Victor SX-L33 導入記
〜 TA-DA7000ES+SX-L33による9.1chのために 〜
サラウンド・スピーカー、SX-L33という選択
■Victor SX-L33 検討
●サラウンド・スピーカ選定
今まで初めて5.1chシステムを揃えた時のパイオニア S-ST7というスピーカーを
使用してきた。
当時は家族の説得がスムーズに行くことを第一に、「コンパクトで目立たない」ことが
第一条件。とりあえず「エッジレス・コーン」で大入力でもリニアリティが高いという
売り文句も信じて。
ところが実際に使用してみると、確かにカタログ上の耐入力は大きいけれど、
音量を上げると2次、3次高調波歪が大きく出て、鼻をつまんだような音色になりがち。
早々に買い替えを検討する対象になっていた。
S-ST7は8cmウーファーを持ち、カタログ上80Hzから再生、となっているが、パソコンの
FFTアナライザソフトで測定すると100Hz以下は一直線に減衰しているのも、承知で買った
とはいえ、サラウンド側にも迫力の音が含まれているソフトでは、物足りなく思う機会が
多くなっていた。
そこで、後継のサラウンドスピーカーには、フラットな周波数特性で、高調波歪が少なく、
そこそこに大口径なユニットを使用して低音が出ること。その上で小型なことという
条件を課した。
「口径が大きくて小型」という条件を充足するために「薄型」のスピーカー
も検討したが、非常に高価な製品を除くとBOSEやLINNなど一部のメーカーにしか製品が
無く、LINNの薄型の音は悪くは無いとはいえ、もうひとつ訴えるものが足りないと感じた。
(BOSEの薄型をデモしている店もあったが、LINN以上にハイファイというのとはちょっと
違う気がした。)
そこで発想を変えて、「正面から見た投影面積が小さければ多少奥行きがあっても良い」
という考えならどうだろう…と、考えてみると、カウンターキッチンの開口部(人が通る
部分で、普段は暖簾を掛けている)からのぞく様に設置して通行の邪魔にならない高さなら
行けるのでは、と思いついた。
そうであれば、選択肢はぐんと広がる。
先に買い換えたセンタースピーカーVictor SX-LC33は、メインスピーカー(SONY SS-A5)
との相性も良く、口径14.5cmでキャビネットの幅15cmという極限のスリム設計なのも
要求にマッチしており、これと同じユニットを使用したビクター
SX-L33
に決めた。
そもそもセンターを買うときに「5.1chのラインナップが充実していること」を前提に、
これが良ければシリーズでメイン/リアの買い替えしても良いかなと思っていた。それが今回、
設置方法を思いついたことで、現実のものになった。
SX-L33は、「オブリコーン」の技術で「高調波ひずみが出にくい」のがS-ST7とは決定的に
違うし、低音も55Hzからと、見かけ以上の実力がある。なにより、センターと同じユニット
というのは音色に安心できる。
底板に4つのネジ穴がある事も確認し、設置の目処もついてサラウンドとサラウンドバック
合計4本発注である。
SX-L33 主な仕様
●種類:2ウェイバスレフ型(防磁形、JEITA)
●スピーカーユニット:
低音用、14.5cm アルミオブリコーン
高音用、1.9cm 純金プレーティング・ピュアアルミハードドーム
●定格入力(JIS):30W
●最大入力(JIS):120W
●定格インピーダンス:6Ω
●再生周波数帯域:55Hz 〜 80,000Hz
●出力音圧レベル:87dB/W・m
●クロスオーバー周波数:4,000Hz
●外形寸法:(W)150mm×(H)270mm×(D)245mm
(スピーカーターミナル、サランボード含む)
●質量:4.5kg(1本)
4本買うと現在のスピーカー(パイオニア)が余ってしまうので、「もったいない」
という理由で9.1chに進む可能性もできた
部屋を見て考えているうちに案外理想に近い配置(左右対称で邪魔にならない位置)で、
9.1chの設置が可能かもしれないとも思える。
■サラウンド・チャンネルのセッティング
- サラウンド用スピーカーVictor SX-L33到着〜仮置き
とりあえず仮設置ということで、従来の7.1ch構成のサラウンド4本を引っこ抜き
SX-L33に置き換え。抜いたスピーカーのうちS-ST7(パイオニア)
の2本は、サラウンドB系統ということで、フロントとリアの中間点に設置。
(B系統はうまい位置・高さに空いた棚があってひっそりと設置完了)
これで、9.1chシステム(ほぼ)完成だ。
とりあえず各スピーカーのレベル設定を済ませ、ここまで3時間。
アンプのスピーカー端子が入出力端子群の下にあり膨大なケーブルが覆いかぶさって
いるため、大変な苦労をした。バナナ端子を介した接続なら格段に楽になるだろうな。
本設置では、サラウンドA系統をポールに吊り、サラウンドバックの間隔を広げる
つもりだし、ケーブルも有りモノで賄っているためきちんと統一したい。
帰宅した妻には「思っていたより大きいな…」と言われる(^^; 仮設置で
とりあえず棚に載せただけなのでもっと綺麗に片付く予定。しばし待て。でも
体積的には確かに今までのスピーカーの3〜4倍はあるか?色も「黒」から「黄土色(?)」
になって目に付く。(でも、部屋の背後なんか、日常見ないよね?)
