映画館がやってきた!

踊る!オーディオ・アクセサリ

- 動作原理・効果不明のオーディオ&ビジュアル・アクセサリたち -

- 目次 -

前書き

■総論

 オーディオ趣味の目指すところは『良い音を聞くこと』そして 『気に入った音を聞くこと』だろう。
 絶対的な基準として『原音再生』という考えもあるが、 一個のトライアングルを鳴らした音を生音と聞き分けられないような再生をする ことは可能だが、 オーケストラの生演奏などを聴いた経験が有れば、そもそもCDに入っている音が 生演奏とはほど遠いことは明白だ。演奏会で聞く音そのものを自宅で 鳴らしたら恐らく物足りなく感じるかうるさいかで、そこにオーディオとしての 細工が存在する。そして、細工が介在する以上 「良い音は聴く人の数だけ有って唯一の正解はない」。
 そして「好きな音が正確な再生(=原音)であるとは限らない」 というのも一般的なことだろう。「過剰な低音」に迫力を感じたり、 「高調波歪み」を華やかな音と感じるのは良くあることだが、行き 過ぎて袋小路にはまると次のステップに進む為の障害になることもあるだろうから、 演出を含んだ「良い音」は、その正体を自覚しつつコントロールすることが 必要だろう。

 アクセサリー購入の時、納得してお金を出すのは絶対条件だが、大切なのは 『費用対効果』で、同じ金額を使うなら"10万円のアンプ+20万円のケーブル"より "20万円のアンプ+10万円のケーブル"の方がたぶんいい音がするだろう。 あるいは、"CDに未知のパワーを注ぐ10万円のグッズ"を 買うのと"CDプレイヤーを買い換える"のではどちらが得か?などなどの判断が冷静に できることが、効果的に良い音を引き出すための条件ではないかと思う。
 ここではそういう境界線上のアクセサリー、アヤシゲなもの、面白いものetc.を 取り上げて私の感じたところを書いてみたい。

■試聴の技術

 比較試聴の際の一般的な注意は  などなどの現象は意識しておくべきでしょう。
 この原則に従えば、「ケーブルetc.をとっかえひっかえして聴く」という 試聴は成立するけれど、改造や一方通行の処理を施すもの、「波動エネルギーとか、 帯磁や静電気を取り除くetc.」は厳密には比較が成立しにくいことになります。
 オーディオ機器は、何もしなくたって時間と共に暖まって調子が良く なってくるので、大抵なにかの処理後の方が音が良いということになります。
 もう一つ「たくさん聴いていると何が何だか分からなくなる」の法則を追加して 良いかも知れません。
 評論家の故、長岡氏も「オーディオ誌のケーブル試聴などでは、必ず安い製品から 高い製品へと聴き比べて行き、最後の頃にはわけが分からなくなってくる。値札を 取ってバラバラの順番で聞いたら別の結果も出てくると思うが、そうしたテストは 一度もやったことが無い」と書いています。公正な比較の困難さが感じられます。
 音楽の世界では、『普通の意味で良いヴァイオリンと、数千万もする世界的に 有名な銘器とを専門家に聞き比べさせて、ほとんど誰も正解出来なかった』という 有名な実験があり、「何か違う」と感じる能力より「善し悪しを判別する能力」 は遙かに低いのは明かです。そして、そういう場合 「音以外の先入観、ブランド、金額etc.」が決定を 司っているのはオーディオでも同様でしょう。

 医学的にアプローチするなら、これらの現象は『プラシーボ効果』と言えますが、 「プラシーボ効果は気持だけでなく、血液検査の数値まで変える」という 事実もあります。するとたとえ「超科学グッズ」による音質向上でも良いと 信じて聴くことで 被験者の聴覚が活性化し本当に微細な音が聞き取れるようになる (耳の周波数特性が変化するとか)ということは十分考えられるわけで、 その場合効果有りと言えないこともなく…、 まことにオーディオの道は深淵なのです。

