『春と修羅』第二集の中に「〔北いっぱいの星ぞらに〕」と題された詩があります。 この詩は、1924年8月16日から17日にかけて、北上山地の最高峰早池峰山を夜歩き登山した時のものです。 詩に出てくる地名(萱野十里)から、岳の集落から河原坊に向かう途中の夜道に詠まれたものであることがわかります。
下書き の種類 |
題 | 天体に関連すると思われる主な記述 (主に手入れ前のものから抜粋) |
下書稿 (一) |
谷の味爽に関する童話風の構想 |
この清澄な月の味爽近くを |
下書稿 (二) |
なし |
この清澄な月の味爽ちかく ………星にぎざぎざうかぶ嶺線 月光を吸ふその青黝いカステーラ 黄水晶とエメラルドとの 二つの星が婚約する じつにそらはひとつの宝石類の集大成で |
下書稿 (三) |
なし |
月は右手の木立の上で 北いっぱいの星ぞらに ぎざぎざ亘る嶺線が そこでもくもく月光を吸ふ 蒼くくすんだカステラは 黄水晶とエメラルドとの 花粉ぐらゐの小さな星が 童話のやうに婚約する じつに今夜は そらが精緻な宝石類の集成で この清澄な月の味爽ちかく この清澄な月の味爽ちかく 椈の脚から火星がのぞき 月はいたやの梢にくだけ |
下書稿 (四) |
なし |
月は右手の木立の上に そこにもくもく月光を吸ふ 蒼くくすんだカステラは 北いっぱいの星ぞらに ぎざぎざ黒い嶺線が 黄水晶とエメラルドとの 花粉ぐらゐの小さな星が 童話のやうに婚約する |
下書稿 (五) |
なし |
この清澄な月の味爽ちかく 北いっぱいの星ぞらに ぎざぎざ黒い嶺線が 花粉ぐらゐの小さな星が ほのぼのとして婚約する 望遠鏡をぐるぐるさせる さういふ風の明るいそらだ またこっちではどれかの星の上あたり 天を見附けてやらうといって やっぱり眼鏡をぐるぐるまはす 鶏頭山の冠を 巨きな青い一つの星が わづかに触れて祝福すれば この清澄な月の味爽ちかく 椈の脚から火星がのぞき 月はいたやの梢にくだけ |
下書稿 (六) |
なし |
この清澄な月の味爽ちかく 北いっぱいの星ぞらに ぎざぎざ黒い嶺線が そこにもくもく月光を吸ふ 蒼くくすんだ海綿体(カステーラ) 橙いろと緑との 花粉ぐらゐの小さな星や ぼんやり白い星けむり 一つの星が 黒い露岩の向ふに沈み 椈の脚から火星がのぞき 月はいたやの梢にくだけ |
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