映画館がやってきた!

センタースピーカー Victor SX-LC33 導入記

〜 マルチチャンネルの楽しさアップ 〜

SX-LC33を購入するまで

■購入の理由は地味だった

  1. 今まで使っていたセンタースピーカーが壊れてしまった。
  2. しかし、これは修理するほどの思い入れの無いスピーカーだ。
  3. 当面の課題としてセンター無し4.1chにトライする。
  4. 結論。我が家の環境にセンタースピーカーは必要である。
 こんな流れでSX-LC33は我が家に来た。
 そもそも初代センタースピーカー パイオニア S-ST9は、リビングシアター 実践のため「小さいこと」を最大の条件として1998年当時の各種製品から選択した ものだ。
 店で聞いたときには「そこそこに良い」ように聞こえたのだが、ボリュームを 上げていくとどうも癖が大きくて良くない。エッジレス・コーンで最大振幅が 大きく取れ耐入力が大きい(150w)くせに、音質的な実用出力はラジオ並。
 それで、買い替えは数年前から決意していた。
 ところで、このスピーカー、キャビネットが「人造大理石」で、とても 重くて見栄えがよい。しかし、衝撃に弱かった。
 我が家ではリビングの窓面にスクリーンが降りてくるレイアウトで、だから センタースピーカーは小さくて邪魔にならないことが要求されるのだが、 それでも妻がカーテンを開けようとした はずみに躓いて二度ほどスタンドから落下した。二度とも私は寝室からその 落下音を聞いたが、凄く嫌な音がした(^^;
 なんと高々30cmほどの高さから落ちた衝撃で、キャビネットにはヒビが入り、 二度目にはパックリ穴があいてしまったのだ。
 自分がスピーカーを壊しても、夫が「う〜む」と呟いたきり黙っているので 妻は不思議に 思っただろうが、金額的なことはともかく「物としての愛着」は紙切れのように 薄かったのがその理由だったのだ。壊れたのがメインsp(SS-A5)だったら 私はたぶん泣き暮らしていたろう…。

■ファントム(4.1ch)再生の試み

 こういう経緯で、しばらくはセンターsp抜きの4.1chだった。
 実は、妻が二度目に落下させてキャビネットに穴をあけるだいぶ前から、 センターのS-ST9はoffになっている事のほうが多かったのだが、それは、 良質のセンター・スピーカーを導入すべきか、それともメインLRにより高品位の スピーカーを導入して4.1ch再生か、どちらがより効果的な選択かについて 悩んでいたためだ。
 前のマンションで90インチ4:3スクリーンを使用していた頃は
「ちゃちなセンターspを使うよりは、 ファントム再生のほうが良い」と言える局面も多く、センターは使ったり使わなかったり だったが、110インチ・ワイドスクリーンを使うようになってからは、
「定位感の 向上のため、センターspは必須」と感じるケースが多かった。
 センターの要否は、メイン・スピーカーの間隔と、部屋の形状に依存する。結局
 ということになる。
 小型のセットスピーカーなら、負荷の分散という意味で無条件にセンター有りが いいけれど、メインの音を生かしたいというような考えが入ると、途端に判断は 難しくなる。
 最終的には、メインの音色喧嘩しないことを条件に、映画の場合は「使った ほうがいい」ということになるだろうし、メインが2m以上離れている場合、 SACDマルチch等のソフトの存在意義も増すだろう。

■SX-LC33という選択

 音色が決めて…とはいえ、リビングシアターのスピーカーは可能な限り コンパクトで有りたい。
 S-ST9のような癖の大きなスピーカーでは何を聞いても鼻ズマリ的で 「使わないほうがマシ」なケースが 多くて、駄目だということは経験済みだから、とにかく素直な音が欲しい。
 今のメインスピーカー、SS-A5(SONY)は、伸び伸びした音の代表選手 みたいな音で、低音はたっぷりしているし、高音はさらさらと伸びている。 一昔前の、余裕のあるスピーカーならではの音だろう。
 コンパクトで、しかも色付けの極小なスピーカーを、実は何年も前から 探していたのである。
 そのようなわけで、SX-LC33は、原理的に不要な共振がおきにくく 悪い癖が出ない性質が売りのオブリコーン・スピーカーを使って いるのがまず魅力。
 雑誌の評判もやたらに良いが、それが一部の外国スピカーのように 「味わい」の評価ではなく、きちんと正確に鳴るところを評価した。
 サイズも、14.5cmユニットを載せていて、キャビネットが15cm幅 というどうなっているのか判らないけれど、スリムな設計も今回の 要求にぴったりと来た。

