映画館がやってきた!

YAMAHA YST-SW150の低音は遅いの?


目で見るサブウーファーの動作

 ヤマハのサブウーファーは、立ち上がりが遅いとか、音が繋がって聞こえるとか、 アンチファンが大勢いますが、実体はどうなのでしょう。テスト信号を入力して パソコンの波形観測ソフトで視覚化してみました。

■環境

・鉄筋コンクリートマンションLDK(約 3.5m * 4.5m * 2.5m(天井高) + α)
・信号源: 日本オーディオ協会 AUDIO TEST CD-1
・DAC: ノートパソコン内蔵(注:800Hzを中心に両肩下がりの特性)
・被測定SW: YAMAHA YST-SW150

・予想定在波周波数
 2.5m:68,136Hz
 3.5m:49,97Hz
 4.5m:38,76Hz

●YST-SW150スペック

●方式:ヤマハ・アクティブ・サーボ・テクノロジー方式
●ユニット:20cm防磁型ウーファ×2
●ポート口径:7.8cm
●定格出力:120W(5オーム)
●入力インピーダンス:4.7kオーム(SP入力),10kオーム(ライン入力)
●最低共振周波数:37Hz
●再生周波数帯域:20〜160Hz
●ハイカットフィルタ:40〜140Hz
●ハイカットフィルタスロープ:-24dB/oct
●消費電力:75W
●外形寸法:252W×620H×418Dmm
●重量:18kg

■周波数特性

SW 周波数特性(20-120Hz)リスニングポイント
 赤線がピークホールド値。耳には25Hzからしっかり聞こえ、40Hz以上はほぼ同じ大きさに聞こえるので、 それ以下の帯域のレベル低下はDAC及びマイクの性能限界である。
 ここでは室内ほぼ中央での定在波による山谷間に着目していただきたい。

 山:43,--,71,--,90,100,---120Hz
 谷:--,60,--,80,------,110Hz


■過渡特性

 8波のバースト信号を入力し、波形を取りました。
25Hz(320ms)
 耳には聞こえるのですが、波形は取れませんでした。たぶんパソコンのせい。 波形の最初と最後にプチっという音が聞こえる部分にだけ反応しています。
 ポートからは強風が。
31.5Hz(254ms)
 同じく「ぷち」。良く見ると全ての周波数で5ms程の「ぷち」が出た後に 波形がスタートしていることが判ります。波形の角に反応している。
40Hz(200ms)
 240msあたりに、富士山型の波が有ります。
 惰性で動いているコーン紙と、部屋の中で反射した音が位相がずれて ぶつかっているようです。60ms付近の乱れも同じ。
50Hz(160ms)
 これも、干渉による位相の乱れが観察できます。 計算上20ms以内に最初の反射波は帰ってくる。

63Hz(127ms)
 天井の定在波が一番大きく影響する帯域。
 聴感上も、音が尾を引くのが判りますし、ドアのビビリも 発生するほどです。定在波は正相

80Hz(100ms)
 逆相の定在波で、真ん中が凹んでいます。

100Hz(80ms)
 このへんから、定在波が減ります。
125Hz(64ms)
 ほぼ8波綺麗に振動した後、1波だけ惰性で振動。あとの細かい 振動は恐らく部屋の残響成分。

過渡特性考察

 8波のバースト信号を入力した結果、入力される周波数によっては、 聴感上、確かに尾を引くように聞こえたり、鈍って聞こえる 周波数が存在することが判った。これは、風評を裏付けるもの といえる。
波形を観察して特徴的なことは次の通り。  サブウーファーの構造的に音が遅れる、尾を引く原因となるのは コーン紙の質量が大きく慣性が大きいことだと思われる。
 実験結果からは、63Hzが特徴的に「音が遅れて尾を引く」という 波形を示しているが、隣の80Hzを見るとすっぱり立ち上がって、 真ん中が凹んでいる。
 計算上、発音後約20ms後から、壁面から戻ってくる音の影響が 見られるはずで、80Hzが凹んで見えるのも、63Hzが膨らんで見え るのも『定在波の干渉』の影響が大きいと見るのが妥当だろう。
 室内音響による共鳴が起きるため、コーン紙が静止しても 共鳴周波数の音は止まらず、残響が残る。
 これは、計算上の「床天井間で発生する定在波」の周波数に 近いところで、波形が尾を引く現象が確認されるので間違い ないだろう。
(注:本製品の最低共振周波数は37Hzで、この周波数近傍では慣性による コーン紙の振動が多めに出るかも知れない)

 定在波の影響を受けにくい帯域になると、たとえば125Hzでは 綺麗に入力信号の分だけ振動して、後から部屋の壁面で反射して きた音が小さく聞こえているのが観測できる。

■結論

 「サブウーファーの音が遅く聞こえ、尾を引く」という現象は  確かにあり、100ミリ秒以上の遅れになることもある。
 現象は室内の定在波の存在する周波数で発生し、 はっきりと干渉パターンを見せているのだから、原因の多くの部分は 定在波にあり、コーン紙の振動自体は聴感よりはるかに原信号 に忠実と推定できる。
 使いこなしとして、カットオフ周波数を操作して、サブウーファーの 担当周波数を60Hz以下に限定すれば、この遅れの影響はほとんど感じ ないだろう。


[戻る]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!