平成8年度 葛飾区議会区民連合 行政視察報告@
市区町村における危機管理(1) ―自衛隊との連携の視点から―
葛飾区議会議員 木下しげき
下記のような視察を終え、11日夜10時に我が家に辿り付いた。太字が本来の視察項目であるからかなり欲張ったものになった。付合ってもらった会派の他の議員はどう感じたか解らないが、自分の自治体を真に考えるには「比較」しつつ実際に見て且つ同じ問題意識を持った他の自治体、関係当局の担当者と話し合うことが最良の勉強と信じている。
災害が日々の生活に与える影響が如何に大きいかは、1回の地震で死者5000人余。そして発災後1年半を経過して仮設住宅が立ち並ぶ神戸の状況が如実に物語っている。
いくら科学が進んだとはいえ今日の人間の知恵をしては自然相手の災害を起こさぬことは出来ない。ならば今我々が為し得ることは、いかに巨大な災害であっても被害を最小限にし且つ短時間のうちに従前の生活に復帰出来るための方策を整えておくことである。その役割は国・都・区・地域そして当然に我々自身も分担しなければならない。本稿は基礎的自治体としての区の役割の一つとして自衛隊との連携を考えるものである。その手始めの作業としての資料収集である。
これはスイス・チューリッヒで、国防軍のOBでもある「市民防災組織」訓練施設の所長の『国防軍であっても決して戦乱のためのみに存在するのでなく、国民を全ての災害から守るために存在している。ならば平素から地域防災を検討する会合にも参加することは当然である。』(2定代表質問で紹介した。「こんにちは」第32号参照)という言葉が印象的であったこと。昨年1月17日、阪神淡路大震災の時に陸上自衛隊中部方面総監であった松島悠佐さんの『阪神大震災 自衛隊かく戦えり』(時事通信社)で自衛隊側の様子を垣間見たこと。そして恩師(青山学院大学教授・佐藤和男博士)に「地域の危機管理を考えるのであれば」と危機管理を専門的に研究する『日本市民防護協会』(郷田豊会長)を紹介されたこと。これらがあいまって本格的に葛飾区の財産となるような地域防災の研究を目論むものである。(その過程で知り合った防災問題の専門家を区の担当者に紹介し、区の中に防災に関するプロパー(専門家)を育てたいという希望もある。)
国の議員ならば自衛隊の「憲法上の議論」とか「災害出動と治安出動」とかの冷戦時代の遺物(*)とも言えるが講学上はクリアされていないテーマに対面せざるを得ないけれども、地方議員の立場ではそれらは括弧に括って置くことができる。地域住民のマンパワーから自衛隊の訓練された力まで災害時には必要なのである。第一回の今回はいくつかの自治体の実践を聞いて見た。
平成8年度 葛飾区議会区民連合 行政視察日程
7月8日(月) 室蘭市 観光施策について
防災対策−自衛隊との連携について 室蘭市長との懇談 自衛隊北部方面隊幹部との懇親会
7月9日(火) 札幌市 ごみの減量・リサイクル施策について 防災対策−自衛隊との連携について 自衛隊北部方面隊 管内自治体との連携について 総監部幕僚長・幕僚副長との懇談 隊員食試食 陸上自衛隊第11師団 資料館見学 自衛隊北部方面航空隊 ヘリ搭乗視察 映像伝達装置概要について
7月10日(水)奥尻町(愛知県豊川市議員団と合同視察) 北海道南西沖地震の復興現状
7月11日(木)北海道開発局函館開発建設部 北海道南西沖地震の復興現状および管内の地 震対策について 函館市 防災対策−自衛隊との連携について
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今回の自衛隊視察には各方面のご厚誼を頂いた。まず青山学院大学教授・佐藤和男博士、防衛研修所副所長・千田実陸将補、陸上自衛隊広報室・吉田さん、前防衛審議官・平沢勝栄さん、防衛審議官・守谷さん、金町募集案内所長・園田直さん、現地北海道では、北部方面総監部総務部総務課総務班長・伊藤泰博三等陸佐、幕僚副長・奥村快也陸将補、総務部長・井村博一等陸佐、その他もヘリ班の方々等など多くの方のお世話になった、記して感謝したい。
室蘭市
防災会議条例上の自衛隊の扱い(防災会議のメンバーかどうか) | 8年一定で条例改正(市長提出、全会派一致)
自衛官を委員に加えた。 (委員:第7師団第71戦車連隊長) |
自衛隊への出動要請の件数 | 7年度:1件、8年度:1件(いずれも行方不明者の捜索、人命救助) |