 それでは、ここから深遠な世界をのぞいてみましょう…

音質改善「波動エネルギー転写機」

 「A&V village」アラカルト・ページ の99年12月13日の項、雑誌「A&V village」の内容告知だが、凄そうな記事が。それは 音質改善「波動エネルギー転写機」
 「波動エネルギー」とは、いわゆる「気功師」 が放つ「気」のようなものらしいのだが、これを「音質改善・波動エネルギーの素」として パッケージしオーディオ機器に波動を転写するとか。
 さらに、CD-Rに波動エネルギーを焼き込んで再生するだけで音が良くなる製品、 波動エネルギーを転写した液体(きっと端子等に塗るんでしょう)などなどの製品群もあり…。
 もっともオーディオなんて本人が良いと思った音を聴いているのが幸せなわけで、 気功だろうが、スーパーダイオードだろうが熱電パワーだろうが、何でもいいので しょうが、それにしても世間に背を向けてこういう物をこつこつ商品化する人の 気持ちを考えると複雑である。

■推理する

 こういうものを雑誌でテストするなら、「本物の波動エネルギーを溶かした液」と 「何もしていないただの液」を各50人くらいにばらまいて、ブラインド・テスト してみると良い。
 「ただの無水アルコール」でも接点を磨いてやれば音が良くなるの は当たり前だし、例えば「波動CD-R」でも、波動があろうが無かろうが 何か再生していれば暖まって音が良くなるということはあるので、結局何を テストしているのか、うまい実験方法がないというのが実体かも。

 ものが気功だけに、機械よりは人間に作用しているのじゃないかという気もするが、 いっそのこと、耳から『気』を流し込んで10倍良く聞き取れるCDとか、風水的に音質アップ する機器の積み上げ方法とか開発したらそれなりに売れるのではないでしょうか?
 地水火風の四つのエレメントをリスニング・ポイントの四方(スピーカーの上とか)に配置して、中央に 人間が座ると邪悪なデジタル・ノイズが消滅するとかね(笑)

 ・本件は「理由はわからないけれど本当に効くんです」というユーザーからのメールを一件頂きました(__)

■気功師なるもの

 雑誌「A&V village」は、実に奇妙な雑誌でオーディオとオカルトが同居しており、 これを批判する読者投稿も、養護するものも何でも掲載されている。この投稿欄が熱い(^^;
 2000年夏頃の本誌に、オーディオ系気功師が客の前で「雲を消す」という術を見せた、 という投稿と、そんな馬鹿なという投稿のバトルが有り思わず本屋で笑ってしまった。
 もちろん、雲というのはじっとしているように見えて常に出来たり消えたりしているもの。 同じ雲をずっと目で追っていればそのうち消えるのが当たり前なのであるが、こういう ちょっとしたカラクリ…というより、口先三寸に乗せられる人も少なくないのだなぁ…。 と、ちょっと怖くなるようなエピソードなのだった。

熱電ダイオード『TVスッキリー』

(月刊「HiVi」1999年10月号225ページの広告から)
ペルチェ素子
電流を流すと半導体の片方が低温に他方が高温になる素子。 この性質からパソコンのCPU冷却やワイン専用冷蔵庫などに使われる。 逆に、素子に温度差を与えると電圧が発生する。
 商品名もアヤシゲなら、「異端の発明品」というキャッチフレーズも 開き直っていて凄いけれど、動作原理の解説の中の「当社では電流という現象が 本当にあるのか疑っています」という書き出しの一節に悶絶する(^^;
 この製品の目的は「商用電源からクリーンな交流を作り出す」というもので、 それ自体は真っ当なものだが、とにかく技術解説が怪しい。
 このまるまる1ページに渡る広告から、その動作原理を読み解いたところ、 『ペルチェ素子』に電流を流して発生した温度差が、電流を切った瞬間に 逆方向の起電力を生じることを利用したもので、(広告には書いてないが) 平たく言えば通常の電源回路のコンデンサーの役割をペルチェ素子に 置き換えたものと推測できる。おそらくコンデンサーよりはロスが 大きいと思われるが。
 しかし、この製品の面白いところは「交流は電子の流れる方向が乱れるため、 一旦熱発電で直流になおしてから新たに交流を作る」とか(結局交流なんだが…) 「電流という現象は本当は無い」とか「各国の特許を取得」(特許は効果を保証 しないが)とか、「当社は、性能・品質保証において、お客様の感性で良否を 確認できる通信販売を実施しています」(分かる人だけ分かってほしいと言うこと?) などなどの、広告の味にあるといえる。
 定価+送料+消費税の合計が9,765円と、一万円でちょっぴりお釣りの来る 価格設定もなんだか微笑ましい。

