映画館がやってきた!

VPL-VW10HT試作機見聞録

 99年9月26日、AVAC横浜店で開催された『SONY VPL-VW10HT』 の試写会に参加して、都合4時間近く観察してきました。
 これは、その印象の一部始終の記録です。(1999.9.26(9.30改訂))

デモの内容

 試写会は、1.ベースバンドHD映像によるデモ、 2.パソコンによる機能のプレゼン、3.DVDの試写、の三パートで進行しました。

■ベースバンドHD信号

 地球上でもっとも高精細に信号によるデモ。とはいうものの、 一般人の手には入らない高画質ということで、担当者自身「反則技」とは言っていたが、 その美しさは言語に絶する。
 女性の肌のクローズアップで、飛び散るファンデーションの粒子や産毛まで 見えるというほどの精細度で、こういう画像を見てしまうと衛星放送のデジタル化や、 ハイビジョンDVDの実現が一日も早く来ることを祈りたくなる。

 試作機は、縦横方向に走る線状のノイズや、RGBパネルに各一つずつの常時点灯 ドットがあるなど、パネルに起因すると説明された不具合が有る状態だが、頭の中で それを補正してやれば(^^)、夢のような高画質だ。

■機能の説明

 試写会の流れとしては、はっきり言って「説明はいいから映像を見せてくれ!」 という感じだが、ともあれ機能説明。

●排気の静音化
 新たに『シロッコファン』を採用し「ホームシアター専用機として、排気音が静か」だ というのが大きな売り。
 体感的には、試写会の人間が ざわめいている状態なら、本体のすぐ後ろに座ってもまるで排気音がしない。前方、 手が届くほど 近くに座ったときのみ、かすかな「シュー」という音が聞こえる。資料によれば、 従来比-30dbという。
 他機種の比較で言えば、試写室に電源の入ったL10000が有ったが、これが 動いているときには、VW10HTが稼働しているのに気づかないほど。
 つまり、排気音がゼロではないにしても、他機種と比べて「ブッチギリの静けさ」 というのは間違いない。会場からは「これほど静かになるなら、もっと早く静かに してくれれば良かったのに」という感嘆の声も。

●"シロッコファン"とは?
 エアコン、台所の換気扇、一部のCPUクーラーなど、送風機一般で大風量・静音設計 が必要な用途に使われるファンで、通常の「軸流ファン」に対して「シロッコファン」の 動作原理は、カゴ状の羽根を回転させ流体を遠心力で加速し、カゴの中心から吸い込んで、 円周方向に吐き出す。というもの。
 シロッコファンの形状などは下記のホームページで参照出来る。
●台形補正
 +/-127段階の補正で、ほとんど無段階と言っていいほど滑らかな補正が可能。
 従ってレンズシフトはないが、高さ方向の設置の自由度はかなり高いため、 いわゆるハイマウントの設置も可能(ピント感の許す限り)。

●3Dガンマ補正
 何が3Dかというと、画面の180ポイント(x-y二次元)で、明るさのレベルごと (1次元)の、ガンマ補正が出来る。
 つまり、L10000のデジタルガンマ補正機能が、画面の各ポイントごとに最適に 設定できるとイメージすればよい。
 ただし補正量は工場出荷時に完全に調整されてユーザーがいじることはできない。 この設定がユーザーに開放されていないのは、その調整ポイントの膨大さを 考えれば当然かも知れない(厳密には測定器も必要だろうし)。
 ちなみに、試作機ではこの機能は未搭載だそうだが、一般的な絵柄を見る 限り補正無しの液晶パネルそのものの実力でも隅々までかなり均質な画像が出ており、 素性の良さをうかがわせる。

 秋葉原店のデモでちらっと聞いた話では、 「周囲8ドットの平均値を測定してコントロールする」と有ったので、 画面内を3x3ドット単位でガンマ調整できると言うことか。従来の液晶PJに良く あった、画面の隅で色あいが変化するという問題も、完全にコントロール可能に なると考えられる。
●シネマブラックモード
 光出力を75%に押さえて、黒を沈めると共に、ファンも静かになり、 ランプ寿命も延びる。
 このモードでランプ寿命はノーマルの二倍になり、2,000時間。(交換ランプは 予価5万円)
 試作機はこのモードでの調整が されていないらしく、やや色味が変化してしまうようだが、そもそも 1000ANSIから750ANSIになっても、それほど暗くなった感じはしない。
 液晶の黒浮きはいずれにしても有り、L10000と同一画面に 投影するとやや負けるレベルだが、白ピークの伸び、映像のダイナミック レンジの広さが圧倒的に優れているため、このくらいの黒浮きはまったく 問題にならないと言って構わないと思う。