- サラウンドスピーカー設置のためのポールetcが入荷
ポールは「トスカHPシリーズ」で、BOSE用60mmピッチの穴の開いた
吊金具が存在する。対荷重10kg
Victor SX-L33は底面に76mm角の位置で4つのネジ穴がある。
そこで、100mm角(厚さ2mm)のアルミ板に、76mm角のネジ穴4つと、
60mmピッチの穴二つを開けてネジ穴変換アダプタを自作。
(アルミが案外固い&ドリルの刃がへたっている、で結構大変(^^;)
スピーカーの底板とアダプタのアルミ板の間には、2.5mm厚のコルクの
スペーサを挟む。これで、がっちり&ソフトにフィット。吊位置が視線より
高いからこの板は見えず、アルミむき出しでも見栄えは問題ない。
音の面でも、叩いて響くようなことはないので影響なさそう。
これでサラウンドA系統-LRスピーカーをリスニングポイントの後方
120度の所定の角度にかなり近い位置に設置する事ができた。高さは
ツィーターの位置で約1.9m。天地逆吊セッティングなので、ウーファー
の方が上。
サラウンドA-Rは、コンクリートの壁のコーナー設置に近く、
サラウンドA-Lは、カウンターキッチンの境界の開口部。低音の量感に
多少の差が出るかもしれないと思ったが、テストトーンを聞く限りでは
思ったより均質に近い音がしている。
- リア・センターの設置はまだまだ仮
現在はプロジェクター置き台の中に仮置き。
プロジェクターを買い換えた時に、「プロジェクター台兼スピーカースタンド」を
自作しようか…と考えている。
SX-L33の音について
■測定
恒例のパソコン用FFT測定ソフトで、周波数特性などをチェックした。
以前とはパソコン本体が変わっているので、測定用マイクに繋がるDACの
特性が向上したらしく、従来のスピーカーの
測定結果の特性も良くなっている。(以前は200Hz以下がだら下がりしていた)
これは、あくまでメインスピーカーに対する
相対的な癖を視覚化するための測定と言うことで見ていただきたい。
測定ポイントは「普段のリスニングポイント」なので、結果には
部屋の癖も含まれている。
●20Hz〜20kHz sweep信号
使用しているアンプTA-DA7000ESは、2chの入力を任意の2台のスピーカーに出力できる。
この機能を使用して、メイン2ch、センター、サラウンドの各スピーカーにてテスト信号の
CDを再生し、音色を確認する。
テスト信号のレベルは-20db、アンプのボリュームは通常の再生音量である。
メイン(SS-A5)仕様 40Hz〜30kHz
20cmウーファーの中型ブックシェルフ。カタログで40Hz〜と謳っていて、
本当にその通りなのは中々のことだ。聴感上もゆったりとしているように感じる。
3〜4kHzが他より盛り上がっているのが、華やかな音色の理由か?