太い電線・電源コード/テーブルタップ

 セットの電源コードを交換する、ホスピタル・グレードのテーブルタップを使用する。 すると音が良くなる。
 …これは一般的に『効く』とされていることですが、壁の中を通っている電線は、 普通の銅線。直径も決まっています。
 セット内部では、安定した電源を供給するために巨大なトランス、コンデンサー などを用いた電源回路を持っているわけですが、この安定した電源回路を「ダム」 に喩えると、電源コードはそこに流れ込む「川」です。
 そして、電源コードを太くすることは「ダムの直前の川幅を広げる」ことに 相当します。これがどのくらいの効果を持つのか?
 柱上トランスと壁のコンセントを繋ぐ電線を 大幅に上回るクオリティーの電源コードを使用することによる「音質向上の原理」 は、私には説明が出来ないというのが実感です。

 ある雑誌で、「良質な導体が繋がることで電気の流れが綺麗になる」 という様なことが書いてありましたが、高級なオーディオ製品ほど立派な電源回路を 持っていて、電源の影響を受けないように作ってあるのですから、矛盾があるよう にも思います。
 唯一「丈夫なコンセントで接点が安定する」という可能性は有りだと思います。
 きっちり締め付けるような構造ならベストだと思うのですが、それは「法律で禁止されている」 という事みたいですね。

グリーン・カーボランダム

■砥石でいい音?

 コンデンサーにくっつけると音が良くなると言うふれこみで「グリーンカーボランダム#16」という ものが流行っているそうだ。
 何だろうと思って検索してみたら要するに砥石の素材らしい。 [石と石工具の専門店 かげーる]
 #16とは砥石の目の粗さの表記で、#16は極粗粒子。砥石の表記だが普段包丁を 研ぐときに使っているような数字からすると凄く見慣れない。
 化学的には、これは「炭化珪素」。砥石の用途からするとダイヤモンドに次ぐ、ものすごく堅い素材だそうだ。 多少の導電性もある。
 これの、荒いつぶつぶをブチルゴムなんかに植えるようにくっつけてコンデンサーに貼り付けると 音が良くなると言うのだが、原理は想像も付かない。
 チューンアップをやるお店のページにも詳しい説明はないが「電磁波対策になる」という 事は書いてある。
 もちろんただの「ブチル」でも振動対策にはなるだろうから、これをくっつけることで 何らかの変化はあるだろうけれど、「炭化珪素のつぶつぶ」をくっつける必然性については かなりおまじない臭い。

 趣味で色々いじるのが好きな人には興味深いテーマだろうが、 何万円も出してお店で改造して貰うような事はやめた方が良いだろう。なにしろ、 たかが砥石なので原価はものすごく安いのだから、やるなら自分でやるに限る。

クライオ処理

■液体窒素で冷却

 いちおう金属の専門的な解説 があったのでまず一読を。
 簡単に言えば、焼き入れ技術の一つで、金属材料を液体窒素で処理する事。 普通は、工具や刃物に対して「対摩耗性能」を向上させるために使う。
 これだけ読むと「グリーンカーボランダム」も切削工具系の素材なので、誰か 機械畑出身の人がオーディオ以外の世界の素材や技術を移入しているのかなって気がし て来ます。
 アルミにクライオ処理を施すと、表面硬度が2〜3倍上がり、表面に微粒子構造が 現れるという研究も有り。
 焼き入れ技術だから本来は「炭素鋼」などに使う物でしょうが、これを電線の素材の 銅に使うとどうなるのか? 理屈に乗っ取って推測するなら、普通の線材で用いられる LC-OFCなどは、結晶を大きく成長させて歪みを減らすことを試みるのに対して、 液体窒素処理をすると結晶が壊れてLC-OFCとは正反対のアモルファス状に なりそう。
 ということは、LC-OFCに効果があるとすると、クライオ処理はその反対の傾向の音に なると思われます。

■音のクライオ処理は名前先行?