 個人的には、「映画のフィルムを投影したときにも、そのフィルムの最大濃度に 比例した黒浮きは存在する」のだから、映画鑑賞にとって絶対的な必要条件では無く、 鼻をつままれても 分からないほどの暗黒は三管だけの特別な世界だとも言えると思う。
●1:1マッピング(スルーモード)
 基本的には、ビデオ信号はDRC-MFを通り、GBR入力はDRCをスルーして、 スキャン・コンバーターに入り、パネルサイズ一杯に写る。だが、 スルーモードで1:1マッピングとすることもできる。
 画面モードは、4:3映像のスルーモードと、スクイーズ画像の横拡大のみ するスルーモード、それと、パネル全面を使用する普通のワイドTVに搭載さ れている各モードがある。

 試写会の参加者の中には、「スルーモードで使用したい」と考えている 人が何人も居たようだが、DRC-MF + 高性能スキャンコンバータを通った 絵は従来の液晶PJのズームモードの画質に対する固定概念を明らかに越えており、 スルーモードを使用する必要は全くないと思えた。
 VW10HTでは、新液晶パネルの高解像度による滑らかな画像を楽しむ方が本来のあり方 だろう。逆に言えばこのスルーモードは、一本の線が絶対に重要なパソコン画面 の表示はともかく、「フルサイズ表示でもこんなに鮮明だという比較デモのため」に 有るのではないかと思える。

●リモコンとメニュー画面デザイン
 十字キーと[ENTER]で、すべての操作が可能で、非常にわかりやすく、 デザインも上品。細かなところだが好感が持てる。
 本体上のキーも十字配列で、しかも自照式。暗くしたシアターでも手探りで プチプチ操作できるのは便利で、他社の操作感について研究している感じがするし、 なにより高級感がある。
 また全ての設定を記憶させ、6つのキーで直接呼び出せるので、一旦設定すれば、 家族にも使える簡単さ。(ただし、試作機では動作せず)

●液晶のゴミ掃除
 「液晶のゴミ付着/掃除対策」についての質問に対して、担当者氏は、 「ゴミは入らないように出来ています」と断言。
 本当なら頼もしい限り(^^?
 ちなみに、ちらと見た試作機のランプ時間は17時間で、当然ゴミっぽさは無い。

■(お待ちかね)DVD実写

 スクイーズソフトのデモとして、『ロスト・イン・スペース』
 ちなみに、スクリーンはスチュワートのマットHD130、4:3、130インチ(?)
 メーカーの人の言うにはこのプロジェクターは、マットを使って絵作りを しているとか。

 デモは冒頭の宇宙戦シーンで、暗くて地味な映像だが、暗いシーンも見やすい。 途中で同じ映像が会場の隅にあるTVモニタ(BVM?)に出ていることに気がついたが、 発色はほとんどTVモニタと同じで、ほとんど直視管並。黒つぶれなし、白飛び無し。
 R,G,Bの原色の深さも素晴らしい。
 激しい動きの部分も「動画ボケ」は感じず滑らかで、DRC-MFが有効に機能している ことを感じさせる。
 ワイドXGAのきめ細かさは、3mも離れれば完全にドットが存在することが分からなく なるくらい。もしもこの試作機にドット欠けがなければ、液晶PJで有ることに気が つかないかも知れないと言って良い。

 続いてレターボックス収録ソフトのデモとして『アルマゲドン』  このソフトでは、1:1のスルーモードと、4:3表示モード、ズームモードの 各モードの写りの違いを比較。
 スルーモードでは、640x360ドット相当、画像は最も小さい。
 ズームモードでは、1366x768ドット相当、フルサイズ画面。
 面積比で、ほとんど4倍。
 スルーモードで、かちっとした描写なのは当然だが、拡大すれば当然 VGAパネルの液晶程度には、ドットの存在感がある。
 一方、ズームモードでは、従来ありがちだった「輪郭のぼやけ」がほとんど無く、 無理に拡大した感じが無く、やや情報量を抑えたハイビジョン入力という感じ。 30インチ前後のTVではその真価が分かりにくかったDRCの倍密化が、100インチを 越えたところでフルに性能が発揮されている感じで、DVDにこれほどの画像が 記録されていたとは驚き。と言いたくなるほど。
 とにかく、ズームモードの既成概念をうち砕く画質だ。

