映画館がやってきた!

身近な低音は何ヘルツ?

- 楽器の音とスピーカーに期待する能力 -

 ドルビーデジタルでサブウーファー(SW)を使うようになってから、 小型SPシステムが流行していますが、やはり、全ての低音をSWにまかせるのでなく 一つ一つのSPがフルレンジ再生できるのが理想でしょう。
 そこで、低音とは具体的には「どんな音が何Hzぐらいなのか」を調べてみました。
 これを見ると、低音を全て一本のSWに任せてしまうのは止めよう…という 気持ちになるかも知れません。

楽器や声の最低音の周波数

 まず、ドルビーデジタル関係で頻出するスピーカー関係の周波数の一覧です。
各種スピーカーのクロスオーバー周波数など
BOSE AM-10などのBASEボックス 約200Hz
よくあるお手軽セット100〜200Hz(推定)
DDのLFEチャンネルの上限 120Hz
SMALLに設定したSP 90Hz

 BOSEの最新('98年秋モデル)では、サテライトSPの口径アップによって、少し クロスオーバー周波数が下がったようです。
 同じような口径のSPを使ったお手軽システムが他社からも出ていますが、 概ね大きさから周波数は想像できるでしょう。
 YAMAHAのNS-10MMは100Hz,パイオニアのS-ST7は85Hzです。

 DDでSMALLに設定したSPの低域がリダイレクトされる周波数が90Hz以下なので、 最低90Hz前後の周波数は必要です。
 もっともNS-10MMのような密閉型のSPは なだらかに低音が減少し、S-ST7のようなバスレフ型は急激に低音が減少する 傾向にあるので、この二つの実際の結果は似たような物になると思われます。

色々な楽器の最低音の具体的な周波数です。
オケの弦楽器の最低音
ヴァイオリン g 196Hz
ヴィオラ c 131Hz
チェロ C 65Hz
コントラバス E1 41.25Hz
管楽器C133Hz
ピアノ A1 27.5Hz
ギターなどの最低音
ギター E 82.5Hz
ベースG E1 41.25Hz
人間の声
ソプラノ c1 264Hz
アルト f 176Hz
テナー c 131Hz
バス E 82.5Hz
 BOSEのようなサテライトSPシステムでは、ヴァイオリン、ソプラノより低い音は、 ほとんど、ベースBOXとのクロスオーバー周波数に引っかかってしまいます。
 ギターなら200Hzは、3弦の開放のソが、196Hzで境界線ということになります。
 人間の聴覚で、方向感覚に大きく影響するのは1kHz辺りなので、理屈から言えば、 定位感に影響は出ないとも言えますが、もしもっと大きなSPを置けるならば 頑張りたいと感じます。

 DDの低音リダイレクトの90Hz辺りをターゲットにしたSPを考えると、 弦楽器を例に取ると、チェロ以下の低音はSWに、人間の声は概ね各chから出る ことになります。
 人間の声が90Hz付近以上というのは、SMALLモードのセンターSPでも 結構使えるということの一つの根拠といえるでしょう。
 実際の映画ではセンターに定位する音楽や効果音も有りますが、圧倒的に 台詞の比率が高いですね。
(タイタニックのように、同時録音を多用している作品では、それなりにセンター からも背景音がします)

 低い方は「どの辺まで出れば十分といえるか」というと、通常のSPで再生可能な 周波数は、大型システムでも30〜40Hz辺りを下限とするSPが 多いですが、音楽用としては、30Hzをカバーすればほぼ完璧と言って良さそうです。
 もっとも、ピアノの最低音などは、基音より倍音の方が強く出ているし、 楽器の音は、どんな低音楽器でも1〜8kHz辺りまでたっぷり倍音が伸びているため、 小さなSPで聴いても、低音楽器も聞こえるわけです。

 LFEが活躍する場面は、普通の映画では、「ここぞ」という時にしかありません。
 タイタニックで言えば、「エンジンの回転音」「あふれ出す水音」 など、特定の効果を出すときだけLFEが活用され、それ以外の低音「音楽」 「通常の物音」などは、どんなにハイレベルでも通常のチャンネルから出力されます。
 つまり「ほとんどの低音は通常チャンネル(特にフロント2ch)から出ている」ことになります。
 このことを考えれば、SWに頼らないでメインSPから低音が出せることの大切さが 理解できると思います。

 色々書き並べましたが、スピーカー選びの参考になれば幸いです。

おまけの知識("人間の声を大切にしました"というスピーカー)

人間の声のフォルマント
基音約82-(264)-1056Hz
第1フォルマント 約200-1000Hz
第2フォルマント 約600-3500Hz
 人間の声は、声の高さとは別に音色(喉〜口で共鳴した倍音のピーク、 周波数特性みたいなもの)を母音として認識します。 この共鳴のピークのことをフォルマントと言い、だいたい二カ所のピークを 認識して母音を判別します。
 それぞれのピークは、200〜3500Hzに分布しており、人間の耳は、この辺の 帯域をよく聞き取っていると言うことが出来るでしょう。

 また、ソプラノの歌声は最低でも264Hz,最高音は1000Hzにも達し、 フォルマントの低い方の周波数より高くなっています。
 このために、まず"u"が聞き取れなくなり、低い周波数を使う 母音(i,u,e,o)は発音することが出来ません。
 つまり、全部"a〜ae"になってしまうというわけで、だからソプラノ歌手の歌詞は 聞き取れないわけです。

2wayスピーカーのクロスオーバー周波数など
PIONEER S-ST9 8,000Hz
PIONEER S-LH3 3,000Hz
PIONEER S-LH5a 1,200Hz
 さて、たまたまカタログがあったのでパイオニアのいくつかのスピーカーを例に出しましたが、 『人間の声を大切にしました』という売り文句のスピーカーは、人間の声の周波数(約90〜3500Hz) 辺りにクロスオーバー周波数が来ないように設計されている物が、基本になっていると思います。
 そう思ってカタログをながめてみると、面白いですよ。

 サテライトSPタイプの製品で、台詞の質感に違和感を持つようなケースが有れば、 センターSPだけ、約90〜3500Hzの帯域をひとつながりでカバーするSPにしてみるのは 面白い試みかも知れません。
 また、センター二本使いの場合、この周波数帯を受け持つユニットの距離が 遠くなるような置き方をすると、台詞の定位が曖昧になる可能性があるでしょう。


[戻る]

文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!