 しかし、ショップの広告などを見ると「クライオCD」なんて物もあるので、 どうも焼き入れのことでは無さそう。たぶん、単に「冷やした」って事。だとすると、 効果は極めて?
 実は「CDを冷やすと音が良くなる」という噂はCDが生まれたしばらく後から ずっと言われ続けてきた伝説であり、これに格好いい新語をまとわせたわけです。 違いは冷却温度がより低いこと。
 効果について言及したお店のページ を見ると、「導電体の分子の不揃いを正し電子をスムーズに流す」らしいが、ただ冷 やすだけで分子配列が変わるかというと、それはほとんど無いでしょう。
 ひとまず抵抗の本質は金属結晶の熱運動にあるという事を思い出すと 良いでしょう。
 このため導体を冷やすと抵抗は減るし、熱雑音が減る。でもそれは温度を 上げれば元に戻るのだから、効果の持続は期待できません。
 「冷やすことで分子の不揃いが無くなるか」といえば、溶けるほどの温度から 極めてゆっくりと冷却することで綺麗な結晶を成長させるというのが本筋であり、 常温から極低温に冷やしても、体積が減るだけで結晶としての変化は無いというのが 科学的な事実でしょう。
 仮に「温度変化による体積の変動etc.が何らかの物理的影響を与える可能性」 は否定できないとしても、この程度で考え得る微細な変化は、電線を一回曲げ 伸ばしする程度の物理的ストレスで消し飛ぶのではないかと思います。
 インターネット上でも、効果歴然という人と、どうも怪しいというひとに別れてい るようで、とにかくよくわからない技術。
 とりあえず、悪影響も無さそうなので、万策尽きた趣味人がお金を出すには面白い というランクに位置づけましょう。

モンスターケーブルの構造理論

■バンドウィズスバランス構造

 「高い周波数の信号ほど導体内の外側を通る」 これは、表皮効果と言って、マイクロ波の世界では影響があるようです。
 ところで、モンスターケーブルでは「高い周波数には細い線」「低い周波数には太い線」 と使い分けているのですが、理屈通りなら、このケーブルで数メートル伝送した後、 おもむろに太い線、細い線を別々に分けて取り出すと、別々の波形が観測できると 言うことか?実験してみたい気もします。(抵抗も違うから多少の周波数特性の偏りは 有るのかも知れませんが…)
 ともかく、電気が自分で線の太さを選んで通るようなことが有れば、スピーカーの ネットワークなんていらないし、CDのデジタルフィルターだっていらないでしょう。

■ソリッドコアテクノロジーの自己矛盾

 「高い周波数には細い線」をさらに高い周波数に適用すると、どんどん細い線が有利 になってくるのでしょうか?
 ところが、オーディオ帯域とは 桁違いに周波数の高い普通の「BSアンテナ用の同軸ケーブル」 は芯線は太い単線です。こんなことで良いのでしょうか(^^;
 …と、つらつら同社のカタログを眺めているとビデオ用ケーブルのページに「細い撚り導線」を 使用した製品群の中に、なんと 『芯線に単線を使用し、周波数特性を大幅に向上させるソリッドコアテクノロジー』 という説明の製品が…。これでは、高い周波数は細い線を流れるという自社の主張と 矛盾してませんか(^^;;

 高周波領域における表皮効果をミクロに検討すると、表皮効果で導体の表面数ミクロンに 電流が集中する場合、電線の表面にざらつきがあるとそのざらつきに沿って電流が流れる ために、ツルツルの導体を流れるより長い距離を流れる。つまり抵抗が大きくなるという 現象が起きるそうです。
 極細線の撚り合わせは、全体を見れば「隙間だらけででこぼこした単線」と等価です から、高周波特性が劣化しそうです。つまり高周波伝送にはツルツルの単線がベスト。 これが「ソリッドコアテクノロジー」の正体でしょう。