自衛隊との共同訓練の実態 | 市防災会議主催の防災総合訓練に参加 |
自衛隊行事への参加 | 師団、連隊の記念行事に毎年市長が出席している。 |
自治体行事への自衛隊の参加 | 港まつりの裸みこし、冬まつりの雪像作り=自衛隊員の参加、師団音楽隊のコンサート開催(平成6年) |
自衛隊と防災セクションとの連携 | 毎年1回打合わせ会議を開催(自衛隊の主催で管内自治体が出席) |
自衛隊への市民感情 | 良好 |
奥尻町(復興対策室)
防災会議条例上の自衛隊の扱い(防災会議のメンバーかどうか) | 防災会議のメンバーにはなっていない。 |
自衛隊への出動要請の件数 | 平成5年の南西沖地震以後なし |
自衛隊との共同訓練の実態 | 特になし |
自衛隊行事への参加 | 有り |
自治体行事への自衛隊の参加 | 有り |
自衛隊と防災セクションとの連携 | 災害時の出動要請 |
自衛隊への市民感情 | 島民の一員として地域住民とも悪い感情はなし。 |
函館市
防災会議条例上の自衛隊の扱い(防災会議のメンバーかどうか) | 別紙のとおり防災会議のメンバーとなっております。 |
自衛隊への出動要請の件数 | 災害出動:昭和40年から4回、行方不明捜索:昭和60年から4回、緊急患者輸送(ヘリ)平成4年から6回 |
自衛隊との共同訓練の実態 | 各防災関係機関を含め自衛隊も参加し、毎年防災総合訓練を実施している。(平成6、7年度は海上自衛隊も参加) |
自衛隊行事への参加 | なし |
自治体行事への自衛隊の参加 | 港まつり参加(山車)、冬フェスティバル(雪像)、音楽パレード等 |
自衛隊と防災セクションとの連携 | 上記のとおり日頃からの接触があるため連携がスムーズである。 |
自衛隊への市民感情 | 市内中心部に陸自、海自の基地があり接触する機会が多い。 |
札幌市
防災会議条例上の自衛隊の扱い(防災会議のメンバーかどうか) | 委員定数=65名/防災会議委員には、陸上自衛隊北部方面第11師団第18普通科連隊長 |
自衛隊への出動要請の件数 | 山菜採り行方不明捜索、給水管破裂事故等において自衛隊派遣要請を行っており、平成8年には、1月が「豪雪に伴う除排雪活動」、6月が「山岳における行方不明捜索」に自衛隊の派遣要請を行っている。 |
自衛隊との共同訓練の実態 | 平成8年5月 救助救護合同訓練の実施
陸上自衛隊第11師団、北海道警察、及び、札幌市、小樽市、江別市、広島町、石狩町、当別町の各消防救助隊、市立病院が参画 |
自衛隊行事への参加 | 方面、師団、連隊の記念行事への参加
陸上自衛隊第11師団が実施した札幌地域の大規模地震を想定し図上訓練の参加 |
自治体行事への自衛隊の参加 | 総合防災訓練の参加
札幌雪まつりにおける雪像作り等の協力 |
自衛隊と防災セクションとの連携 | 札幌圏防災関係機関連絡会の設置
通信連絡体制の確保(有線系・無線系) |
自衛隊への市民感情 | 雪まつりの雪像作り活動や今年の自衛隊派遣に伴う活動等が報道されているが、特に、市民からの苦情等がない状況である。 |
愛知県・豊川市
防災会議条例上の自衛隊の扱い(防災会議のメンバーかどうか) | 豊川市防災会議条例に基づき市の区域を警備区域とする陸上自衛隊の部隊の隊員のうちから市長が委嘱した者として連隊長にお願いしている。 |
自衛隊への出動要請の件数 | 数年前に火災時にお願いしたことがありますがこのところはありません。 |
自衛隊との共同訓練の実態 | 市の防災訓練・水防訓練に参加してもらっている。 |
自衛隊行事への参加 | 参加しておりません。 |
自治体行事への自衛隊の参加 | 市の防災訓練・水防訓練以外は参加しておりません。 |
自衛隊と防災セクションとの連携 | 防災担当者連絡会議(警備区域内)を設けている。 |
自衛隊への市民感情 | 主義・主張によって違うが全般的には悪い感情はもっていない。 |
自衛隊側からの回答 (回答:陸上自衛隊北部方面総監部総務部)
1、管内自治体防災会議条例上の自衛隊の扱い
北部方面総監部は北海道防災会議の構成員であり、委員に総監、幹事に防衛課長がそれぞれ知事から任命を受けている。
各師団においては、下表のとおり支庁及び市町村の防災会議等の委員等に指定されている。
支庁地域
災害対策 連絡協議会 |
上川支庁
(2DHQ,2A,4AGP,3i) 宗谷支庁 (3i) 留萌支庁 (26i) 網走支庁 (25i) 空知支庁 (2A) | 十勝支庁 (5D)
