映画館がやってきた!

スピーカー・セッティング

- 5.1chサウンドのための -

 アンプやCDなどは、高級品を買えばそれなりにいい音がするように なるものだと思いますが、高級なら良いってものでもないものの筆頭が スピーカーだと思います。
 オーディオ/AV雑誌の読者宅訪問記事を見ると、 「ほんのちょっとの工夫で音が良くなるのに」と思うこと、 逆に言えば、「うぅ、もったいない…」と思うことが、不思議なほど 多いのです。

 私は決してマニアではないのですが、理系人間のささやかな良心として 「理詰めで納得のいくオーディオ話」を書いてみたいと思います。

PRO-LOGICと、5.1ch(DD/dts)のアプローチの違い

●PRO-LOGIC時代とTHXスピーカー
 BOSE社のスピーカーや、THX対応スピーカーとして、複数のスピーカーを 別々の向きに向けて 取り付けた製品がありますが、私の実践しているセッティングの理屈 には反した製品であるため、なぜこのような製品があるのか、 調べてみました。

・THX対応スピーカーとは、PRO-LOGIC対応スピーカー
 まずわかったのは、ホームTHX規格は"THX"と"THX5.1"の二種類有り、 それぞれPRO-LOGICとドルビーデジタルに対応していると言うこと。
 ということは、この二つの特徴を考えれば理由がわかるということです。

 DSP無き時代、モノラルのサラウンドチャンネルを普通にセッティング して鳴らしたのでは、サラウンドチャンネルの音像は、真後ろの一点に 定位してしまい、包囲感が得られません。(通常のステレオで、ボーカル がセンター定位するのと同じ。)
 そのために、昔からサラウンドスピーカーは、壁に向けるとか、 天井に向けるとか、室内の残響、壁面からの反射を積極的に利用する ことで、包み込むように鳴らすというのがセオリーでした。
 これが、PRO-LOGIC時代のサラウンドです。

●ディスクリート5.1ch時代へ
 一方、ドルビーデジタルに代表される、各チャンネル独立の音声は、 たとえば、リアチャンネル間の左右の移動、フロントからリアへの移動、 など(飛び交う弾を右に左にかいくぐるとか…)の表現をもたら しました。
 このとき必要なのは明瞭な定位です。
 すなわち、もやもやと包み込むことを目標としたPRO-LOGIC時代の 方法論は180度方向転換したと言えるでしょう。

 シャープな定位を得るためには、部屋の反射を利用するタイプの スピーカーはマイナスです。
 そのために、THXブランドの複数方向を向いたものや、BOSEの ように、一旦壁面に音を反射させるなどの方法で、広がり感を 持たせる考え方のスピーカーは、5.1ch再生に向いていないと 言うことが出来るでしょう。
 カタログには、2ch再生のサービスエリアを拡大する効果や、 包囲感について、説明されていますが、それがどういう意味かを 読み解くのは、ユーザーの知識に掛かっていると言えます。

 5.1ch用のシャープな定位を重視したセッティングでは、 PRO-LOGICを聴くときに包囲感が足りないかも知れません。 これは、DSPで補うことが出来るでしょう。従って現代的な セッティングは「とことんシャープに」を目指すべきだと 思います。


スピーカーセッティングの具体的なコツについて

フロント2ch

 セッティングに関しては、ピュアオーディオで 「演奏者が見えてくるように聞こえる」という方向を追求するのと 何も変わらない。このことを考えると、
 1.シャープなセンター定位
 2.LRのスピーカー外への定位
が実現されるようなセッティングが好ましい。

 定位を向上させる基本は、LRのスピーカーから出た音がダイレクトに 鼓膜を叩くことだ。
 従ってまず、スピーカーは真っ直ぐリスニングポジションに向ける。 そうすることで、空間の他の方向から回り込んでくる音より先に、まず 直接音を鼓膜に届ける。
 次に、環境が許す限り、スピーカーを上下左右、背後の空間から離す。 あるいは、反射対策をとる。そうすることで、直接音と間接音の「時間差」 「レベル差」を大きくする。特に床面からの反射は影響が大きいので、 高さを取り、敷物を敷くなどの対策をすると効果が大きい。
 壁面や部屋の角に置くと、低音が強調されると言う現象も起きるが、 それは、別途考えたい。