 逆の見方をすれば、バンドウィズスバランス構造で周波数特性の劣化が起きないのは、 オーディオ帯域では表皮効果の影響は無視できるほど小さいということですね。

■タイムコレクト構造

 「高い周波数の信号は速く、低い周波数の信号は遅く伝達する」というのが、 モンスターケーブルの説明。この理論を適用したスピーカーケーブル(高音の通り道が長くなる) が商品化されて いますが、仮にこの理論が正しいとして「10メートルの伝送で伝達時間が揃う」ように 作られたスピーカーケーブルを「5メートルで使ったら…」伝送時間は揃わないのでは?
 そもそも、カタログにも「何メートルで使ったときに伝送時間が揃う」かの説明が 一切無いので正しく使うのは不可能な気がします。
 さらに、高音用導線を低音用の2倍の長さを撚り合わせて作ったとして、裸線を撚ったら 信号は接点を通じて最短距離を流れてしまい、意味が無いと思います。線の中で絶縁して もスピーカー端子が一組では結果は変わらないでしょう。

 そもそも録音に使うマイクケーブルは数十メートルもあって、それでもズレは 無いとか、長距離電話をかけたとき、とてつもない距離を 声が伝わっても別に高い音が先に聞こえたことはない。 そもそもマルチウェイスピーカーでは、ユニットの取り付け位置、ネットワークの 働きなどにより、低音と高音の位相は有っていない。など、反論は無数に可能です。

 ちなみに、学問的には導体中を信号が伝わる速度は周波数や抵抗ではなく 「誘電体の比誘電率」で決まります。
 電圧を加えると電子が移動して電流が流れますが、電子の充満した導体の中で 電子が玉突き衝突を起こして反対側の電子が突き飛ばされるまでの時間が、信号 の伝わる速度。電子そのものが移動する速度では有りません。
 電子は非常に堅くぎっしり詰まっているので、ものすごく堅いバネの一端を 動かして、他方がビヨンと反応するまでの時間が信号の伝わる速度と考えると 判りやすいでしょう。
 バネの一端を速く押してもゆっくり押しても、反対側に伝わる速度は同じ。
 ものすごく柔らかいバネなら、伝達速度そのものは遅くなりますが、やはり バネを押す速度(周波数)に関係なく等しく動きは伝わります。  これが、電気の伝達速度が周波数に依存しないことの説明です。

 本当に厳密に考えると、真空中の電波の伝達と電線の中の電気の伝達には 原理的な違いがあって、伝送中に波形がにじむのは波動方程式(大学の物理の授業で 勉強するちょいと面倒な式)で理論的に説明できるそうです。
 とはいっても、実社会で問題になるのは「海底ケーブル」で情報を送るときだけ。 数百キロメートル単位の伝送で初めて問題が出る。つまり問題のスケールが百万倍くらい違う。
 「海底ケーブル」では波形ひずみの問題をLG=CRとする事で解決している。

 というわけで、モンスターケーブルが素晴らしいとしても、恐らく構造理論と はあまり関係ないのではないかと思うのですが(^^;

マグナン・ケーブルの考える電流と表皮効果

 「表皮効果」の説明のために、風変わりな電流の流れ方についての解釈をしている メーカーがあるので取り上げます。
 ちなみに、マグナン氏はもとレーダー関係の技術者とか。何の技術をやっていたか までは書いてありませんが、「高周波の表皮効果」に対する考察は、この辺に根が あるようです。

■マグナン氏の考える電流(表皮効果)

●表皮効果とは  表皮効果の解釈自体は、モンスターケーブルと似ています。しかし、説明は かなり風変わりな物になっています↓

●表皮効果とは(マグナン氏の比喩)
 そんな馬鹿な度が高いのは、抵抗の高い導体の方が信号の減衰が少ない という理屈。
 この理屈のために、抵抗の高い導体を大量に使うことで抵抗を下げて使う という凄いことをしている。
 しかし、いくら高周波は表皮近くを通るといっても、電気は導体の「内側」 を流れているのであり、木の例えで流れる水は木の外側… 「空気中」を移動しているのであって、木の中を通っているわけではない。 つまり結局「水は抵抗の少ない場所を流れている」ので、抵抗が高いと速く 流れるというのは完全な誤解だ。従って、ここから話の矛盾が発生する。
 この例えだと、一番速く電気が流れるのは、材木など使わずジャ〜っと 直接地面に向かって放水した場合ということになるが、そんなふうに電気が 流れないのは、小学生でも分かる。
(水を例えに出すなら、古典的な圧力を加えて管を通る水だろう)