 冒頭から激しい動画の連続で重箱の隅をつつくような見方は出来なかったが、 「穴に落ちた犬」の毛並みがつぶれずに「毛の質感」が出ているとか、 「石油採掘基地のゴルフ」シーンのティーショットの拡大画面で、ボールと芝が、 驚くほど立体的に生々しく見えるというのが印象に残った。
   詳しく見ていくと、輪郭のシュートが非常に細く、電気的な強調で先鋭感 を稼ぐようなことをしていない、滑らかな描き方だということにも気付く。
 とにかく、コントラスト、解像度、色再現、すべてが、液晶と言うよりは、 ブラウン管の画像に近いレベルに到達している。VW10HTと比較すべきは 三管式と言っても良い。

 実際の映画を見ながらの画質コントロールは、ブライトネス/コントラスト ともに、広い範囲で滑らかに設定出来、従来の液晶のように標準値から大きく 動かすと完全に破綻するというようなことが無い。これも、基本性能の高さを 感じさせる所だ。
 今回のデモでは、ブラウン管に近い色温度で、カチっとした印象が強い 絵作りだったが、これだけ設定の許容範囲が広ければ、低めの色温度で、 フィルムライクなしっとりした画調もパラメータの追い込みで十分表現できるに違いない。

番外編と、試作機の印象

 メーカーのデモが終了したところで、店内に常設されているL10000との 同時試写を実施。ソフトはアルマゲドンなど。
 並べると、思わずうなってしまうほどの差を見せつける。これで、発売二ヶ月前の 試作機なのだから、製品版への期待はさらに高まる。
 まず、黒浮きはVW10HTの方が多いのだが、全体のコントラストの ダイナミックレンジとなると、VW10HTの圧勝。
 同じ絵を並べてみると、絵の中のハイライト部分を L10000がなだらかに纏めて階調を出し、白を飛ばさないように工夫しているのに 比べると、VW1OHTはハイライトをどこまでも伸ばし、まぶしいくらいの 白ピークが出ている。この「白のピーク感」が威勢の良いブラウン管的な 絵の理由なのだろう。
 「1000ANSIルーメンが眩しいか否か」という問題も、これで解決した。 つまり、まぶしさは「輝く白ピーク」を出すために温存されていて、通常の 画面ではL10000より若干明るいと感じる程度の輝度になっている。

 発色については、今回のVW10HTのデモ機の色温度はかなり高くモニター的で、 白が本当に白いことが、より健康的な肌色を実現している感じである。
 ちなみに、VW10HTの色温度設定は、 「たかい、ひくい、カスタム(数個のメモリー可能)」となっている。

●映画館の色温度とVPL-VW10HTの白
 有楽町の映画館で『エリザベス』のエンドロールを見ながら、「映画館の 色温度は低いなあ」と思う。
 今回のデモに使われていたL10000の色温度は映画館に近い。 つまりかなり赤い。VW10HTの色温度(デモに使われていた設定)は、 ブラウン管の白。とことん白い。ただし、VW10HTの場合は色温度の設定も 「ひくい」にするとL10000と似た感じになり、「カスタム」設定では 幅広く調整可能なようなので、そのへんの自由度には期待したい。
 ズームモードの解像感については、アルマゲドンの冒頭の、駅のガラスを 突き破って隕石が落下するシーンで吹き飛ぶ「発車案内の掲示板」の細かい 白文字が、VW10HTでは当然文字は読め ないもののかなり「細かい文字」として表現される。それと穴に落ちた犬の 毛並みがぶわぶわせずにそれなりに表現される。このへんが、比較上映で VW10HT(DRC-MF)のアドバンテージと感じたポイントだ。
 斜め線のジャギーや、縦スクロールで走査線が目立つこともほとんど感じ られない。DRC(4倍密)唯一の弱点のフリッカーも、液晶はそもそもフリッカー が出ないので皆無。DRC(4倍密)の良いところだけが生かされた感じが する。
 輪郭のシュートの細さも、比較すると差は出る。より自然な感じ。

■結論

 総合的に考えると、今まで「L10000の画面は精細だが、Z5000のような 爽快感に欠け、かといってZ5000のツブツブした画面は耐え難い」という 理由でどちらも買わずに単板式のプロジェクタで我慢(待機)してきた私にとって は、まさに「理想のプロジェクタ」といえる。
 すなわち、Z5000を越えてブラウン管の域に迫る元気の良い画像で、 画素の存在が全く感じられないほどの精細でシャープな画面。今ある 人気機種の両方の長所を、より以上に備えたプロジェクタ、それが VPL-VW10HTだと言える。