釧路支庁 (27i) 根室支庁 (27i) 網走支庁 (6i) | 日高支庁 (7D) | 石狩支庁(11D,18i)
後志支庁 (11A,11AT) 渡島支庁 (28i) 檜山支庁 (28i) 空知支庁 (10i,12EGP) |
各市町村
防災会議 条例規定自治体 | 富良野市 (4AGP)
名寄市 (3i) 上富良野市
(4AGP,2TKR) 3/62市町村 | 帯広市 (5A)
釧路市 (27i) 根室市 (27i) 大樹町 (27i) 広尾町 (4i) 釧路町 (4i)
鹿追町 (5TKBn) 7/49市町村 | 苫小牧市
(73TKR) 室蘭市 (71TKR) 登別市 (71TKR) 千歳市 (11i) 追分町 (7A) 日高町 (日高駐屯地) 様似町 (7AA) 7/32市町村 | 札幌市 (18i)
江別市 (18i) 函館市 (28i) 滝川市 (28i) 上磯町 (28i)
浦臼町 (10i) 6/69市町村 |
2、防災等協同訓練の実績
(1)道主催
訓練名称 | 時期 | 場所 | 参加部隊 | 参加部隊の規模 | |
防災気象
予警報 伝達訓練 | 7.1.26 | AHQ
及び 道庁 | AHQ
NAAvnGP NASigGP |
●ヘリによる被害情報の伝達
●道庁への連絡幹部の派遣 ●道庁へ連絡員の派遣 ●方面通信群による道庁との 間のFM無線系及び多重無線系の構成 | 人員=22人
車両=7両 航空機=1機
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北海道
防災 総合訓練 | 7.8.30 | 後志支庁
岩内町 | 29i
11LogSR 11Ebn 11Avn 11DHQ付 | ●ヘリ偵察
●指揮連絡訓練 ●仮設橋設置訓練 ●緊急医療チーム派遣 ●現地指揮所開設訓練 ●救助・救出訓練 ●防疫訓練 ●給水訓練 ●林野火災空中消化訓練 | 人員=72人
車両=13両 航空機=3機
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北海道
原子力 防災訓練 | 7.10.31 | AHQ | ●緊急通信連絡訓練
●連絡・調整訓練 |
人員=6人
車両=1両 |
【略号表】
DHQ=師団司令部/A=特科部隊/ AGP=特科群/i=普通科連隊/ D=師団AT=対戦車隊/EGP=施設群/ TKR=戦車連隊/TKBn=戦車大隊/ AA=高射特科AHQ=方面総監部/ NAAvnGP=北部方面航空隊/NAsigGP=北部方面通信群LogSR=後方支援連隊/Ebn=施設大隊/ Avn=航空科部隊 |
(2)支庁・市町村主催
第2師団 | 上富良野町(2/28〜29)
美瑛町 (2/28〜29) 留萌市 (8/22) | 士別市 (8/4)
上川支庁 (8/4) | 上富良野町 (9/1)
遠軽町 (7/9) | |
第5師団 | 網走支庁 (5/9〜10)
釧路市 (8/29) 帯広市 (9/3) 本別町 (10/3) | 釧路市 (6/1) | 釧路空港 (9/9) | |
第7師団 | 登別市 (7/27)
伊達市 (10/12) 壮瞥町 (10/12) 恵庭市 (9/1) 白老町 (10/8) | 千歳空港事務所
(8/22) | ||
第11師団 | 札幌市 (9/1)
函館市 (9/1) 美唄市 (8/22) 岩見沢市 (9/7) | 滝川市 (5/30) | ||
3、自治体防災セクションとの連携
(1)通常
ア 方面総監部
(ア) 連絡員の派遣、道連絡官を道庁防災消防課に配置
(イ)
電話等による通信連絡手段の保持
・道庁直通回線(NTT)
・災害応急復旧用無線電話機
イ 各師団等
電話等による通信連絡手段の保持
・支庁直通回線(NTT)2D→上川支庁、5D→十勝支庁
・災害応急復旧用無線電話機(函館駐屯地、釧路駐屯地)
・防災相互連絡用無線機(札幌市、室蘭市、美瑛町、富良野市のみ)
その他の市町村は、周波数が異なる。
(2)災害時
ア 方面総監部
(ア) 道庁防災消防課へ、連絡員4名を派遣
(イ)
爾後、状況により幕僚副長を長とする調整所(35名)を道庁に設置する。
イ 各師団等
(ア) 各支庁に連絡員を派遣
(イ)
各隷下部隊においても、所要の連絡員を関係市町村に派遣
ウ その他
道による災害(事故)対策現地合同本部の設置に伴い要員の派遣