■マグナン・ケーブルの製品たち

 上の例えは普通なら「変な説明」で終わりそうなところだが、このメーカーは全くこの 比喩(=木の表面を流れる水)の通りに製品を作っているらしい。
 それで下記のような製品群を生みました。

■構造からの検証

 スキンエフェクトタイムの測定内容についての説明は一切無いので 何とも批評のしようがないが、モンスターケーブルのタイムコレクト (時間のズレを経路長によって補正)よりは突っ込みにくい…うまくいかなくても それ自体の論理的破綻はないと言える(笑)

 理論の奇怪さはともかく、一般的な電気の理屈からこれらの製品を 見ると、薄い導体を大量に使っていることによる弊害が有りそうなので、 気になる点を列記しよう  いずれにしてもこういう風変わりな理屈で製品を作ってもそれなりに鳴って しまうのはオーディオの扱う周波数が低いおかげと言えるだろう。このメーカー も、デジタルケーブルやビデオケーブルは作っていないところを見ると、 この理論がたぶん高周波では破綻するからだと推測できる。
 上記の不安材料を並べてみれば、あっと驚く。…なぜなら、総合的に見ると 真空管アンプが抱える弱点とうり二つ!
 つまり、現代的な設計のアンプを真空管アンプのような 音に聞かせる効果は有りそうに思える。

モニターPC(ドイツ)のケーブル構造

 実は、私が使用中のメーカー。屁理屈のないところが潔い。

■電線は伝導性が命だ

 ここの最高級SPケーブルは、0.07mm経の極細OFC線に銀メッキを掛け、これを 撚り合わせ10平方mm*2(5,208/2本)の極太線に仕上げるという構造で、わずか 0.00027オーム/mの低抵抗を実現している。
 ESA(欧州宇宙機関)の指定ケーブルであるというのが売りだが、恐らく、 低抵抗でしなやかで断線しにくいという特徴が宇宙向きなのではないかと 思える。

 「二本の導体の中間に銅のリボンを置き、電磁的干渉を減ずる」という ケーブルの他、このメーカーには特別な理屈はない。
 とにかく、太くて抵抗が少ない。その太さと低抵抗を得るのに極細銀メッキ線を 撚りあわせる構造が他にはない特徴。
 柔らかいケーブルは振動して 良くないと言われることが多いが、このくらい徹底的にしなやかだと確実に床に 接地するので音圧の影響を受けにくいことと、共振しない、という二つの点で 一般的な柔らかいより線の欠点(?)を補っていると考えられる。

 珍しいほどカタログに怪しい能書きが無いのは、ドイツ人の真面目さか?(笑)
 あまり、特別なことをしていないためか、最高級のSPケーブルでも 4,000円/mなのが嬉しい。

SPACE&TIMEのケーブル構造

 ここは主に二種類の製品ラインがある。撚り線と、矩形線だ。

■極めてオーソドックスな撚り線シリーズ

撚り線の理論は、次の三点

■ちょいと捻りすぎ?矩形単芯線の理論

 このシリーズは値段が、ピンケーブルで10〜20万円になるので、 やりすぎ…って感じではある。

山本音響工芸の単芯SP線

■日本の心は素材を生かす単線一本勝負だ

 38,000円/2.5m アメリカ人が複雑な構造のケーブルで はじけている一方で、極太の単線を良しと言うのは日本人のわびさびか(笑)
 構造は6N無酸素銅、2.6mm経単線(5.3スケア)に金メッキを施し、テフロンチューブを 被覆したものを二本並べただけ。シンプル。黒檀のスペーサーで二本を固定しているのが 山本な感じ。

 このメーカーの理屈は「耳で聞いて素材を吟味しました」ということに行き着くので あまり突っ込むところはない。値段くらいか(^^)
 振動の影響を考えると、薄いテフロンチューブではなく、ブチルぐるぐる巻き を試したいと思う自作派は大勢居ると思う。細いから音圧の影響を受けなさ そうだとか、単線はいったん振動すると制動が効かなさそうとか、色々想像は 出来る。
 ともあれ、このケーブルの唯一の問題点は、堅くて取り扱いが難しいことくらい じゃないかな?あまり曲げると痛みそうだし、実際、曲げが加われば、金属の 結晶が乱れ硬度が増す。一般的に「硬いケーブルは硬い音がする」という 状態になりやすいとも言える。
 ことの真相は「シンプルイズベストなのか?」 を体験してみるしか無さそう。気軽に試すには高価だけれど、ただの単線なのにな(^^;