AVAC秋葉原店シュートアウトイベント

 10月11日(月・祝)のAVAC秋葉原店シュートアウトイベントに参加した際の感想。
 このイベントは、あの鈴木さんの進行で彼のお薦め映画満載で進められ、

 ・AV用PJ VPL-VW10HT,XV-Z5000,LVP-L10000(VC-2001付き)
 ・データ用 VPL-S900J,XV-N1500,DIL-AG11

 を同時に見ることが出来た。
 データ用の中では、ビクターのDIL-AG11(\1,398,000)がしっかりした色合いを見せていたが、 画素変換の能力のためか、もうひとつきりっとした表情に欠け、その他のデータ用は、やはり 明るさとメリハリ重視で、映画用としては不満点があるようだ。
 そのようなわけでAV用の三機種を重点的に見た。

●LVP-L10000(VC-2001付き)

 今回初めて見た映像としてLVP-L10000(VC-2001付き)に注目してみた。
 このイベントでは、比較のためにちょっと素のL10000を見せた他は、基本的に このビジュアルセンター付きの映像での上映。
 VC-2001を入れることによる変化を、その機能ごとに確認してみると、『Y/C分離』 については、入力のLDPが頑張っていたためか良くわからなかった(ちょっとしか見てないし)。 いずれにしても十分な性能だと思う。
 『カラーデコーダー』については、素のL10000の絵と比べると、確かに 色の深みは増すような気がする。しかし、常に乳白色のベールをかぶったような独特の 眠い感じはVC-2001では改善されず、雑誌にあるように「カラーデコーダーが優秀」で有る としても、あくまで接続するプロジェクターの表現力の範囲内での改善であることは明らか だったと思う。つまり「まるでL10000で無いみたい」には、成らない。良く見るとひと味違う という感じ。
 そんなわけで、雑誌の記事はちょっと大げさではないかと感じた。
 『プログレッシブ変換』は、タイタニックのLDで見た限りではなるほど「動きボケ」を 見事に押さえている。この効果は「シャープな細線を持つ絵柄に対するゆっくりとしたパン」 などという、分かりやすい絵なら誰でも納得できる効果だ。
 最近気にして見ていたところ、キャメロン監督作品(ex:T2,トゥルーライズ)には こういうカメラが動き回る映像が多い。キャメロン好きには嬉しいかも。
 プログレッシブ化で解像度が向上するか、という点については確認できなかった。

 ちょっと気になったのは、タイタニックの冒頭、水中ライトに照らし出されて見える 水色のグラデーションが階調落ちして等高線状に見えたのには「ゲッ」となった。
 これは、VC-2001か本体のせいか、どちらの原因かは分からないが、VC-2001を通すことで 映像のAD/DAコンバートが一段増えることが影響しているのではないかと思える。  発売前の商品であり、微妙な相性の問題で、ほとんどの絵柄では気にならないのかも 知れないが…。

●追記1: 掲示板にて、この「階調落ち」について、HiViのL10000の記事でたびたび出てくる 「朝沼ガンマ」のせいではないか?という意見を聞いた。朝沼ガンマにすると 「かなり青っぽくて階調がガタガタする」のだとか。
 HiViの記事を見ると、確かに暗部のレベルに急なカーブが設定されているように見える。
 この試写会のガンマ設定がどうなっていたのかは未確認だが、購入を考える人は 標準ガンマでの確認をした方が良いようだ。
 朝沼氏の設定がうまくないのは氏が趣味に走っているせいかどうかはわからないが、 液晶パネルそのものの特性に、初期出荷分と現在の機械では差があるとか、そもそも かなり個体差(ばらつき)があって一律に最適解はないとか、そのような理由があるの かも知れない。
●追記2: メールにて「国内版DVDでは等高線状に見えるのが正しいと思います。 よく見れば等高線という程度ならオリジナルに含まれるもの、はっきり見えるなら 浅沼ガンマのせいではないか」というご意見も頂きました(ばあなさん)。シーンに よっては確かにそれもあるかも知れません。色々な話が絡まっていますね。(99.11.22)

