映画館がやってきた!

低音のコントロール研究

- TA-V88ESの調整を追い込む -

重低音を測定する

 いったいわが家の低音は、良いのか悪いのか?
 初めてスーパーウーファー(YAMAHA YST-SW150)を買った頃から、低音には興味 があったのですが、現状の評価については「おぉ、**Hzまででている、凄い!」 という、素朴な喜びから踏み出していなかったのは確かです。
 しかし、タイタニックのLDを買って、「素晴らしいサウンドデザインの映画を、 心ゆくまで楽しみたい」という強い動機が出来たので、ひとつ、真剣に取り組ん でみる気持になりました。

・測定方法

 まず現状を調べるために低音の測定です。
 チェックには次の二種類のディスクを使いました。
 測定とはいっても、聴感によるアバウトな実験です。
 何度も聴いた信号音ですが、「どのように低音が出ているかという視点」で 聴くのは初めてです。

・測定結果

周波数(Hz) 20-25-30-35-40-45-50-60-70-80-90-100  o:sw(ヤマハ YST-SW150)
                     o# o#                        #:メインsp(SONY SS-A5)
       +6db ------o-----*--o#-------------------  *:sw窓全開時
                  *  *     *  o#*o           o#*
        0db ---o*----------------#*-o#*o#*o#*---
            o*
       -6db ------#-----------------------------
               #
周波数(Hz) 20-25-30-35-40-45-50-60-70-80-90-100
 メインSPと、サブウーファー(SW)、それに、窓を全開にしたときのSWの結果を グラフにしました。db値はあくまで感覚(^^;

 SW,メインとも、一見して、30〜60Hzに大きなピークが有ることがわかります。  テスト・トーンのスタートの100Hzからすると、メインSPのピークの35-50Hz あたりは、鼓膜がぐっと来るほどの音量です。
 普通に映画や音楽を聴いていると、他の帯域の音が大量に出ているので、 目立たないだけで、実は凄いことになっていた。

 試しに、部屋の窓という窓を全てあけてSWを鳴らしてみたのが"*印"で、 だいぶ、ピークがなだらかになったことが分かるでしょう。
 結局、室内に溜まったいわゆる『定在波』の仕業であることに間違いない ようです。

 メインSPの周波数特性"#印"が30-35Hzのあいだですぱっと切り落としたように なっていますが、恐らくバスレフ・ポートの最低共振周波数と、部屋の共鳴の ピークが一致したためでしょう。
 窓を開けたときの特性を見る限り、定在波の影響を受けない場所でSWを 鳴らしたら、見事にカタログ通りの周波数特性(20〜140Hz)で、ほぼ平坦な 特性を持っているのであろうことが、想像されます。

 これらの事実が分かれば、後は使いこなしにかかっていると言えるでしょう(^^)

・定在波の裏付け

 定在波は、真四角の箱なら計算で求められるわけで、ちょっと調べてみました。

場所 :鉄筋コンクリートマンションのLD
長さ(m)共振周波数その1/2
高さ2.5 136Hz 68Hz
3.3 103Hz 51.5Hz
奥行き4.5 75.5Hz 37Hz
奥行き26.0 56.7Hz 28.3Hz
(奥行き2は、カウンターキッチンを突き抜けて測った長さ)

 30-60Hz及び100Hzのピークをこれに当てはめてみると、
 まず、100Hzの小さなピークは、幅方向のようです。窓を開けたときも 減衰が少ないのできっと。(窓は奥行き方向にある)
 天井方向の1/2波長(68Hz)は影響がないようですが、これは、全面カーペット 敷きのせいでしょう。
 奥行き方向の影響は、カウンターキッチンの空間も入れると複雑な形状なので 単純に計算では出ないでしょうが、1/2波長の共振が30-60Hzあたりに密集するこ とになるので、このへんが膨らむのは避けられないの感じです。

 窓を開けたときのSWの周波数特性の変化は、興味深い物で、聴感上、はっきり とピークが下がるのが感じられました。
 いわゆる木造の和室の特性というのはこういう感じでしょうか?
 反対にバリバリに気密性の高い防音室を作ると、低音対策はかなり念入りに する必要があるのでしょう。

・SWの店頭試聴は難しい?

 さて、部屋と低音の関係が分かってみると、応用編です。
 約10畳の私の部屋で低音を鳴らすと、40Hz前後が6dB以上持ち上がると言うことは、 倍の大きさの部屋なら、20Hz前後が持ち上がると言うことでしょう。
 自宅の対策も大切ですが、視聴室の音響を見抜く力も必要ですね。例えば、 20Hzまでだら下がりタイプのSWを広い試聴室で聴くと、定在波の補助でフラット に聞こえるのに、狭い自宅に持ち込むとまったくカマボコ型の周波数特性になってしまう ということは、起こりそうです。
 そういう製品は、メーカーも広い部屋で鳴らすために設計しているのでしょう。
 広い部屋、欲しいですね(笑)

TA-V88ESの設定を考える(低音フラット化を目指して)

 さて、テスト・トーンでは30-60Hzで耳がキンとなるほど低音が膨らんでいる ことが分かりましたが、聴感上の影響となると、「どろどろどろ…」という風の 音や、水の音、ハリウッド映画で良くあるパターンではヘリコプターとか、 そういう物音が出てくると、他の音がマスクされやすい。
 すなわち、画面がてんやわんやの時に、音も洪水状態になる。