謎のエナコム

■スピーカーエナコムは10.2MHzに効く

 かなり以前から売っているノイズフィルター、エナコムのカタログを見ると、 スピーカー用では、オシロスコープの波形がこんなに変わる、という写真を載せている が、解説を読むと「10.2MHzのディップが解消する」とか。
 それって、短波放送の周波数じゃ…(^^;
 オーディオの上限といえば、SACDなどでも 100kHz止まりで、いくらなんでも10MHzはちょっと…(^^;
 エナコムの説明では、無対策では10.2MHzのインピーダンスが、0.98オームに下がるので アンプに負担が掛かって悪影響が出るというのだが、 そもそも、普通のアンプは回路の保護*のためにオーディオ帯域以上の周波数は カットしてしまうので、測定器を用いたエナコムの実験は実際のアンプでは、机上の 空論となる。
*アンプの回路の保護 … オーディオアンプは、あまり高い周波数を入れると NFBが誤動作して発振し焼き切れる危険があるために、動作保証できる周波数 以上は再生しないような回路になっている。

■可聴帯域に及ぼす影響の可能性を考える

 リンギングがなくなるというのが売りだが、これは、一番目立つインピーダンス の山谷を整えることで実現しているらしい。
 考えてみると、接続する相手によってエナコムの影響が表れる周波数は まちまちなので、悪影響になるケースの方が多いのじゃないかな?測定用に 作った環境以外でどんな結果になるかは、繋いでみなけりゃ判らないという ことになりそう。
 しかし、アンプ自体、周波数軸上のインピーダンス特性の乱れによる 出力の変動をキャンセルする機能があるので、あまり極端なことをしない 限り結果も極端には変化しない…と言うのが真相だろう。

 それよりも大きな可能性としては、スピーカー端子にインピーダンスを 変化させる何かを取り付けると言うことは、ネットワークの動作に影響を 与える可能性があり、それで周波数特性が変化するんじゃないか?という ことだ。

■類似品〜Radio wave cut

 定価8,900円。広告を見ると「2000人使用中」とありますな。(2004年12月)
 売れてないよないるような…。
 形状と使い方から「スピーカーエナコム」そっくりとは思うが、広告になんの 能書きも無くただ 「真心パーツ」とだけあり突っ込みどころが無いのが歯がゆいでしょう(笑)

CD消磁器の謎

 ちょいと、消磁器メーカーのホームページ をのぞいてその原理を考えてみたい。
 このページの先頭には「科学的に実証された本当に必要なものだけを扱います」なんて 書いてあるので科学的な興味がわいてしまうわけである。(^^)

■特許・実用新案の威力

 紹介記事のどあたまに「特許取得」と有り難い一言。しかし、特許は効果を 保証しない
 特許電子図書館で検索して みると、特許の内容の詳しい所まで読むことが出来るのだが、この製品の場合は 類似品に対して「コイルの形状が新しい」という特許だった。
 確かに以前から類似の消磁器はあったが、それはディスクを回転させながら消磁する物で、 本品は回転させない。回転させないことで、さらに効果があるというのが発案者の主張で あるが、特許はその構造に対して与えられているのであり、効果を保証してはいない。
 つまり、カタログの「特許」という一言は、オリジナリティーが有るという証であり、 だからといって何かがあると期待してはいけない

 「そうはいっても特許を取るからには何らかの凄いことがあるんじゃないか?」と 信じる向きには、反重力、生体波動、超光速粒子(タキオン)、永久機関、テレパシー などに関わる特許が多数登録されている事実をお教えしたい。
 つまり、今まで誰も言ったことのないことを言った人が特許を取れるのであり、 大発明も有れば珍発明もまた多い…ということだ。

■メーカーの主張する科学

■それでも音は変わる?

