「たけくらべ」で有名な樋口一葉(1872-1896)の見た夜空です。
一葉の残した多数の日記のなかには、月の様子などを記した部分がいくつか残されています。
そんな記述を手がかりに、その夜空をシミュレートさせてみました。
「全集 樋口一葉3/日記編」(1)で、本郷丸山福山町住まいの頃を綴った「水の上」期の日記、
「水の上につ記」から明治28年5月10日のなかに次のような部分があります。
十日 姉君来訪。ついで秀太郎も来る。長くあそびたり。日暮れて、馬場君、平田君袖をつらねて来らる。
今日、高等中学同窓会のもよほしありて、平田ぬし其席につらなりしが、少し酒気をおびて、「一人寐ん事のをしく、
孤蝶子を誘ひて君のもとをとひし成り」といふ。
このほどの夜とかはりて、いと言葉多かりし。孤蝶子、例によりてをかしき事どもいひちらす。
哲理を談じ、文学をあげつろうに、ほこ先つよし。
夜はいつしか更けて、十時にも成ぬ。「いざ帰らむ」と馬場君いへば、禿木子、窓にひぢもたせて、はるかに山のかたをながめつ、「いかにしても僕は帰ることのいやに覚ゆる」といふ。
「こはあまりにうちつけ也。少しつゝしめよ」と孤蝶子大笑すれば、「今しばし置かせ給へ」と、此度は時計を打ながめていふ。
月は今しも木のまをはなれて、やゝのぼらんとするけしき。
村くも少し空にさわぎて、雨気をふくみし風ひやゝかに酔ひたるおもてをなでゝゆけば、平田ぬし、「あはれよき夜や」と、かうべをめぐらしてはたゝへぬ。
「いかで一句」と孤蝶子をうながすに、 「月のまへにわか葉そよぐこよひかな」 景は句をのみ、情を没して、黙々の間に、「たゞよきよと計おもはるゝもをかし」と例の笑ふ。
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(1)「全集 樋口一葉3/日記編」小学館
(2)高橋和彦現代語訳「樋口一葉日記」アドレエー
(3)「新潮日本文学アルバム 樋口一葉」新潮社
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