SX-LC33の音質

■SX-LC33の特徴と手持ちスピーカーとの仕様比較

SX-LC33製品紹介(公式) - Victor
 メーカーのページに技術解説は詳しい。
 
S-ST9SX-LC33SS-A5
種類2ウェイ3スピーカーバスレフ型(防磁形)2ウェイ3スピーカーバスレフ型(防磁形)2ウェイバスレフ型(防磁形)
ユニット8cmエッジレス・コーンx2
2.5cmソフト・ドーム
14.5cmアルミオブリコーンx2
1.9cm純金プレーティング・ピュアアルミハードドーム
20cmペーパーコーン
3cmソフトドーム
定格入力30W(JIS)60W
最大入力150W(EIAJ)120W(JIS)180W
定格インピーダンス
再生周波数帯域70Hz〜60,000Hz52Hz〜80,000Hz40Hz〜30,000Hz
出力音圧レベル89dB/W・m89dB/W・m
クロスオーバー8,000Hz4,000Hz
外形寸法W.H.D 244×106×165mm416×150×293mm
質量3.1Kg8.0kg13kg

 先代のS-ST9の特徴は、エンクロジャーが人造大理石で出来ていて新書サイズの癖に 3.1Kgもあることと、 「エッジレス・ウーファー」のため、最大入力が大きいこと。
 初めて買ったセンタースピーカーなので、家族の合意を得るために「小ささ最大優先」 でもともと音質は二の次だったけれど、 だった。
 音質はスペックには60kHzまで出るとあり、高音が得意そうな期待をさせる 割には、詰まった地味な音。 そのくせ8kHz付近に大きなピークがあり刺激的と癖が強かった。
 このスピーカーのスペアナ写真は以下のとおり


S-ST9 + SW使用・ホワイトノイズ (旧からから亭・リスニングポイントにて測定)

 8kHzのピークや、2〜7kHzの下降など、うねりの多い特性だが、最大の問題は 2,3次高調波のレベルが大きく、フルートの音色がクラリネットのように厚く聞こえる という問題だった。
 低い周波数でサイン波を入れると、元の音より大きな倍音が現れ、例えば 200Hzあたりでは、400,600,800,1000,1200…と、整数倍の倍音がずらりと並び、 波形も見事な三角波。
 しかも、この現象はボリュームを上げるほど顕著に表れ、100Hzで大きな信号を 入れると、200Hzの倍音のほうが大きく出るという始末。
 つまり、最大入力が150Wもあっても音質的実用範囲は小音量で頭打ちで、 イコライザーで周波数特性をコントロールしようとしても、入力とは違う周波数が 鳴るので、制御の仕様が無いという有様だった。
 センタースピーカーとしての実用面では、映画の台詞をメインLRから出すのと センターから出すのとを比較すると、S-ST9では若干鼻声のような癖が付き、 メインのSS-A5では、深みがあるというような違いになって現れる。

 比較の対象であるメインSS-A5は、同じ条件で大変にフラットな周波数特性

 まるで、「カタログ」のような綺麗なものだ。(低音と、高音の低下は測定に 使ったパソコンの入力特性も重なっている)
 高音は20kHzまで大きな凸凹が無くなだらかに伸びているので、実際に聞いた 感じはさらさらと繊細な感じだ。高音の印象を左右するのは1〜8kHzくらいの 周波数帯が支配的なので、この帯域がフラットなのは重要だ。