センター(SX-LC33)仕様 52Hz〜80kHz
全ての帯域で特別な癖も無く綺麗な特性だが、10〜20kHzの間ではメインスピーカーより
綺麗な特性になっている。
これは、メインの古いスピーカーの特性が〜30kHzなのに対してSX-L33/LC33が〜80kHz
とだいぶゆとりがある為かもしれない。
レベルは低めだが、30Hzからそれなりに出ているのがミソ。トーンコントロールで
補正すれば、かなり低音も出る。
サラウンドA(SX-L33)仕様 55Hz〜80kHz
50Hzまでは、センターのLC33と同じレベルが出ているが、す〜っとした曲線で
レベルが下がっていて無理はさせていない…という感じの低音。
これも、少しトーンコントロールで増強したいが、音楽を聴く限りはサイズを
超えてメインに負けないくらい馬力がある。
メインと比較すると、1kHzの周囲の中音が厚くなる特性なので、トーン
コントロールで僅かに高音を増やしたい感じ。
サラウンドB(S-ST7)仕様 80Hz〜60kHz
低音は140Hzあたりで急降下で、カタログ仕様に届かない。聴感でも100Hzあたりから
すとんと聞こえなくなるため、どうしてもラージでは使えない。
周波数特性は所々に落ち込む部分があるが、このスピーカーの癖は、周波数
特性よりも高調波が多いことによる歪にあるので、次の測定結果を見られたい。
sweep信号を入れてFFTアナライザの画面を見ると、中音域で2,3次高調波が観測され、
耳で確認しても特定の帯域で倍音が付加されるのが分かるが、従来のスピーカー(S-ST7)
のそれとは比較にならないほどレベルは低い。(S-ST7は、帯域と音量によっては基音より
倍音のレベルの方が高いようなことさえあった(^^;…)
●2,3次高調波の量が分かる測定。200Hzのサイン波を再生
S-ST7
入力は200Hzのサイン波だが、400Hz(x2),600Hz(x3),1,000Hz(x5),1,400Hz(x7)
と、特に奇数次高調波がたくさん出ている。
サイン波なのに、耳には見事な「オーボエの音色」が聞こえる。
この現象は100〜300Hzで特に強くて、たぶん「アルトフルート」の演奏を聴くと
「オーボエ」演奏と区別がつかない。
「カタログの周波数特性」が80Hzからなのは、盛大に出る高調波の音量を
足しているからとも思われる。(メーカーの測定はあまり大きな音量ではない
と思うが、100Hzで音量を上げると基音より大きな高調波が出てブザーのよう
な凄い音になる。)
SX-LC33(L33)
同じ測定をSX-LC33で行うと、それらしき位置にそれなりの反応が見られるが、
耳に聞こえる歪の量としては微かなものである。
この辺が、小口径で低音を稼ごうと無理しているスピーカーと、それなりの
口径のユニットを使ったスピーカーの違い。加えて「オブリコーン」の
効能ではないかと思われる。
■音楽再生
- Victor SX-L33の音、従来との比較
SX-L33の周波数帯域は55Hz〜80kHz
従来のスピーカーが約80Hz〜30kHzだったので、だいぶ広帯域になった。
アルミコーンのため、エージングにはしばらく掛かると思われるが、とりあえず
アンプの設定をSmallからLargeに変更。サラウンドチャンネルだから映画を
見てもあまり音質評価にはならないが、印象として驚くほど穏やかな音色になった。
以前のスピーカーよりフラットな特性で、2,3次高調波も少ないので刺激が
少なくなったのだろう。
低音に余裕が出来たので、100Hz付近の癖も減っていると思う。
周波数特性の実測でも分かるとおり、SX-LC33とL33の音色は、
最低音の限界以外は非常に良く似ている。
メイン(SS-A5)と比較すると華やかさでは微妙に負けるが、
アンプをTA-DA7000ESにしてからメインとの差は縮小したように思うし、
確かに忠実度の高さを感じる。
先代のサラウンドスピーカーS-ST7との違いは明らかで、とにかく伸びやか
に変化した。高音の癖の無さと、低音をSWに回さずに済む自然さが
歴然とした違いだ。
今までずっと「鼻の詰まった音」だったので、
気持ちまで楽に感じるし、スピーカーの存在がすっと薄くなった。
- テストで冨田の「惑星」の4.1chを聴いてみると、従来(最適位置の
最寄の棚に設置)より、一層4chの均質感が向上し、作者の意図通り、
