映画館がやってきた!

室内&スピーカーの周波数特性チェック

- データで検証する -

 5.1cH化以来、メインSPとセンターSPの音色の違いに悩んでいます。
 トーン・コントロールではどうしても納得のいく音色合わせが出来ない ので、目で見て確認したくなりました。
 そこで、
 の二つを調査計測し、調整のヒントを得ることを目的に、実験をしてみました。

実験方法

●テスト項目
●使用機材
テスト信号DENONサウンドチェックCD
(4,8,16,32,63,125,250,500,1K,2K,4K,8K,16K,20K(Hz,-20dB))
CDPSONY CDP-XA50ES
マイクSONY製ワンポイント 指向角度:120度、周波数:約25-20KHz
DACSONY SBM-1(20bit SBMアダプター)
レベルメーターDATのデジタルピークメーターを使用
アンプSONY TA-V88ES
被測定SP(メイン)SONY SS-A5
被測定SP(センター)パイオニア S-ST9

●機材について
 測定に使用している機材は測定機ではなく、私が長年アマチュア・コンサートの 生録に使用してきた機材を使っています。従って、精度に関して保証されるもので はなく、大まかな傾向をつかむためのものとご理解下さい。

●手順

測定結果


[図1.メイン/センタースピーカー周波数特性、軸線50cm,視聴位置(2.5m)]


[図2.視聴位置-軸線50cm,周波数特性差分]


考察、感想など

・測定内容全般

 まず、以前100Hz以下について細かいステップのデータで、聴感で測定した 帯域については、今回のオクターブ/ステップのテスト・トーンでは 荒すぎてほとんど分からない。
 あらためて1/3オクターブ/ステップ程度のテスト・トーンを調達して 実測したいと思う。

 室内の定在波によって大きなピーク/ディップが出来ている。
 従って、帯域によっては、マイクの位置によって観察される周波数特性は 大きく変動する。つまり必ずしもグラフ通りの聴感では無いとも言えるが いずれにせよ凸凹は、有害であり、対策の必要があることに違いはない。

・室内音響のピーク/ディップの観察

 50cmと2.5mのデータを見ると、センターもメインも1kHzの減衰率がもっとも少なく、 高域、低域ともに基本的にだら下がり(山形)で、結果的に視聴位置では広い周波数で +/-6db以内に納まっている。

 センター/メインともだら下がり傾向は同様だが、比較的なだらかな減衰率の曲線を 描いているセンターに比べると、 メインは"63Hz:-4dB,250Hz:+3dB,16KHz:-4.5dB"の特徴的な凸凹を見せる。
 これは、おそらくスピーカーが部屋の角に設置されているために、定在波の影響が 強く出たものと考えられる。

 その他に特徴的なのは、メインLとL+Rの63Hzで、14dBもの差が出来ている。
 LRのSPの干渉で、大きな谷が出来たのだろう。(実際の音楽などでは目立たない はずだが)
 63Hzは室内の縦方向の推定共振周波数(75-57Hz)にも近い値である。

 

・メイン/センターの音質差について

 まず、メイン/センターの視聴位置での特性の差分に着目すると、センターの 低域が出ないのは、単純にWOOFERの大きさの違いによるところが大きいと思われる。

 一方高域は"500Hz〜16KHz"まで、+/-3dBくらいの差に落ち着いているが、 センターの4KHzに特徴的なディップがある。
 近接測定では、8KHzに+12dBの強烈なピークがあるので、室内音響のHi落ち との組み合わせで、この谷が出来ている。
 いずれにせよ、メインが500Hz〜8KHzまでほぼフラットであるのに対して センターの4KHzの凹みだけが目立つ。
 "4KHz"前後は聴感上音色の明暗を感じさせる大切な帯域で、ここが下がると 暗くこもった響きになってしまう。
 この結果は、聴感上の特徴(こもったような鼻にかかったような)を 裏付けるものだが、8KHzに最大の山があるため、トーンコントロールで 4KHz以上を持ち上げると8KHzの山がさらに持ち上がり、単純に補正できない 原因となっていたらしい。

 さらにセンターSPの周波数特性について見ていくと、500Hz以下が-6〜8db/oct 程のカーブで落ちていき、とてもカタログの値(70Hz)で音が出ているとは言えず 200Hz位でアウト。
 +/-6dbを保証する周波数範囲は、4KHzの穴に目をつむっても"250〜16KHz"で、 人間の声に大切な帯域、"100Hz〜4KHz"をカバーするにはちょっと低域不足。
 500Hz以下をトーンコントロールで補ってあげる必要がありそうです。

 メインSPに関しては、近接測定では、測定マイクの限界範囲内(40〜18KHzあたり) でほとんど+/-6dBのラインに落ち着き、視聴位置でも、ほぼこれに準ずる素直な 特性を持っているが、部屋の隅にあることからか、低音に大きなピークがある ことが分かっている(別稿)。
 スピーカーのバスレフポートのチューニング周波数と、室内の共鳴が一致して しまっているので、トーンコントロールだけでなく、部屋そのものへの手当も 大いに必要といえる。

・定在波の分布と強度について

 さて、ここからは定量的な測定をしていないので、簡単な感想を書くに止めます。
 今回のように道具を投入しなくても、音がどこに溜まっているかは簡単に 調べることができます。要するに怪しいところに首を突っ込んでみればよろしい。
 高い周波数の定在波も存在しますが、凸凹具合はそれほど酷くありません。 首を移動すると、音量が「ふにゃふにゃふにゃ」っと変動しますが、たとえば、 「16Hzだと凸凹の間隔が、2.1cm」だと、そういう具合に簡単に確認できます。