■SX-LC33の自宅で第一印象

 では、SX-LC33はメインSS-A5と並べたとき、どれほど癖の無い音で鳴るだろうか。
 設置当日の印象
 5.1chの音量バランスは、メインに対して+3.5db
 アンプテストトーンのノイズを聞くと、メインspより多少 高域が控えめで地味に聞こえる。
 エージングに時間がかかるのが定説の金属ウーファー(アルミ)であるから、 まだ馴染んでいない感じの音なのかという雰囲気がある。
 この段階では、スピーカースタンドが未入荷で「仮置き」なので、仰角を 振れないのも原因だろう。
 ただし、メインのLR間でも多少の音色の差は有って、部屋の角(吸音たっぷり) にある右sp は高音が控えめ、左に空間のある左spはやや響きが乗って派手な印象があり、 そのLRの差と比較してセンターが大きく違うという感じではない。
 というわけで、アンプのイコライザで、高音の量がLRの中間的になるよう、 センターを調整してみる。
 「人間周波数アナライザ」の能力(笑)を発揮して、約5kHz/+3.5dbほどの設定に したら、ほとんどメインと違和感の無い音色そろえることが出来た。設置をきちんと すれば、補正量はもっと減らせるだろう。
 映画でテスト
 さて、補正後『ロード・オブ・ザリング/二つの塔』などを見るが、さすがに 先代のセンターや、センター無しの状態と比べてスクリーンの幅一杯に濃厚に 音場が展開する。
 周波数帯域はカタログ値で52Hz〜80,000Hz。スモール設定で、 低音はSWに任せているが、全体の印象は とにかく締まっているのに余裕を感じる。
 開放的な伸びやかさではメインspに譲るが、台詞の 明瞭度の観点からはメインに任せた場合響きすぎる気もするので、このくらい タイトに鳴るのが 良いのかもしれない。
 とにかく、『二つの塔』の複雑な音響効果が、画面上にびっしりと並ぶ。
 左右非対称な部屋の影響で、センター無しでは左に引っ張られる感じも、 センターを入れた状態ではほとんど気にならない。
 どういうわけか、フロントからリアへの移動感まで増したのは、移動の「基点」 がぴたりと定まるからなのかもしれない。
 センタースピーカーを崩壊させてから、5.1chかファントム再生かで悩んだが、 センターを買う選択は正解だったようだ。
 とにかく初日の感想は「手に入れて良かったな〜」とじわじわ喜びが こみ上げるのだ。

■本格的調整

 購入三日目に、ソフトウェアFFTアナライザの"WaveSpectra"を使って、 センタースピーカーとメインスピーカーLRの特性の違いを見ながら合わせこんで いく。
 まず、5.1chのバランスを取り直すと +1.5db。先日の+3.5dbから2db補正量が 減った。
 もともと、カタログ上の出力音圧レベルはメインと同じ89db/Wmなので、 この短い間にも馴染んで本来の鳴りかに近づいてきたということだろうか。
 また、調整前に各スピーカーケーブルのチェックをしたところ、メイン 右の端子が僅かに緩かった。(端子のネジが半回転ぐらいした)
 これによって、メインLRの音色差は(部屋の影響によるバランスは依然として あるので完全に同じにはならないが)はっきりと改善された。わずかなネジの力 の具合で結構音が変わるのだ。
 データは、通常使用しているボリューム域で、次の4種類を取る  ただし、パソコンの内蔵オーディオボード、マイクの性能の限界により、 10kHz以上、100Hz以下は聴感より低く数字が現れている。

メインL+R(20Hz〜20kHz sweep・リスニングポイント)
 最初にメインスピーカーの周波数特性を見て旧からから亭と現在の「部屋の癖」 を見ると、現在のほうが一層なだらかな特性に見える。
 旧では、低音側、60Hz,80Hz,110Hzに特徴的なディップがあったが、 現在は、低音がなだらかに繋がり、120Hzに一箇所だけ凹みがある。
 この三つの周波数は恐らく部屋の「縦・横・高さ」に対応した定在波だが、 新では「高さ」に対応する周波数以外は顕著な表れ方をしていない。恐らく  など、部屋そのものの変化と、引越し以来響き過ぎを押さえるために 色々手を入れたことが周波数特性の平坦化に効果をもたらしていると 思われる。高い周波数の細かな凸凹はなかなか無くせないし、聴感的に 問題になるものでもない。(わずかにリスニングポイントがずれるだけで 全く結果が変わってしまう)
 いずれにしても、SS-A5は、平凡な外観からは思いもよらないほど、 帯域内はモニター的に平坦な特性で、しかも大音量の打楽器などにも 強く、ガツンとハードな音も聞かせる。良く出来た製品だ。
センター(20Hz〜20kHz sweep・リスニングポイント)
 では、メインを基準にセンターの特性を見ていく。
 スピーカーコンフィグレーションは、ラージ、サブウーファoff、L+Rの 信号をドルビー・プロロジックによってセンターに出力。イコライザーoff。
 500Hz〜3kHzが強めで、中域のエネルギーを高めた感じがある。
 ただし、背後が全部厚手のカーテンであるために低音が吸い込まれている 部分があり、スクリーンを下ろすと、このグラフより低音は増えてより平坦な 特性に近付く。
 メイン程平坦な特性ではないが、途中に大きな癖を持った帯域が無く 概ね緩やかな「カマボコ型」なので、アンプのイコライザーで、低域、高域を それぞれ補えば、メインspの特性にかなり近づけることが出来る。
 また、このグラフには現れないが、正弦波を入れたときに発生する 高調波が少なく、歪の少ない音なのも美点だ。
 低音は100Hzあたりから低下していくのはメインと同じだが、勾配が異なる。
  SW(20Hz〜20kHz sweep・リスニングポイント)
センター+SW(20Hz〜20kHz sweep・リスニングポイント)

