映画館がやってきた! 映画鑑賞記

ヒマラヤ杉に降る雪

■DATA "Snow falling on Cider" (米)
キャスト:イーサン・ホーク、工藤夕貴

Story

 第二次世界大戦後、本当にあったアメリカの小さな島の漁村で起きた 日系移民によるドイツ系移民の殺人疑惑事件を元に描かれたベストセラー小説 を原作とした作品。

 戦前に米国に移民した家族の娘(ハツエ)が、アメリカ人新聞社の社長の息子(イシュマル)と 幼なじみの恋を育んできたが、戦争によるひどい日系移民差別や強制収容の中で 引き裂かれ「日本人は日本人と結婚」するしかなく恋は終わる。
 戦争で片腕を失って帰ってきた幼なじみに、もう触れることも出来ないのだと 拒絶するハツエ。青年は父の新聞社をついで一人で屈折した生活を送る。
 そして、ある日漁船から転落して水死する事故が起き、犯人としてハツエの 夫が逮捕され裁判される。
 確実な証拠は何もないままに、状況証拠の数々が彼に不利な説明付けをされ 容疑が濃厚になる。検察側は執拗な差別主義者、弁護士はアメリカの自由と平等 の精神を訴えるが閉鎖的な島での陪審員の心を動かすのは極めて困難と見えた。
 ところが、新聞社の青年は通信記録、船の航行記録から無罪を証明する 推理を導き出す。だが、傷心の彼はそのことを裁判所に提出するのをためらう。
 最後に彼はどんな決断を下すのか…

感想

[2001.2.6] (DVDレンタル) ★☆
 原作は人種差別を下敷きにした法廷サスペンスの色が濃く、映画はハツエと 幼なじみの引き裂かれたロマンスを全面に出しているそうだが、ともあれ、 全編に極めてセリフが少なく、しんしんと降り積もる雪の村を舞台に、 現在の殺人事件の被告を見る村人、戦時中の悲惨な差別を受ける日系人、 ハツエと幼なじみの幼い恋物語と、いくつもの時勢が交錯し幻のように折り重なり 入り交じり、目眩のようなふわふわした空間を作っている。
 はっきり言って前半はアート過ぎて辛いが、裁判が佳境に入って、日系人の 強制収容所入りに関わるエピソードなどの過去の暗い関係が語られ始めると 物語は一気に動いて引き込まれる。

 アメリカと日本の戦時中の関係から生まれた悲劇を見つめ直し、アメリカが 大切にする自由、博愛、正義の精神を本当に守ったら、悲劇は避けられるのに …というのは、「出過ぎた愛国主義抜きの人類愛はアメリカに有るのか?」とも言え、 どう見てもアメリカではヒットしそうにない主張の映画であるけれど、 中盤までの暗く耽美なシーンを乗り切ることが出来るなら、感動の涙が待っている。

 工藤夕貴のハリウッド映画出演は話題になったが、極端にセリフの少ないこの作品で 悲劇に耐えて歪む表情がすごく印象的で忘れられない。言葉も綺麗で聞きやすい英語で 好感が持てる。
 少女時代を演じているのも日本人のようだが、非常に顔が似ていて、自然に感じて良い。

 確かにアメリカでは予想以上にヒットしなかった地味な映画だけれど、 歴史的な背景を背負った恋愛映画として、日本ではもっとヒットしても良いなぁと 感じた。ドキュメンタリーではないが悲劇的な歴史を限りなく公平な視点から 描きたいという監督の熱意は成功していると思う。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!