 吸音材などの資材をつぎ込む対策は後回しにして、なんとか、設定で 聴きやすくする方法を探ることにしました。

・TA-V88ESの低音の流れを確認する

 わが家では、メインSPを[LARGE]、センター/リアSPを[SMALL]としています。
 このとき、ドルビーデジタルの低音リダイレクト機能がどのように働くか、 取扱説明書にはありませんが、どのSPの低音がどこに振り分けるのか調べました。
 結果は  ドルビーデジタルとPRO-LOGICで振り分け規則が違うのは、予想外でしたが、 モードによって、設定を変える必要があると言うことですね。
 さらに、取扱説明書ではほとんど説明されていない、"SUB WOOFER"と "LFE MIX"の設定の意味は、  つまり、このケースでは、リアのSPの低音(90Hz以下)と、LFE信号が、 サブウーファーに出力され別々にコントロールできることになります。

 これと、各スピーカー出力のイコライザー(EQ.)の設定で、全体の低音の量を 決めていきます。
 いずれにせよ、本器の取扱説明書には、各パラメーターの意味や有るべき設定 については、さっぱり書いてないので、改めて調べてみて「目からウロコ」 状態でした。

・TA-V88ES/YST-SW150の設定

 まず、取りあえずの目標は「タイタニック」を美味しく聴くことです。

●イコライザの設定
 まずメイン/センターSPについては、イコライザで低音を落とします。
 TA-V88ESは、BASS/TRABLEのカットオフ周波数とレベルを設定する いわゆる普通のトーン・コントロールです。
 BASSの周波数は最低が99Hzなので、もう少し下げたいところですが、そこに 設定して、レベルを-3.5dBとしました(聴感で)。
 40Hzあたりは、+6dB以上は確実に出ているので、もっと下げても良いかとは 思いますが、あまりフラットにするのも物足りないだろうと言うことと、99〜70Hz の比較的フラットな帯域を落としすぎないという考えから、控えめな補正にしてい ます。

SUB WOOFERレベルの設定
 サブウーファーにもボリュームつまみがあるので、これをどのくらいに設定 するかも悩みどころですが、取りあえず固定する必要があるので、私は目盛りの "6"、時計の1時くらいの場所にしています。深い根拠はありませんが。

 SUB WOOFERには、リアSPの90Hz以下が出るので、 『ドルビー・デジタル・エクスペリエンス』の全チャンネル3-20KHzスイープの 信号を入れて、低域がフロントと同じ音量で出るか、低音と高音の音量が平坦に 繋がるかを聴きながら合わせ込みます。
 だいたい-9.5dB〜-7.5dBあたりの低い値に落ち着きました。

 ここまでの調整で、低音は今までの感覚からはすかすかに感じるほど 小さく設定されています。

LFE MIXの調整
 EQ.や"SUB WOOFER"を下げた分、"LFE MIX"を思い切り上げて、 「ここぞと言うときに低音が出る」という設定にしてみました。
 "LFE MIX=-1.5db〜-6db"
 "SUB WOOFER"の設定より、1.5〜6db大きいことになります。

 このへんは手頃なドルビーデジタル・トレイラーを再生して、 好ましい迫力だと感じたところで設定。

低音引き締めの効果

・確認方法など

 サブウーファーに、低音がどのように出ているのか、TA-V88ESの空いている SW出力端子をカセットデッキに接続し、出力レベルをモニターします。

 「タイタニック」でLFE大爆発シーンの最大値を0dbとすると、 平常時は-20〜-10dBくらいで、リアの低音が流れてきています。
 本当のLFE信号は、冒頭のドルデジ&THXのトレイラー以後沈黙が続き、

3:30 潜水艇のスクリュー音
15:40 OLD ROSEの乗るヘリの音
28:30 タイタニック出航
31:30 タイタニックのエンジンの回転音
 などなど、ごく時々。
 後半の怒濤まではほとんどLFE信号など出ていないんですね。
 ということは、この間の大部分の低音はメインSPから出ていると言うことで あります。

・感想(タイタニックなどを見て)

 さて、その絞った低音の効果は、まず空間が広がったように感じたことです。
 タイタニックは実に繊細に物音が仕込まれていますが、出航するときの港の ざわめき、遠くからかすかに聞こえているカモメの鳴き声など、色々な物音が くっきり聞こえてきてびっくり。
 今まで膨張した低音にマスクされて聞こえていなかったのでしょう。
 確かにLFEで低音全開にすると生理的に『圧迫感』を感じるものですが、 低音の出過ぎで常にうっすらと、そのような圧迫感を受けていたのかも知れ ません。
 なんだか晴れ晴れした感じになりました。
 一方、LFE MIXはけっこう上げているので、ここぞと言うときの馬力は確保 されています。

 今回の試みで、とりあえず 「有るべき姿に近づいたな」という確信を得ることが出来ました。

 あまり低音の出ないシステムで聴いていた頃の経験から、低音は有ればある ほど嬉しいという方向に走りがちでしたが、定石通り、私の部屋もまた、定在波 によって低音が膨らんでいました。
 今までは、サラウンド感に不満を感じると、リアSPのボリュームをアップ することで、広がり感を取ろうとしていたのですが、今の設定だと、 テスト・トーンで全ch同音量に揃えた状態で、リアからの情報に不満を感じる ことは無くなってしまいました。思わぬ所に、本当の原因がひそんでい たのですね。

 じっくり取り組まなかったら、気が付かなかったところです。
 低音の膨張は、諸悪の根元。私の耳を覆って本当の音を聞こえなく していたのですね。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!