●毎度おなじみのZ5000について

 唯一640*480の素のNTSCが基本のプロジェクターだが、元気の良さには好感が持てる。
 白も黒も強調してメリハリを出しているのは「巨大テレビ」という感じで、映画の 雰囲気はないけれど、こういう物だと思えば視覚的にフラストレーションを感じること はない。一つの解ではあると思う。
 ドットが目立つのは当然だが、細工のないNTSCそのものの解像度なのだから、今回は 他のXGAプロジェクタのスキャン・コンバートの能力のリファレンスとしても役立って いたと思う。
 ちなみに、XGA対応データPJのXV-N1500も、色合い、メリハリの点でNTSCに対する印象は 似ている。つまり、「これがシャープ色なのかな」という感じ。

●VW10HTについて新たに感じた二三の事柄

 まず、横浜で見た機械とは別物のようで、ドット欠けは有ったが、あまり目立たないよう に思った。次に、全黒での黒浮きは、今回はL10000より押さえられてトップクラスと言える のではないかと思った。縦横に走るノイズはまだ少しあって、絵柄によっては気になる。
 今回は、そんな状況での試写である。

 最初はパイオニアの高画質デモDVD
 ぴかぴか、きらきら、こってりとした原色の世界は「どのPJもそれなりに良いじゃん」と いう感じで、原色の純度などにはそれなりの差があるが、どれも爽やかな絵。厳しい気分に ならないと全部よく見えてきて収拾がつかない(笑)
 しかし、横浜の視聴会でVW10HTの「白のピーク感」について褒めたが、今回の視聴会で 他のPJと比較して真っ先に感じたのは『女性の肌の階調』の良さである。
 これも本質は「白のピークが伸びている(=中間階調に余裕がある)こと」が理由だと思う が、同時に映写し ている全てのプロジェクタが、女性の肌のハイライトが階調を失ってテカっている時、 VW10HTだけがしっとりと階調を保っている。この違いは誰が見てもはっきり判る と思う。自信がなければ、手近のTVと比べてみればよい。
 VW10HTは、どんな映画のいかなる映像でも、ハイライトの階調がしっかり残り、 白いレースのドレスや、光に踊る金髪など、他のプロジェクタがもれなくベタ白に なっている場面で、一人輝く白の中にも階調を表現していた。
 ジョーズのLDの黄色い樽(ブイ?)が「今までの液プロでは表現が難しい色」として 映されたが、この樽の明るい黄色が他の液プロでことごとく浅く黄緑がかり、ハイライトは 白飛びしているのに対して、VW10HTは不思議なほどこってりと黄色く鮮やかだ。
 さらにジョーズで気がついたことは、明るい空にうっすらとかかっている雲の微妙な階調が ありありと分かったのはVW10HTだけと言うこと。データ系PJに至っては、雲があること さえ曖昧になる。
 『女性の肌の階調』なんてのは、あらゆる映画のあらゆるシーンで重要な要素なのに、 並べてみて初めて液晶PJではこんなに難しい素材だったことと、それをVW10HTがまったく 自然に表現していることに驚く。
 他の液晶PJはどんな人種も「白人」みたいになっていたのが、これなら微妙に 描き分けられることだろう。

 デモは映画らしい『暗く渋い映像表現の再現性』のチェックに移る。
 明るいデモ映像はどの液晶PJもまずまず良かったが、暗いのは全員苦手。でも 映画は暗いシーンがたくさんあるのが普通。
 ほとんどのPJがどんより白黒っぽくなってしまう暗い暗いシーンの赤が、ちゃんと 「ほとんど真っ暗な場所の赤」に見えるのがVW10HT。
 「ピアノレッスン」の彩度が低く憂鬱な色調を、彩度は抑制されているのに もっとも多くの色数を表現する。他のPJでは何となくベールを かぶったようにくすむ暗い自然の風景が、ひんやりと透き通って見える。
 私好きな映画で言えば、「レ・ミゼラブル」なんてほとんどのシーンがどんよりと暗く、 それでいて透明感があるという色調なので、このPJはかなり見せてくれそう。

 その他、「スターマン」ラスト付近の画面一面強烈な赤で、赤の陰影がある というシーンでL10000が中間階調の 黒に近い部分で青白い滲みのようなものが見られるのに対して、スキっと濁りのない 赤が見られる。Z5000だと同じシーンでは、色合いは透明感があるが、コントラストを 高く作っているので、赤は赤、影は影と、中間階調が無いのがモロに見えてしまう。
(正解は、もやが出たり消えたりしている)
 火事や爆発シーンの赤も凄いと思うので、「マスク・オブ・ゾロ」のラスト付近が 楽しみ。また海の青もきっと凄いので「グラン・ブルー」「タイタニック」「アビス」etc. は絶対に見たい。見なきゃ行けない作品リストがどんどん伸びる(^^)
 我が家の『難物ソフト』というと「地獄の黙示録」のLDがある。明るいシーンも 暗いシーンも紗のかかったようなコントラストの低いシーンが多く、時にびっくりするよ うな閃光もある。楽しみだ(^^)

