「命令」の創作 1924(大正13)年11月2日
   

「命令」の創作
1924(大正13)年11月2日




『春と修羅』第二集の中に「命令」と題された詩があります。この詩は軍隊の夜間攻撃の 命令を詠んだものです。

『春と修羅』第二集 三一三 『命令』
マイナス第一中隊は        
午前一時に露営地を出発し     
現在の松並木を南方に前進して   
向ふの、             
あの、              
そら、              
あの黒い特立樹の尖端から     
右方指二本の緑の星、       
あすこの泉地を経過して      
市街のコロイダーレな照明を攻撃せよ
 第一小隊長           
 きさまは途中の行軍中、     
 そらのねむけを噛みながら行け  
それから市街地近傍の、      
並木に沿った沼沢には       
睡蓮や蓴菜            
いろいろな燐光が出没するけれども 
すこしもそれにかまってはならない 
いいか わかったか        
命令 終り            

詩の時間設定ですが、「午前一時に露営地を出発し」ていますから、それの時間以後である ことがわかります。また、下書稿(一)によれば、「市街のコロイダーレな照明を攻撃せよ」の前に「ちゃうどきっかり 午前四時、」という部分が書かれていたことから、午前1時から4時の間であることがわかります。
詩のなかほどに「緑の星」が登場します。この星はいったいどんな星でしょうか? 方角は、 詩の内容の「南方に前進して」から視点は南にあること、そして「右方指二本」と指定されていますから「南から西」を、 時間は午前3時としてシミュレーションさせてみました。
季節がら「冬の大三角」が南中し、明るい1等星が多数またたいています。ただ、「緑の星」に 該当する適当な星が見当たりません。賢治は実際に入隊はしていませんし、詩の流れからも、想像の産物と考えるのが自然で しょうか。


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