どちらを向いて聴いても均等に楽しめる音だ。
棚に置いていたときには左右の「棚の響きの影響の違い」を強く
感じたのだが、ポール吊にしたところ、それまでの棚の差より周囲の
壁面の差の方が少なくて、音色は揃ってきた。
同じSX-L33を使用するサラウンド・バックLRは、棚の狭い空間に設置
しているので、サラウンドA-LRと比較すると
低音に響きが乗っている。なるべく開放的な空間に設置することの
効果(大切さ)が良く分かる。
冨田の「月の光」のCDがDolbySURROUND仕様なので聴いてみたが、
こちらはふわっとした広がりが美しく出て、スピーカーの存在を感じない
秀作だった。今までこういう音響で聴いた事が無かったのを後悔した。
もったいない(^^;
- SACDのマルチチャンネル音源
SACD Multiにはなかなかいい音源が少ないが、
新進ジャズピアニスト上原ひろみの「another mind」は別格だ。
ライブのざわめきやホールトーンだけ、というのではSACD Multiも
存在感が薄いが、このSACDにはリアの2chにも互角に楽器音が入って
いるし、生楽器の音はがっちり定位しているけれど、時々使用される
シンセサイザーは空間を飛び回り、それが生楽器との対比を際立たせて
2chバージョンとは一歩進んだ楽しさを聴かせてくれる。
冨田のマルチチャンネルの面白いのだけれど、それが音楽の世界で
一般的になるとは思えなかった。しかし、このSACDを聴くと、
「これからは音楽もマルチチャンネルだな」と思わず
宣言してしまいたくなる。
これらはやはり映画以上に各チャンネルの均質化が重要だと思うが、
SX-L33のクラスのスピーカーで充分楽しく感動できるのだから、
TA-DA7000ESなどのアンプとともにどんどん普及して良い世界だ。
ハードは手が届く。課題は「良いソフト」だけなんじゃないかと思う。
■まとめ
Victor SX-L33は定価25,000円(税抜き)で、実売価格は3割引近くに
なっている。
一本2万円しないスピーカーで、ユニット経ギリギリの幅15cmのコンパクト
サイズでこの音はまさに出色だと思う。低音から高音まで色付けの無いフラットな
音は真面目すぎて地味なくらいなのが欠点といえば欠点だが、オールマイティ
なスピーカーである。何故この価格で出せるのか不思議なくらいだ。
あえて言うならば、ホームシアター用にはどうなんだろう…という、
キャビネットとネットの色。なんとも中途半端な黄土色は先代モデル(SX-L3)
よりは濃くなったのだが、普通に世の中に存在する木製家具、オーディオラック、
フローリングなどに絶対似合わない。どうせ塩ビ仕上げなのだから色はどうにでも
なるはずで、ローズウッドとか、ダークチェリーとか、バリエーションが欲しい。
(※からから亭では、センターのSX-LC33にはぐるりと
黒の紗を巻いてその存在感を消している。音に紗の影響は無いと思う)
ネットの色も、こげ茶か黒が選べればシアター用途に使いやすいのに、
中途半端なグレーのツートン・カラーが変に自己主張があって落ち着かない。
今回はサラウンド用に購入したので、シビアに音楽ソースを聴いてはいないけれど、
(SX-LC33も同様に)メインで充分使える実力があるし、この価格でこれほどの
性能ならば、上位機種を試してみたいという誘惑を感じる。
SACD Multi用にきちんと音楽の聴けるリア・スピーカーを検討
するなら、音色に加えて設置の容易な絶妙なサイズもありがたい。
純正の壁掛け金具や、(デザインはダメだが)床置きスタンドもある。今回
からから亭で設置した「ポールに逆さ吊り」も容易だし、重量こそ4.5kgと軽くは無いが
コンパクトなので案外何とでもなる。
よほどキラキラしたバランスを志向するのでない限り、価格とサイズからは
想像できないスケールの音に満足できるはずである。特に濁りの無い低音は、
オブリコーンの効用かサイズを大きく超えた余裕がある。開放的なキャラクター
ではないが、忠実に延びていく感じがする。
映画の9.1ch再生については稿を改めてお届けする予定です。
前編.マルチチャンネルインテグレーテッドアンプ SONY TA-DA7000ES 導入記
続編.SONY TA-DA7000ESによる9.1chサラウンド 導入記
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