「みふゆのひのき」の星 1917(大正6)年2月22日
   

「みふゆのひのき」の星
1917(大正6)年2月22日



賢治は同人誌として「アザリア」第1号をこの年の7月に発刊しています。 その中には、「みふゆのひのき」「ちゃんがちゃがうまこ」「旅人のはなしから」という作品が発表されています。 中でも「みふゆのひのき」の第一首目には、星の名前を取り入れたと思われる短歌があります。

アルゴンのかゞやくそらに 悪ひのき
みだれみだれていとゞ恐ろし    

という歌です。
「みふゆのひのき」の最終句の下に、「(大正六年二月中)」と書かれていますので、その月の新月であった22日の晩19時の空をシミュレートしてみました。 句の中でアルゴンと言っているのは、実は、ペルセウス座の変光星アルゴルのことでしょうか。 アルゴル(algol)とは、アラビア語で「悪魔」を指します。 その場合、つまり賢治はこの「悪魔の星」に恐怖を覚えていると解釈できますが、ギリシャ神話では、勇者ペルセウスが首を切り落とした怪物で、なんと髪の毛が全て蛇で、その目を一目見たら石にされてしまうゴルゴンのという化け物でした。 賢治は「アルゴル」と「ゴルゴン」が一緒になってしまい「アルゴン」という言葉を使っていたのかも知れません。 星座絵などにはたいていこの星の位置にゴルゴンの首が描かれており、賢治もそういった絵を西洋の星座図などから見て知っていたのかも知れません。 アルゴルは有名な食変光星で、2.1等〜3.4等の間で明るさが変わることが知られています。
また、化学元素「アルゴン」は、太陽に最も近い惑星である、水星に多く存在することが指摘されてきました。 夜空に水星を見てその輝きを詠んだものでしょうか? 実際に検証してみると、この時期水星は明け方に出ており、太陽との離角も十分でないため観望が難しいと思われます。
以上、恒星(アルゴル)と水星に着眼してを取り上げて説明しましたが、化学を専攻している知人に化学元素のアルゴンで説明ができるかどうか確認してみました。 アルゴンは1894年に発見された元素(原子番号18)で、主な用途としては「金属溶接の際の不活性環境の提供」や「タングステンフィラメント揮発の防止」などに利用されるそうです。 従って、見近な場所では、鉄工所の溶接作業での利用などがあげられます。 賢治は溶接作業にアルゴンが使われることを知り、溶接の光をアルゴンの輝き(実際はにアルゴンが光っているのでなない)として覚えていて詠んだのかも知れません。 短歌の場合は情報量が少ないので、さまざまな解釈ができてしまいます。


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