"Musica Antiqua Terpsichore"

リコーダーという楽器の特徴


●楽器と音域
 リコーダーの音域と名称を示す
(↓そのうち、譜面の画像を入れる予定です)

       C-C-C Ks クライネソプラニーノ
      F-F-F  Sn ソプラニーノ
     C-C-C   S  ソプラノ
    F-F-F    A  アルト
   C-C-C     T  テナー
  F-F-F      B  バス
 C-C-C       GB グレートバス
F-F-F        SB サブバス(コントラバス)

●記譜
 リコーダーは、どの種類も実音で書かれる。
 すなわち、他の多くの管楽器のように移調楽器としては扱われない。

 テナー以上はト音記号。バス以下はヘ音記号。
 ソプラノはオクターブ下げて書く。

●楽器の特徴
 各楽器はそれぞれ2オクターブ乃至+1音の音域を持ち、C管,F管の組み合わせで、
アンサンブルを作る。
 一般的なリコーダーカルテットはSATBの4本を用いる。

クライネソプラニーノ
 クライネソプラニーノを必要とする曲は見たことがない。
 指穴の間隔が極端に狭く、男性ではまず演奏困難である。

ソプラニーノ
 非常に甲高い音のする楽器で、鳥の鳴き声を模すなどの効果音
的に使われるか、ソプラノの旋律に重ねて曲の繰り返しを装飾するなどの用途には
使われる。単独で旋律を担当することはほとんど無い。
 また、第2オクターブの最高音域は、やや頭打ちで早くかすれてしまい、実用音域
はやや狭い。

ソプラノ
 ソプラノリコーダーは、良く通る音。固い音。細い音。
 息の量が少なくて済むのでロングトーンも得意だが、とにかく甲高い音なので、
高音域のロングトーンを引っ張ったりするとやかましく感じるだろう。

アルト
 歴史的にも、ソロ楽器としてもっとも多く使われるのはアルトリコーダーで、
中庸で豊かな音を持っている。この楽器のためのレパートリーは多い。
 移調(C管->F管)してバロックのフルート作品を演奏することも多い。
 通常の最高音は第三オクターブのG'だが、古典作品にはさらにA"〜C"の音を
要求するものもある。(出せるかどうかは楽器による)

テナー
 合奏にはかかせない存在だが、一般的に音が弱い。

バス
 音色が柔らかいが、楽器の大きさがかなりの物になるので、それなりに
音量も豊かである。アンサンブルの支えには重要なパートだが、弦楽合奏の低弦の
ように大きな音はしない。
 低音楽器ほど、息をたくさん必要とするので、ロングトーンは苦手。
 最低音以外は、ファゴット的なスタッカート奏法は得意。
 また、ファゴットなどが甲高い響きを伴うのに比べて、倍音が少ないので、実際
よりオクターブ低いかのような印象を与える。
 良くできたバスは、第3オクターブのかなりの音を出すことが出来る。

グレートバス
 あまり普及しておらず、当団でも所持していないが、もともと
リコーダーは高音に偏ったアンサンブルなので、低域の補強用には使われることが
多い。

サブバス
 サブバス(コントラバス)は、ほとんど使われない。世の中に存在する楽器の数も
少ない。
 一般的なSATBの編成の曲を1オクターブ下げてTBGSとする事がある。

 どの楽器も最高音、最低音以外は運動性は悪くないが、「指が動くかどうか」
は、後述する、運指のパターンによる。

(というわけで、MATで使用することが出来る楽器はSn,S,A,T,Bの5種類。)

●音色と実用音域  リコーダーは2オクターブの演奏が可能であるが、全ての音域が同じように 鳴るわけではない。  音域と音色、強弱についてアルトリコーダーを例に取ると (低音側から順に読んで下さい)     実   音 用   高 性 音色 ↑ G × 良い楽器で鳴る最高音。ヒステリック   高 F × 一般的な最高音。かなり大きくきつい音  音 E △   D ○ きつさが目立ってくる/しっかりタンギングしないと出ない   C ○   B ○   A ○ これ以上かなり強い音   G ○   F ○ 力強い/これ以上は発音にきちんとタンギングが必要   E ○    D ○ 力強さがでてくる   C ○ やわらか   B ○ このへんから常用音域。 低 A △ ややしっかりした音になる。 音 G △ 弱い。 ↓ F × 最低音。弱々しく小さな音。/そっと吹かないと裏返る  それぞれの音の特徴は表を見ていただくとして、表の中の記号はそれぞれ   ×:音は出るが、音色的に実用性が低い。独奏曲でも稀にしか使わない。   △:使えるが、低音は弱く高音はきついため、重要なパートには使いにくい。   ○:きれいな音の出る領域。  他の音域の楽器も、上記に準じた傾向を示すが、低音楽器の方が高音、低音とも 充実した響きを出しやすく、高音楽器は細く、きつさが耳に付きやすい。  もちろん、最高音のきつい音は表現の幅として使用可能。 ●エクスプレッション  リコーダーはその構造上、音量の変化を付けにくい。  リコーダーには「良く響く息の量(音量)」があり、演奏するときはほぼその音量で 演奏する。
息圧音量音程音色
強い


弱い



高い


低い
×割れた音
○豊富な倍音
△純音に近い音色
×ぼそぼそした音
(これに加えて、音域による音色変化もある(詳細は別稿参照))
 音量を変化させ、音程を変化させないテクニックは存在するが、きわめて高度な
テクニックであり、一般的には強弱と音程は連動する。
 従って、各パートに別々の強弱を求めることは困難であるし、頻繁かつ急激な
音量変化は、音程の不安定感も伴う。
 しかし、現代音楽においては、これを積極的に利用する方法もあるだろう。

