて「胃(こきえ)」と呼ばれるようになったと言われています。
試しに「胃」を「胃(こきえ)」として確認してみましょう。賢治の創作したとされる日の宵空を 見てみると、「胃(こきえ)」が東の空から姿を見せて出ていました。 しかし、残念なことに「胃」の拒星(中心となる星)はおひつじ座の35番星で、およそ5等星の明るさです。 詩のなかで表現された宵の「ぼんやりとした葡萄色の空」の時間にはとうてい見ることはできないはずです。 むしろその下に見える「昴(すばる=M45)」や「畢(ひつ=ヒアデス星団)」の方がイメージしやすかったと考えられます。 やはり、単に「胃(い)」よ解釈するのが自然でしょう。
『春と修羅』第一集の「冬と銀河ステーション」にも「シグナル」や「犬の毛皮を着た者」など が登場しているのも興味深いと言えるでしょう。


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