 始末が悪いのは低音で、たとえば、床に耳を近づけると、あきれるほど大きな 音がするのが分かります。ゆっくり立つと音量が下がっていきます。
 重低音で床が振動するのは、直接スピーカーの振動が来るというより、室内に ある定在波のエネルギーが、壁面に集中し揺さぶっていることが大きいのでは ないかと推測されます。

 今回は簡単にあちこちで聞き耳を立てただけですが、少なくとも、バランスの いい音を聴くためには壁際に近づいたり、寝ころんだりしてはならないことだけ は言えるでしょう。

・その他

・測定中の歪みについて
 PRO-LOGICモードでセンターSPを鳴らすと、100Hz以下で「がびがびがび…」 というノイズが聞こえます。
 そもそもPRO-LOGICでは帯域制限が有ったはずなので、これが関係している のかも知れません。

・高音の壁面からの反射
 ステレオ・マイクで測定したので、左右から来る音の音量差も見ることが 出来ましたが、壁面のSPからは、+6dBくらい壁方向から音が来ることが分かりま した。
 SPから出る音と、壁面からの跳ね返りが空間で干渉を起こすようです。
 高音の音量ムラには、この現象もかなり影響しているものと思われます。

というわけで、次回は対策編です

センタースピーカー・スペアナチェック編

 「次回は対策編」と前回締めくくったのが'98.11.26
 再会はなんと2000.6.20です(^^; この1年半でエージング効果もあったようで 極端に刺激的な音は減ったものの、根本的な違和感の解消は先送りにして今日に 至っています。その間、広帯域のマイクとパソコン用スペアナソフトを手に入れ たので、再度挑戦です。
●使用機材
テスト信号オーディオ協会サウンドチェックCD
CDPSONY CDP-XA50ES
マイクSONY製ワンポイント 指向角度:150度、周波数:約20-20KHz
レベルメーターWaveSpectra 1.2
アンプSONY TA-V88ES
被測定SP(メイン)SONY SS-A5
被測定SP(センター)パイオニア S-ST9

●メインLR/C、周波数特性のフラット化


 本来は、ホワイトノイズを入れて測定すべき所ですが、センターへの出力を L+R信号をアンプの「ドルビープロロジック」回路でセンターに出力するという 方法を使っているため、20-20kHzのスイープ信号(L+R,15秒)で測定しました。
 マイクは視聴位置。150度の指向性です。

LR+SW
C +SW

 結果を見ると、低音、高音がDATのレベルメーターで測ったときより低めに出ているので、 その分は測定器の特性と考えて良いでしょう。
・センター低域500Hz以下の降下は、「サブウーファーをonにして20-100Hzまでを補強」 「トーンコントロールで500Hz以下を増強」の二つの効果で、メインに近づけました。
・センター8kHzのピークはトーンコントロールでは対策のしようがないので、 スピーカーを何かで塞いで高音を遮ることを試み、ウーファー・ユニットをタオルで 遮ると、8kHzのピークが下がることを確認しました。
 このセンターはクロスオーバー周波数が8kHzなので、ウーファーの高音が落ちたことで、 ツィーターの高音だけが残っているという状況になっていると思います。

 二つの対策で、スペアナ上のメイン/センターの特性は近づいたのですが、 依然音色の違いは強く、周波数特性だけではない問題が推測させられます。

●スポット正弦波でスピーカーの高調波を観察

 色々な信号を入れていてふと『正弦波が、正弦波に聞こえないぞ…』ということに 気が付き、周波数特性だけでは計れない問題があるのではないかと考え、実験。
 「20Hz〜20kHz 1/3octバンド正弦波」をセンターに入れて波形と スペアナを観測。

 20Hz〜60Hzの低音はまったく正常な音が出ない代わりに「ギヒョギヒョ…」 という金属的なノイズが盛大に出る。
 これはアンプのプロロジック回路が発生しているノイズと判明。
 通常はスモール設定なので、この雑音は聞こえないので無視。

 80Hz以上になるといよいよ音が出てくる。
 ところが、100Hz以下だと倍音が基音の+10dbもの勢いで出る。
 100Hz〜400Hzあたりはさすがに基音より倍音の方が低いが、たとえば、 200Hzあたりでは、400,600,800,1000,1200…と、整数倍の倍音がずらりと並び、 波形も見事な三角波。楽器で言えば、『フルート』が『クラリネット』に なったような音色の変化。
 同じ信号をメインL+Rから出力した場合には、絵に描いたような正弦波が 表示され、余分な倍音はほとんど見あたらない。

 100Hzは男声の、200Hzは女声の地声の会話の周波数に相当するが、 本来無い倍音が盛大に付け加えられることによって、うわずったような 明るい音色に変化している。それが、このスピーカーで声質が変わって 聞こえる最大の原因だったのだ。
 でも、これが原因なら調整による改善はお手上げ(^^;
 スピーカーそのものに原因があるとすると、その理由はこうだ。
 スピーカーの振動板は、電磁石で揺さぶられて音を出す。
 振幅が小さくてゆっくりなら、振動板全体が同じ動きをするので 入力信号と同じ音が出るが、周波数が高く、振幅が大きくなると、 コイルのある根本の動きに周辺部分が付いて来れなくて、しなる (分割振動という)。
 本来の振動以外の動きをするということは、不用な倍音が聞こえると いうことで、こうならないように、スピーカーは軽く、堅く作られるの だが。
 これがこのスピーカーの限界と言うことだと悲しいが、逆に アンプ側の責任もあるとなったら、ますます困るかも…。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!