読売新聞・夕刊(96.3.21)

野草愛す地表数センチの視線

 東京葛飾の水元公園には、約四百六十種類もの野草が生息しているという。そんな自然の宝庫で月に一度、地面に顔をつけるようにして小さな野草を観察する人の輪ができる。地元の野草愛好家、堀トシエさん(51)を講師とする「緑の探検隊」の参加者たちだ。「丸い葉が仏さまの台座に似ているからホトケノザ」「セキショウはこれからが最盛期」。そんな説明に耳を傾けながらルーペをあてて小花の中をのぞき込んでいる。

 紫の花をつけた野草の前で、堀さんが「オオイヌノフグリは一日花。同じように見えても毎日違う花を咲かせています」と話すと、中年の女性が「ヘー、知らなかった」と感嘆の声を上げた。

 別に学校で習ったわけではない。学生時代から登山が好きで、気がついたら野草にのめり込んでいた。自分の足で見て歩き、書物をひもといて知識を深めていった。「私のは学問じゃない。地球上で人間よりずっと先輩の野草のことをもっと知りたかっただけ」。

 ひざをついて地上数センチの「先輩」と同じ高さに目線を合わせ、時には摘んだり食べたりもする。「花はこれからが盛りだけど、本当は冬の寒さに耐える姿が一番好きなんです」。野草を愛し続ける堀さんの素朴な探検に、最近は中高年を中心に五十人の枠を超える応募がある。問い合わせは同公園緑の相談所(電話=3600ー6417)。


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