天文屋の見た「宮沢賢治の世界展」
   

天文屋の見た「宮沢賢治の世界展」


Kenji & Event

1995年7月 東京 新宿小田急美術館にて


●生誕百年記念●
宮沢賢治の世界展

主催 朝日新聞社(盛岡会場のみ岩手県立美術館)
後援 文化庁
協力 花巻市 宮沢賢治記念館
入場料(税込)
一般 800円
大中高生600円

1995年
   7月19日〜 8月 6日 東京 小田急美術館    
   8月23日〜 9月 4日 岡山 天満屋       
   9月14日〜 9月26日 名古屋 松坂屋      
  10月14日〜11月 5日 京都 思文閣       
                             
1996年
   1月25日〜 2月 6日 横浜 高島屋       
   3月20日〜 4月 1日 大阪梅田 大丸ミュージアム
   4月25日〜 5月 7日 仙台 三越        
   5月23日〜 5月28日 博多 大丸        
   6月22日〜 7月28日 盛岡 岩手県立美術館   


昨年7月、東京・新宿の小田急で「生誕百年記念『宮沢賢治の世界展』」が始まりましたので、さっそく行ってきました。 「天文愛好者のための見どころ編」を私なりに解説したいと思います。 もし今後行かれる方がありましたら参考にして下さいね。

まず今回の目玉はなんといっても「直筆原稿」が見られることです。 しかも有名な作品のほとんどが(もちろん一部分ですが)展示されています。 あの宮沢賢治記念館でさえ、複製ばかり(本物の保存のためには仕方ないことですね)ですから、 これだけまとまった形での公開はもう一生見られないかも知れない、といったレベルです。 もう残り少ないですが、賢治ファンの方は是非行ってみて下さい。 (「銀河鉄道の夜」の方は、宮沢賢治記念館企画展示室で展示中!)

「双子の星」のコーナーには直筆原稿があります。 (双子の星とは、草下英明先生によれば、さそり座のしっぽのところにある、λ星とυ星の2つの星からヒントを得たとされています。) そこで、さそり座の写真が案の定展示されていました。 でも、残念なのはさそり座のλ星とυ星の拡大した写真が横に並べてあったのですが、その向きが横なんですね。 ミクロチェックしてしまった。(^_^;)

「銀河鉄道の夜」のコーナーは星好きの人には一番の魅力でしょう。 「銀河鉄道の夜」という童話は、現在、数種類の形で読むことができます。 これは、「銀河鉄道の夜」そのものが、未完成の作品で、原稿用紙が部分的に欠けていたり、賢治も時間をかけ細部にわたり修正していることに由来しています。

ここでぜひ注意して見てほしいのは、初期形の最後の部分です。 よく見ると、「琴の星がずうっと西の方へ移ってそしてまた蕈(きのこ)のやうにあしをのばしてゐました。」というところがあります。 しかし、「蕈(きのこ)」という文字は、当初この童話が紹介された時は、誤植により「夢(ゆめ)」として発表されていました。 科学評論家でおなじみの故草下英明氏は、自身の宮沢賢治の研究書の中でその部分の解釈を、 「琴の星(ベガ)が日周運動で西に移動し、夢でもみているように足(こと座をつくる平行四辺形の4星、あるいはε星かζ星を足にみたてて)をのばしていた。」と解釈されていました。

その後、研究者によりその部分が誤植であることが判明し、夢ではなく、「蕈(きのこ)のように足をのばしていた」となり、 意味としては「涙で目がうるんだジョバンニには、琴の星がハレーションを起こしぼやけて見え、 まるできのこが足をのばしたようににじんで見えていた。」と解釈されています。

まさにその部分の直筆原稿があるのです。確かに「蕈(きのこ)」でした。 また、その前後に賢治が何度もその部分を修正した個所があり、かなり悩んでいたことがうかがわれました。 その場面のジョバンニの様子を表現する比喩の言葉が何度となく訂正されていて、これは直筆原稿ならではの楽しみ方ですね。

それから、ここには藤井旭氏の南半球で撮影された天体写真(銀河鉄道のコースである北十字から南十字までの銀河の写真)もありました。

「ポラーノの広場」の直筆原稿もありました。ポラーノとは北極星のポラリス(POLARIS) から由来すると言われます。この戯曲の初期形の 「ポランの広場」には、登場人物の葡萄園農夫が「天の川は・・・、Xという字の形になって・・・」という会話があります。 「X字型の天の川」とはつまり、本当の天の川と黄道光が天でクロスしてX字型になって見えると解釈されています。 残念ながらその部分の直筆原稿はありませんでした。

賢治の使った同じ型の星座早見が展示されています。 これは日本天文学会が監修し、三省堂が制作したものです。 星空が黒で、グレーのカバー(枠)がついたものです。 この星座早見の南の端の枠の下(かげ)に南十字座が、「字十」として書き込まれているのですが、さすがにそこまでは確認できませんでした。 ケンタウルス座は「スルウタンケ」として書かれています。 多分賢治はこの型の星座早見を使って星を観察したり、童話の創作をしたのかも知れないな、と思うと展示品をついじっと見てしまいました。

また当時の賢治が読んだとされる、吉田源治郎著「肉眼に見える星の研究」(1922年刊行) という今ではとても貴重な本も展示されています。 「銀河鉄道の夜」に、白鳥座のアルビレオの色を宝石にたとえるところがありますが、それはなんとこの本に同様の記載があり、 賢治の星の知識はこの本からもいろいろと得ていたことが推測されます。 展示されていた本は、おおぐま座あたりのページが開かれていました。

ビデオコーナーでも、2分もので「南十字と石炭袋」を解説した番組がありました。

天文関係は以上ですが、あと賢治が妹(トシさん)の死を悼んで書いたとされる「無声慟哭」の直筆原稿や、 寒さに震える教え子に着せてあげたという賢治のマント、そして「雨ニモマケズ手帳」の本物や家族・友人への手紙の数々、皆貴重なものばかりです。

混雑するとじっくり見れないので、平日に出かけるとよいです。 それから、最後に賢治書籍の販売コーナーがあるのですが、いくつか普通の書店では購入困難なものもありましたので、要チェックです。

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