 同じ理由で、フェードイン/フェードアウトの表現も困難である。
 特にフェードアウトは音程がぶら下がるのでおかしな感じがする。
 このような効果が欲しい場合、私の知る例では、同時になっている楽器を減らし、
音符をまばらにしていくという手法を取っている。

 このような強弱に伴う特性によって、リコーダー音楽は、楽曲も、演奏も
オルガン音楽に類似したテクニックが利用されることが多い。すなわち、
エクスプレッションの多用によるロマンチックな表現よりは、リズムの揺らぎや"間"
と言うような表現を活用する。

 一方、全体の傾向として、高い音の楽器ほど大きな音がする。
 また、一本の楽器の中でも、高い音の方が音量が大きい。

 このことは、リコーダーアンサンブルでは、「強烈な低音」という表現は不可能で
あるという結果を示している。
 ここでは、上記のオルガン的表現を適用することが出来ない。

 この問題に関しては、同じ高さの音は、低音楽器で演奏する方が大きな音になる、
という現象を利用することが出来る。
 つまり、ソプラノリコーダーの最低音Cは、弱々しい音しか出せないが、アルト
リコーダーでは、安定した音が出せるし、テナーリコーダーで同じ高さの音を出
すならかなり強い音が期待できる。

 反対に、弱い音を要求する場合にはごの現象を逆に応用することで可能になる。

●運動性一般
 運動性は、あまり難しくしない限りは練習でカバーできる物ですが、一般論を少し。

 管楽器一般の特徴として、跳躍よりスケールの方が容易。
 あまり早いアルペジオは難しい。
 音の出にくい音域での運動性は落ちる。

●半音階と運動性
 熟練した奏者は何でもこなす(当たり前(笑))が、一般的にリコーダーが苦手とする
音について記述する。

 まず、リコーダーは管楽器の中ではもっとも素朴な構造を持つ部類に入る。
 他の管楽器のように、半音を出すための機械的しかけが無いため、半音低い音を
出すためには、一つとばして下の穴を押さえるなどの指使いをする。(これを、
フォークフィンガリングと呼ぶ)

 このように複雑な指使いが必要となるため、半音階的旋律は運動性が落ちる。

 一般的なリコーダーのための音楽、編曲では調号は#,bともに二つくらいまでの
ものが多い。それ以上に臨時記号が出現する場合、ゆっくりな曲、あるいは、
単独で出てくる臨時記号は普通にこなせるが、半音階が連続すると難易度は高い。
(フォークフィンガリングで、一度にたくさんの指を動かす必要があるため)

 トリルは、そのための換え指がある場合が多いので、演奏可能。(難しい音もある)
 
 半音の中でも、楽器の最低音から二つ(F管ならF#,G#,C管ならはC#,D#)は
ダブルホールになっているため、特に出しにくい。
 たとえば、F管でF,F#,C,C#と、素早く半音で上がるとか、F,F#のトリルなどは、
不可能に近い。指使いも困難だし、音も出にくい。
 単独で、あるいは離れた音域からF#,C#を出すことは簡単である。


●独奏用楽器/合奏用楽器の音色  リコーダーの音色は、他の多くの管楽器があるていど自由に、音色を コントロールできるのに対し、息圧と連動しない音色変化は望めない。  息圧−音程−音色は「エクスプレッション」の項で説明したとおり。  音色が音程とは独立に変えられないのは、フルートなどと違い、息の吹き込み 角度が楽器の構造で固定されているためである。  これは、リコーダーの音色は奏者の違いより、楽器の個性が優先するという ことである。  つまり、楽器の音色は「ウインドウェイからエッジまでの形状、及び管の内径」 で決定され、 「ぽ〜」「ぴ〜」「び〜」などの基本的個性が出来る。  立ち上がりの鋭さも(タンギングだけでなく)楽器の個性が大きく影響する。  独奏楽器として伝統的な意味での「リコーダーの良い音」とは、リード楽器の ような、鼻にかかった「び〜ん」という音といわれている。  そのため、一般に独奏用の(高価な)楽器はきつい音、安価な楽器は柔らかい音 という傾向がある。  そういうわけで、小学校の器楽合奏のイメージからすると、「ほわん」とした イメージを抱くかも知れないが、実際には、壊れたオーボエのようなきつい音も 出る。  プロのリコーダーアンサンブルでは、曲によって楽器を使い分けるというのは 一般的。  また、倍音の少ない楽器ほど(合唱と同じように)、アンサンブルでは解け合う。  一方ソロ向けの楽器はたとえば、モーツァルトの曲のメロディーを取るには合 うけれど、バッハの曲には主張しすぎて向かないというようなことも言える。  ヤマハの樹脂のリコーダーを例にあげると  ・YRS-28B \1,100 合奏用   柔らかい音、立ち上がりが遅い。低音重視  ・YRS-38B \1,500 中間モデル   ・YRS-302B \1,800 独奏用   きつい音、立ち上がりが速い。高音重視。  と三つの機種があり、価格だけでなく、それぞれ音色傾向が違う。  これを考慮して作曲家が、楽器の音色傾向を指定することも考えられる。  ただ、柔らかい音が理想でも、そういう楽器で跳躍の多いフレーズなど演奏す るのは難しいので、最終的には曲の内容によって演奏者が決めることが必要だろ う。
文責:唐澤 清彦

[目次]