 『LDも良いんです』ということで、馴染みの『タイタニック』の映像 もきっちり表現されることは分かったが、これを見て感じた最大のことは、 「アイム・フライング」のシーンがプロジェクターの機種によって、 「時刻が違って見える」ことだった。
 もちろん、もろに「夕焼け空」が写っている所はそれは(当然)夕焼け空に見える。
 しかし、タイタニックの船体に夕焼けが映っているところで、ほとんどの液プロで 色が飛んで青白くなってしまい、なんだか『タイタニックが見た最後の夕日』という 感じがしない。ただ薄暗く、日が沈んですでに数十分たった後のよう。
 このシーンでVW10HTは、最後の夕日の 赤、黄色、青、藍色、その移りゆく色合いが白い船体に映える微妙な美しさが しみじみと伝わってくる。
 他の映画でもそう思ってみると、普通の液プロはどれも「曇り空の昼間」的で、 太陽と時間を感じることが苦手。それを見せてくれるVW10HTは偉い。

 『画像の安定性』も凄い。DVDに良くあるFBIがどうしたこうした言う全面字幕 が、氷のようにピタっと安定して、揺らぎ、チラツキが皆無だ。これの安定度は データPJでは壊滅だし、シャープ、三菱も何とは言えないのだが、どこか ジラジラした揺らぎが有る。長時間見て目に優しいような気がするのは、これが原因かも 知れない。
 字幕といえば、映画の最後の字幕スクロールも、スッキリと読めてチラツキ無し。

 このちらつきの無さは、プログレッシブ処理された映像に迫ると言っても良いのでは ないか。何故かDRC-MFが嫌いな人は多いようだが、字幕と動きボケがこれほど安定して いるなら文句はない。

●AVAC鈴木さんのコメントから

 今回のイベントのPJは全て鈴木さんがセットアップしたらしいが、VW10HTだけ飛び 抜けてフィルム的なこってりした色と色温度に設定してあり、横浜で見たTV的な 色温度が高いメリハリ優先の絵とは全然違った。ここに、調整の幅の広さを 感じさせた。
 調整のポイントはソフトが持っている色と階調を余さず見せること。
 担当の鈴木さんの一言
 「私が三管PJを調整する時には『こういう絵』を目指しているのです。
 そのエッセンスがここにあるのです」

 今VW10HTにベタ惚れの私だが、まったくその通りだと思う。ただ置いてピントを 合わせるだけで美味しい色とねばり強い階調が得られ、必要と有れば幅広い調整も できる。渋い映画を見れば見るほど後戻りできない。

 黒レベルに関しても、ここまで来れば言うことはない。
 私も日記のコーナーに書いたことがあるが、「映画館の黒も光を遮って作るので こんなものです」という意見に賛成。また「気になる人は余黒を布などで遮ると良い」 というのも、わが家で実施してもの凄く効果的なのは保障できる。
 とにかく「今まで液晶で見る気にならなかった映画も、これなら見たくなる」という 意見も、宣伝ではなく本音だと思う。その推薦ぶりは、私がこうやってホームページで 一生懸命書いているのと、心は同じ。商売抜きで「このプロジェクタでたくさん映画を見てほしい」という気持ち、 興奮が感じられて嬉しかった。

■補足: 後日AVAC本店の三管PJ D50HT(とL10000の同時試写)を見たら、 パイオニアのデモソフトに出てくる女性の肌の色合いが、この試写室の三管の肌と、 試写会で見たVW10HTの肌とぴったり同じだということがわかった。 (同じ鈴木さんのセッティング?)
 実は液晶ばかり並べた中でVW10HTを見ると「異様なほどこってりとした色乗り」で 周囲から浮いて見えるほどだったのが、CRTの色再現を手本にするとここまで濃密になる という成果だったわけだ。またひとつため息が出てしまった(^^)

 イベント終了後はなんだか幸せな気分になってしまって、たぶん 一週間は余韻が持ちそう。このプロジェクタが自宅に来て毎日見られることに なったら幸せすぎで頭が破裂するかも(笑)


●補足 - 今後のデモに期待する項目
・ホワイトバランス、色温度設定などのメニューの内容確認

[3板液晶プロジェクター仕様比較]
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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!