 結局のところCDの音質は厳密にはトレイに置き直すだけでも変わると 言われるくらいで、客観的な評価は難しいと思う。もし音が良くなったと してもそれが「消磁のおかげ」かどうか判別しにくいと言うことだ。

 以前は「帯磁によってレーザーが曲げられるのだ」という凄いことを 主張する人も居たが、さすがに最近は影を潜めた。ディスクの帯磁は 地磁気の数百分の一、プレイヤー内部のモーターやピックアップが発する 磁気はさらに桁違いの強さで、ディスクの帯磁そのものが問題にならない ことは自明だろう。メーカーも今はそのことには触れない。
 最近見た新説では「消磁器の振動で盤面がマッサージされ、 光学的な歪みが減る」なんてのもあったが、この説の方がまだいくらか 現実味がある。というか、他に有力な説がない。
 希望するのは「効果は半年ほど」とあるので、消磁後、週一回 コンスタントに測定を続けるというのは面白いだろう。
 ともあれ、せっかくのページに原理の説明が何もないのは 納得がいかない。そこが知りたいのに。謎は謎のまま残された。

■スーパーアースリンク(おまけ)

 これも上記の会社のものだが、シャーシ電位を下げて電磁波ノイズを カットするとある。うまく動くなら面白そうな機械だ。
 消磁器が磁場を消し、この機械が電場を消すというわけで、 新商品の企画としてはわかりやすい。ただこれも「動作・原理」の ページは、効果の宣伝だけで原理の紹介が一言もない(^^;
 もっとも情けないのが、「測定風景」の中に映っている機器が 「ラジカセ」だと言うことかな(^^;; まともなオーディオ機器では 差が出にくいのかも知れないと勘ぐる事が出来る。
(「特許取得済み」とあるので、出願人で検索してみたが、 上記消磁器の一件しか登録されておらず、謎のままである。)

CD音質改善機 IMPACT DISC MAKER

(45000円/ハイブリッド・サウンド・コーポレーション)

■特殊光線で音質改善!!

 キャッチコピーは「特殊光線で音質改善!!」「光を当てると希望が見える?」 なかなかそそるコピーです(^^)
 原理は、レーザーの屈折異常の原因となるプラスチック製品の成形歪みを 300-400nmの波長の光を当てることでプラスチックの分子の結合を促進して 均質化し、読みとりを正しくする。というもの。
 非常にシンプルな主張でわかりやすい。CD,DVD専用。

 可視光線の波長 が380-780nmであるので、問題の300-400nmの波長とは、紫外線〜青紫の光のことである。
 つまり光源は「日焼け灯」「殺菌灯」みたいな物だろう。カタログ写真を見ると 蛍光灯の形をしているし。

 CD/DVDの屈折異常は、二枚の偏光フィルターの間に挟んでやれば簡単に観察でき る。
 実際問題として、成型時の歪みより、張り合わせの力加減による歪みや、 センターホールまわりにかかる力による変形から来る歪みが大きいことは 一目瞭然。屈折異常の解消という点ではケースから外して一晩置くとか、 手でもみほぐしてやるのが一番かも(笑)

■ポリカーボネイトと紫外線

 CD/DVDには「紫外線硬化樹脂」が使われているが、これは保護面に使われる樹脂のことである。
 基盤に使用されているポリカーボネイトは紫外線に対する耐久性が非常に強い樹脂で、 屋外で使用される あらゆる製品に応用されている。耐久性が高いと言うことは「紫外線で変化しない」 ということで、紫外線を当てて音質改善というのもちょっと難しそうではある(^^;

 「CD,DVD以外には使用しないで下さい」とあるが、例えば、塩ビやアクリル樹脂に 紫外線を当てれば、黄変、白濁etc.の劣化が加速される。
 カタログには「時間をかければかけるほど良い結果が得られます」とあるが、 だいたい効果の曖昧なアクセサリーのカタログにある常套句で限りなく 「気持ちの問題」と読み替えても良いような…(^^; また、いくらポリカーボネイト といっても紫外線に対して無傷とは言い難い。この装置で音色が変化すると 主張するなら尚更「エージングの行き過ぎ=劣化」に注意が必要なはずで、広告文句と 矛盾する。

参考文献


面白そうなネタ・理論的な説明の出来る方からの解説とも、メールをお待ちしています(^^)
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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!