遠藤周作 1991(平成3年)年10月16日
   

遠藤周作
『深い河』創作日記
1991(平成3)年10月16日




小説家遠藤周作(1923-1996)の見た星空です。 小説「深い河(ディープ・リバー)」の創作期1990年8月26日〜1993年5月25日までの日記に記された星空です。
この『深い河』創作日記の中に、遠藤周作氏の見た星風景が2度ほど出てきます。 シミュレーションした画面は、その一つで1991年10月16日晩の空の様子です。

『深い河』創作日記より抜粋
 十月十六日(水)
 キツキ(杵築)の家老屋敷を昨夜見た。 既に日が暮れ人影のない黄昏の家老屋敷道に二人の老人が立って待っていてくれた。 私はここに二度来たが屋敷内を見せてもらったのは初めてだ。 行燈が各部屋にともされ、庭の大木が夕風にゆれ、三日月が鋭く照っている。 昔の夜がこれほど暗いとは思いもしなかった。


大分県杵築市の武家屋敷での星空です。 10月16日の日付で、「昨夜見た」と回想していますから、10月15日の宵の出来事であったことがわかります。 時刻は黄昏どき、ちょうど日の入りも過ぎて、闇に包まれようとしている頃です。 この晩の天文暦を調べてみましょう。

月の出      12時50分
日の入      17時42分
月南中      17時56分
薄明終了     19時04分
月の入      23時06分

月は早い時間にもう昇っていました。 この日の日没は17時42分でした。 薄明は19時過ぎまで続き、月の入は23時過ぎとなります。 遠藤周作氏が、武家屋敷を訪れたのは、18時頃〜19時の間であったことが推測されます。
さらに月の描写が出ています。 「庭の大木が夕風にゆれ、三日月が鋭く照っている。」と書いています。 この時間の月齢を調べてみると、7.5であったことがわかります。 数時間後に上弦を迎えようとしている月です。 従って、「三日月が鋭く照っている」という表現は、観測的というより、回想によるイメージのあいまいさいが多分に含まれていることがわかります。 最後に「昔の夜がこれほど暗いとは思いもしなかった。」と月の明るさとは対象的な表現が印象的です。



- 参考文献 -

(1)遠藤周作著「『深い河』創作日記」講談社文庫


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