 こうして設置すると、ポピュラーの音楽CDを聴いたときに、ボーカルが センターにきっちり定位するとか、良質のクラシックのCDを聴いたり、 PRO-LOGICの映画を再生したときに、2chのスピーカーの外側にまで、 音が広がることが感じられる。
 うまくいかない場合は、壁面への対策が必要になる。

センタースピーカーの不思議

●センターSPは、何故上向きにセットするのだろうか
 「セリフが下がって聞こえないように上を向かせる」という 説明を雑誌などで良く目にするが、スピーカーの向きで定位を 変えることが出来るのか?
 答えは"No"
 天井を向けたSPの音には、天井からの反射音が含まれる。
 だから合成された音は、天井側に引き寄せられるが、時間差を 含む合成音になるので、音色変化、明瞭感の低下がおき、ついでに、 画像を消して聴けば、やっぱり、SPの位置から音がする。

 では、何故SPに角度を付けて設置するのがよいかと考えると、 まず、「視聴位置に向けてダイレクトに音を届けるための仰角」と 「床面からの反射を避ける」によることの二点が大きいと考えら れる。
 どちらにしても、セリフの明瞭度を高める働きが期待できる。

●センターSPは床おきしていいのか?
 床置きは至る所で見られる。メインSPの床置きは絶対認められないのに 何故センターSPは簡単に床においてしまうのだろうか?
 まず、上記のように床からの反射で音が濁るのは、どのSPでも同じこと。
 これを避けるために、高さを取らなくてはならない。

 次に、前述の通りセンターSPに仰角を付けても、決して音像はスクリーン センターに定位することはない。仮にそのようにきこえたとしても、 音色にダメージがある。
 従って、理想的にはスクリーンの中央におきたいところを、スクリーンの 下端ギリギリまで持ち上げることにする。
 そうすることで、視覚による補正のおかげで、役者の口元で音が出ている かのように錯覚することが出来る。(LRスピーカーからの音による引き込みも 多少は期待できるかも知れない。)

●センターSPの定在波
 センターSPは部屋の軸に対して基本的に直角に置かれるだろう。
 このとき、部屋の前方の下隅(センターSPの位置)の対角線状の位置、 すなわち視聴位置後方の壁面と天井の角のあたりに、強烈な定在波が 溜まることがある。
 天井はもっとも弱い壁面なので、場合によっては、手で触れて わかるほど振動しているだろう。音響的には良いわけがない。
 定在波のある時は、吸音材または、センターSPの仰角の変更で、 対策をする必要がある。少し角度を変えるだけで、かなりの変化が 見られる。

●二本使い
 センターの二本使いもよく見かける。
 最近は、"ドルビーEX"の登場で、AX1にリアセンター二本使いも見かけるが、 一つの端子に二本のスピーカーを繋ぐことは問題が多い。

リアSPの設置

 置き場所の問題から、一番思うにまかせないのがリアSPだと思うが、  耳より高い場所に置くことで、映画館のスピーカー配置を真似する ことが出来る。
 あとは、メインSPと全く同じ。
 直接スピーカーが視聴位置に向くことを基本とする。

・リアの音が前から聞こえる…?
 こういうことが確かにある。原因は恐らく、リアから出た音が、 正面に反射して耳に入るため。リアからの音は耳たぶで遮られるので、 正面からの反射音の方が耳に付きやすいと言う状況と思われる。
 反射を対策する方法も必要だと思うが、可能ならリアを後ろから サイド側にずらすことも、試みることが有効ではないかと思う。

サブウーファー(SW)の設置

 わが家では置ける場所に置いているだけという状況なので、 これといった工夫はないが、場所に関してLRのスピーカーの すぐ外側というのは、正しい置き方らしい。
 また、部屋に対して少し斜めにして、定在波を避ける。

 なぜメインSPの外側が良いのかについて考察してみると、 低音の干渉を考えたときに、左右のSPからの距離が異なって いれば、干渉の山、谷が分散するからだと思われる。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!