[以前の 部屋で取った周波数特性]
 センター(SX-LC33)は、カタログ上の周波数特性は52Hz〜80,000Hzで、実際は100Hz以上は ほとんどフラット。5kHz前後に少しレベルの凹みがある。100Hz以下はだら下がり だが、メインの低下より勾配は急だ。
 前のセンターは70Hz〜60,000Hzだが、低域の低下は400Hz付近から始まって、 今回のスピーカーとは2オクターブも低域が狭く、スペック以上に開きを感じる。
 ちなみに、100Hzというは人間の声やギターの低音に近く、音楽再生ならまず この辺りまで出ていたら満足できるだろうという周波数。
 そういうわけで、実際にはメインスピーカーと、センターを聞き比べた時、 当然20cmユニットを使うメインの方がゆとりはあるのだが、意外にも ずっと小型(14.5cm×2)のセンタースピーカーも「小型」という印象はほとんど無く、 見た目よりぜんぜん良い。
 ちなみに、低音ユニットの振動版面積で考えれば、20cm 1本と14.5cm 2本は ほぼ同じで、そう考えるとメインスピーカーと遜色の無い力感が有るのは不思議 でも無いのかも知れない。となると最大の差は、箱の容積だ。
 低音の出方の差は、メインのバスレフポートがフロントで、センターはリア・ポート という構造の差も有りそう。背後の遮光カーテンがセンターのポートに対して 吸音効果を発揮しているような。
 次にFFTアナライザの画面を見つつ音色を聞く。
 テストトーンは、2ch用を使い、センターはプロロジック回路が作り出した センター信号を使用するので、アンプの性能込みの特性になるが、映画を 見たりする場合はアンプの性能込みなのだから、データはともかく実用性は 有るだろう。
 まず、センターを切り離した状態で、メインL+Rの特性を見ると、 メインのSONY SS-A5は、驚くほどフラットな周波数特性で、まるで カタログのグラフを見ているような感じもある。2,3次高調波は、ウーファーが ペーパーコーン、ツィーターが布のソフトドームなので、量はSX-LC33よりやや 多いが出方がなだらかだ。
 センターは、L+Rの信号をプロロジックで鳴らす。
 高い域は20kHzまで伸びているが、5kHz周辺が少し落ち込んでいる。低域は 100Hzからなだらかに減少。
 2,3次高調波は、絶対量が少なく素性がよい。
 先代のS-ST9の2,3次高調波は、100Hz辺りでは、元の信号より大きく出るという とんでもない特性だったので、夢のようだ(笑)
 結局聴感的には、メインに対して低音がやや薄い(タイト)のと、5kHzが 凹んでいるために地味な感じがする。これを、アンプのイコライザーで ・TREBLE 3.9kHz +3.0db
・BASS 314Hz +3.5db
と補正する。
 高音も低音も、恐らく使ううちに変化するだろう。今凹んでいる5kHz周辺は クロスオーバー周波数付近なので、なおさら変化する要素はある。全体の音量 が2日で2db変化したのだから。
 調整後は、全く構成の違うスピーカーなのにフロント3チャンネルの音は 見事に違和感なく調和した。
 スピーカーの設定をsmallにしてSWとの繋がりも設定する。
 最終的にはかなり控えめだが、何となくLargeでもいいような気がするので、 このあたりの調整はさらに煮詰めたい。
 最後に「タイタニック」を使って台詞の質感から音楽、SEの出方を確認。
 台詞では、センターのon/offでほとんど音色が変化しないことを確認。
 先代スピーカーでは、明らかに固有のキャラクタが付加されていたので、 比較してとてもナチュラルになった。ベストポジションではセンターのon/off の区別が付きにくいほど等質な音がする。
 SEや音楽、一斉に沢山の音が出ている場面では、センター有りのほうが 混濁感が無く明らかに良い。
 センターをsmallにすると低音がLFEチャンネルにミックスされるので 思わぬ爆音がすることも有り、まだまだ調整の余地が有る。単純にダイナミック レンジを圧縮してしまうと物足りないので、SWの設定で乗り切りたいものだ。
[戻る]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!